コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.47】友添敏之 ~生まれたときから牌効率を知っていたアフロが考える麻雀と経営~

(インタビュー・執筆 牧野伸彦

 

「麻雀には過程しかねえ」

「アフロ」

「ここのめ」

こんな言葉を聞くと浮かぶ麻雀プロはただ一人。

友添 敏之(ともぞえ としゆき)

最高位戦選手紹介

Twitter

京都で麻雀店Potti、居酒屋「日本一学生を応援する居酒屋 ここでのめ」などの経営者であり、最高位戦選手としてもいまや関西本部の顔である。

 

生まれた時から牌効率を知っていた男

友添の経営する麻雀店、麻雀Pottiに行くと、友添自身にはこんな自己紹介がされている。

「生まれた時から牌効率を知っていた男」

これほどインパクトがあるフレーズはないだろう。

子宮の中で牌効率を覚えた男は、いつ麻雀と出会ったのだろうか。

高校生の時にその頃の友達と超面白いゲームがあるってことで麻雀を始めたね。各自麻雀本読んでルール覚えて始めたよ。

ここまではありきたりである。では、その頃から強かったということなのだろうか。

そりゃ強かったよ。初めて麻雀した瞬間から、スジやノーチャンスは分かったからね。仲間内でも負けたことはなかったね。

フリーで色んな人と打つようになってからも、例えば簡単なやつだと出やすいスジと出にくいスジがあることに気付いたり。246から6を切ってリーチした時はあんまり出ないなとか。

麻雀において自分で気付けないことはないと思ってたからね。俺が最強だから人に教わることなんかないって思ってた。

スジやノーチャンスは打ちなれている人には当たり前の知識であるが、麻雀を始めた瞬間から気付く者はほとんどいないだろう。生まれた時から牌効率を知っていた男、納得である。その後麻雀Pottiを開業した友添は勝ち続ける。

Pottiを始めて、より多くの人とより多くの数を打つようになってからも勝ちまくってたからね。自分が一番強いと思ってたし、それは変わらなかったね。

そうそう。この感じ。友添と言えば歯に衣着せぬ話し方、そこからも自信を感じさせる。

そんな友添に転機が訪れる。

 

最高位戦への入会

2013年の夏に最高位戦日本プロ麻雀協会の関西本部が設立された。

友添、そして筆者もこの期に最高位戦に入会することになる。

入会のきっかけは飯沼さん(現九州本部長、飯沼雅由)に声かけてもらったことだね。

麻雀プロになって有名になって勝ちまくったらPottiのPRになると考えて。

自分が一番強いと思ってたし、自分の力も証明できてお店の宣伝にもなるから一石二鳥だと思った。

その自信の通り、最高位戦に入会してからも友添は勝ち続けた。

入会してすぐのリーグ戦で優勝、そして第38期新人王戦で優勝し、関西本部でも注目の選手となる。

当時の新人王戦の自戦記からも自信が伺える。

新人王表彰の壇上でいきなり「麻雀には過程しかねえ」と一言(噛みながら)叫んで登場したインパクトとその実力から、先輩からも注目されるようになった友添は勉強会や私設リーグに呼ばれるようになる。すると、その勉強会で友添は少しずつ変わっていった。

これはね、近代麻雀のnote*にも書いたんだけど、聖誠さん(佐藤聖誠)に誘われて「ねこ研」*に見学に行ったんだよね。

*note・・文章や画像などを投稿できるメディア。

*「ねこ研」・・金子正輝選手を中心として開催されていた研究会。名称は、か「ねこ研」究会の略。多井隆晴(RMU)、石橋伸洋石井一馬などが参加していた。

石橋さんが長考してたんやけど、「これしか切る牌ないやん、遅っ」って思って見てて、後から理由を聞いて驚いたんだよね。一見無駄に見える牌を残してたんやけど、それは将来的に手を壊さずにサシコミ(意図的に放銃して局を終わらせる)することを考えていて、今までそんなん考えたこともなかったし、凄っ!って思った。ここまで考えてる本物の麻雀プロって凄い!ってのと、麻雀が面白っ!ってなったね。

その約半年後、坂本大志にSリーグ*に勧誘され、参加することになる。

*Sリーグ・・当時、多井隆晴、園田賢、坂本大志、堀慎吾(日本プロ麻雀協会)、松ヶ瀬隆弥(RMU)など後の最高位やMリーガーが参加していた勉強会形式の私設リーグで、現在も参加メンバーを変えて継続されている。

当時、現役最強と言われていた多井さんがいるってことで、どんなもんなのかってのを確かめたいのと、その人を倒して自分が一番強いってのを証明したくて参加したんだよね。

そこでみんなやってることが凄くて。そのけんさん(園田賢)が4巡目にドラの切って単騎でチートイツのリーチしてたりとか。自分がやってた麻雀との違いが凄すぎて「なんなんこれヤバいな!」ってなって。ただ、その理由を聞いてみると絶対に明確な理由があった。

その他にも色んな局面を多く目にしていくことで考えが変わったんだよね。

自分が考えたことないことを考えて麻雀やってるやつがいるってなった。

このような出会いが友添を変えた。今までの自分の枠を外して麻雀を考えないと進化できないと感じたようだ。

自分が一番強いって自信が揺らぐことは無かったけど、俺と同じくらい強いやつがいる可能性があるってなったね。麻雀には多様性があってどっちが強いかは分からないながらも、初めて自分以外を認めた瞬間だった。

強者と打つ、思考を聞くことでさらに麻雀が厚くなったと語る。

このような勉強会などを継続し、現在友添は最高位戦B1リーグで戦っている。

 

Mリーガーに勝った最強戦

記憶にも新しいだろう。

2022/7/23 麻雀最強戦2022 男子プロ魂の一打

決勝では多井隆晴、近藤誠一、堀慎吾を破り優勝した。

(画像:ABEMA麻雀チャンネル 麻雀最強戦2022 男子プロ魂の一打より

 

この舞台に上がるまでにどのような軌跡があったのだろうか。

最強戦は注目される場所だし、なんとかして出れないかなと作戦考えようと思って。5つほど作戦を考えた。その1つ目の作戦が金本さん(最強戦実行委員長)にDMをすることだった。もちろん内容を練って練って訴えかけたんだよね。そしたらすぐにZoomで打ち合わせの時間を作ってくれて、そこで最強戦に招待してもらえる基準みたいなものをフンワリ教えてもらって、「それなら僕は金本さんにアピールするものを準備してまた連絡します!」と宣言した。

その場では話が進んだわけじゃないんだけど、それをキッカケにキンマWebでnoteを書く機会をもらえた。

この行動力、見習いたい。

noteを書いたらそれをかなり多くの人に読んでもらうことができた。すぐに金本さんから電話がかかってきて「すぐにまた書きませんか?」ってことだった。ここで結果を残すことができたら自分の価値を効果的に伝えられると思って、更に入魂した上で策を練ったnoteを書いた。そしたらそのnoteは記録的に売れた。そうして3~4本のnoteを書いてるうちに、連絡がきた。最強戦出場打診の連絡だった。プロとしての価値があると判断してもらえたんやね。こうして出られることが決まったら、さらにやることがあって。

最強戦に出ることを多くの人に知ってもらうことと、入場シーンは勝っても負けても映るからそこで目立つことと、後は戦略と心の持ちようだね。

(画像:ABEMA麻雀チャンネル 麻雀最強戦2022 男子プロ魂の一打より 友添入場シーンの一部

今日知ってる?協会の御崎さん(御崎千結・日本プロ麻雀協会)が俺と同じ習字やってたんだよ。(取材日の8/14、麻雀最強戦2022 女流プロ最強新世代が開催されていた)

そこでも「友添のオマージュだ」ってコメントがあったり、金本さんもアフロになってるし映る度に「友添」ってコメントが流れたりしてたんだよ。ありがたいよね、おいしいし。

俺が出てなかったらこんなこと起こってないし、そもそも俺が意図して仕掛けた結果である習字とアフロがPRに繋がってるってのが最高よね。

麻雀プロの数が増えた今、自分自身を上手く売り込むこと、いわゆるセルフプロデュースが大事と言われているが、それをここまで効果的に実践する人はいないだろう。自分自身も含め多くの麻雀プロが憧れる舞台で友添は輝いた。

年末に行われるファイナルに向けて、何か考えていることはあるのだろうか。

見てほしいのは習字ですね。いやまあ、それは冗談だけど(笑)。

最強戦直前の動画インタビューをぜひもう一度聞いてほしいんだけど、そこで勝てる気がするって言ってるんだよね。そしてもう一つ、ファイナルもかなり良いところまで行ってギリギリで負けるだろうと自分で言ってるんだよね。だからそこまで行くのは期待してて欲しい(笑)。

だけどこれはキャッチーに言いたかったのと謙遜も交じっての表現なんだ。何度も決勝で負けてきた。その頃から自信はあったけど、それでも良いところで負けまくってきた。そんな中でも、結局は研鑽を積むしかない。そうしているうちに、自然に心の強さも磨かれてきた。

今は泰然自若の境地に達しつつあるから、実は過去の自分を超えるのは今かなって思いを持ってる。今までと同じように良いところまでいって、しかし成長した心身で、今回は最後に勝っちゃうってのを2022年末には見せられる気がする。

これまであった自信に加え、自分自身を客観的に見ている偽りのない言葉だった。

年末に開催される最強戦のファイナルで友添がどのような入場シーン、麻雀を魅せてくれるのか。本当に楽しみである。

 

日本一のサラリーマンを目指した

ここまでは麻雀プロ、最高位戦選手とのしての友添に話を聞いた。その一方で現在、友添の経営する友添商店は麻雀店、居酒屋、カフェ、デリカテッセンを経営している。ここからは経営者としての友添に話を聞いていく。

そもそも起業のきっかけはどのようなものだったのだろうか。

競争が好きで勝つことが好きだったから、日本一のサラリーマンになろうと思ったのよ。就活してた当時、日経新聞優良企業ランキングで日本一だったローム株式会社を見つけて、そこで入って社長になれば良いと思った。何千倍って倍率だったけど、そこは当然普通に内定を勝ち取ったよ(笑)。

めっちゃ活躍して30代で社長になろうと思ったんだけど、入社してそれは無理だと分かった。一部上場企業で40前に社長になることがあり得ないって、学生の頃には気付いてなかったんよね。

そこで作戦変更したんだ。自分で会社を作って、その会社を日本一にすれば日本一のサラリーマンになれると思った。そのためにはやっぱり、自分の好きなことを仕事にしたいなと思って、興味があったアパレルをやろうと思ったけど、俺のやりたい会社にしようと思うと開業に1億円必要なことが分かった。

一見超えられない壁にも見えるが、この男は一味違った。その行動力が自身の想いを形にしていく。このときに開業したのが麻雀Pottiである。

麻雀店にしようと思ったのは、麻雀が好きで、競合が弱く見えて、在庫を抱えなくて良いから倒産リスクが小さくて、現金商売なので資金繰りを考える必要がなくていいってこと。

京都に麻雀店を作って、2年でお金貯めて東京に出店して、3年で2店舗で5,000万稼いで、京都のお店を1,500万で売って、東京のお店を3,500万で売って、合計1億円にしてアパレルを開業しようとしたんだよね。

 

麻雀Potti開業・友添商店の始まり

アパレルを開業するための足がかりが麻雀Pottiだったとは、筆者も初めて聞く話で驚いた。

麻雀Potti開業当初、友添自身も常にお店にいて休む間もなく働いていた。学生バイトを集めるべく、街頭でビラ配りなども精力的に行ったという。ところが、2~3年経過してお店も軌道に乗り少しずつ友添にも余裕が生まれ、考えにも変化が生まれる。

途中で日本一の会社って無いってことに気付いたんだよね。

売上なのか、規模なのか、社員満足度なのか、知名度なのかって。俺ってなんのために働いてのかって考えるようになって。

今まで自分のためだけにやってたから気付かなかったけど、お客さんの笑顔とか、眠いなか働いてくれてるスタッフとか、就職して卒業したお客様やスタッフが連休に東京からお土産持って遊びに来てくれたりとか、そんなことを目にすることでちょっとずつ自分が変わってきたんだよね。

お客さんの顔を改めて見てみると、Pottiって俺だけのための場所じゃなくて、みんなの場所になってるなって。

日本一の会社なんかそもそもないってことに気付いて、みんなの居る場所っていいなって思って、自分のやりたいことって何だってもう一回考えようって。東京出店もやめて、同地域みんながいる場所で、俺も好き、相手も俺のこと好き、って環境で仕事できる方が幸せかなって思って。

それなら同じ地域で違う業種の出店をしていくのがおもろそうだなとなったんだよね。

これが京都で居酒屋やカフェへと展開していく経営への根源だったようだ。この考えのもと、友添は麻雀店に留まらない経営を展開していく。

 

友添商店の理念は、京都を面白くする

現在、友添商店では麻雀店、居酒屋、カフェ、デリカテッセンを経営している。

日本一学生を応援する居酒屋 ここでのめ

マールカフェ

マールデリ(Twitter: @mardelikyoto

 

複数の店舗を経営することは簡単ではないだろう。友添商店は今どこに向かっているのだろうか。

ここのめを作った時に法人化して個人事業主じゃなくなって、もっと経営のことを勉強しないとなと思って、勉強した時に知ったのが経営理念ってことなんだよね。

「京都をおもろくする」ってのが友添商店の経営理念なんだけど、経営理念って「会社として目指し続けてる、到達できない理想の姿」「商材、サービスが変わろうと変わらないもの」のこと。

あったらいいな、今はないけどっていう店をこの四条河原町の交差点から半径2km圏内に作っていく。この街を魅力的にする、そこに住んでいる人達の人生を豊かにする。

そのおもろくなった街で俺も暮らすと楽しいし。

友添商店の2030年のビジョンは、四条河原町から2km圏内に20店舗、あったらいいな今はないけどって店を20店舗作る。それを俺は同地域異業種展開って呼んでるんだけど。

センシュアスシティという都市ランキングで京都は今20位なんだけど、2030年に3位以内にするってのが目標だね。

”京都を面白くする”

書くのは簡単だがこれほど難しいことはない。なぜなら、少なくとも友添1人だけでは、友添商店1社だけでは、到底達成できない目標なのだろうから。

日本一のサラリーマンと最強雀士をたった1人で目指した男の周りにはいつしか人が集まり、いまや経営と麻雀それぞれの目標を目指す仲間となっている。

そんな友添を囲む輪はもっともっと広がっていくのだろう。

アフロのように。

コラム・観戦記 トップに戻る