コラム・観戦記

【第38期新人王戦決勝自戦記】 友添敏之

 「ムニュ」っと、の感触が親指に伝わった瞬間、「やっと終わった」と思った。
場に4枚切れのが埋まり、その同巡、マンズ染めの対面井上がツモ切ったで優勝が決まった。

 「麻雀には“過程”しかない。プロである以上、勝った負けたと“結果“で一喜一憂するのではなく、完璧な”過程”を見せなければいけない。しかし、過程を見てもらうためには結果が必要なのも事実。だからこそ、何としても優勝したい」


決勝戦前のコメントで恥ずかしげもなくこんなことを言ったのは、何年も前から私が言い続けていたことをプロとしてどうしてもぶちまけたかったからだ。

 

 

今年8月に最高位戦日本プロ麻雀協会の関西支部が立ち上がった。
そして、22名で第一期リーグ戦がスタート。4半荘を1節とし、約4か月で5節を打ち切り結果を出すという短期決戦。
C3リーグという名前ではあるものの、第一期ということでまさに玉石混淆。
まだまだ修行が足りんなあという者から、実力者という噂で前々から名前を知っている者や、元他団体プロでタイトルを獲ったことがある者もいる。
上から下までかなり腕の差があり、想像していたよりも打てる人間が多いなという印象だった。


4節を終えて私は全体2位。首位とは2000点差も無い状況で最終節を迎えた。
首位だった島田もそして私も、1半荘目2半荘目とポイントを減らし、逆にポイントを加えてきた栃谷とほぼ並ぶ形に。

この時点でかなりハラハラしてました、正直。


最終節最後の半荘、優勝の見える三人は別卓、着順が上の者が優勝という緊迫した中、5万点オーバーのトップを獲った私がなんとか優勝することができた。
オーラス、ポンのソーズ一通カンはもう10年は忘れません!ありがとう一通!
開幕戦から、「優勝を狙う!」と公言していたものの本当に苦しい戦いで、実力確かなライバル数人がいたこともあり、この優勝は本当に嬉しかった。
だからこそ、「できたばかりの関西支部代表として新人王絶対獲ったるぞ」という気持ちがモリモリと湧いてきたのを覚えている。

 

 

それから2週間が経ち、12月7日晴れ、東京八丁堀で新人王戦がスタート。
参加選手55名の中、シード権を得ていた私はベスト16からの出場でラッキー。
午前中から予選を打っていた選手のうち成績トップの中原は決勝進出が決定している。
2位から16位までの15名に私が加わり、準々決勝がスタート。
4名で半荘2回を打ち、トータルポイント上位2名が勝ち上がりとなる。


しかし、勝ち上がり方でも少し差があり、この準々決勝1位での通過者は準決勝A卓となり上位2名に入れば決勝進出。準々決勝2位での通過者は準決勝B卓となりトップ者だけが決勝進出。
決勝進出に大きなアドバンテージがある1位通過をしたいなあ

でも準決勝には行きたいから2位も死守しなきゃなあ

という当たり前過ぎる思惑を全員同じように頭の中に抱えながらの1半荘目、出親の私はダブを暗刻にしてリーチでツモ。
幸先の良い立ち上がりだったが、そんなにサクサクと簡単にはいかないっすよねやはり。
東3局8巡目に、

 

 

というものっすごいリーチを打ったが、対面親の白井に同巡サクッと2000オールをツモあがられる。
「こりゃなんかアカンなー」と思った瞬間、そのまま親の大連荘が始まる。
約4万点加点されて物凄い差。
南一局になり親番で、

 

   ドラ

 

目一杯に受けて打

 

テンパイ連荘ルールでの親番イーシャンテンは、テンパイ受入れをマックスにするのが基本。先制リーチがめちゃくちゃ強いからね。
そして特にこの手ではツモもかなり嬉しいしね、という間もなく次巡ツモ。勿論即リーを打つ。
3巡後、トップ目白井の手が止まる…、出せー出せー、というのは私の心の声。
そしてプリッと放たれる。そしてめくった裏表示にある。18000点。
約4万点差あった白井との差が一気に縮まり、その後も色々あって1半荘目トップ!
このルールで先勝するとめっちゃくちゃ有利なのは言うまでもなく、2半荘目は馬なりでトップ。
準決勝A卓へ進む。

 

 

そして翌日、またまた晴れ。冬の晴れの日は気持ち良いねえ。
山手線大塚駅という初めて降りる駅で新人王の雌雄を決する戦いが始まるわけです。
2半荘打って、トータルポイント上位2名が決勝へ。
1半荘目、東場でリードされるも、南場の親でトップ目への追っ掛けリーチ待ちで5800点を直撃。そこから小さな連荘でトップに立ち、あとは軽く流して終了。
前日に続き、このルールで先勝するとめちゃくちゃ有利なのは言うまでもなく、2半荘目は無理せず2着で終了。
2半荘目にトップを獲った山田も決勝進出となる。


この辺になるとメンツも引き締まり、かなり打てるなあという印象の人間が増えてきて、特に山田は女性ながらもしっかりした押し引きで打牌も速く驚いた。
準決勝B卓からは19歳(!?)の井上が勝ち上がり、それにジャンプアップで決勝進出を決めていた中原を加えての決勝が決まった。

 

 

約一時間の休憩中、フレシュネスバーガーにてホットドッグとコーヒーを摂取しながら、携帯を忙しく触りまくる私がいた。
ツイッターやフェイスブックで山ほど応援メッセージを頂いており、その返信に追われていたのだ。
生来の目立ちたがり屋な私は、「絶対優勝するしニコ生見てなー!」と返信しまくっていたのだ。プロになったからには、自分の闘牌を見せつけたいもんでしょやはり。
お昼はゆっくり食べられなかったけど、応援のメッセージはめっちゃ嬉しかったのです、ありがとうございます。

 

 

そして決勝。
ニコニコ生放送で全国に流れると聞いていたので、やる気がさらにモリモリッとアップ。
1半荘目東1局、1巡目から井上が仕掛ける。若いのにしっかりしとんなあ、と見てるとそのまま5巡目に1000点の出あがり。
19歳でこんだけ物怖じせずに打てるって凄いなあ、ニュージェネレイションや。
東2局、私はカンの役無しドラ無しを躊躇なくリーチ。そのスピード0.5秒。
「1半荘目のまだ平たいこの場で早いリーチに押し返せる奴はそうそういないっしょ」というまさに舐めたリーチに対して、安全牌を通しながらジワリジワリとやってきたのが北家の中原。テンパイしてを勝負して追っ掛けリーチ。そしてあっさり掴む私のツモは。メンタンピンドラ1という美しい手、そして待ちという大正義リーチに対し、私の邪悪リーチは負けて当然。
そのまま挽回できずにラス。
「4半荘あるしな、まあまだまだいけるやろ!」ってのがこの時の私の心境。

2半荘目、トップ目で迎えたラス前、タンヤオターツが足りてリャンメンチーから仕掛ける。
もう一つチーしての形になった瞬間、下家の親中原がリーチ。
一発で持ってきたをこれまた0.5秒でツモ切ると「ロン!」の声。
優しそうな中原の顔が、この時は鬼に見えた。怖い。が、裏は乗らず3900点。
「カン、一発で掴むかー、むむちょっと苦しい」というのは正直なこの時の心境。顔は平静を保ちつつね。
これで中原が微差でトップ目に立つ。
1半荘目にトップを獲っている中原だけには勝たせたらあかんというのがこの半荘のテーマ、にも関わらず今んとこそうなってしまってる。

ダメだ。絶対に邪魔しよう。


ラス前1本場、南家の井上がリーチ。
親を流すためにも、ラス目の井上が上がる分にはそんなに悪くないな、と思っていたせいか残り少ないツモでツモアガり。リーチツモ…裏3っ!!!
そーかそーかそーきますか、まー俺も昨日裏3の跳満アガってるしね。許します!
これで井上が一気にトップ目に。


親っかぶりした中原を捲って2着になったものの、1半荘目2着の井上がトップを獲ってしまうとこれまたかなり苦しくなる。何としても井上を捲ってトップを獲るか、最悪でも井上のトップは阻止しなあかーん。
が、その祈りも虚しく最悪の結果になってしまう。


局の終盤に井上の放ったを山田がリャンカンの形で鳴いて打、テンパイを取らないと捲られてしまう私には待望のカン!飛びつくようにチーッ!そしてテンパイ!!
したのもつかの間、山田がをツモ。役チャンタの700/1300で2着になるアガり。
これで、井上がトップ。そして私が3着という最悪の並びで2半荘目が終了。
「うわっ、最悪や。これさすがにめちゃくちゃ厳しくなったやん。あんなに大口叩いたのにどーしよ。困ったな。」ってのがこの時の私の心境。正直なところ。

若干の休憩を挟んで3半荘目がスタート。サイコロで出親をGet。
出親大好きなので、ここで猛烈に積んでやるぜ!と取った配牌はいまいち。
テンパイすらもあやしい形のためかなり強引にタンヤオで仕掛けたら、すぐさま南家の中原から入るリーチ。
通ってないけど、まあこれくらい行かないとどーしよーもないしな、と切ったでロン。
2000点の放銃はまあ良いけれど、親番一回無くなったのがすーごい痛い。悲しい。


しょんぼりしながらも開き直って取った東2局の配牌は

 


 

3巡目に通りががりのツモ!当然リーチ!3巡後サクッとツモ!!
ありがとーございます!ドラも一枚持っとります!!跳満でございますっ!!!というのはまたもや心の声。
実際は「3000/6000」とムッツリしながら宣言。勝負中は歯を見せた奴から死んでいくからね。


そしてオーラス。
トップ目で迎えたが、山田は微差。親の井上も楽々圏内という緊迫した状況。
9巡目山田からリーチが入る。それを私も高め三色の待ちで追っ掛ける。
ジリジリ…ジリジリジリ……お互いがツモる度に空気がキーンと張り詰める。
こんな気合の入っためくり合いは、高校時代にド緊張しながらフリー雀荘に行っていた時以来だ。18歳未満は雀荘行ったらアカンよホントは!けどもう時効だから言う!
その時の記憶が走馬灯のように頭をよぎる。よぎる。よぎっているうちに流局。
耐えた!耐えましたー!

親の井上もアドバンテージがある分押し切れず、途中で降り。
オーラスは2人テンパイで流局終了。トップ友添!ありがとう!!


「海路の日和ありやな、やはり、待てば。うむうむ。」というのがこの時の私の心境。
流局後に開けられた山田の手牌はシャンポンの四暗刻だった。あぶねぇっ!!

そして運命の最終戦。
ポイントは

 

井上+39.0

山田+5.0

友添-17.1

中原-29.9

 

上位の二人は勿論のこと、現在ラス目の中原もトップを獲った上で井上をラスにするか大差をつけた3着にすれば優勝の可能性あり。
私の条件は、トップを獲った上で井上をラスか16100点差以上つけた3着にすること。そしてさらに山田と2100点差をつけること。


東1局、出親の中原が先制リーチ。
それに1000点の2副露してゴリゴリ押しまくる私。テンパイ形は、
ここにを持ってきて、リーチのスジのを打つ。出せっ!出すんだ現物のをっ!と心の中の大声を出しつつ、あくまで静かにツモ切りを繰り返す。
なのに、その後さらにを持ってきてをゴリッと打つ。これで目立っちまったよ、もう親と一騎打ちするしかねーよ。
そのままの形で無スジも押しまくり、途中持ってきたもブッタ切る!

から通ってないを親リーに打つ人の気持ちがわかりますか?
そうです、めっちゃ怖かったッス。
とはいえ、短期決戦ではこれくらいの気合いが必要っすね。優勝狙ってるんならハイリスクハイリターン作戦でいかないと。
そんなことを考えているうちに、残りツモ2回のところでを掴む。
…んー、少考。はワンチャンスやけども…。そして頭を落とす。
ここでのポイントは2つ。


1つ目は、他の二人がベタ降りしているにも関わらずワンチャンスってこと。
河に切られている牌ならかなりの確率で二人からもすでに切られているであろうこの場で、まだ一枚だけ見えていないってことが問題。
王牌かリーチ者が持っているケースがかなりある。ワンチャンスやのに、この場合もう実質スリーチャンスくらいや。


2つ目は、がくっつきやすい牌だってこと。
の部分だけでも5種鳴けて、頭も含めれば6種でテンパイ。そしてそのどれもが鳴ける。
上家がオートツモ切りのリーチ者だってことを考えれば、テンパイ復帰できる可能性はかなりある。
ここまでゴリゴリ押してても、残りツモ回数と相談して臨機応変に方針変更できるのが強さやね。
で、最後のツモが!祝テンパイ!!
そして開けられた親のリーチの待ちが。耐えましたー!


この東1局でいけると思ったのです。結果論じゃなく。って言っても結果論みたいに聞こえるから自戦記って難しいね。
何でそう思ったかっていうと、当たり牌のを止めたからでも、最後のツモでテンパイできたからでもなく、決勝の最終戦でもいつも通りの押し引きができていたっつーのが理由っす。
「雀風は?」と聞かれることがたまにあるが、「当たり前のことを当たり前にする」といつも答えている。
常に安定した精神状態で、何回打っても同じ打牌ができるってことを強い人の条件だと私は思っているから。


その後の親番で加点してトップ目に立つも、山田が東3局の親番でタンヤオ三色をダマでツモアガり。しぶといねえ、これで捲くられた。
それでも、カン埋まってテンパイした満貫待ちリーチで、後がない中原のリーチ宣言牌を捕え。
南場の親番で2600オールをツモアガり。優勝条件の並びも出来上がって良いカンジ。


ラス前までにトップ目に立ち、さああと2局。しかしそこで親の山田がダマでを中原からロン。

ドラとのシャボで7700点。
これで約6000点差。もう何が起きてもおかしくないよ、危ないよ、と思いつつ取った配牌はやっぱり5シャンテン。
しかしそこからツモが怒涛。押し寄せる中張牌を手牌に収めまくってまずテンパイ。

 

 

ここでは打でテンパイ外し。

 

解説の新井さんが「今までの友添なら切って曲げてそうなんですけどねえ」と怪訝そうに言っておりました。
そう思うでしょ。でも違うんだこれが。
親ならリーチでOK。しかし、後が無い2着目が親番の時に子でこんな待ちでのリーチはあかーん。
ほとんど降りないシチュエーションの親に対して戦うには待ちが厳しすぎ。
しかも、親の上家だしね。無防備になってツモ切る牌を自由に使われまくるのは避けなければいけないんや!
と偉そうに書いたけれど、多分これはほとんど全員が切るはず。
そして、ここまで愚形リーチを打ちまくってきた私も、このシチュエーションでは役無しテンパイを外すんや。
このバランスが肝。
すぐに持ってきて、そしてさらにでツモアガり。地味だけどきちんとした手順やね。
きちんとした手順はいつも地味なんや。名人に名手無しなんや。2塁ベースよりショート側の鋭いゴロを、楽天藤田は真正面で捕るんや。

オーラスは冒頭の通り、タンヤオのみを親の井上から打ち取り最後の局はアッサリと終了。

想像してたのより10倍くらい嬉しかったのが印象的だった。

「麻雀は過程が全て」
これは9年弱やってきた自分の店で、お客様に、スタッフに、ずーっと言い続けてきた言葉。
遊びなら、偶然出た結果で一喜一憂すれば良い。
でも、少しでも上手くなりたい、真剣に勉強して強くなりたいって人にはこうやって言ってきた。
こんなに思い通りにならない競技だよ、こんなに腕の差が現れづらい競技だよ。
時の運に結果の大部分が左右されてしまうならせめて、100%自分で決めることのできる”過程”には厳しくいたいじゃないかって思うのです。

結果はその時の運だけど、最高の過程を見せ続ける。
これだけは約束できるのが俺やー!繰り返すけど、麻雀に結果は関係ないから!

でも…やっぱり…優勝って嬉しいね。

ありがとうございました!

 文 : 38期新人王 友添 敏之

 

 

 

(文中敬称略)

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