コラム・観戦記

【東海Classicプロアマリーグ観戦記④】真のイケオジを決める戦いに・オコの茅森早香・小雨の決戦を制したのは…

敵対心メラメラ

 

エキシビションマッチやこの観戦記は、ファンサービスの側面が強い。
多くの参加者は、ゲスト2人と同卓した上観戦記に書かれることを楽しみにしている。

そのことを知ってなお、上位に入った私は申し立てた。

「エキシビションマッチに参加させてください」

 

どうしてもこの手で倒したい男がいたのだ。

 

ゲストの石田時敬(いしだ ときたか)選手である。

 

高津 柚那「あのヒゲがイケオジって感じでダンディですね」

 

髙橋 未希「優しそう」

 

多くの東海支部所属の女流選手たちが目をハートに輝かせながら語る。

おいおい、チョット待ってくれと。
君たちはどこに目をつけとんねん。おじさんはどこまでいってもおじさんじゃい。イケもカワもあるかいな、と。

ヒゲは両刃の剣である。一歩間違えると、不潔だの臭そうだの言われかねない。
たくわえて生きていくためには相当なバランス感覚が要求される。

私は無理だと判断し、数年前にヒゲ脱毛(全身も)を受けた。
痛かった。あんなに泣いたのはハイスコアガールを読んで以来…結構最近である。
痛い思いと引き換えに手に入れたツルツル生活。

 

そのアイデンティティを覆す男が石田選手なのだ。

 

小雨の決戦

天も涙している…
久しぶりに小雨が降っただけなのだが、醜い嫉妬を胸に名駅のひまわりに向かった。

 

急遽駆けつけた鈴木 優選手、そしてゲストの茅森 早香選手による挨拶の後、石田選手も和やかな口調で挨拶を続ける。

 

「私の打つドラ0~1の愚形リーチのことを指して「闘将リーチ」と言われてるんですが、Classicルールにはちょっと相性が悪いかもしれませんね」

 

会場がささやかな笑いにつつまれていく。
自分の紹介も兼ね、笑いをとりながら短くまとめる。
くそっさすがダンディ。敵ながら見事な挨拶だぜ…!

会場内で敵対心を燃やしているのは私一人だった。

 

優勝した

とは言っても、いくら燃えたところでどうにもならないのが麻雀。
特にClassicルールはどれだけ頑張っても勝つイメージが全くわかない。
4半荘打って80%くらいがプラスマイナス20に収まるというデータもある。(ZERO氏著・体感で語る麻雀より)

黙々と打った1回戦を2着、続く2回戦をラスで終える。

新津代表は言っていた。
「Classicで勝つコツ?あるよ。無駄な放銃を減らすことだね。」

どのルールでも同じことが言えるが、アガリでしか点棒の変動がないClassicにおいては特に価値のない手牌で放銃しないことが大切なのかもしれない。

耐えて耐えて普段はプラマイ20に抑えつつ、いつかくるビッグウェーブを待つ。
そしてとうとうそのビッグウェーブが来た。

マイナスで迎えた3回戦、親番で連荘し70000点超えのトップを獲得。
4回戦に至っては、

茅森選手の親で四暗刻をツモってしまう。
4巡目リーチの7巡目ツモだったので、茅森選手もこれはたまらない。

 

こんなことで怒る人でないことは分かっているのだが、下家の茅森選手の方は一切見れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして大きな連勝を果たした私は…


(プラスの方のみ掲載)

 

節優勝し、エキシビションマッチの権利を得た。
聞くところによると、石田選手は私と年齢が1つ違うものの学年は同じらしい。ようはオナテンである。
もうこれは戦えという天の啓示のように感じる。

割を喰うのが一般の方だったら胸が痛いが、ポイント表を見てみると3位に入っているのが何回か前に主役として書いた永井 裕朗選手だからいいだろう。

 

「エキシビションマッチに参加させてください」
こうして私は、冒頭に書いたように申告したのである。

 

 

決戦の時はきたのだ。

 

決戦第3新名古屋市


東家・茅森早香選手 ゲスト

南家・石田時敬選手 ゲスト
西家・白井健夫さん 2位
北家・沖中祐也選手 1位
(以下敬称略)

 

東一局からドラ対子のチャンス手がきた。

8巡目、のシャンポン待ちでダマテンに構えていたところ、をツモってきた場面。
普通ならシャンポン待ち続行だが、私は迷うことなくを切ってリーチを打つ。

 

場況を見てもらいたい。

3者の捨て牌にマンズ待ち絶好ですよ!と書いてあるのだ。
親の茅森が放銃。茅森は

 

が通っていてがノーチャンスでかなり通しやすい牌、加えて自分も仕掛けの利く高打点のイーシャンテンとあらば仕方ないか。

とはいえ、5200点を受け取るときも怖くて顔を見ることができなかった。

 

 


(怒ってる?)

 

東2局は、もう完全に私の日なんだなと思える4巡目リーチを打つも流局。

 

 

 

テンパイでも手牌を伏せるのは、Classicの持つ独特の文化。
テンパイ料がもらえないからである。

 

東3局1本場、配牌を取りながら石田が言う。
いきなり話すから、ぶん殴られるのかとビックリした。怯え過ぎか。

「麻雀で参加できないから口で参加していい?」

観戦者たちが笑う。
でたよ、ダンディジョークが。
地味な展開になりがちなClassicの雰囲気を柔らかくしようとしたのだろうか。
俺は騙されないぞ。

 

そのやりとりを横目に3巡目、茅森が仕掛けを入れる。

「チー」

 

牌譜を取ってくれている新人國分 健太郎選手のメモに「打点女王がこの巡目のチーテン取るのが意外」と書いてあるが、場を見るとが3枚打たれている上にが表示牌。加えて供託もあるのであれば当然のチーだろう。

 

「リーチ」

5巡目にめちゃくちゃ渋い声で宣言したのはダンディ石田。
おい!アナタは喋りで参加するんじゃなかったんかい!とツッコミを入れる。

 

そして数巡後、茅森の打ったにロンの声。

 

出た!闘将ピンフのみリーチ!

Classicにおいてピンフのみのリーチはご法度と言われているが、7001300の加点だってバカにならない。それに巡目が早くの場況がよいとあらばリーチもアリだろう。

 

私が先制し、ダンディが追いかける展開。
真のイケオジを決めようではないか!と迎えた東4局の親番。

 

 

私の配牌はこうだった。

一目、マンズの一色手を狙いたくなるが、落ち着こう…と打

次に

 

をツモってくる。
ドラがない以上、何か手役をつくらないといけない。
メインは一色手だが、現状4対子あるのでチートイツも見える。そしてこの手には567・678の三色がある。だが、どれかを見切らないといけない。

 

4半荘打った後の疲弊した頭をフル回転して考える。
チートイ?牌が重なるのだとすれば、ホンイツが近い。つまりこの手で見切るべきはチートイツ…!

 

こうして私はを切った。

 

「沖中君、麻雀は勝つことじゃなくて考えることが楽しいんだよ」
新津代表の言葉を思い出す。

今なら分かるぜ代表…俺はこの手に思考の全てをぶつけてやる!

次にをツモり打

 

こうなればマンズと心中だ。
をツモってをポンし、いよいよチンイツが見えてきた。

 

次の瞬間
(…ポッ!)
私は喉から出そうになった声をこらえた。

 

からもポンしてやろうと構えていて、実際茅森からが打たれたのだが…

 

 

 

「リーチ」

そのが横に曲がっていたのである。
リーチならさすがにスルーしたほうが良さそうだ。

 

「リーチ」

同巡、闘将も追っかけリーチを打つ。麻雀でもめっちゃ参加してくるやんけ。
その後、が通ったので(上家の白井さん!切ってくれ!)と思っていたが白井はマンズを一切切らなかった。

そうか、白井さんは茅森さんのファンだって言ってたもんな。

 

 

白井健夫。もうずっとプロアマリーグに通い続けているベテランである。
浜松から通っているくらい競技熱の高い選手だ。そして私に甘い牌を一切おろしてくれない。

 

さすがにこれは苦しいな…2軒リーチに挟まれて観念したが、アガったのは

 

 

 

私だった。チンイツは12000のロンアガリ。なんという豪運。
そしてやっぱり茅森選手は直視できない。

 

 

 

 

 

続く1本場。ここがフィナーレだから、あと少しだけお付き合い願いたい。

 

48100点という牙城を築いた私が手にした配牌がこちら。

 

私はを切った。もうのみなどの安い手などはいらない。ほしいのはダメ押しの手だ。
ホンイツとトイトイをメインに進めていく。

 

数巡経過し

 

ここからを切りトイトイに絞る。ドラがだけには残しても良かったが、の場況がすこぶる良かったのだ。

 

ジョリ…指先を石田のヒゲのような感触が走る。

 

 

狙いがハマった瞬間だった。
気持ちいい…この瞬間のために麻雀を打っているのかもしれない。

さらには暗刻になり、12巡目にポンしてテンパイを入れる。
その刹那だった。

 

「リーチ」

今日イチ渋い声で石田がリーチ宣言を果たす。
宣言牌を切ってリーチ棒を動かすまでがスローモーションのように見えた。
言葉で表現するには限界があるが振りかぶりつつも静かに牌を横におく石田の姿は、端的に言うとめちゃくちゃカッコよかった。

何を切るかだけの勝負だから、キレイとかカッコよいとか、ましてやイケオジかどうかなんて、麻雀関係においては一切関係ないのかもしれない。

ただ私は、石田のリーチ宣言に完全魅入られてしまったのも事実だ。
ここで放銃したらトップが危うくなるが、それでも自分の作った勝負手をぶつけたい!石田の手を見てみたい!私はそんな衝動に駆られたのだ。

 

そして一発で持ってきたをビシッと勝負する。(Classicルールに一発はないが)
牌山に手を伸ばした石田が、そのぬるりとした感触に肩を落とす。

 

「ロン、9600は9900」

 

ダンディズムでは負けたが、勝負には勝った瞬間である。
この後も危なげなく逃げ切り、私は完全勝利を果たした。

後に聞いてみた。
沖中「あのリーチ、めちゃくちゃ迫力ありましたけど、どんな手だったんですか?」
石田「リーチドラ1のカンだよ」


闘将リーチかい!

 

この終わった後、茅森さんにも話を聞こうと思っていたが、一瞬で姿を消してしまった。
やはり怒っているのかもしれない。

 

さいごに

 

一方的に勝ってしまったおかげで、観戦記(自戦記)が非常に書きづらくなった。
勝ち自慢の日記なんて誰も読みたくないし、ゲストや参加者の特徴だったり良いところを書くべきだと思っているからだ。

最近の麻雀の調子がすこぶる良い。
リーグ戦は連続昇級するし、新輝戦も1次2次と東海の予選を突破するし、Classicも優勝した。

実力以上の上振れがきていることは分かっているし、実力以下の下振れがあることもわかっている。プロになりたての頃はあらゆる予選で負け続け、意気消沈したものだ。

 

今後も上振れと下振れのサイクルを繰り返していくのだろう。
上振れ時にもっと勝てるよう、下振れ時の負けを少しでも減らしていけるよう、勉強していくのみだ。
そう考えると、麻雀は地味なゲームである。Classicは特に地味だ。

 

でも麻雀は面白い。もう30年やっているのに一切飽きない。
なんで麻雀はこんなに面白いのだろう。
いろいろ理由は思いつくが、これといった一言にはたどり着けない。

そうしてこれからも上振れと下振れに巻き込まれながら、ずっと麻雀を続けていくのだろう。
みなさん来週もよろしくお願いします。

 

 

(文・沖中祐也

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