先月のとある夜、東海支部に大激震が走った。
東海支部長である鈴木優が、U-NEXT Piratesに指名されたのだ。
東海支部の選手たちは、我がことのように喜んだ。
ところがひとしきり喜んだあと、一抹の不安に襲われることになる。
--東海支部はどうなってしまうのか
おそらく東京で活動するようになる鈴木は、東海に構う暇はなくなるだろう。
次の支部長は誰なのかという問題も含め、東海支部はやっていけるのか…という問題に直面しているのである。
それくらい東海支部にとって鈴木優の存在は圧倒的だった。
一匹狼が人とのつながりを知る
「鈴木くんが支部長として率いていくなら、東海支部を設立するがどうする?」
そう問われたのが7年前(第41期)。鈴木は迷わずに受けたという。
ここだけの話だが、鈴木はデジタルデバイスにめっぽう弱い。ポンコツだ。
かくいう私もポンコツラーメンなのだが、こないだ会場係の練習をした時「Ctrl+V」でコピペしただけで「沖中さん!さすがですね!僕は最近覚えました!」と感動され、私は少し自信を持ってしまった。
「PDFファイルにして送って下さい」といったやりとりがあったら顔が「?」となっているし「Wi-Fiが飛んでるって何も飛んでないじゃないですか」って言ってそうだし、「Bluetooth」は歯磨き粉の新商品だと思っていそう。
そんな鈴木だから、当初は想像を絶する大変さだったと思う。
そして今の温厚で人あたりの良い姿からは信じられないが、過去の鈴木は近づくものみな傷つけるくらいのオーラを放つ、一匹狼だった。
【FACES / Vol.05】鈴木優 ~元・一匹狼は現・東海の雄~
「一人が好きで、友情とかないと思っていました。小、中、高校で一緒だった人の連絡先は誰も知らないし。人間関係は損得しかないと思ってた」
こう語る鈴木は、お店をやり始めたことや東海支部で若手選手と共に活動していくにつれ、人とのつながりを感じていくようになる。
先日、元東海支部の菅野真由選手がレディースオープンを優勝した時、居酒屋にてみんなで観戦していたのだが、鈴木が誰よりも喜んでいた。
こういっちゃなんだが、私は誰が優勝しても何も感じない。いやむしろ麻雀打ちとして悔しい感情すらわいてくる。
レディースオープンですら取りたいのだ。器小さすぎか。
菅野に限らず、東海支部の選手がタイトル戦の決勝に残ると、全力で応援する。
小池諒選手が新人王、松山由希選手が女流名人を取れば、心から喜び、至るところで宣伝していた。(両選手は共に東海支部所属)
そういえば、私が推薦入会したときもあの人は私よりも喜んでいた。
「東海支部の子は、みんなかわいいですよ」
一匹狼は、人とのつながりを大切にするようになり、相手のことを慮ることができる優しい男に成長した。
そして周りも、そんな鈴木を唯一無二の頼れる存在として慕っていった。
東海支部の団結力の高さは、鈴木というカリスマの存在あってこそなのだ。
(画像提供・木村明佳吏)
だからこそ、東海支部に走った不安は大きい。
激震の余波が残る暑い夏の日、プロアマリーグ第7節は開始された。
鈴木イズムの継承
全8節中の第7節はもう終盤であり、例年は参加者が急激に減る場面だ。
プロアマ合わせて20卓80人。
圧巻である。ちょっと前まで、5卓くらいで細々とやっていたころからすると信じられない。
慕うのは選手だけではない。Mリーガーになった鈴木に一目会いたいと思って駆けつけたアマチュアの方も多いのだ。
この日、鈴木はあえて表に出ず、東海支部の行方を見守るように、会場の隅で佇んでいた。
参加者でごった返す店内。なにせ最大80人である。1つのミスで進行は滞ってしまう。
実際、前節は急に卓数が変わったことによって、変更に手間取っていた。
今節は大丈夫かな…そう思ってスコアシートを手にすると、左上に2つの数字が書いてあることに気付く。
この数字は、座る卓を示してある。
17卓の場合と18卓の場合の2バージョンだ。
急なキャンセルにも対応できるように、2つのバージョンを用意したという。
「今日は17卓で開催するので、17の右にある数字を参照して下さい!」
運営が告げる。
この数字のおかげで卓組表を貼らずに済む上、参加者も半荘が終わるたびに卓組表の前まで行く手間が省ける。めちゃくちゃありがたい。
これを書いたのは石井航選手である。
簡単に言うが、開始前に70人近くのスコアシートに一つ一つ数字を記入していくのはどれだけ骨の折れる作業だろう。
そしてこのアイデアを出したのは高津柚那選手である。
彼女は運営をする傍らで、対局にも参加し
100をゆうに超える参加者の中で堂々たる首位を走っている。
(運営をしながらだと、なかなか麻雀に集中できないものだ)
また今週末に行われる最強戦にも参加を決め、東海の中でも最も旬な打ち手と言えるのかもしれない。
鈴木イズムはしっかりと根付いていた。
東海のプロたちは、参加者が大会を楽しめるよう、全力を尽くしているのだ。
たしかに、鈴木優の代わりは誰にも務まらない。圧倒的カリスマの存在感は偉大だ。
だからといって「鈴木がいなくなった東海はダメだ」と言われたくない。
鈴木が安心してMの舞台に集中できるよう、東海に残る選手たちが一致団結しなくてはいけない。
それが、今まで受けた恩を返すことにつながっていく…私はそう信じている。
さて、観戦記という体なのに、前置きが長くなってしまった。
東海支部にとってそれくらい大きな出来事だったし、この決意はどうしても書いておきたかったのでご容赦願いたい。
滞りなく4半荘が終わり、エキシビジョンマッチが始まった。
起家・キンケドゥ(3111)
南家・川本舞美(ゲスト)
西家・岩ちゃん(1222)
北家・牧野伸彦(ゲスト)
先制したのは、ゲストの川本舞美選手だった。
九州本部随一の女流選手として期待を背負い、関西→東海とプロアマツアーしている彼女はアニメオタクであり、コスプレを武器として今後の活躍を目論んでいるという。
たしかにコスプレ系雀士は少ないから狙い目なのかもしれない。
ちょっと前までこの麻雀界は「麻雀が強いかそれ以外に特徴がないと生き残っていけない」と言われたが、最近は「麻雀が強い上に特徴がないと生き残っていけない」に時代が変化しているように感じる。
そういった意味でも川本は毎日麻雀を打って勉強しているという。
小場で進んだ東4局、そんな川本の手牌。
(東4局・西家・4巡目)
ドラが暗刻のチャンス手だが、みなさんなら何を切るだろうか?
川本の白い指先はを選んだ。
(なんか私が書くとどうしてもイヤらしくなってしまうな、ツラい)
マンズは1から9までつながっているし、イッツーで仕掛けていくこともできるという判断か。
すぐにと引き込み、マンズ残しが吉と出る。
「ロン」
リーチドラ4・裏2の12000。
あそこでマンズに手をかけていたら実らなかったかもしれない、大物手。
一方で痛恨だったのは放銃したキンケドゥさん。
キンケドゥはこれまでワンデーの大会にはよくでていたが、プロアマリーグに参加するようになったのは今年が初めてだという。
毎節参加してのトータル+351.1は圧巻だが、今回のエキシビジョンはあまりいいところがなく「とにかく疲れました」と感想をもらした。プロ選手の洗礼を浴びたといったところか。
勝負の趨勢が決まったのは南2局・1本場だった。
もう一人のゲストである牧野伸彦選手の手牌。
(南2局・西家・4巡目)
牧野はここからを切った。
なりなりを切ればチートイツのイーシャンテンに構えることができる。
しかし、この手がホンイツじゃなくてなんだ。
何か重なるのであれば、チートイじゃなくてホンイツの方がいい。であれば一刻も早くを処理しておきたい。
牧野の思考はこんなところだろうか。
→→→と、マンズの山を掘り当てた牧野の手牌がこちら↓
採譜者(國分健太郎選手)のメモに「前傾姿勢で手牌がみづらくなる」と書かれている。
「リーグ戦のように卓にのめりこんで打てました」
と語る牧野。
A2リーグでプラス300を叩き出すなど目下絶好調。
「昇級確率は60%ですね」
と自身では冷静に分析しているが、内側では熱く燃えていることを私は知っている。
東海の鈴木に続き、関西からも最高位を取る選手が出ると、地方の活性化につながると思う。
実際に鈴木が最高位を取った時は、東海のプロ志望者が増えたという。
牧野は上家から打たれたをチーした。
切る牌は当然発であり、テンパイ取らずである。
この手をミニマム2000点で終わらせるわけにはいかない。
キンケドゥ、そしてもう1人のアマチュアである岩ちゃんも2フーロで追いすがる。
そこへ牧野がつかんだのがドラの。
--まだ、間に合うはずだ
牧野は今のうちとばかりにを叩き切った。
そして
チンイツの8000は8300のアガリ。
自らの手でもぎとるような、そんな泥臭い手牌。
燃える牧野の内面を表しているような一局だった。
このアガリでトップ目に立った牧野。
オーラスは岩ちゃんが3900をアガり、牧野がトップで終了となった。
岩ちゃんも岐阜で健康麻雀を楽しむいいお父さんだが、プロアマリーグは今年から参加したという。
周りが注目する中、プロと卓を囲むという普段とは違った経験ができて興奮したと語る。
好評のエキシビジョンマッチ&観戦記は、9月11日から始まる東海Classicプロアマリーグでも継続が決定した。
楽しく、真剣に、熱く闘う。
牧野が体現した戦いのステージは、あなたの挑戦を待っている。