コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.39】谷崎舞華 ~難病と向き合い最高位戦に復帰した女流AリーガーはBARに立つ~

(インタビュー・執筆:野口みちる

 

麻雀を打ったり飲み物を出したり。どこにでもいる雀荘店員の私の日常。

「いらっしゃいませ〜」、店内にスタッフの元気な声が響く。

そのスタッフの目線の先にいたのは谷崎舞華だった。

彼女は先輩だが年下。私の事は最初から呼び捨てだった。

みちると同卓希望で

ニコニコしながらいつものセリフを言う。面倒くさい先輩だ。

谷崎 舞華(たにざき まいか)

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麻雀プロになりたいわけではなかったギャル雀時代

谷崎と仲良くなったのは、趣味の読書(推理小説)がきっかけだった。

その他にも食べることが大好きというのも共通点。

一方、その他の点では正反対だった。

そんな谷崎の麻雀はといえば、かなりストレート。観ていて清々しいほどに真っ直ぐだ。

感情の起伏を表に出すこともほぼない。

クールで仕事もでき、頼りになる女性だ。

(左:谷崎、右:筆者野口)

谷崎と麻雀の出会いは、父親がテレビゲームで麻雀を打っているのを見ていて面白そうだからやってみた、というありがちなもの。

その後、大学に進学して友人誘われると、卓を囲み本格的に打つようになる。

そこで、どうせなら麻雀を打って時給がもらえる雀荘でバイトをしようと当時大人気だったギャル雀(※店員の多くを女性が占める店は当時そう呼ばれた)でバイトを始める。

にもかかわらず、麻雀プロになりたいわけでも人気女流プロになりたいわけでもなかった。

その当時の谷崎の夢は英語関係の仕事に就くこと。

そのためにアルバイトし、23歳でカナダに留学したこともある。ところが留学先で体調を崩し、3ヶ月ほどで帰国することになった。思い返せば、このときに病の兆候があったのかもしれない。

 

最高位戦入会と難病・多発性硬化症

雀荘での仕事を続けていくうちに着実に強くなっていった谷崎はもっと強い人と打ってみたいと思うようになる。

どんな状況でも上を見て挑戦していく彼女らしい思考だ。

24歳のとき、31期(2006年)に最高位戦に入会する。リーグ戦、大会、ゲストと麻雀プロとしての活動は順調だった。

 

ところが、最高位戦入会から4年が経ったある日、体に異変が起きる。

なんとなく足の感覚がおかしいな…しびれてるのかな…

最初はその程度だった。

しかし、何日経っても違和感は取れない。

近所の内科に行くと、大学病院を紹介された。そこでたくさんの検査をすることになり、病変が見つかった日に即日入院となる。

難病指定されている多発性硬化症という病気だった。

一生治らないと医師に告げられたとき、どれほどのショックと絶望感を谷崎が受けたのかと思うと胸が苦しくなる。

谷崎の場合には脊髄に症状が出た。自分の体を自分で攻撃するようになる感じで、免疫システムの異常をきたすのだという。放っておくと、手足が動かなくなり、目も見えなくなる可能性がある。

そんな失意の谷崎を救ったのもやはり麻雀だった。

入院中にネット麻雀を打ったり、麻雀を観戦することが楽しみで、谷崎の支えとなった。

 

退院後も通院を続けなければならなかったが、徐々に元通りの生活を取り戻していった。

元来働き者でどんなことにも精力的に取り組む性格のため、しばしば無理をして体調を崩すこともあったが、職場のスタッフの理解と協力のもと雀荘の仕事を続けることができた。

ところが、最高位戦8年目のリーグ戦最終節を控えたある日、病状が悪化し入院を余儀なくされる。

この入院を機に、最高位戦を退会した。

 

どうしたら体調が悪くなるかがわかるようになってきた

その後、入退院を繰り返しながらも働くことはやめなかった。

医者には雀荘で働くな、空気が良いところで働けと言われた。そこで、長らく働いた雀荘勤務をやめるという苦渋の決断をする。ところが、企業の事務員をしているときにも通勤電車で倒れた。何をしたらいいのかわからなくなった。

それでも谷崎は前向きに生きた。誰かに頼ったり甘えたり・・・逃げ出したり投げやりになってしまいそうな状況でも冷静に自分と病気との付き合い方を模索する。

すると、次第にどうしたら体調が悪くなるかがわかるようになってきた。

最高位戦にもいつかは復帰したいと考えていた谷崎は、短時間勤務も受け入れてくれた禁煙雀荘『フェアリー』で雀荘勤務に復帰する。

いつか最高位戦に復帰したい。リーグ戦で麻雀を打ちたい。揺るがない意思でその準備をした。

最高位戦に復帰できる。

そう自分自身に許可を出したのは退会から8年の月日が経ったときだった。

44期(2019年)、ついに谷崎は37歳で最高位戦への復帰という悲願を果たした。

 

 

復帰後の女流Aリーグ昇級と麻雀BAR『R』

復帰後、女流Cリーグでトップ昇級した谷崎は、翌年の女流Bリーグ第1節でマイナス180ポイントという大敗を喫する。

圧倒的最下位スタート。

ただ、ここで腐らず諦めないのが谷崎舞華だ。

全8節が終わってみれば、3位で女流Aリーグに昇級を果たす。

復帰からストレートで女流Aリーグに昇級したことになる。

女流Aリーグの今期も2節をプラス46.7で終え、好調なスタートを切っている。

谷崎が配信卓に登場するのは7月7日の第5節。

まっすぐ淡々と打つ谷崎を是非ともご覧いただきたい。

 

最高位戦復帰と同時期に、谷崎は武蔵小山にある禁煙麻雀BAR『R』をオープンしている。

Mリーグや最高位戦Aリーグを観戦しながら、オーナーの谷崎やゲストプロの手料理をつまみに出すアットホームな店だ。

筆者も月一で出勤している。じっくり一人で麻雀観戦するのも良いが、みんなでワイワイと観戦するのも楽しいものである。

お酒を飲みながら、とくれば最高だ。

しかし、元々お酒が強くないうえに病気のこともあり、谷崎は一滴もお酒を飲まない。

BARのオーナーがお酒を飲まないなんて・・・変わったBARである。

BARとしてはもちろんだけど定食屋さんのような気軽な気持ちで飲めない方も寄ってもらえたら嬉しいな。

ご飯とみそ汁がない日はほとんどない。なるほど、納得のコンセプトである。

 

麻雀プロとして最高位戦にも復帰し、病気ともうまく付き合いながらBARの経営。

今までの苦労が実り、ハッピーエンドを迎えたかに思えた。

が、次なる試練が待ち受けていた。ご存じ新型コロナウイルスだ。

BARの経営が波に乗ったところでのコロナ大流行。

飲食店は時短営業と休業を繰り返し、いつ終わるかわからない戦いを強いられている。

コロナともうまく付き合っていかなければならない日々がまだまだ続きそうだ。

 

誰かにとっての希望になれるよう頑張りたい

最後に谷崎舞華の想いを綴って締めくくりたい。

どうにもならなくて何かを諦めないといけない人や、不本意にお休みしないといけない人、困難な状況に陥っている人にとっての希望でありたい。 

治らない病気にかかってやりたいこともできなくなり、たくさんのことを諦めないといけなかった私でも、今またこうして大好きな麻雀をすることができている。 

諦めたたくさんのことも、やめなければならなかったお休みの期間も、今こうして再び麻雀をするために必要なことだったと思いたい。

そして、そんな私を見た人が、自分も頑張れるかもしれない、大事なことのために今は少し休んでいるだけかもしれない、そんな風に前向きに考えるきっかけになりたい。

いつかタイトルを獲って、「この人にできたんだから自分もできるかもしれない」と誰かにとっての希望になれるよう頑張る、というのが今の私の目標です。

谷崎舞華は、今日も前だけ向いてカウンターに立ち、麻雀を観ながらみんなと笑う。

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