コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.09】品川直 ~麻雀の中で人生を送る、ハマの麻雀小僧~

(インタビュー・執筆:成田裕和)

私が好きなマンガのひとつに『天牌』という麻雀マンガがある。

そのワンシーンに、二人のメインキャラクターを対比する表現で「人生の中で麻雀に没頭する男と、麻雀の中で人生を送る男」というフレーズがある。どちらのキャラクターも麻雀で生きていることを表現するものなのだが、私はこのフレーズが好きだ。麻雀プレイヤーの大半は「麻雀以外の仕事や趣味、家族、恋人―様々な物事があるなかで、麻雀に没頭する」。

今日紹介するのは、後者の「麻雀の中で人生を送る男」である。

 

私が最高位戦に入会し、青森から上京する前のことだ。同郷で最高位戦の先輩である遠山智子と喫茶店で話していると、遠山の同期の話になった。

「同期にさぁ、品川っていう面白くて変わったやつがいてさ。しかも麻雀強いんだよね。成田君も東京行ったらもしかしたら会うかもしれないね。よろしく言っといて!」

麻雀雑誌の『近代麻雀』にたびたび付録として付いていた『プロ選手名鑑』を何周も読むほど物好きな私は、早速帰って名前を調べてみた。そこには地味な顔立ちの男がこちらを向いている。選手紹介には「リーグ戦で負け越したことがない」とあり、急激に興味が湧いた。

しばらくして上京し、その男とは思いのほか早く会うことができた。

2020年の暮れ、12月中旬に時を進める。

 

品川 直(しながわ ただし)

最高位戦選手ページ https://saikouisen.com/members/shinagawa-tadashi/

Twitter https://twitter.com/shinagawa0325

 

待ち合わせ場所の日吉駅付近にある球体のオブジェの前で待っていると、品川がやってきた。おなか空いてない?とりあえずごはん行こうか!と誘われるがままに、日吉駅から徒歩1分ほどにある武蔵家で横浜家系ラーメンを食らう。

ちょうどお腹を空かせていた二人の胃袋をわしづかみにするビジュアル。瞬く間にどんぶりの底があらわになった。

LINEのアイコンがラーメンであるほど、ラーメン好きだという品川。武蔵家といえば豚骨ベースの濃いスープと酒井製麺の中細麺、ほうれん草、そしてなんといっても名脇役・海苔が有名なのだが、品川はその海苔をきれいに残して店を後にした。確かに変わり者である。

 

麻雀プロの「マ」の字も知らなかった20代

品川は群馬県高崎市生まれで、神奈川県横浜市で育った。話は、麻雀に出会う中高生時代から始まった。

中高一貫の進学校へ進学して、なぜかわからんけど新聞部に入ってた。多分モノを書いたり読んだりするのが好きだったからかな。でも新聞部なのにワープロが苦手っていうね。ぐああああって言いながらワープロと格闘してた。最高位戦の観戦記(最高位戦プロアマリーグ2016決勝観戦記)書いたときとも、パソコンで打つよりも時間効率で携帯で打ち込むほうを選ぶくらい、パソコンで書くのが辛かった。

ワープロに苦戦する中、品川は中学3年で麻雀と出会う。

部室でカード式の麻雀があって、それでルールを覚えた。トランプの延長というつもりだったんだけど、ハマるの早かったね。初めて本物の牌を触ったのもこの頃で、友達の家でしょっちゅう麻雀してた。

このカード式麻雀との出会いが品川の人生を大きく左右することになるとは、当人は知る由もない。高校時代も友人と麻雀に熱中し、卒業後に麻雀店で働き始めることとなる。

横浜の『ウェルカム』で、のちに天鳳位となるディアン(山田独歩)と一緒に働いてた。ディアンとはほんとに長い付き合いだし、そこで四六時中麻雀打ってたね。基本的に摸打が速すぎて、日本一ツモアガリ牌を手元に引き寄せるのが速い男って呼ばれてたよ。彼が天鳳位になったとき、近代麻雀にディアンに激似の顔写真が載ってて、あれ?と思ったんだけどスルーしてたのよ。そしたら後日最高位戦パーティー会場で会ったらほんとにそれがディアンで、え!?マジか!って驚いた記憶あるよ。

ちなみに山田独歩の「ディアン」という呼び名は、当時の店長が言った「(『キン肉マン』の)カナディアンマンに似てるな」という一言からだそうだ。気になる方は、ぜひカナディアンマンをWeb検索してみてほしい。

そうした実力者とともに麻雀に打ち込む日々。やがて神奈川県白楽の麻雀店『アリス』を経た後、渋谷の『かめきたざわ』で働き始める。

かめきたざわの美穂さん(小池美穂)、平林さん(平林佑一郎)には今も本当にお世話になってて、気持ちよく働かせてもらってる。かめきたざわって業界内で評判いいじゃん。やっぱり個々にお客様としっかりお話して、何を望まれているのかを把握する努力をしているところ、点数計算できない初心者の方でも、ご年配の方でもわからないこと・間違っていることをしっかり正しく覚えてもらえるようにしているところが素晴らしいなって思う。ゲストプロ来店・イベントなど、全体的に明るい雰囲気づくりもそうだし、本当にいいトコだよね。働いているこっちも楽しいもの。

口滑らかに職場への感謝の意を示す。こんなにも麻雀プロに囲まれて生きてきた品川だが、若いうちからプロになろうという気はなかったのだろうか。

そもそも麻雀プロの「マ」の字も知らないくらいただ麻雀に没頭してたから、「プロになろう」以前の問題だったのよ。そういう存在を知ったのがそもそも30過ぎてからだしね。

プロという存在に近づくことなく、品川は麻雀店でひたすら麻雀と戯れていた。

 

決して早くない32歳でのリーグ戦デビューと快進撃

麻雀を打ち続けてやがて30歳を過ぎたころ、品川は運命の出会いを果たす。その人物は、「競技麻雀の教科書」と呼び声高い、水巻渉だった。

麻雀店で働いてるうちに、交友関係のつながりで水巻さんと出会ったんだよね。そこで水巻さんにテスト受ければ?って言ってもらった。それまでほんとにプロなんて知らなかったのよ。あの一言がなかったら、間違いなくプロになってないね。当然勧めてもらったからには勉強がんばろうと思って、試験の筆記は90点以上だったかな。受験者の中で一番だった。試験系はセンスいいんだろうね。技能検定(最高位戦入会後に能力を再度問われる筆記試験)も楽勝で受かったんだけど、一問目のサービス問題だけ間違うっていうチョンボ犯してるんだよね。なんでだろうね。

こちらこそ聞きたい。なぜ簡単な一問目だけ間違ってしまうのか。天才はどこか抜けがあるものなのだろうか。こうして最高位戦に入会したのが2014年32歳。やや遅めの入会となったが、持ち前の麻雀センスを活かしリーグ戦で快進撃を続けることとなる。D1リーグからスタートし、気が付くと一度も降級することなくA2リーグまで上り詰めていた。

 

私設リーグで相手にどう見えているかを学んだ

品川は入会後、『エボリューションリーグ(発起人:坂本大志)』などの私設リーグ、各々で予定を合わせて行う『競技セット』に参加してきた。私設リーグでは、実践を行うとともに同卓者と意見交換しながら検証を行うのだが、現在の品川の活躍を支えているのはこの『エボリューションリーグ』であると語る。

麻雀を打って1局終わるごとに盤面の写真を撮って、後で振り返って検証するんだけど、おれはそれで麻雀が伸びた自信がある。他者の思考を聞けるというのが一番いいよね。単にセットするのとは違って、相手の思考を学んで、逆に自分の打ち方が相手にどう見えてるかも知ることができる。エボリューションリーグに紹介してくれた高倉さん(高倉武士)、そこで教えてくれた坂本さん(坂本大志)がいたからこそリーグ戦で勝ててきたのはあるし、ターニングポイントだったかな。最高位戦入って1年目からたくさんの強者と戦ったり一緒に勉強できたりしたことは、間違いなく財産になってるね。壁にぶつかったときも、お世話になってる人のおかげで立ち直ることができた。

私も様々なインタビュー記事を見たり取材を重ねる中で、活躍している選手はどこかでターニングポイントがあり、そこには必ず影響を受けた「人」がいることを強く感じている。品川の選手人生においては、水巻・高倉・坂本がまさにそうなのだろう。

おれが麻雀を覚えた20年前とかは今と違って座学できるような戦術本とかネット環境とかもないし、「牌効率」って言葉の意味も全く知らなかった時代。強い人の後ろ見をして、疑問点を聞いて、いいところを盗んで、ひたすら打ちまくる。その繰り返しだった。誰に教わるとかもなく、よく言えば我流、悪く言えば適当。でもプロになって初めて、「人がこう考えて切った」「こういう考え方もある」っていう「理」を教わったときには目から鱗垂れ流しよ。そのおかげで今の自分があるわけだから、最高位戦に入って本当に良かったと思ってる。

 

無冠ながら、自分の麻雀を知ってもらうことが評価につながった

リーグ戦は2年前までマイナスで終えたことがないほど、安定感のある麻雀が売りの品川。だが、タイトルとは不思議なほど無縁である。

本当にタイトル戦で勝ててないんだよなあ。決勝に残ったのはプロ協会と最高位戦の有志で開催された私設大会の『TwinCup』だけで、まっちゃん(松本吉弘:日本プロ麻雀協会)と優勝争ったことくらいかなあ。まっちゃんにしっかり優勝されて、それを皮切りに彼は發王戦も優勝して、RTDリーグにも呼ばれて、なんか結果的には押し上げた形になっちゃったね(笑)。

2016年第9回TwinCupの優勝トロフィーを受け取る松本。この優勝をきっかけに、破竹の勢いでMリーガーまで上り詰めた。

しかも自分の麻雀を見返すと、そのときはすっごいヘタクソだった。でもそのとき片山まさゆきさん(漫画家)、多井さん(多井隆晴:RMU)、たろうさん(鈴木たろう)、村上さん(村上淳)っていう今じゃ考えられない豪華解説陣に解説していただいて、負けたけどとっても良い経験になったよ。

あと、ヘタクソなりにもそれなりの麻雀を見せることができたのもあって、リーグ戦前に多井さんがああやって書いてくれたのはほんとに嬉しかった。

2017年B1リーグ(現A2)の下馬評。高倉のツイートに多井が反応し話題となった。

タイトルは取れなかったけど、戦いを通じて人間関係を広げることもできた感じだね。ちなみに高倉さんがツイートした2017年のリーグ開幕戦、アサピン(朝倉康心)が入会して初のリーグ戦だったこともあって、観戦者もめちゃくちゃ来てた。その中でアサピン、一馬さん(石井一馬)、鈴木優くんと同卓だったんだけど、おれ卓内トップ、80.5ptでトータル2位発進ね!開幕戦はね、、

たまに無邪気に自慢してくる品川は、子供のように純粋で無垢なのだなと感じた。プロ生活7年目。無冠でも品川は人間関係を着実に広げ、己の強さと評価に変えている。

 

やじーが雀王獲ったときは号泣した

仲の良い選手は、昔から付き合いのある日本プロ麻雀協会の現雀王・矢島亨だという。

気づいたら向こうは先に麻雀プロになってて、いつの間にか協会のAリーガーになってて。やじーが年上なんだけど、若いときは毎日セットしてたね。人生で誰と一番同卓してるかって言われたら、間違いなくやじーだね。二人で四国に麻雀旅に行ったこともあるくらい。だからやじーが決定戦で雀王獲れなかったときは悔しかったし、今年雀王獲ったときは嬉しくなって泣いちゃった。

矢島が昨年第19期雀王を戴冠した際に見せた涙。時を同じくして、品川も友の雄姿に号泣していた。

あと逆の話で、水巻さんの当時のAリーグ最終節を観戦に行ったとき、降級ラインにいた水巻さんが親番での形でメンタン一発ツモイーペーコー裏3っていう倍満をアガッて、スムーズに「8000オール」って点数申告したときは、純粋にカッコイイ!!ってなったね。それでも途中で水巻さんのポイント状況が厳しくなっちゃって、もう感情が爆発して泣きそうになったから、こりゃ普通に観戦できないやって会場を後にしたんだけどね。
みんながみんなハッピーになれない競技だよね、麻雀って。自分事で悔しいのはいっぱいあるけど、身近で一緒に麻雀してきた人が勝ったりするとめっちゃ喜ぶし、逆に負けたりすると本当に自分事のように泣いたり落ち込んだりしちゃう。感情移入しちゃうのよ。

思うに、カード麻雀で麻雀を覚えたあの日からずっと、品川は麻雀と仲間をまっすぐに愛する青年なのだ。だから、関わって仲良くなった人を損得なしに応援する。人情深い一面が、言葉の端々からこぼれている。普段はけろっとしていてポーカーフェイスで麻雀を打つ品川だが、麻雀に熱く人情に厚い、きっとそんなアツさが品川らしさなのだろう。

 

目標はタイトル獲得と麻雀への恩返し

入会当初の目標は40歳までにA1リーグ昇級、もしくはメジャータイトル獲得だった。それが無理だったらね、男として麻雀プロを辞めるつもりだった。雀荘勤務でお給料をもらって生活していくことを軸にするつもりだったしね。でも今は業界が変わったじゃん。麻雀プロも一個人事業主みたいなもので、顔を売ってなんぼの世界だもんね。それが自分の努力次第でなんとかなる世界になったからこそ、また新たな目標が生まれたんだよね。

その考えには全くの同感だった。以前取り上げた中嶋和正のように会社勤めをしながらプロ活動をする者もいるが、品川は麻雀一本で生活している。チャンスを掴みたければ、雀力の向上はもちろん、積極的に顔を売って自ら動いていくしかない。

そして、それ以上に私に熱く語ったのは、プレイヤーとしてではなく、普及者としての麻雀へのに対する思いだった。

ディアンと浅井さん(浅井裕介)が企画した『ビギナーミーティング』っていういわゆる初心者向けの麻雀大会に「アテンドプロ」として参加してさ、これ何切ったらいいんですか?とかいう質問に答えたり、アガリが出たらみんなで喜んだり、お祭りみたいな感じでさ。アマチュアの方に感謝されたり、交流できたりする機会がとっても楽しくて、こういう活動って本当に麻雀界のためになってるなあって、最近つくづく思うようになったよ。おれなんかのサイン書いていいの?ってときもあるけど、純粋に嬉しいよね。

2020年7月に実施したビギナーミーティングの関係者。右奥が品川。企画者の浅井裕介、山田独歩らを中心に大会は大成功を収めた。

続けて、品川は滑らかに麻雀への愛を言語化し紡いでいく。

麻雀を媒介にして、何万人もの人が知り合って、おれ自身もたくさんの方と交流できている。ビギナーミーティングもそうだし、成田君が関わっている『HQ麻雀』だってそう。層は違えど、麻雀広めていく活動って、言葉飾らずに言うけどなんて素晴らしいことなんだろうって思うのよ。だからそうやって麻雀に対する恩返しを一生かけてやっていきたいって思ってる。たとえ選手辞めてもね。麻雀プロっていっても同じ人間だし、特別なにかが違うなんてさほどないわけよ。けど、「麻雀を好きな気持ち」は全員が共通なのは確かだし、その気持ちを大切に今後も活動していきたい。結構な綺麗事なんだけどね。

そう言ってケラケラ笑う。綺麗事でもいいではないか。それを実行に移している品川は、言葉飾らずに言うと、かっこいい。

取材後に立ち寄ったのは日吉駅から徒歩1分ほどのところにある麻雀店『ジャンナック』。40年ほど続く老舗で、最高位戦ルールのフリーを毎週土曜日に開催している。最高位戦選手を中心にゲストに呼んでもらっており、取材日には品川と同期の立花裕がゲストということもあり、顔を出すつもりだったという。その立花を囲んで1半荘、リーグ戦さながらの雰囲気で真剣勝負をしたあと、品川をよく知る立花に話を聞いた。

品川と初めての出会いは39期前期(2014年)のプロテストで、彼が筆記試験を首位で終えているのを見て、頭が良くて真面目なんだろうなっていうのが第一印象でした。私は同期なので本来はライバルなはずなんですが、どちらかというと出会った頃からずっと麻雀を教わってきた感じです。ただ、彼の麻雀はレベルがある程度達していないと理解しづらいので、真似しようなんて思わない方が良いでしょう。間違いなく強いですが、何となくで真似すると大変危険ですから(笑)。「真似るな危険」ですね。

また、本人も口にしますが、「自分には麻雀しかない」と麻雀に関しての強いこだわりがありますね。そんな品川は、最高位戦に入会した当初から「いまAリーグにいてもおかしくない」と坂本前最高位をはじめ多くの先輩方から一目置かれていました。当時からそのレベルですから、今はもっと進化していますね。

「趣味はない」というほど麻雀に没頭できるのは、ある意味才能なのではないだろうか。最後に、立花から見る品川の麻雀の特徴を聞いてみた。

品川の麻雀の一番の特徴は、読みに重きを置いているところだと思います。自分の読みに自信を持っているので、人が観ていて「えっ!?」っていう危険牌を平気で切っていくんですよね。その理由を後で聞くとキチンと言語化された答えが返ってくる。手組でもその読みを生かした選択をよくしていますね。とにかく、「自分」を持っているので、良くも悪くもブレませんね。外から見ると変な放銃に見えるとき、「おれしかしない放銃」とか、何切るでもマイノリティを選んで嬉しそうにしていたり、どれだけ自分が好きなんだよ!って突っ込みたくなります。けっこうな変わり者なんですよ、彼。

当時から坂本最高位をはじめとする強者に認められた実力は、同期も痛いほど感じ取っていた。変わり者でいて強者。品川にとっては最高の誉め言葉だ。

変わり者は、自らの読みと打牌選択を信じる精神力を武器に、悲願のA1リーグ昇級、その先の最高位を虎視眈々と見据える。

取材を終えて数日後、渋谷の麻雀店『かめきたざわ』を訪れると、いつもの様にひょうひょうと麻雀を打つ品川。時折ケラケラ笑い冗談を交えてお客様と接する姿は、やはり麻雀を覚えたあの頃と変わらない、まっすぐに麻雀を愛する青年の顔をしていた。

品川直、38歳。

今日も彼は、麻雀の中で人生を送っている。

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