コラム・観戦記

最高位戦プロアマリーグ2018決勝観戦記 鈴木聡一郎

『王道vs自己流vs経験値』最高位戦プロアマリーグ2018決勝観戦記 鈴木聡一郎

 

左から大関 忍、篠崎 彰、谷崎 舞華、嵯峨 寛彬。

1回戦:開始2局で主役になった若者

 

みなさんは、読めない漢字があったとき、どうするだろうか。

「嵯峨」・・・

しかし、こんなとき、日本で35年も生きてきたおじさんには、それなりに知恵がついている。

山ヘンを除いた「差」と「我」を読むと大体読み方は合っているものだ。

とすると、「さが」・・・か?

私は、麻雀の記事を書いて10年以上になるが、漢字は苦手である。

そこで、採譜者の後ろからこっそり採譜用紙をカンニングする。

するとそこには「対局者:サガ」の文字。

ま、ま、まあ、知ってたけどね。

そして、私は、その嵯峨寛彬という24歳の若者に、なんと開始2局で魅了されることになる。

 

まずは東1局、西家嵯峨の手牌。

があと1、2枚切れていたり、ピンズの部分がだったりすると打もあるところだが、が4枚見えとあって、ノータイムでをツモ切った。

嵯峨は素直に字牌から打ち出し、まっすぐに手を組んでいくのだが、スピードだけでなく打点バランスもいい。

そして、手詰まりになった大関からを打ち取ってウラ1の8,000。

たったの1局だが、隙がなさそうな打ち手だなと感じるには十分だった。

すると、続く東2局でも字牌から処理してまっすぐに進める。

異変を感じたのは10巡目。2枚切れのを残してを打ち出していったのである。

自分以外全員にスピードがありそうで、実際に全員イーシャンテン。それに対して嵯峨のこの手では流局時テンパイを目指すのが精一杯で、オリが本線だろう。

を残すにしてもトイツ落としでタンピン狙いもあったが、安全度の高いを残すことを重視した。

そして、上家から切られたこのをポンしていく。

嵯峨「あのは鳴いておかないともう間に合わなさそう(=テンパイすらしなさそう)だったんで」

いずれにしてもオリになるのだろうが、少しでも流局時テンパイ率を上げる選択。

結局リーチとドラポンに挟まれてオリを余儀なくされるのだが、「できることはやる」という嵯峨の強さが見て取れた。

この2局で、嵯峨は私の中ですっかり優勝候補となっていた。

 

すると、その嵯峨に南1局で選択が訪れる。

嵯峨はこの手牌からかなり良さそうな受けを嫌うツモ切りとする。

愚形残りの可能性があるリーチのみなら、仕掛けられるタンヤオの方が価値が高いというわけである。から切らないのは、引きのタンヤオイーペーコーを見て。

絶妙な危険牌と打点のバランス感覚だ。

メインはタンヤオ仕掛けだったが、門前でテンパイしたとあらばリーチといく。

そして、篠崎とのめくりあいを制すると、ウラドラがで8,000。

隙がない手順に運まで味方し始めた。

 

さらに圧巻だったのは南3局。

ではなく、を併せていく。ソウズの部分がなんとも重いため、を残して辺りを打ってソウズをほぐしたいところ。嵯峨にしてはなんとも淡白な手順に見える。

でアガリを逃した後、このもツモ切り。を切れば待ちになるのに。

このツモ切りで、ようやく嵯峨の意図を理解した。

嵯峨「谷崎さんはテンパイで、待ちはもうほぼ周りだと思ってたんですよね」

そういうことだ。を押さえたのである。

盤面を見れば、をポンして打とした谷崎が手出し。谷崎はホンイツでもトイトイでもなさそうなのだが、中頃の牌が切られており、かなり速度を感じられる。

その仕掛けに対し、8巡目の時点ですでに、嵯峨は守備をしながらギリギリまで踏み込むことを考えていたのである。

結果、谷崎から篠崎への3,900放銃で終局するのだが、谷崎の手牌は打がテンパイ打牌ののシャンポンだった。もし嵯峨がを打っていれば、トップを逆転されてのオーラスだった。それを逆に、トップ目でオーラスを迎えると、当然のように逃げ切った。

正確な手順、絶妙な我慢。

これは強いぞ。

王道とも言えそうな麻雀で、嵯峨という若者が1戦目を制した。

読み方は「さが」。

名前だけでも覚えて帰ってください。

なお、来年最高位戦を受験予定とのこと。素晴らしい若者が挑戦してくれておじさんはうれしいです!

 

 

 

2回戦:仕掛ける自己流の逆襲

 

前途有望な若者が2回戦も渋くチーして1,000点仕掛け。いや、1,300点仕掛け。

すると、嵯峨が打ち出したドラにポンの声がかかる。

「ん?君、ちょっと待ちたまえ。そのドラはポンさせてもらおう」

篠崎彰46歳、発進。

1回戦でも仕掛けまくっていた篠崎。しかも、どの仕掛けも遠めなのだが、打点は高い。

日本プロ麻雀協会の鈴木たろうを彷彿とさせるような自由な仕掛け屋だ。

「ああ、今度は君か。それもチーさせてもらおう」

企業の重役のような存在感がありつつも、物腰柔らかな篠崎は、典型的な上司にしたい人ランキング上位者という感じ。

しかし、麻雀は無邪気そのもの。どんどん仕掛けて前進する。

聞けば、ここ5年ほどで競技会などに出場し始めた篠崎は、自分の麻雀を「完全に自己流」だと言う。

確かに、最新の戦術にも明るい優等生の嵯峨とは対極にあるような、得体の知れない強さを持っているように見える。

そんな篠崎に興味深い1打が出た。

自分がドラポンとはいえ、2軒リーチなのでオリも十分あるところ。前進するにしても、まっすぐにを打ちそうなところなのだが、篠崎の選択は打

うーん、これは渋い。秘書が入れてくれた玉露ぐらい渋い。

ここまで生牌のは2人に通っていないので打ちにくい。

も谷崎に打ちにくい。

それなら、どうせ3スジ分のは打たないのだから、ここで打として粘ろうというのだ。

は大関の現物で、谷崎に対してもツモ切っているのまたぎ。

この絶妙なバランス感覚が、4枚目のを引き寄せ、アガリ牌のまで捉えた。

オーラスも果敢に3フーロでアガり切って自力決着。

つ、強い。。。幾度となく見てきた、タイトルを獲る人のもぎ取り方だ。

これは、どうやら嵯峨vs篠崎、つまりは「王道vs自己流」という構図になりそうだなと思っていた。

 

 

 

3回戦:篠崎の裏目を谷崎一閃

 

力強くトップを取った篠崎だったが、3回戦で裏目を引く。

確かに、「先制」、「リーチの打点効率が良い手牌」、「極端にアンパイが少ない河でのスジ待ち」と、リーチする材料は揃っているのだが、まっすぐに進めている3者から続々と中頃の牌が出ており、今にも追いつかれそうだ。

リーチする理由と同じように、「トップ目」、「1本場供託1,000点」、「ドラと三色の手替わりアリ」と、リーチしない理由もあった。

難しい選択だが、篠崎はこれまで同様リーチで自ら決めにいく。

しかし、結果は嵯峨・谷崎に追いかけられ、谷崎に5,200放銃。

やはりきたか。

そう思わせたのは谷崎舞華だった。

谷崎は元最高位戦選手。

とにかく元気で明るく、賢い印象。正に最高位戦の元気印といった谷崎が、体調を崩して最高位戦退会を余儀なくされたのは4年前のこと。

https://ameblo.jp/tanizakimaika/entry-11947121682.html

本当に悔しかっただろう。自分の意思に反してリーグ戦を打ちきれないなんて、想像を絶する苦しみだ。

退会後も闘病しながら競技会に参加している谷崎。最高位戦所属当時からそうだが、かなり勉強熱心で、決勝もたくさん見てきた。

そんな谷崎だからこそ、こういう勝負所で2軒リーチにペンチャンで斬り込める。

 

今まで散々見てきた優勝者はここで斬り込んでいた。

 

その経験則が谷崎の武器。鞘から刀を抜くタイミングだけは絶対に間違えない。そして、一度刀を抜けば、当たるまで振る。

谷崎がこのトップで総合首位に立った。

 

 

 

4回戦(最終戦):自己流リーチvs押し時を間違えない女

 

最終戦、谷崎・篠崎はほぼ着順勝負。最終戦の着順が上になった方が優勝だ。

一方の嵯峨は、3回戦のラスが痛すぎた。谷崎をラス、篠崎を3着に沈めたトップが必要という厳しい条件。

接戦で迎えた東3局、谷崎のオヤ番。

南家の篠崎はこのをポンしない。

これまで積極的に鳴いてきた篠崎だが、実は打点が低くなる仕掛けは少なかった。着順勝負相手の谷崎のオヤ番であるため、心理的には鳴いてさばきたくなるところだが、篠崎はここも低打点になる仕掛けをぐっと我慢した。

すると、チャンタのリーチまでたどり着く。しかもは絶好に見え、実際に3枚ヤマ。

これを難なくツモると、ウラ2で3,000・6,000。

谷崎に20,000点弱の差をつけるハネマンツモで谷崎のオヤを落とし、篠崎が有利な立場となる。

 

しかし、すんなりいかないのが決勝最終戦。その後、じりじりと持ち点を減らし、南2局では結局谷崎との接戦に。

そんな息詰まる局面で、ドラまで打って1,000点仕掛けを入れたのは谷崎だった。そして、大関のオヤリーチ、嵯峨のドラポンに突っ込み、1,000点をアガり切る。

本当に勝負所を間違えない。供託も受け取って篠崎をまくる大きなアガリ。

と同時に下位2名のオヤ番を消滅させ、純粋な篠崎との直接対決に持ち込んだ。

オーラス、逆に篠崎に10,000点以上の差をつけた谷崎が、残り3巡というところでテンパイを果たす。

のダマテンかと思いきや、谷崎はリーチを宣言した。

ドラがアンコで、オヤに押し返されたときのリスクが小さく、さらにテンパイしなければならない篠崎がを掴めば必ず切られる。

しかし、結果的に、その後にツモ切ったを篠崎にポンされ、ギリギリでテンパイを組まれてしまった。

谷崎があと1巡で優勝というところまで篠崎を追い込むが、これで振り出しに。

 

すると、その後に篠崎のリーチ攻勢に受け続け、7本場までもつれる。そこへ、またもや篠崎からリーチ。

この窮地で谷崎に入っていたのはタンヤオのリャンシャンテン。絶望的な状況だが、窮地の中でも、谷崎はここを勝負所と設定して光を見た。をチーすると、打。これは、テンパイでドラを打ち出す構えだ。

そして、そのテンパイが谷崎に入った。谷崎、すっとドラを打ち出す。

これは表現上の問題ではなく、本当にすっと打ち出した。

対局後、観戦していた最高位戦代表の新津は言った。

新津「普通に考えれば当然の押し。でも、それがわかってても、あれはなかなか押せないんだよな。それが、谷崎が積み上げてきたもの、ということなんだよな」

供託3,000点と7本場があるため、仮に篠崎がアガってもこの局で決まるだろう。

 

アガった方が優勝。

 

押し時を間違えない谷崎か。

 

自己流の篠崎か。

 

次巡、無スジの中でも比較的通りそうなを掴んだ谷崎がやはりすっとツモ切ると、篠崎の手牌が倒れた。

3,900は7,000。

勝負あり。

見事な、タイミングの妙技を見せてくれた谷崎だったが、最後の最後、谷崎が抜いた刀はあと数センチのところで空を切った。

思い返せば、終始仕掛けて参加局を増やしていた篠崎。

自ら「自己流」と名乗る柔和な篠崎が繰り出すその仕掛けは、どれも独特の雰囲気をまとっており、掴みどころがない。やられた方は、本当に嫌だろうなと感じるものばかりだった。

辛勝のはずだが、終わってみれば圧勝のようにも思える、不思議な感覚だ。

私が惚れ込んだ嵯峨は、終わってみれば4位。

しかし、オーラスにも諦めない手順を見せてくれた。

このリーチでアガリ牌をツモ切り。

実はこのとき、大関からマンガンを直撃すると総合3位に上がることができたのだ。

こういった舞台で優勝の目が消えてからも緊張の糸を切らさずにこの選択ができるのは、並大抵ではない。

それもそのはず。慶應義塾大学麻雀研究会の代表も務めた嵯峨は、2016年にRMUのマーキュリーカップを制している。

http://www.rmu.jp/web/index.php?ref=2016_sprint_01

このときの準優勝は篠崎。奇しくも、今回リベンジを果たされた格好となった。

来年、最高位戦を受験する予定と言った嵯峨、今後の活躍が期待される。

 

一方、前年度の最高位戦プロアマリーグ優勝者で、唯一の最高位戦選手・大関忍はというと、連覇という偉業に期待がかかったが、1~3回戦まで手にならずトータル3位に上がるのが精一杯だった。

It’s not my day.

そう割り切って、次の一歩を踏み出してほしい。

 

現最高位戦選手

元最高位戦選手

最高位戦受験予定者

純粋な競技会参加者

四者四様のアツい思いが乗った打牌を見せてもらい、私はヘトヘトで帰宅した。

 

様々なバックグラウンドを持つ選手がアツく打牌で会話する最高位戦プロアマリーグ、来年度も開催予定です。

みなさんの挑戦をお待ちしております!

 

※敬称略

 

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