コラム・観戦記

【東海Classicプロアマリーグ観戦記⑤】それぞれの麻雀人生が交錯する卓上で見た Aリーガー品川直の姿勢とは

ドーナツに罪はない

プロアマの会場である琥珀さんはとても良い雀荘である。
老舗の雰囲気を持ちながら、広くて、キレイ。
唯一の欠点は…ミスドが目の前にあることだ。

 

開始30分前のこと。対局中に眠くなるからドーナツは1つまで。いや、最悪2つまでと決意して入店した男の注文がこちら。

(奥にポンデリング黒糖が隠れています、おすすめなのでプロアマ前後に是非)

人間、トングをカチカチやりながらドーナツを選んでいる瞬間が一番幸せだと思うんだ。

 

とはいえ欲望に負けた自分を棚に上げ、琥珀さんやミスドさんのせいにするのは他責思考。
下家が鳴いたせいでツモられた、上家が所作にイライラした、と言っているのと同じ。良くない思考傾向である。
ドーナツは仕方ないとして、せめて麻雀だけは卓上で起きたことを冷静に受け止めたいものだ。

 

そう気を引き締めつつ琥珀に入ると多くの人で賑わっていた。
総勢48名の12卓。
ほんの数年前まで、5卓くらいでこじんまりとやっていたのが懐かしい。

毎節遠いところからやってくる人。
ゲストと話をするのが楽しみで仕方のない人。
本部のプロアマの調子が悪く、東京から来る人もいる。

 

みな麻雀との関わり方が様々な中、それぞれの思いを抱え、1つの場所に集まってると考えると、なかなかエモいではないか。

 

そしてゲストの挨拶が始まる。

左から運営の小池諒選手、卓に座っているのがいつもタンクトップの沢田和夫さん、ゲストの吉田葵選手、品川直(しながわただし)選手である。

4半荘の戦いを終えた結果がこちら。

(プラスの方のみ掲載)

私(沖中祐也)は18位。一番の反省点としては

こんな8種のイケてない配牌から、なんとなくマンズのホンイツと役牌重なりを残してを切ったこと。次にドラの中をツモり、その次にをツモり、もう嫌な汗が流れる。
もし鳴きが入らなかったら…の仮定にはなるが、5巡目には捨て牌と合わせて国士無双をテンパイしていたのだ。

 

Classicにおいて役満の価値は異常に高い。逆にアガれなさそうな手をテンパイに近づける価値は低い。ノーテン罰符がないからだ。
だから1・2巡の間だけでも国士無双は見切ってはいけなかった。8種からでは可能性は低くとも、残り5種のうち2種を引けばもう2シャンテンである。

上記の配牌なら、もしくはホンイツではなくジュンチャンに重きを置いてを切るのもアリだと思う。

 

そういえば先週のゲスト、石田時敬選手が
「Classicは自由度が高いから面白い」
と言っていた。

いやいやClassicは可能性が限定されて自由度が低くなるのでは?と返したが、こういうぐちゃぐちゃの手牌のときにノーテンを恐れず思い切った選択ができるのが楽しいそうな。

凡庸にを切った自分が憎らしい…ドーナツを食べすぎたか、いやドーナツに罪はない。

自責思考、自責思考。

 

それぞれの思い

こうして、今回は自分のミスを反省しながらエキシビションを観戦することになった。

 

東家・品川直選手   ゲスト

南家・沢田和夫さん  一般1位

西家・吉田葵選手   ゲストかつ節優勝

北家・池ヶ谷颯馬選手 プロ2位

 

東1局が全てだった。

東海支部に、池ヶ谷颯馬という選手がいる。

プロになってまだ1年の新鋭。咲やアカギで麻雀の面白さに触れ、天鳳だったり雀荘入り浸ったり…というまぁお決まりのパターンなのだが、彼は若くして「麻雀を辞めることは無さそうだ」と直感し、強くなりたいがためにプロになった。

そしてプロになった後は、週に1度はウザク本を読み、暇があれば同期たちと勉強会を開いている。ついでにゼロマガ(私の書いたnote)も全部読んだそうな。偉い。

いわゆる「麻雀オタク」なのだ。

選手・沖中祐也として自分より雀力が上かも(もしくは将来的に上になるかも)と感じるのは技術を持った選手でも頭の回転が速い選手でもなく、自分より麻雀が好きかもと感じる選手である。
そういった面で、この池ヶ谷が今と同じ熱量のまま何年も競技生活を送ったら相当強い選手になるだろうな…と感じる。
そんな池ヶ谷の5巡目の手牌。

池ヶ谷はここからを切った。形が不安定になるように感じるが、というターツは絶対外さないとすると残った5ブロックの中で一番弱いのがという部分である。
トイレの中で、風呂の中で読み続けたウザク本の牌姿が、池ヶ谷の脳内を駆け巡る。

こうして13巡目

池ヶ谷が狙い通りのテンパイを果たす。は絶好の待ちに見える。
普通に考えるとリーチ一択なのだが、ここは最果ての地・Classicの大地。
あと4巡でツモれなかったらリーチ棒を損するだけ。そのリーチ棒の1000点が私の腹の中に留まっているドーナツばりに重い。
さらに言うと、対面に座る沢田がピンズ仕掛けをしている。

ダマとリーチで他家からのの出アガリ率が大きく変わってくる。
池ヶ谷はを縦に置いた。

次の巡目にツモったのは…

ドーナツのようなだった。
どれだけドーナツを引っ張るのか。

たまらず池ヶ谷はを切って迂回。

このとき沢田の手牌は

地獄のタンキ。
数巡後、静寂に包まれた店内に沢田の申告がこだまする。

「ツモ2000/4000」

に受けかえ、最後のツモでアガリをもぎとった。
池ヶ谷はリーチさえすればでツモっていたがさすがにそれは無理筋か。
のあとにも掴んでいるので、ダマプッシュはさらに厳しい)

 

アガった沢田が三方から置かれた点棒をかき集めていく。

沢田和夫。季節問わずタンクトップ姿で競技麻雀の場に現れる男。
沢田の姿はあらゆるところで見ることができる。今で言うオリオン座のようなものだ。
この男、滋賀県は東近江市から、東(関西)へ西(東海)へと競技の場があればどこにでも参戦する。

なぜそこまで競技麻雀にハマったかというと、対局者が真剣だからだという。
真剣であるからこそ読み合いが発生し、真剣であるからこそ勝つと嬉しく負けると悔しい。

 

なんと今期は関西と東海のW優勝を目指しているそうな。
そういえばずっと気になっていたタンクトップの理由を聞いてみた。

「自山に当たって牌をこぼさないように半袖かタンクトップにしていて、いつからか定着してしまったんですよね。それで売りにもなるかなと思って。」

案外真面目な理由だった。

 

半荘通して沢田の後で観戦していたが、高打点のルートだけは逃さないように構え、無理なら早めに見切っているのがClassicに完全にマッチしていると感じた。沢田なら私の国士もアガっていたのかもしれない。

その後、小場で進み迎えた東4局。
これまで大人しかったゲストの2名が動く。

 

まずは北家・吉田の2巡目。

吉田はここからを切った。私ならチートイツに決め打つ切りとしそうだ。
もちろん吉田もほぼチートイツ構想ではあった。だからこそ、その匂いを全力で消したのだ。
たとえばを切ってが重なったとすると、どちらの字牌タンキに受けるにせよ宣言牌が字牌となりチートイ臭が少し出てしまう。
吉田はその後もなるべく捨て牌を地味にするために、煙幕を張った。
数少ないチャンスを、アガリへ結びつけるために、全力で河を作ったのだ。そして

吉田の思惑通り、チートイツには全く見えない河でリーチを宣言する。
結果的に必然のドラ待ちになってしまったが、宣言牌まで引っ張ったが吉田の意思を強く感じさせる。

吉田葵。富山から片道3時間かけて本部に通う、シングルマザー。
詳しくは【FACES / Vol.18】吉田葵 ~19歳で母になった富山のシングルマザー雀士奮闘記~を読んでもらいたいところだが、1行でまとめると

 

・男運が皆無の苦労人

といったところ。ただ本人は数々の出来事を不運とも苦労とも感じておらず、前向きに笑い飛ばしているのが印象的だ。
そして、全力でチートイ臭を消したように、麻雀にかける思いも半端ない。

子供と過ごす時間を削ってまで麻雀プロを続けているからこそ「ぬるい麻雀はできない」と吉田は語る。

その吉田のリーチに対し、ビシッと押したのが品川だった。

奇しくも同じくチートイツのドラタンキ。

Aリーガー、品川直。
まずは何といっても姿勢がいい。直という名前が体を表している。
そして印象に残ったのが、大会後である。入り口まで行き、参加者の方に対し「本日はありがとうございました」と深々と頭を下げ、お見送りの挨拶をしていたことだ。
4半荘打ち切って本人も疲れているだろうに、笑顔でハキハキと挨拶をする品川の姿に私も考えさせられた。

 

「プロアマに参加して2年目ですが、ファンサービスの姿勢に感動しました」
と手伝いの國分健太郎選手も語る。

こちらも【FACES / Vol.09】品川直 ~麻雀の中で人生を送る、ハマの麻雀小僧~
を読んでもらいたいのだが、1行でまとめると

・麻雀だけに生きている男

である。本人は「麻雀以外に趣味がない」と語り、記事の中でも麻雀以外のエピソードが出てこないのだ。
繰り返しになるが、私は自分より麻雀が好きかも…と感じる相手が一番恐ろしい。

その男がドラタンキでリーチを打った。
所作はキレイな品川だが、ツモる手に力が入っているのが伝わってくる。

吉田も祈るようにツモ山に手を伸ばす。

 

麻雀だけは…と腹をくくる女と、麻雀だけに生きている男のめくり合い。
両脇では新鋭の麻雀オタクと競技に魅入られたタンクトップが見守っている。

 

刹那の交錯。

冒頭でも書いたが、それぞれがそれぞれの思いを抱え卓についている。
同じメンツで打つことはほぼ無いだろうし、同じ牌姿になることもほぼ無い。
それでも、いや、だからこそこの瞬間に全てを捧げるのだ。

結果、2人のドラタンキリーチは実らず流局した。
全員が手牌を伏せる。相手が同じ役、そして同じ待ちであったことは口にしない限り一生わからない。
卓上で一瞬ぶつかったが、明日になればまた別々の麻雀人生を歩んでいく、そんな趣をはらんだ一局だった。

 

この後も小場で進み、時はオーラス。

南家・品川の4巡目

品川はここからを切った。

点棒状況が

東家・池ヶ谷 31200

南家・品川  26100

西家・沢田  38100

北家・吉田  24600

となっており、品川としては1000/2000以上のツモで2着になる条件。
タンヤオでのリーチかドラの発を使えば条件は満たせるのでそれを狙った打だろう。

 

しかし品川の狙いはもっと高みにあった。

なるべく重なりやすい牌を残していくと、流動的に手牌は進み、なんと四暗刻のイーシャンテンになった。13巡目、をツモったところで打発(↑の一番下の手牌)でテンパイ。
生牌の発が打たれ、場に緊張感が走る。

 

この時、が出ようがをツモろうが、品川は一切アガる気が無かったという。
全員が引き気味に打っているし、この手牌なら最高形に仕上げたい…!

 

品川が手を伸ばした先にいたのがカン材の

そして、リンシャンからツモってきたのが…

「ツモ、1600/3200」

だった。ツモ・タンヤオ・リンシャンでのアガリ。

トップこそならなかったものの、きっちり池ヶ谷をまくって2着に滑り込んだのだ。

 

こうして、沢田・品川・池ヶ谷・吉田の並びでエキシビションマッチは幕を閉じた。

 

最高位戦の系譜

 

飲みの席で、品川と勉強会セットをすることになった。
スケジュールを合わせるために互いのカレンダーを見せ合ったのだが、品川のそれは勉強会とゲスト予定でびっしりと埋まっている。

 

「ああこれですか。後輩に教えたり、先輩に教えてもらったり様々ですよ」

私もこの一年たくさん勉強会をやって学んだのですが、同じメンツでやっても、学びの部分が少なくないですか?
特に品川さんが後輩と勉強会をしても、得るモノがほとんどないというか…

 

「たしかに…そうではあるんだけど…」

少し考え込んでから品川は答えた。

「自分がそうやって先輩から教えてもらって強くなったから、後輩に同じことをするのは当然だと思うんですよね」

 

1年間のプロ生活を経て、勉強会を損得だけで考えつつある自分を恥じた。
この「教え合ってみんなで強くなる」というのは最高位戦の特徴的な文化だと思う。

私自身も、優さんをはじめとする猛者たちがセットを組んでくれたことは多々あったし、熱意さえあればほとんどの上位リーガーは質問に答えてくれ時間さえ合えば勉強会も開いてくれるだろう。

 

「そういう意味で、本当に最高位戦に入ってよかった」

品川はしみじみと語る。

 

対局中の姿勢。

ファンに対する姿勢。

そして仲間に対する姿勢。

 

多くの面で学びのあった今回のプロアマリーグでした。

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