文・沖中祐也
長年のしかかっていた心の重荷
18年前の冬の日。私は最高位戦を電話一本で辞めた。
正直、電話を入れた記憶も怪しく、ドタキャンに近いものだったと思う。
当時事務局長だったのが、今回のプロアマリーグの単独ゲストとなる
近藤誠一選手である。
18年前の話だ。未だ近藤が(あのとき迷惑をかけやがって…)なんて思っているわけがない。それでも私はずっとひっかかっていた。最高位戦と近藤に砂をかけて辞めていったことを。
最終節開幕
8月のある日曜日、プロアマリーグ最終節は行われた。
妙なウイルスが世間を騒がせて久しいが、外の暑さと中の冷房のギャップに、普通に体調を崩してしまいそう。それくらい厳しい暑さが続いていたのだ。
それでも多くの方にお集まりいただき、東海地方の麻雀熱に驚きを隠せない。
なんたって最終節である。
プロアマリーグは全8節のポイントの合計により、準決勝・決勝への出場が決定する。
ポイントを持った人は守りに入ることもあるし、マイナスの人は諦めてしまうことだってある。
それにも関わらず50名以上の方が参加を表明したわけだ。
やはり人が増えると盛り上がりを感じるし、運営する側のモチベーションも上がる。
全8節、どこか1節でも参加いただいた方、本当にありがとうございました。
と、うっかり終わりそうな雰囲気になってしまった。
最終節も4半荘打ち、エキシビジョンマッチに残ったのは…
マツムラ +116.8
永井裕朗 +100.7
オカダ +95.2
の3名となった。この3名とゲストの近藤によってエキシビジョンマッチが行われる。
最後に笑うのは誰か。
チャラいというイメージが先行する打ち手
この観戦記、できれば全員を取り上げたい。特に一般の方を優先して書きたい気持ちがある。しかし紙面の都合もあり、どうしても活躍した打ち手を書かざるを得ないのだ。申し訳ない。
そういう意味で、本日主役に躍り出たのはこの打ち手である。
永井裕朗選手。
「チャラそう」「イケメン」
彼の第一印象をたずねるとほとんどの人がそう答える。
実際に彼は
ものすごく明るく、ノリがよい。今の言葉でいうと陽キャというやつだ。
東2局1本場の3巡目、そんな永井の手牌がこちら。
ここから何を切るだろうか。
46に7をツモってきたら4を切る。と、反射的にに手が伸びてしまいそうだが、永井は一瞬立ち止まり、に手をかけた。
この手牌、もう良形で5ブロックが確定している。それならばタンヤオに主眼をおいてみよう…といったところだろうか。
永井の選択に応えるように手牌はこう変化した。
「リーチ」
永井が静かにを横に置く。
あのとき、を残していなかったら捉えられなかった手牌である。
「ツモ2000/4000」
を手元に引き寄せた永井の表情が引き締まっていくのが伝わってきた。
わかる…わかるぞ…私もイケメン属性を持つ仲間として非常ぉ~によくわかる。
顔だけじゃなくて麻雀も見てくれというその熱い気持ちが!
プロ入り4年目、永井の積み重なった思いが卓上で爆発する。
その後も、永井がひたすらアガり続けるのだった。
それでも戦いを見守る誰もが期待していた。
この男の左手が輝く瞬間を。
永井の親番での近藤の配牌。
近藤はここからを切った。さらにマンズをバラ切りし、ホンイツを装う。
狙いはもちろん
国士無双だ。ざわざわ…イーシャンテンになっているではないか。
近藤はここからを切った。あとからを切ることにより、少しでも国士をぼかそうという判断である。
対して、永井の手牌。
永井は近藤の異様な捨て牌を見つめながら、ここからを切った。
ドラの受けを含め、平たく平和を目指した選択である。
「ツモ、1300オール」
安くも、近藤の野望を打ち砕く重いアガリ。
こうして名古屋の卓上は、永井の独壇場となったのだった。
終始、守りに入らざるを得なかったマツムラ。
そして、同じくラスに甘んじることになったオカダはいいところがなく、悔しい結果になってしまった。
ただ、近藤の大ファンだというオカダは一緒に卓を囲めるだけで光栄です、と興奮を隠しきれない様子だった。
ありがとう
普段、モニター越しに見ている選手のいつものアクションをリアルで見ることができるのはとても興奮する。
間の取り方、切るときの仕草…見覚えのあるちょっとした動きに感動するのだ。
そういう意味では全8節、多くのゲスト選手がファンを魅了してくれた。
山田独歩の高速押しから始まり、田渕百恵の佇まいに惹き込まれ、日向藍子にメロメロになる。竹内元太・内間祐海がゲスト同士でぶつかりあえば、園田賢の泥臭いケーテンにしびれた。
参加者の方も、勝ちたい思いを胸に秘めながらも紳士的に麻雀や交流を楽しんでいたし、どの節を思い出しても楽しかった記憶しかない。
こうして永井の独壇場にて、東海プロアマリーグは終わりを迎えたわけだが、このあとは準決勝・決勝が控えているし、それが終わればClassicプロアマリーグが開幕する。
戦いは麻雀を辞めない限り、ずっと続いていく。
これだけ楽しかった今日という思い出も、いつかは忘れてしまうのかもしれない。
「ありがとう」は「有難う」と書く。
有ることが難しいという意味で、当たり前じゃないよという意味だ。
こうやってアホみたいに麻雀を打って、勝っただ負けただの騒いでいる日々は当たり前じゃないということ。いつかは必ず打てなくなる日がくる。
だからこそ、観戦記として残しておく価値はあるのかもしれない。
私は、飲みの席で近藤さんに恐る恐るドタキャンするかのように退会したことを覚えているか聞いてみた。
「実はほとんど記憶になくてねー」
苦笑いしながら答えてくれた。
自分が重く受け止めていることは、おうおうにしてこんなものだ。
「そんなことよりビールまだかなあ」
こんな私をあたたかく迎えてくれた近藤さんに、そして最高位戦に全力でお返ししなくてはいけないと思っている。
私が最高位戦に所属できて麻雀を打てること。有ることは当たり前ではないのだから。
半年間、観戦記を読んでいただき、ありがとうございました!