コラム・観戦記

【厳しさと優しさを知った関西プロアマリーグ2022放浪記】文・沖中祐也

文・沖中祐也

「プロは勝つように」

本部から、プロアマリーグに参加する最高位戦選手たちに向けた通達。

噂程度の話だし、誰が言ったのかも知らない。

(この方だろうか…)

でもその8文字が私の肩に重くのしかかっていた。

関西人は生き急いでいる

関西でタクシーに乗ると、運転手さんは頼んでもないのに尋常じゃない勢いで飛ばしてくれる。とろとろ走っているとお客さんに怒られるのだろう。そんなタクシーも黄信号では意外としっかり止まる。当たり前といえば当たり前なのだが、違和感があったので聞いてみたことがある。

「赤信号で待っている車たちが今か今かと待ち構えているんですわ。フライング気味に発車する人もいて、危なくてよう行けません。」

私は、見切り発車も治安に役立っているんですね、という言葉を飲み込んだ。

何をそこまで生き急いでいるのか、関西人は無駄な時間がとにかく嫌いな印象。

データなどの裏付けは一切ないが、麻雀も平均打牌速度は関西が一番早いはずだ。

関西人は笑いに厳しい

うだるような夏の暑い一日、そんな関西の地に私は舞い降りた。

関西プロアマリーグのゲストに選出されたのだ。

 

入って一年目の新人だというのにゲストにお呼ばれするなんて本当にありがたい。運営さんやファンへの感謝の気持ちだけでなく、何か行動を起こさなければならないと思い、この自戦記を書くことにした。

ゲストが決まってからというもの、楽しみである反面、緊張感が高まった。何が大変って「最初の挨拶」である。

私はあの挨拶がすこぶる苦手だ。近藤さんや園田さん、村上さんのように面白い話ができない。それどころか緊張して舞い上がってしまう。

ちょっと面白いことを言おうと準備しても、大体スベる。なんとかしてくれ。

麻雀より何より、あの挨拶だけが恐怖なのだ。

会場に入り、運営の方と挨拶していると次々と参加者が集まってきた。

48名12卓。7節であることを考えると、その競技熱の高さに圧倒されてしまう。

 

卓組も決まり、それぞれが席につくと、さっそく恐怖の挨拶のターンがやってきた。

「最高位戦期待の新人、沖中です」

のっけはさざなみ程度の笑いが取れた。

「実は関西には月に何度も来ていて、第二のふるさと……というほどでもありませんが」

シーン。おかしい。名古屋だったら爆笑の渦に包まれているはずなのに。

さすが関西、笑いに厳しいぜ。こうして私の0回戦はラスから始まった。

 

関西人は損得勘定に敏感

滑ってしまったが、まぁいい。私の本業は麻雀だ。

「プロは勝つように」

不甲斐ない成績を残したある日、本部からそういう通達があったという話を聞いた。OK、BOSS。俺の勇姿を見ていてくれ。

 

「1回戦 さふぁて・中山希昴・田嶋翔太」(敬称略)

商人(あきんど)のまちである大阪は、損得勘定が上手だからか、麻雀も達者な打ち手が多い。ずっと自身の体感だけでそう語っていたが、運営の中村さん(中村誠志)も同じようなことを言っていた。

「私は各地方のプロアマに参加したので分かるのですが、関西のレベルはトップクラスですね。」

なお中村さんは関西本部長であり、多くの参加者が集った本日のプロアマも見事に捌き切っていた。その無駄のなさに惚れ惚れするほどである。

 

競技熱も麻雀レベルも高い関西。しかし私も麻雀だけは負けられない。

明日誰に何が起こるかわからないこの世界で、今日同卓したメンツと最後の半荘になるかもしれない。だから私は全力を尽くす。たとえ明日私がこの世にいなくなっても「あいつは強かった」と語り継がれるように。

小場で回ってきた東4の親番、魂の先制リーチをかける!

ドラはないがこのリーチには魂が乗っている。

中山「リーチ」

いいのか?本当にいいのか?俺、親だよ?と言いながら切った5mにロンの声。

 

リーチ一発ドラ1…か、くっなんだよ!愚形じゃないか…!(お前も愚形だろという声は聞こえない)

裏ドラをめくりにいった中山さんの手に4mが踊る。裏3追加でハネ満の放銃となった。

そのままラス目で迎えたオーラス。全員がテンポよく打っていてくれたからか、まだ時間がたっぷり残っている。そして私の配牌が…

悪くない!というかイイ!ここから始まるぜ沖中祐也の伝説が。「頭文字O」だ。預けておいた点棒をきっちり返してもらうぜ。

おっと、上家の田嶋さん、当店はマナーにきっちりしている雀荘だ、牌は縦に置くもんだぜ?

田嶋「いえ、ダブリーですから」

といったやりとりはなかったが、きっちりリーチという発声の後…

田嶋「ツモ」

ハネ満?親被り?え?もう終わり?まだ他の卓南入くらいですよ?

こうして私は最速でラスを引いた。音速の貴公子もびっくりである。

「………」

待って待って、まだ1回戦だから!麻雀は過程!長期スパン!

1着・田嶋翔太

2着・中山希昴

3着・さふぁて

4着・沖中祐也

 

「2回戦 かっくん・黒越雄亮・うえしょう」

2回戦は運営の席から最も近い卓で行われた。そこでは運営の手伝いに来ていた本長プロ(本長浩斗)が座って見ていた。

昔はZEROさんZEROさんって慕ってくれてかわいかったが、今では金魚のフンみたいにいろんな人について回っている。ようし、わかった。その性根、私が叩き直してやる。瞬きをせずに私の麻雀を見るがいい。

ふふ…本長くんは何を切るかな?タンヤオを見て1p?孤立牌の3m3s?

否!1pはイッツー、3m3sはタンピン三色の種じゃないか。ここは打9s。最高位戦ルールを知り尽くした男ならこの一手。

ロン、いっぱーーつ!!(発声はロンだけでお願いします)

うおおおお!想定とは違う形だが、復活の狼煙を上げる伝説の一撃が炸裂した!(5200)

本長くんよ、奇跡の瞬間をその目に焼き付けたか?とチラリと後ろを振り返ったら彼はいなかった。

おい!

1着・うえしょう

2着・沖中祐也

3着・かっくん

4着・黒越雄亮

 

「3回戦 辻啓・前畑香・春木駿」

4着→2着ときて、ここがプラスになるかの踏ん張りどころ。

卓に座り、沖本駿ばりに牌を触りながら集中力を高めていると…

「47期後期、研修生の辻です。よろしくお願いします。」

と挨拶される。ほほう、つまり後輩ってやつか。

さっきの本長くんといい、先輩マウントをとりたがる一番やっかいなヤツに映っているかもしれないが、先輩なのは事実なんだから仕方ない。ここは威厳を保つトップを取りにいくしかない。

東3局、その後輩クンからリーチが掛かる。

↑たしかこんな捨て牌。

なんでもありそうなリーチにオリる私ではない!ここは先輩プッシュを見せる場面…!と何筋か自己都合で押したが、テンパイすらせずに終盤に入った。

私はオリに回ったが、ただ現物を並べるだけなら誰でもできる。

 

 

例えばこの局面、リーチに対してオリるだけなら5mや6sといった現物がある。しかしこのとき下家が親だった。子リーチにオリて5mや6sを鳴かれてテンパイを取られてしまっては良くない。

ここは--場を一瞥して私が切ったのは、2pだった--こうすべきだ。

4pが4枚飛んでいた。25pには当たらないし、4pを先に切っていることからカン2pもない。(123の三色やチャンタに当たるが1sが4枚見えていてそれもなかった)タンキなら1mを選びそうだし、シャンポン待ちも自分が2枚持っていることも含めて考えづらい。つまり、この2pはほぼ通る。

ほぼ通る牌を切って親に絞ったり、自分のケーテンに前進する、これが強者の緻密な一手なのだ!!

辻「ロン」

強者の…緻密な…え?後輩クン、なんか言った?

 

「5200」

裏ドラが一個乗ったらしい。「はい」と言うまでに時間がかかった。どうしてその手順になったのか。おそらく4pを切った段階では123の三色が見えていたのだろう。

歯を食いしばって返事をしながら点棒を払う。策士策に溺れる…下手なのは…俺だ!

歯を食いしばりながらどうやって返事をするのか。

 

1着 辻啓也

2着 春木駿

3着 沖中祐也

4着 前畑香

 

ジュージュー。

私の後ろで焼き土下座が用意される音がする。気がした。

へいボス!まだ1半荘あるから!トップ取れば望みはあるから!あるかな?

 

「4回戦 結城恵・伊庭宮子・宮原航」

4回戦は気品を漂わせる御婦人の方が2人いらっしゃった。

少しお話しさせていただいたが、普段健康麻雀をされているという。

今、健康麻雀の勢いが凄い。平日にセット雀荘で勉強会に行くと年配の方を中心に健康麻雀の卓が何卓も立っていて驚く。

そうだ。何も勝ちを求めるだけが麻雀の姿ではない。

アガったり手役を追ったり、我々が忘れかけていた根源的な魅力が、麻雀にはあるのだ。こういった方たちも楽しめるよう、ちょっと動作が遅くても待ってあげよう。点数がすぐに言えなくても待ってあげよう。それでもわからなかったら優しく教えてあげよう。

言い方1つ、接し方1つで印象は180度変わる。麻雀を楽しんでもらうのもプロの役目なのだ。

 

「あ、それは6400ですね」

「1本場なので2700オールですよ」

「5200払ったんで2500バックですね」

「はい、終わりました。私が全部点数記入させていただきますね」

1着 宮原航

2着 伊庭宮子

3着 沖中祐也

4着 結城恵

 

あっれー?終わり?

他家の点棒を数えてばっかりだったんですけど!

 

文字が潰れていてよく見えない…いや見えなくていいんだけど、私のプロアマ初ゲストは-72.8(39/48位)という体たらくな成績で終わった。

朝、同じくゲストの川本さん(川本舞美)に「ゲストは勝ってナンボだぜ?」とハッパをかけたのだが、もう二度と目を合わせることができない。

「……今年限りだね」

ちょっとボス!言い訳はしたくないけど、麻雀だから仕方ないって!

関西人は厳しく、そして優しい

あれは大阪のとあるサンマの店に初打ちに行った時のこと。

「初めてなのでよろしくお願いします」

と挨拶して入った卓のおじさん2人は無愛想だった。

 

挨拶に返事もなければ、視線さえくれない。

私が字牌にコシを使ったら「もう字牌ではアガれないから」と指摘してくるし、会話らしき会話は一切ない。

よくある、常連ばかりの雀荘の新規に対する嫌がらせ--か。

 

違った。雀荘は麻雀をするところだ。お話をするところではない。

余計は会話もなく、麻雀に集中できる。私はこの2人の無愛想がとても心地よかった。

「字牌ではあがれないから」の指摘は、新規の私にこの店のルールを教えてくれたにすぎない。

 

ラス半を入れ、その半荘をトップで締め、席を立つと

「つえーな、にーちゃん」

ニヤッと笑って対面のオヤジが言った。

「…ありがとうございます」

大して勝っていたわけではないのだが、私は打ち手として認められたようで、とても嬉しかった。

 

そう、大阪の人は一見するとよそ者に厳しく見えるかもしれない。大阪弁が怖いと感じるかもしれない。

でも一度その輪に飛び込むと、厳しさと同時に優しさが同居していることに気づく。

 

天空を行く57億の孤独。

それぞれがビルとビルの間の鉄骨を渡ってるから手を差し伸べることはできない。でも温かい声を掛け合うことはできる。大阪の人の温かさはそういうイメージだ。

この日も、参加者の方は温かった。

多くの方に声をかけられ、差し入れもたくさんもらった。

 

私は大阪の厳しさと優しさが好きだ。

小粋なギャグには一切笑ってくれないけれども。

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