コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.38】竹内元太 ~いざ覚醒の時、留まることを知らぬ‘BIG’が似合う男~

(インタビュー・執筆 徳岡明信

 

第25回BIG1カップ決勝 最終戦オーラス

初タイトルを祝うが如く、男の手元にがやって来た。

竹内 元太(たけうち げんた)

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表彰式では、身長192cmのBIGな男が満面の笑みを溢した。プロ入り10年目、やっと掴んだ初タイトルだ。

優勝が決まったときは、嬉しいよりも先に安心しました。終わったらスタジオに後輩達が集まってくれてて、そこで嬉しい感情がバッと湧いてきた感じです。

最高位戦きってのコミュニケーション力の高さも持つ竹内。たくさんの先輩に可愛がられ、たくさんの後輩に慕われている男の魅力を存分に引き出すべく、インタビューを行った。

開口一番のセリフは

徳岡さん、今回は三部作の超大作でいきましょう!

一部作になってしまったことをこの場を借りてお詫びする。

しかしながら、竹内元太の個性と魅力が詰まった記事が完成した。

 

 

‘BIG’マウスを携え麻雀プロの世界へ

長野県長野市出身。幼い頃から竹内は破天荒だった。

テストのときは堂々と席を立ってカンニングを行うような少年でした。

中学、高校は軟式テニスをやっていてインターハイにも出場しました。付属高校だったのでそのまま大学には進学したものの、2年で中退しちゃいましたね。麻雀と出会ったのもそのくらいでした。そのころゲームセンターにあったんですよね、アニメーションのかわいい女の子が一緒に打ってくれるお色気麻雀ゲームが。それにハマっちゃって。毎日よくルールや役もわかってないのにしてましたね。

ゲームセンターのお色気麻雀ゲームが始めたきっかけのプロなど竹内以外に聞いたことがないし、もしそうであっても誰も言わないだろう。さすが竹内。ありのままを教えてくれる。

そっからしばらく静岡で営業の仕事をしていたんですが、その傍らでずっとネット麻雀を打っていました。そのネット麻雀では全国ランキング1位になったこともあって、今の基礎にも繋がってますね。毎回考えるというより、とにかくシステム的に打ってました。リアル麻雀はほとんどしてなかったけど、モンドとかは見てましたよ。でも絶対自分のほうが強いと思ってたんですよ。だから27歳の時にそれを証明したくて上京してプロになりました。

若き日の竹内はすでに‘BIG’の片鱗を携え尖っていた。尖ったナイフをむき出しにしたまま竹内は最高位戦の門を叩くのである。

新人研修後の飲み会で大志さん(坂本大志)や水巻さん(水巻渉)に「Aリーガーの実力がどんなもんか知りたいからセットしましょう」なんて舐めた口きいてましたね。もちろん勝てませんでした。むしろそんな舐めた後輩とよくセットとかしてくれたなと思いますよ。

あとは入会当時は村上さん(村上淳)の牌譜をよく見てました。最初は村上さんの凄さがよく分からなかったんですが、歳を取るごとに村上さんの仕掛けに屈さない進行とかがよく分かるようになってきました。

まぁでもこんな自分でも相手してくれる最高位戦の先輩方は本当いい人達ばっかりで恵まれてます。

この竹内の尖ったナイフを突きつけられた先輩はどんな思いだったのだろうか。

当時の竹内の印象について坂本に話を聞いた。

(画像:坂本が最高位を獲得したときの祝勝会にて坂本と並んで)

入会当時の元太は今と変わらず本当にいい加減な性格だった。だけど大口を叩くだけあって麻雀のセンスは一級品だったから全然嫌われなかったんだろうね。

入会当時から元太1人だけ麻雀の内容の質が違った。何切る問題1つにしても、候補の牌を切ったときに相手からどう見えるかの比較や与える情報量の話など、とてつもないレベルの高い話をしていた。

確かにそのような新人離れした新人には中々お目にかかれない。尖ったナイフは麻雀のセンスで人の心をも屈服させてしまっていた。

 

石橋伸洋との出会い

竹内に最高位戦で誰と一番仲が良いかと質問したところ、真っ先に挙がったのがMリーグU-NEXT Pirates 石橋伸洋の名前である。

入会して一番お世話になってる先輩が石橋さんです。昔はよく石橋さんの家にたむろしては天鳳の牌譜を見ながら勉強したりしてましたね。今も飲みに行ったり、遊びに行ったりと仲良くさせてもらってます。

そんな一番お世話になった石橋にはどんな尖ったナイフを突きつけていたのか。

石橋に話を聞いた。

入会してすぐの元太は根拠の無い自信に満ち溢れていて、僕から見て全く実力が伴ってなかったです。こういった人は固定観念が邪魔して新しい知識をなかなか吸収しにくいと思うのですが、元太は自分に足りないものにすぐ気づいて修正したり、Aリーグに観戦に来ては自分でも読めないような汚い字で一生懸命メモを取っていたりしていましたね。そこは彼の才能だと思います。

あと、当時から元太は積極的にコミュニケーションを取っていろんな人の麻雀観を聞き出していました。それを取捨選択しながら自分の麻雀に取り入れてどんどん強くなっていき、気づいたらA1リーグまで来ていたことが竹内の一番の才能ですよね。

先輩の私との待ち合わせにも平気で遅刻してくる常習犯でも何故か憎めない、それも元太の才能の1つなんですよねきっと。

とにかく竹内元太は才能の塊です。

石橋から何度も出てきた‘才能’という言葉。竹内が本来持っているポテンシャルを最大限に引き出す性格や立ち振る舞いが、この‘才能’の輝きを増していると見える。

そんな感動的な話を石橋から聞いているともつゆ知らず、竹内はいつも通り呑気にハイボールでも飲んでいるのだろう。

 

その後、徐々に最高位戦に溶け込んでいった竹内は、後輩の育成にも力を入れるようになる。その点について、竹内をよく知る後輩にも話を聞いた。筆者と同じ最高位戦の九州本部に所属し、第5期新輝戦ベスト16の山本惣一朗である。竹内の主催している天鳳での勉強会で山本と筆者は麻雀を教えてもらっている。

元太さんが去年九州プロアマでゲストに来られてた際に初めてお会いして、そこからお世話になってます。第一印象はとにかくデカい人だなと思いました。でもデカいのは身長だけではなくてコミュ力の高さと心の優しさもでしたね。僕が新輝戦の本選で東京に行く際も前日にセットに誘ってくれたりご飯に連れて行ってくれたりと、九州の若手プロにも優しくて気遣いしてくれる元太さんには本当に感謝してます。

元太さんの魅力は、普段はニコニコして優しい方なのに、卓に着くと人が変わったように真剣な顔になり、オーラを放つギャップですね。勉強会でも手牌読みはもちろん、2~3巡で相手の進行速度ややる気を読み取る思考力、には本当にビックリします。そういったところを丁寧に教えていただいてるのでありがたいです。

人柄も麻雀もイケメンでずっと慕っていきたい先輩です。

インタビュー中に目を輝かせて嬉しそうに竹内のことを話す山本が印象的だった。竹内の後輩への面倒見の良さが十分に伝わったのではないだろうか。

 

リーグ戦は人生そのもの

竹内と言えば、言わずと知れた最高位戦A1リーグに所属し、数多くの強豪と鎬を削っている。リーグ戦は自分の人生そのものだと言い切る竹内のA1リーグまでの道のりは決して平坦なものではなかったと語る。

入会して3期ぐらいは残留続きで、何で勝てないんだとずっとキレてましたね。麻雀はなんて理不尽なんだと思ってました。

そんなキレ散らかしてた時期に出た特昇リーグで優勝できて一気にB2リーグまで上がれたのは本当に大きかったですね。僕の本来戦う場所にようやく来たなと思いました。

上位リーガーとしての今の竹内しか知らない者からすると、デビューから3期も足踏みしていたことは意外に感じる方も少なくはないのではないか。

その後、特昇リーグでB2リーグへとジャンプアップした竹内。ところが、この舞台でも竹内の言うところの理不尽が起きる。

初のB2リーグは途中まで首位だったんですよ。

でも最終戦のオーラストップ目から九蓮宝燈に放銃して2着順落ちしたあげくに昇級逃しちゃいました。こんなことあんの?って唖然としてしばらく卓から動けなかったです。

麻雀とは本当に何があるかわからないものだ。劇的な昇級逃しを経験するも、翌年にはすぐにB1リーグ(現A2リーグ)に昇級した竹内。第44期(2019年)には初のAリーグへの昇級も果たした。

Aリーグ昇級を決めたときはついにここまで来れたかという達成感が凄かったです。同時に最高位戦で1番強い人達と戦えるんだというワクワク感も強くて。当時は最高位を獲りたいっていうこだわりは全然なくて、ただ強い人と打ち続けたいという気持ちだけでした。

しかし喜びもつかの間、竹内はAリーグを1年で降級してしまう。

初のAリーグは自分の麻雀ではなかったですね。他人の良い所を真似することだけに意識がいってブレブレでした。そりゃ降級するよねとも思いますし、途中からAリーグの中での自分の実力不足を日に日に感じてきてました。だから降級してショックってことはなかったですね。この実力じゃ降級して当たり前だと思いました。

入会当時の尖った竹内とはまるで別人だ。己の弱さを受け入れることを知った竹内は、翌年のA2リーグが麻雀人生の分岐点だったと語る。

降級した翌年のA2リーグで内容も結果も悪かったらこの先Aリーガーの人達に自分の麻雀なんて通用するはずもないから、麻雀プロを辞めようと思ってました。

この年は前年の反省を活かして、自分のできることだけ淡々とやっていこうと心に決めて打っていました。その結果昇級もできてホッとしました。まだ麻雀プロできるんだって。

この年はいっしー(石田時敬)と優君(鈴木優)と一緒にA1リーグに昇級できたことがとにかく嬉しかったです。この2人は僕がB2リーグからB1リーグに昇級したときも一緒に上がってきた2人だったので。そういうこともあり、2人へのライバル意識は大きいですね。

でも優君が最高位獲ったときはめちゃくちゃ嬉しかったです。決まった瞬間すぐに放送スタジオまで駆けつけちゃいました。負けたくないライバル意識よりもお互いに切磋琢磨して称え合いたい、そんな意味でのライバル意識です。

(画像:石田、鈴木とA1リーグ昇級時に。無造作にシャツが出ているのがなんとも竹内らしい)

 

多くの勉強会にも参加し、後輩への麻雀指導も積極的に行う竹内にも麻雀プロを辞める選択を迫られていたことに驚いた。しかしながら、竹内自身が己の麻雀を分析し、当時の実力を受け入れることができたからこそ、今の活躍があるのだろう。

去年のA1リーグは2期目で慣れたのもあって自分らしく打てたかなと思います。その中で感じたのは自分がまだ一番伸びしろがあるなってことでした。なのでもっと麻雀の勉強を積み重ねていけば最高位も夢じゃないですね。

子供のようなキラキラした瞳で話す竹内の新たなハングリー精神に心躍った。

 

BIG’1カップを振り返って

冒頭に触れた竹内の初タイトルBIG1カップを振り返ってもらった。

予選から安定した成績で危なげなく突破して、気づいたら決勝まできてました。

決勝では1回戦で9万点の大トップを獲って大きくリードしたんですが、最後まで安心はできなかったですね。最終戦オーラスで剛さん(小林剛・麻将連合)の親が落ちるまではいつリーチが飛んでくるのか、いやヤミテンで構えているのかと毎巡ヒヤヒヤしてました。自らアガってこの苦しみからようやく解放されたときはドッと体の力が抜けましたね。

1番良かった局は2回戦目の南2局その3でトータル2着目の三原さん(三原孝博・麻将連合)の役牌2つ鳴いたマンズのホンイツに押し切って18,000をアガった局ですね。昔の自分なら役牌2つ鳴かれた所で2着目への直撃は嫌だからマンズは押せなかったと思います。この辺りの自分で押し切らないと勝てないという思考は成長した部分ですね。

(画像:竹内が最も印象に残った一局。実質このアガリが決定打になった)

まさか自分が人生でタイトル獲れるなんて思ってもなかったです。でも今回BIG1を優勝してから、最高位に限らずいろんなタイトルを獲りたいと思うようになりました。応援してくれる方も増えましたしね。そういった方々の声に応えるためにも、という気持ちが芽生えてきました。

竹内の麻雀人生で一番の思い出になったであろう、自らもぎ取った初優勝。そしてこれが竹内の常勝ロードの始発点になっていくのだろう。

  

いざ覚醒の時

2022年、第47期A1リーグも開幕し、好スタートを切った竹内。意気込みと今後の展望を語ってもらった。

BIG1を獲って、応援してくれる人が見てくれていると思うとミスが減りました。それもあって今期はとてもいい感じに麻雀が打てているので、この調子で初の決定戦に残りたいですね。今期は入会当時から仲の良い浅井くん(浅井裕介)やアサピン(朝倉康心)もいるのでワクワクしてます。

あとは4月10日に新しくオープンする『まぁじゃん あるかな』の店長をさせてもらうことになったので、そっちも頑張りたいですね。ここでも多くの先輩や後輩に手伝ってもらったり、オープンしたら遊びに行くと声をかけてもらっているので本当ありがたいです。人と人との繋がりは一番大事にしていることなので、この先も先輩、後輩と楽しく頑張りたいです。

 

今年は覚醒します。

 

あ、あと最後に、天鳳での勉強会に参加したい人募集してますのでTwitterのDMからでも僕に連絡ください。って記事に書いといてください。

後輩思いの竹内らしい要望である。現役A1リーガーに麻雀を教えてもらえるチャンス。これを読んだ若手選手はぜひ竹内に連絡してみてはいかがだろうか。

プロ歴10年目、選手として脂が乗り切っている竹内。応援してくれる人達の言葉と自信を引っ提げ戦う竹内の姿は、まるで青春ドラマの主人公を見ているようだ。若き日の尖った部分は良い意味で丸くなり、麻雀を教えてくれた先輩達を倒すことで恩返しをしようと企む竹内の顔は凛々しさで満ち溢れている。

覚醒した竹内が最高位の座から皆を見下ろす日は近いのかもしれない。

※対局画像提供:㈱スリーアローズコミュニケーションズ

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