文・沖中祐也
もう四半世紀前の話になる。名古屋で活動する最高位戦のプロは私一人だった。
アマチュアの方がプロの活動を知るのは雑誌のみ。私は私で東京へ往復するだけの日々を送っていた。そう、当時プロとアマとの交流なんて皆無だったのだ。
あれから気の遠くなるような年月が過ぎ、東海にプロアマリーグが誕生した。
6年目を迎える現在、キャンセル待ちが出るくらいには盛況の催しとなっている。
プロとの交流、自分の実力を試す場…参加者によって目的は異なるが、私にとっては普段の麻雀と違う緊張感のある場で、プロや名うてのアマチュアたちと長期で成績を競い合うのが、何より楽しかった。
いい時代になったな…と心から思う。プロアマを含める全参加者の中、この5年間で一番このプロアマリーグに参加しているのは何を隠そう私なのだ。
本日の会場は、老舗のホテルの大広間のような雰囲気を持つ、琥珀さん。
鈴木優最高位の挨拶から始まり、和やかな雰囲気に包まれる。
昨年最高位を獲った鈴木優の魅力は麻雀の実力のみならず、全身をまとう優しいオーラにある。
ファンと交流しているときは相手の言っていることに関心を持ち、マスクをしていてもわかるくらいの笑顔で返答をする。鈴木のファンだというアマチュアは非常に多く、またプロからも慕われている。
東海プロアマリーグがここまで大きくなったのは、間違いなく鈴木優という一枚岩があったからだろう。
鈴木の作った和やかな雰囲気が一転した。
一回戦が始まるやいなや、会場は静寂に包まれ、全員が真剣な表情で手牌と向き合っているのだ。
「ポン」
「チー」
「ツモ1300/2600」
響くのは麻雀の発声と、牌がぶつかりあう音だけ。
大の大人が、日常の中で1つのことにここまで真剣になれることはあるだろうか。
「和やかな交流」と「真剣勝負」…この2つのコントラストが麻雀の持つ大きな魅力といえる。
なお、こういった大会に慣れていなくても構わない。各卓には最高位戦のプロがいて、わからないことは優しく教えてくれるからだ。
4半荘を経て、結果が出た。
(※トータルプラスの方のみ掲載。トータルスコアはこちらから)
こうして1節4半荘を打ち、全8節のトータルポイントで準決勝や決勝進出を争う。
(最低4節の参加が準決勝の条件なので全部参加する必要はない)
なお今年からの試みとして、当日の成績上位2人はゲストとエキシビションマッチが組まれることになっている。
本日、そのエキシビションマッチに進出したのが…
柴山良太選手。彼は牌だけじゃなく、寿司も握れる。
「いらっしゃい!」
錦のど真ん中にある「向月」というお店で大将をやっているのだ。
寿司が美味しいのはもちろんのこと、柴山の軽妙なトークが場を盛り上げてくれるので、私も月に一回のペースで通っている。
もう1人は横大路拓也さん。
私同様、プロアマの常連であり、黙々と真面目に麻雀を打っているのが印象的。
「ダンプカーに引かれないように頑張ります」
ダンプカーとは今回のゲスト山田独歩のことだろう。
焦点の一局
光り輝く一局を紹介しよう。
それは小場で迎えた東2局1本場だった。
まずはゲストの中郡慧樹の手順が衝撃的だ。
南家・中郡は2巡目、次の手牌になった。
東を打つ1手だ。ツモでのメンツ手は逃せない。
しかし中郡はを打った。チートイツでテンパイしたときにすぐリーチにいきやすい牌を残したのだ。それは東であり、
を先に切った
である。
をツモったときだけリャンペーコーに向かうということか。
サウスポー・中郡は麻雀だけでなく、チェスの超強豪プレイヤーでもあり、一つ一つの局面を落ち着いて対処している印象。
さらに中郡はをツモってきた。
場に視線を走らせた中郡は、なんとここからを切った。チートイツの決め打ちである。
たしかにマンズが高く、ピンズが良さそうな場ではある。
とはいえツモの二盃口を見切り、チートイツに照準を定めるのは勇気がいる。
少なくとも私には真似できない。
そして中郡が次にツモってきたのは…
なんとだった。メンツ手を完全に見切らないとたどり着けない、中郡オリジナルのチートイツ。
「リーチ」
中郡は静かにを横に曲げた。
暴走ダンプカーの残した轍
4巡目にリーチが入り、場の緊張感が増す。
受けた山田独歩の手牌がこちら。
自分の手の都合だけで考えるなら、タンピンもしくはチンイツを見て字牌を切り飛ばしたいところだ。
しかし独歩は一発目だけは…と、現物のを切った。
この1手に最高位戦ルールの妙がある。
赤入りの麻雀と比較して、赤のない最高位戦ルールは一発の1ハンが大きくなる。
だから一発だけはなるべく避けたいのだ。
さらに独歩は中郡の捨て牌の→
という部分を見て、チートイツ臭を感じたという。
だから浮いている字牌が通常よりも危険と判断したのだろう。
だから次巡、をツモった独歩は…
ここからを切り飛ばしていく。
さらにをツモってスイッチが入る。打
!
をツモって打
!
一発を避けた後、溢れるくらいやってくるマンズのツモに応じるように真っ直ぐ突き進んでいく。
チートイツと読んだから字牌を切らないのではなく、チートイツと読んだからこそ勝負手をぶつけるのだ。
山田独歩には男のロマンが詰まっている。
ツモってから切るまでの迫力ある動作。
特に、自分の手を信じ躊躇せず危険牌を切り飛ばしていくその姿は、強さを追い求める男のロマンが詰まっている。
「こんなおっさんになりてぇ」
私を含む、世の麻雀打ちは独歩に憧憬の念を抱く。
「ポン」
その独歩は、柴山から打たれたに即座に反応し、次のテンパイを入れた。
ダンプカーが脇目もふらずに一直線。
その後にツモってくる多くの危険牌を、まるで安全牌かのようにツモ切っていく独歩。
柴山選手の後悔
を鳴かせた親の柴山良太は、こんな手牌をしていた。
ここから中郡のリーチの筋を追ってを切ったのだ。
いつもの彼ならドラとはいえ北くらい切り飛ばしているはず。
「そうなんですよね。ここで切る手もあるし、もっと早く切っておくべきでした」
「これだけ多くの人に囲まれて打つ経験があまりなく、どこかよそ行きの麻雀になっていたのかもしれませんね」
苦笑いしながら柴山は語る。
よそ行きの柴山…よそ山だ。
中盤すぎ、横大路もひっそりとテンパイを入れた。
は無筋だったが、構わずに切ってテンパイにとった。
はパラパラと切られてやや薄い。横大路はぶつけていくには見合わないと感じたのだろう。リーチはせずダマテンに構えた。
リーチの現物であり、かわせればOKとの判断。
さらに横大路はツモってくる無筋を切り飛ばしていく。
しかしなかなかは顔を出さない。
そしてツモってきたのがドラの。
これはリーチだけでなくマンズ模様の独歩にも切れない。を切ってイーシャンテンに戻す。
さらにをツモってきた。
は独歩がポンしたばかりで、リーチには通っている牌。
しかし横大路はしっかりオリた。
あ、そうだ!このは独歩のアガリ牌だ!
リーチをかけていたら独歩への放銃になっていたのか。
柴山・横大路が戦場から引き、中郡・独歩の迫力あるめくり合いが続く。
--勝つのはオリジナルチートイツの中郡か
それとも暴走ダンプカー独歩か。
「ツモ」
「20004000」
独歩の静かに手牌を倒した。
その後、柴山はこの鳴かせでいつもの自分を取り戻し、自然に攻めてトップを取った。
横大路はなかなか手が入らず、一度もアガれずラスとなる。
「貴重な体験ができてよかった」
「もう一度挑戦したい」
対局後の2人が嬉しそうに語る。
多くの人に見られ、ゲスト選手2人と戦い、それが観戦記として残るのは一生の思い出になるはずだ。
東海プロアマリーグはあなたの参加を待っている。