コラム・観戦記

【東海プロアマエキシビションマッチ観戦記②】牌を交えた70人の主人公たち~

文・沖中祐也

 

「それでは一回戦始めてください!」

運営の号令と共に、騒がしかった会場が静まり返る。

 

私はこの瞬間がとてつもなく好きだ。

 

--今回の東海プロアマリーグ第2節にも70名近くの参加者が集まった。

70名の参加者がいれば、70の喜怒哀楽があり、70のドラマがある。
貴重な時間割き、1つの着順の上げ下げに真剣に向き合っている、70人の主人公たち。

 

4回戦を終え、エキシビションマッチが始まった。

 

「ロン3900」

東1局、ゲストの田渕百恵選手が手牌を倒す。

 

私は田渕のことを完全に誤解していた。

田渕と言えば「百恵ちゃんのクズコラム」などで、ちゃらんぽ…いや天真爛漫な人生をさらけ出している。なにせツイッターのアイコンがこれ。

 

始まる前のインタビューでもこれと同様の笑顔で

「運量を上げるために、京都のお寺に500円ずつ投げてきました!」

と熱心に語ってくれた。
なるほどなるほど…やっぱりそういう感じの人なのね、と1人納得していたのだ。

 

しかし、対局が始まるやいなや田渕の表情が一変する。
河を見る目は真剣そのもので、ツモって切る動作は淀みなく、どこか気品のようなものすら感じるではないか。
そうだ、田渕はB1リーガーなのだ。

現状の女流の中では太野奈月日向藍子と並んで一番上のリーグに所属している。

 

「負けず嫌い…なんです」

天真爛漫な笑顔の裏で麻雀への努力を惜しみなくつぎ込んでいることが、目線や所作からひしひしと伝わってきた。

 

そんな田渕のアガリで始まったエキシビションマッチは東2局へ。

 

「実は20年前、プロになりたいな…と考えていました」

そう語るのは、親番を迎えた石田敏孝さんである。

もろもろの事情でプロへの道は断念せざるを得ず、20年の時を経て始まったプロアマで競技熱が再燃したという。

 

尊敬する雀士は?と聞くと、ちらっと私の方を見た後に
「もうしわけないんですが、鈴木優さんと園田賢さんです」
と答えた。

なぜか余計な気を遣わせてしまったようだ。

 

そんな石田は

この配牌からを切る。
当たり前の選択に見えるかもしれないが、ホンイツ・チートイツ、そしてドラ引きや5から上の三色を考えると、切る牌はしかない。

 

そして中盤。

順調にソウズが伸び、ここまで育つ。
とはいえ、巡目がもう2段目後半と深くなっている。
即リーチや形式テンパイを考える頃合であり、1枚切れのを切るのかと思われた。

しかし石田は迷う。
相手の河を真剣な表情で見つめている。

 

もしかしたら20年前もこうやって迷っていたのかもしれないな。
諦めきれないプロへの思いと、人生の折り合いと。

 

石田は過去の夢を追うようにを切った。

 

終盤

「ロン、2900」

 

打点こそ安くなってしまったものの、石田のホンイツ2900のアガり。

マスク越しでも、石田の表情が晴れやかになったのがわかった。

 

1本場、ゲストの小宮悠選手の配牌。

 

小宮はここから1mを切った。
ホンイツかトイトイが目指せそうな手で、白を温存しつつ、捨て牌を大人しくする選択。
さほど迷わずに切ったので、打ち慣れていることを感じた。

 

小宮は直前に行われた夕刊フジ杯で優勝。
それだけでなく、第22期女流名人位、第3期Princess of yearなど、多くのタイトルを獲得している実力者である。

 

残した白を重ねた小宮は…

 

どことなく緑一色っぽい雰囲気を漂わせるマンガンテンパイを入れる。
しかし、大人しくしようと心がけた捨て牌は派手になった上、テンパイ打牌がになり、目立ってしまった。

 

3人が受けに回り、この局は流局する。
梅雨のようにジリジリとした、重苦しい展開が続く。

 

東3局

石田の疲労はピークに達していた。
ただでさえ4半荘の死闘を繰り広げたあとに、こんなに多くの人に見守られながら打つ機会なんてそうそうない。

 

「とにかく緊張しました」

後にそう語る石田が悔やんだのがこの配牌。

 

石田はここからを切った。

は筋のを持っているから不要に見えるが、この手牌はまだブロックが足りず、ましてやドラがということもあり貴重な受けだと言える。

 

実際に石田は

 

さえあればというこの形になり、一手遅れてしまった。
その隙に田渕がアガリをかっさらっていったのだ。

 

普段の石田なら白を切っていたのかもしれない。
エキシビションに棲む魔物。
疲れと緊張がピークに達する半荘において、普段どおり打つことは難しい。

しかしこういう大事な場面での経験は必ず後に活きるはずだ。

 

その中でのびのびと打っていたのがさきいかさんである。

 

さきいかはプロアマの常連であり、なんと東海プロアマリーグの2019と2020を連覇している。
特にシードのないプロアマにおいて連覇するのは凄いことで、真の実力者であることの証左でもある。

 

「緊張したけど楽しめました」

そう語るさきいかの手牌がこちら。
みなさんなら何を切るだろうか。

 

、どちらかのトイツを切るのがセオリーだ。

しかしさきいかが切ったのはそのいずれでもなかった。

 

--打

 

瞬間の受け入れは最大で、チートイや三暗刻、そしてその先にある四暗刻までみた選択。
この局は流局してしまったが、柔軟な発想が垣間見られる一局だった。

 

オーラスはアガリに恵まれなかった小宮を除く3人の三つ巴となった。

 

東家 田渕   36400
南家 さきいか 36700
西家 石田   34800

 

時間打ち切りのためこの局が最終局。
3人共ほぼアガリトップだ。

 

「チー」

負けず嫌い・田渕がタンヤオでがむしゃらに仕掛けていく。

 

その中でさきいかの手牌。

 

イーシャンテン。が2枚切れている。

を切ってピンズの伸びを活かしたいところだが、あいにくを切っているのでフリテンのおそれがある。
のトイツ落としでタンヤオに向かうか
をツモ切ってイーシャンテンにこだわるか

 

さきいかはを切った。
フリテンになる可能性とはいえ、ピンズは1~9までの全てのツモで現状よりいい形になる。
イーシャンテンを維持しつつ、好形変化は残す、落ち着いた選択と言える。

 

数巡後だった。

「ロン、8000」

 

さきいかのアガリによってエキシビションマッチは終局。
あのとき、に手をかけていたら捉えられなかった手牌だ。

 

今期もさきいかの爆発を予感させる幕切れ。
第3節は日向藍子・河野直也の両選手を迎えての開催となる。
以降も著名な選手をゲストに迎え、プロアマリーグは続いていく。

 

参加すれば誰でもドラマの主人公。

あなたの挑戦を心からお待ちしております。

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