コラム・観戦記

第12期飯田正人杯・最高位戦Classic観戦記<決勝1日目>神尾亮

2017年は空前の将棋ブームだった。

史上最年少の14歳2か月でプロ棋士となった藤井聡太四段がデビュー戦から無敗の29連勝。

新たなスターの誕生に日本中が沸き、メディアは毎日のように彼を報じた。

あの羽生二冠も「すごい人があらわれた」と語るほどで、

鋭い攻め、バランスのよい守りを駆使した将棋で勝利を引き寄せ、人気を獲得した。
また、今年将棋界では別の大きなニュースがあった。

加藤一二三九段の引退である。

昭和29年に当時の史上最年少記録である14歳7か月という若さでプロ棋士となり、

62年10か月という長きにわたって将棋界の第一線で活躍し、現役を退いた。

加藤一二三が引退して、藤井聡太が活躍した。

2017年の将棋界は世代交代の年だったと言えるだろう。

 

「世代交代」

世代論については、古くから哲学者達によって語られてきた。

19世紀後半、科学の発展によって近代化が進められると、ヨーロッパの人々が信仰してきた神の存在が疑われ、科学技術が文明の主役となった。

ヴィルヘルム・ディルタイは、人間という存在を理性だけでなく感性から捉える際に、歴史的視点が必要だという考えから「世代」をとらえた。

同じ時代に生まれ、同じ年代で同じような体験をし、同じような感性を持つようになった社会的つながりを世代と言う。

文化が継承されることによって、その文化を知らない若い年齢層に新たな意識をもたらし、世代が形成されていく。

世代交代と言うとややぶっきらぼうな言葉だが、ただ前の世代が退場させられるのではなく、新しい要素が時代の変化によって取り入れられ、文化が革新されていく。
(※参考「「嫌消費」世代の研究」 松田久一著)

「飯田正人杯 最高位戦Classic」

今年で12期をむかえるこのタイトル戦は、旧最高位戦ルールという文化が世代間で継承されながら、戦い方が革新され続けている大会だと言えるだろう。

2017年。

4月5日に始まったClassic1組の予選を皮切りに、1組~5組に分かれ、地方予選もふくめて各組で予選が行われ、7月15日、16日に2日間の本選が行われた。

ベスト16に進んだのは以下の面々。

昨年、第11期Classicの覇者である飯沼雅由はここで敗退。現最高位である近藤誠一、第10期Classicである石井一馬もここで敗退となった。

この中から決勝に進んだのは次の5名である。

伊藤聖一

2015年に最高位戦に新設された最高位戦北海道本部の第1期生。新人王を2年連続で取っている北海道本部であるが、Classic決勝に北海道選手が進んだのは今回が初めて。伊藤は、札幌市内で麻雀教室の講師を15年務め、2015年に「麻雀スクール アエル」を開業。最高位戦に入会して3年。北海道で応援する方々の期待を背に、Classic決勝にやってきた。

嶋村俊幸

最高位戦には第9期入会。昭和26年生まれの66歳。昨年、魔境と言われるB1リーグからAリーグに10年ぶりに昇級。2017年の放送対局では、オーラストップ目でも、伏せずに続行するという熱い麻雀を見せつけている。最高位戦Classicでは、第2期に決勝に進み、タイトル名にもある飯田正人本人と熱戦をくりひろげた。(※第2期の優勝者は飯田正人)そんな最高位戦最年長Aリーガーである嶋村が、Classic決勝の舞台に戻ってきた。


下出和洋

麻将連合所属。嶋村が戦った第2期最高位戦Classicの翌年、第3期最高位戦Classicとして優勝。「クラシックルール研究会」と呼ばれる研究会の主催者であり、全国で最もClassicルールを打っている選手と言えるだろう。Classic決勝にはこれで最多の3回目の出場。Classicと言えば、下出和洋。9年ぶりの栄冠に輝くか。注目である。


和田竜洸

プロ4年目。平成6年生まれの23歳。先に紹介した嶋村とはなんと44歳差。ちなみに和田が生まれた平成6年というと、プレイステーション、セガサターンが発売になった年。これは若い。とはいえ和田は、Classicは毎年ベスト32以上に勝ちあがるという実力派。麻雀界の藤井聡太となれるか、期待が高まる。


堀慎吾

日本プロ麻雀協会所属。自団体だけでなく多くの麻雀関係者が「堀慎吾は本当に強い」「天才 堀慎吾」と称賛するほどの実力の持ち主。B1リーグに所属し、今年は第8節(全10節)終了時点で+321.7の2位という成績を出している。現發王位である松本吉弘選手に続き、Classicも協会に持ち帰ることができるか注目である。

66歳の嶋村、23歳の和田、Mr.Classic下出、初の北海道選手伊藤、天才堀慎吾。

あらゆる世代がぶつかる決勝となった。

●1回戦 起家から下出→堀→和田→嶋村(抜け:伊藤)

<東1局 0本場> ドラ:

親の下出。

良い配牌をもらったMr.Classic下出。
と切り出し、3巡目にはを重ねて次の形となった。

テンパイ連荘のないルール。アガリに自信のある形でないとなかなかリーチは打ちづらい。
を引いてきての役無しカンや、を暗刻にしての役ありカンは、ダマテンに構えるのだろう。すると5巡目、

 ツモ 打リーチ

ズバリを引いてきてテンパイ。迷いなくリーチといく下出。

をツモり、3900オールを決めた。

下出は、1日目の戦い方に関してこう述べている。

予選から準決勝までの作戦と同じ。とにかく生き残る事を優先させる。

東1局でさっそく点棒を手にした下出。この点棒、持ったら離さない。

<東1局 1本場> ドラ:

下出417 堀261 和田261 嶋村261

8巡目。天才堀からリーチが入る。

リーチ、ピンフ、ドラ1である。一時代前であれば、これをダマる選手も多かったのだろう。しかし堀はリーチを選択。しっかりと加点することを考え、当然のようにリーチを打った。

これを受けて同巡の下出、

 ツモ

ドラのを引いてきて、リーチ、タンヤオ、ピンフ、ドラ2のイーシャンテン。
3枚と河にある3枚を見て、まずは勝負。を持ってきて追っかけリーチ、をツモって6000オール。マジョリティはそう想像するだろう。

しかし下出の選択は違う。

現物の切りなのである。

流局の多いClassicルール。せっかく3900オールをアガったのだからわざわざワンチャンスの牌やションパイを勝負する必要はない。「東1局の3900オールを守りきった下出が初戦トップ」で良いのである。これが下出の戦い方。Mr.Classicの経験をもとにした判断と言える。

しかし、ここは堀がをツモ。1300/2600は1400/2700のアガリとなった。
<東2局 0本場> ドラ:

下出390 堀316 和田247 嶋村247

6巡目、嶋村にこの手が入る。

 ツモ

七対子とメンツ手の両天秤の手である。しかもドラドラ。これはミスできない。を切ってイーシャンテン。

 ツモ

次巡の7巡目、1枚切れのを持ってくる。

この南は七対子の待ち牌として非常に良い。アガらなければ意味のないClassicルール。

嶋村はこのを残し、七対子に決めた。実際この南は山に2枚残っており、堀と和田からはノータイムで出うる牌である。

もし自分がこの席に座っていれば何を切っただろうか。

おそらくに手をかけるだろう。

もちろんが待ち牌として優れていることは分かる。分かっちゃいるけど残せない。
引きやが暗刻になるケースが怖いのである。特にを持ってこれでもしたら痛恨である。待ち牌として優れていなくても、自分で持ってくれば最高。そんな淡い期待でフワッとを切ってしまいそうだ。

8巡目。

裏目のツモ。嫌な予感がする。

9巡目。

痛恨の

嶋村らしさの出た判断であったが、結果は悪い方に出てしまった。

<東3局 0本場> ドラ:

下出380 堀296 和田287 嶋村237

3巡目、堀が動き出す。

 ポン

この形からオタ風のをポンして打。ドラのが浮いていてペンチャンも残っている。アガリを目指すというよりも、とりあえず動いて様子を見るという仕掛けであろう。

これに対して嶋村もスピードを合わせる。

 ポン

をポンして打。このにまたもや堀からポンの発声。

 ポン ポン

ここから打でイーシャンテン取らず。何でもいいからアガリを目指そうというわけではない。ドラが重なるかホンイツになるならば前に進むといったところだろう。

7巡目の嶋村。

を引いてテンパイである。を切るかを切るか。

嶋村はを切って、単騎を選択した。

これも意思のある一打である。ツモのアガリなど美しくない。必ず三暗刻にする。東2局、東3局と、嶋村の強い意志を感じられる一打を見ることができた。

しかし、この局も流局。なかなか嶋村の選択が決まらない。

<東4局 1本場> ドラ:

下出380 堀296 和田287 嶋村237

和田はせまく受けない。

6巡目。

 ツモ

は1枚切れ。ピンフに決めて先切りしてもよさそうなところだが、ここはをツモ切り。下出が遅そうであり、堀もマンズのホンイツ気配。役無しテンパイであっても逃さない。そんな和田の意思が感じられる残し方である。

9巡目。

和田、ピンフテンパイ。ドラ引きと三色の手替わりがあるこの手。和田はしっかりとダマテンに構えた。

次巡、ドラと振り替わったところでリーチ。

最後のツモ番でをツモ。嬉しい1300/2600のアガリとなった。

和田、バランスの取れた麻雀を打っている。

<南1局 0本場> ドラ:

下出366 堀282 和田342 嶋村210

 チー

和田、この形からをチー。

 チー ツモ

を暗刻にし、をツモ。積極的な仕掛けから、アガリをモノにした。
<南3局 0本場> ドラ:

下出340 堀269 和田368 嶋村223

10巡目、堀の手牌。

 ツモ

テンパイ。しかしは2枚切れ。南の所在は分からない。
リーチ棒を出すと、嶋村との点差が縮まってしまう。そして南が他家から出てくるとも思えない。
ダマテンか。もはやカンか。
天才堀は、シャンポンでリーチを選択。

次巡、見事にをツモ。

2000/3900をアガり、初戦トップの決め手となった。

嶋村は、嶋村らしい高打点を見据えた選択、下出は初日敗退しないための選択、いずれも自身の長年のClassic経験を踏まえての打ち方だと感じられた。和田、堀は積極的な仕掛けや積極的なリーチを見せた。旧世代と新世代の「らしさ」が光った1回戦と言えるだろう。

堀 +16.8 和田 +6.9 下出 △2.0 嶋村 △21.7

●2回戦 起家から嶋村→下出→伊藤→堀 (抜け:和田)

<東1局 0本場> ドラ:

北家の堀の配牌。

遠くにチャンタか、ホンイツか。安全牌をかかえながら他家の様子を見て、他家にテンパイが入ったあたりで撤退する。だいたいそんな感じの手牌である。

1巡目に上家の伊藤が打

「チー。」

 チー

天才堀はこれをチー。

1回戦目抜け番だった伊藤は、他4名の対局を見ている。しかし伊藤自身の麻雀は、他4名に見られていない。

そこで、堀は伊藤の麻雀を見にきたのだろう。自分の仕掛けに対して、上家の伊藤がどの程度押してどの程度対応するか。

この仕掛けに対して伊藤、

気にせず字牌と萬子を切りとばす。

8巡目。

 ツモ

伊藤、ノータイムで切り。打牌のトーンも強くない。

 チー

堀このに動かない。伊藤はまっすぐ進んでいる。ならばもうこの形では動かない。

チーを囮にして、伊藤のバランスを見た堀だった。
<南1局 0本場> ドラ:

嶋村320 下出350 伊藤274 堀256

 ポン

7巡目、發を仕掛けた嶋村がのテンパイ。

 ツモ

9巡目、嶋村の欲しいが、下出のところに続々といってこの形。打

 ツモ

さらに。下出、暗カン。

 アンカン ツモ

嶺上牌からをツモりテンパイ。を切って単騎。

 アンカン ツモ

15巡目。残りツモはあと1回。

 

にするか、単騎にするか。

下出はここで切り。どちらにも受けないという選択を取った。

これには驚いた。残り1回のツモよりも今確実に打たないことを優先するのだ。
<南3局 0本場> ドラ:

嶋村247 下出411 伊藤359 堀183

南2局1本場に下出が東ドラ3をツモり4000オール。南2局2本場に伊藤がドラ単騎のチートイツを元気にリーチしてツモり3000/6000。高打点が続いてむかえた南3局。

役牌役牌ピンズピンズ。親番の伊藤、すごい配牌をもらった。

怒涛のように仕掛けてテンパイ。白ホンイツのペンのテンパイ。

堀、ドラのを暗刻にしてテンパイ。3-6s待ち。

伊藤と堀のバッチバチが始まった。

親の伊藤、さらにを暗刻にしてホンイツ白中トイトイの18000のテンパイ。高打点にしてリーチの堀に立ち向かう。

伊藤の待ちが替わった同巡、堀が持ってきたのは。このは助かった。

軍配は堀!

リーチドラ3の8000を伊藤から直撃。

攻めるときは真っ直ぐ攻めきる、伊藤の勇ましい麻雀を見ることができた。
オーラス、ラス親の堀がタンヤオピンフツモドラ1の2600オールで2着目に立ち、南1局1本場は伊藤が高めツモで2着浮上のホンイツ手を作るも流局。

伊藤が存在感を見せた半荘だったが結果は3着。嬉しいのは下出。堀がしっかりと2着で連対した。

下出 +20.5 堀 +8.1 伊藤 △8.7 嶋村 △19.9

Total
堀 +24.9 下出 +18.5 和田 +6.9 伊藤 △8.7 嶋村 △41.6

●3回戦 起家から下出→和田→堀→伊藤 (抜け:嶋村)

<東1局 0本場> ドラ:

5巡目。

 ポン

仕掛ける堀。打

伊藤の先制リーチが入る。待ちは

 ポン ポン

仕掛ける堀。打。堀はまだ行く。

 チー ポン ポン

さらに仕掛ける堀。チー。

をぶつけて白単騎。しかしこのは伊藤に放銃。

堀も伊藤同様、攻めるところは真っ直ぐ攻めきる。意思のある放銃である。
<東2局 0本場> ドラ:

 ポン

1巡目。またもや仕掛ける南家の堀。打

何度も何度も仕掛ける堀。この毒はジワジワきいてくる。仕掛けを毎回見せられると、本手の時にブラフと見まちがえ、ブラフのときに本手と見まちがえてくれる可能性がある。

特に、負けられない決勝の舞台。この毒は効果的である。

 チー

6巡目。ドラドラの伊藤がチー。イーシャンテン。

 ポン ポン

ブラフぎみだった堀。索子が伸びてきたことによりさらに発進。伊藤から出たをポン。ドラのを切る。

 ポン チー

そしてこのドラを伊藤がポン。ホンイツドラ3テンパイ。

 ポン ポン

ついに堀、チンイツテンパイ。

 ポン ポン ポン 打

さらにポン。打で高目タンヤオチンイツトイトイの倍満テンパイ。

またしても伊藤と堀がバッチバチ。

今回は伊藤がをツモってホンイツドラ3。嬉しいアガリを決めた。
<東4局 0本場> ドラ:

下出260 和田260 堀254 伊藤426

6巡目。

堀がチャンタでテンパイ。待ち。

9巡目。親の伊藤が高目三色のリーチ。

 チー

すると下家の下出が動く。をチーして現物のカンテンパイ。

しかし、次巡引いてくる。これは切れない。を切って撤退。

するとこのを和田がチー。これはすごい。打

堀がリーチに対してとプッシュ。特にこのは目立つ。

 チー ツモ

和田、を持ってくる。タンヤオ仕掛けをした以上、このは使えない。和田はいったんとする。このあたりが冷静だ。

伊藤と堀の一騎打ち。軍配は・・・

堀が1sをツモ。伊藤の6000オールをつぶして2000/4000をアガりきった。
<南3局 0本場> ドラ:

下出240 和田217 堀344 伊藤399

2巡目、和田。

 ツモ

を切るかを切るかだが、ここは切りを選択。三暗刻のイーシャンテン。

 ツモ

3巡目、ドラがなのでを残した切りも選択肢としてあるが、のタテ引きをねらってはツモ切り。

 ツモ

5巡目、ねらい通りが重なり、を切って四暗刻のイーシャンテン。

 ツモ

7巡目、選択がやってきた。を持ってきたのである。

堀  
伊藤 
下出 
和田 

は1枚切れ。は河には出ていない。

長考の末、切りを選択。

次巡のツモが。手の表情がゾッとしている。これはつらい。

とはいえ、ツモり四暗刻のテンパイ。

このをトップ目の伊藤がすぐにつかみ、放銃。

不運の伊藤。を3枚並べて複雑な気持ちの和田。

そして、この横移動でトップ目に立ち、こっそり嬉しい堀だった。
<南4局 0本場> ドラ:

下出240 和田297 堀344 伊藤319

 ツモ

15巡目。伊藤から高目一気通貫のリーチ。トップを取りにいく。

 ツモ

するとラス目の下出、ドラ単騎のチートイツテンパイ。

をツモればトップ。しかし下出、これもいかない。このオリもすごい。

 ツモ

このリーチを受けて、和田がテンパイ。2着浮上の可能性があるためここはリーチ。

しかし、供託2本残し、流局となった。

四暗刻を逃して悔しい和田。どうもすいませんの堀である。

堀 +16.4 伊藤 +4.9 和田 △5.3 下出 △18.0

Total
堀 +41.3 和田 +1.6 下出 +0.5 伊藤 △3.8 嶋村 △41.6

 

●4回戦 起家から 嶋村→伊藤→和田→堀 (抜け:下出)

<東1局 0本場> ドラ:

 チー

6巡目。隙のない堀、チーして打。カンでテンパイ。

 ポン

7巡目。ここまで2ラスの嶋村。敗退を避けるためにこの親番は続けたい。ポンで打。堀にスピードを合わせる。

 ポン ツモ

しかしイーシャンテンで持ってきた。このが切れずを選択。堀へタンヤオドラ1の2000点放銃。あっさりと親番が流れてしまった。

<東2局 0本場> ドラ:

嶋村280 伊藤300 和田300 伊藤320

 ツモ 打リーチ

6巡目、親の伊藤からリーチ。のシャンポン待ち。ダマテンに構えずにリーチといった。

 ツモ 打

同巡、堀がチートイツドラドラのテンパイ。ここは冷静にダマテンで構える。

 ツモ

7巡目、嶋村ここも引けない。イーシャンテンでをプッシュ。7700点の痛い放銃となった。

状況が状況なゆえ、嶋村はある程度押してくる。伊藤はこれもねらっていたのだろう。
続く東2局1本場も、親の伊藤が、ピンズ1枚も余らずの6巡目テンパイのホンイツを嶋村からロン。

遠くを見つめる嶋村。とても悲しい時間がやってきた。
<東2局 2本場> ドラ:

嶋村123 伊藤457 和田300 伊藤320

 ポン

4巡目、堀がからポン。打。また遠い仕掛けである。

 ツモ

6巡目、和田にすさまじい手が入る。索子のホンイツ切ってダマテン。高目だと跳満である。

 ツモ

同巡、堀が持ってくる。堀にとって当然不要な牌である。しかし、堀ノータイムで切り。

和田の捨て牌は

堀が話すには、「あの瞬間、和田が萬子のホンイツか索子のホンイツか分からなかった。索子のホンイツだとしたら3sは危険なので止めました。」とのこと。

素晴らしい。冷静な堀の対応である。

すぐに和田、8sツモって、3000/6000は3200/6200のアガリを決めた。

<東3局 0本場> ドラ:

嶋村91 伊藤395 和田426 伊藤288

 ポン 打

1巡目、親の和田の第1打に対して堀が元気に遠い仕掛け。暗刻で持っているをポン、打

 チー ポン 打

4巡目、和田から出たをチー。打

一 ツモ 打

9巡目、和田、このが堀に対してもう切れない。切り。すると直後に嶋村から打。堀の仕掛けに対応したことで、和田は鳴けていたはずのが鳴けなくなった。

 チー ポン ツモ

堀、このをとめて打は他家から見たらションパイ。さすがにこれはテンパイに見える。

終盤、嶋村が一か八かの七対子リーチをかけるも実らず。流局。

<東4局 1本場> ドラ:

嶋村81 伊藤395 和田426 伊藤288

 ツモ 打リーチ

7巡目、親の堀がを切ってリーチ。

次巡、リーチピンフツモイーペーコーをツモ。2600は2700オール。

何とここまで堀のリーチ成功率は100%。4回リーチを打って、4回ツモっている。

<東4局 2本場> ドラ:

嶋村54 伊藤368 和田399 伊藤379

 ツモ

3巡目嶋村、高打点を目指して切り。

 チー

7巡目、遠めのマンズ仕掛けで他家の対応を見る和田。打

 チー

8巡目、和田の対子落としの2枚目のを堀がチー。打のみでアガれるテンパイを組む。

 チー チー

同巡、和田チーして打

堀、この和田の仕掛けに対してはプッシュ。

 チー ツモ

このは空切り。を持ってきてスライドさせたように見せ、を少し出やすくする。

 チー

これに対して嶋村がチー。が3枚切れなので、のテンパイに取る選択肢もあるが、嶋村は789の三色に確定させてドラ単騎テンパイ。これも嶋村らしい。

しかし、次巡もってくるのは。嶋村、今日は本当にこういう牌の巡り合わせが多い。

このは止める堀。カンの可能性を見ている。やはり堀、しっかりしている。

<南2局 4本場> ドラ:

嶋村54 伊藤368 和田399 伊藤379

11巡目。

 ツモ

メンホンチートイツのイーシャンテンの嶋村。不要なをツモ切り。

そのにロンの声。非情な發ドラ3。和田が嶋村から8000は9200。

オーラス、トップ目の和田がタンヤオをツモ。堅実にトップを守った。

序盤、伊藤に勢いあったものの、中盤以降からは積極的に仕掛けた和田、堀がワンツーを決めた。嶋村にとっては、ただただつらい半荘となった。

和田 +33.8 堀 +10.6 伊藤 +2.1 嶋村 △46.5

Total
堀 +51.9 和田 +35.4 下出 +0.5 伊藤 △1.7 嶋村 △88.1

●5回戦 起家から 伊藤→嶋村→下出→和田 (抜け:堀)

3ラスの嶋村はトータル△88.1。

伊藤が△1.7で、下出が+0.5なので、嶋村は6万点のトップを取ったうえでどちらかを箱ラスにしなければならない。非常に厳しい状況となった。

<東1局 0本場> ドラ:

 ポン

3巡目、親の伊藤がをポン。

 ツモ

6巡目、下出はホンイツへ。打

 ツモ 打リーチ

同巡、和田が七対子テンパイ。を切り待ちでリーチ。しかしこのは山にはない。

次巡、和田が持ってきたのは。前巡を切っていればのテンパイとなっていた。

伊藤がテンパイ。のシャンポン待ち。生牌のを切る。

索子のホンイツイーシャンテンの下出がこのを掴む。これをツモ切り、12000放銃。


この放銃に対して下出は対局後のインタビューで「我慢が足りなかった」と述べている。

見ている者としては自然な放銃だったが、それでも下出にとっては押しすぎなのである。
<東4局 1本場> ドラ:

伊藤415 嶋村272 下出165 和田338

 ポン

5巡目、親の和田がをポンしてイーシャンテン。

 チー

同巡、嶋村がをチー。

 ポン ポン

さらに和田がをポンしてペンのテンパイ。

 ツモ 打

嶋村の上家である伊藤、一気通貫のイーシャンテンとなり打

この3sを嶋村がチーして、打中。3900のテンパイは取らない。

伊藤は生牌のをつかんで撤退。

嶋村がを引き入れてテンパイ。

和田がシャンポン待ちからの両面待ちに移行。

嶋村、チンイツが成就。嶋村にとってこれが本日初のツモアガリ。2000/4000は2100/4100。

嶋村が意地のチンイツを決めた。

<南2局 1本場> ドラ:

伊藤394 嶋村365 下出144 和田297

最後の親番をむかえた嶋村の配牌。萬子が目立つ配牌である。第1打は

 ポン

するとこのを西家の和田がポン。嶋村最後の親番を流しにいった。

 ポン ツモ

次巡、無情にも和田がカンでテンパイ。

 ツモ

4巡目、親の嶋村、カンのテンパイ。しかしここはを切ってテンパイ取らず。和田に動かれてしまったが、一瞬の安いテンパイも入れない。ここはホンイツへ。

 ツモ

次巡、を引き入れてホンイツイーシャンテン。

8巡目、嶋村ホンイツのテンパイ。萬子1枚も余らせずにテンパイ。ペン待ち。

 ツモ

同巡、ドラドラの下出。メンツ手もトイツ手も見える手牌。しかしここは生牌のをとめて、打。七対子に決めた。

 ツモ

伊藤、嶋村がホンイツ気配ということもあり、萬子待ちが良くないので切り。

しかし、嶋村はすでにテンパイを入れている。がバッターボックスに立った。

 ポン ツモ

に待ち替えしている和田、生牌のを引いてくる。しかし和田は、このをツモ切り。生牌のを止めるドラドラの下出と、生牌のを切る2000点仕掛けの和田。バランスの違いが面白い。

 ツモ

伊藤、を引いてきて567の三色イーシャンテン。打。いよいよが危ない。

 ツモ

嶋村、を持ってきて少考。チンイツの可能性もあるが、ここはツモ切り。ペンで続行。

 ツモ

伊藤、ツモでテンパイ。切りで嶋村への7700点は8000点の放銃となった。
<南2局 2本場> ドラ:

伊藤394 嶋村365 下出144 和田297

何とか親番をつないだ嶋村、標的は下出である。怒涛の連荘をして下出との点差をつめたい。

 ポン

しかし、現実は無情。4巡目に下出がをポン。ペンのテンパイ。

 ポン 打

しかし親の嶋村も追いかける。下出の切ったをポン。打でイーシャンテン。

嶋村、ツモでテンパイ。のみアガれる形である。ここはドラのを切ってテンパイとした。

しかしよくよく見ると、はフリテンである。後々危険となるドラを先に処理し、トイトイのアガリだけを目指すという選択である。

 ポン ツモ

下出、を引いてきて切り。のシャンポン待ちにかえる。

嶋村、ねらい通りのタンヤオトイトイのテンパイ。アガりきれるか。

しかし次巡、下出のアガリ牌であるをつかみ放銃。事実上の敗退が決まった瞬間だった。

嶋村 +24.8 伊藤 +8.1 和田 △5.9 下出 △27.0

Total
堀 +51.9 和田 +29.5 伊藤 +6.4 下出 △26.5 嶋村 △63.3

「無様な負け方をして申し訳ありません」

嶋村は頭を下げた。

言うまでもなく、無様ではない。最後まで嶋村は意志のこもった麻雀を見せてくれた。長年の経験をもとにした嶋村の選択は、視聴者としても見ごたえがあった。
麻雀は、一瞬の選択の連続。まるで人生のようなもの。

その選択に意志があるから面白い。

勝ちにいくための攻め、負けないための守り、打点を目指す手作り、遠くから仕掛ける積極性…

歴史を作る人達には、1つ1つの選択に強い意志がある。

同じ時代を生きる者として、その意志を理解し、意識する。
こうやって新しい世代が形成されていく。

(文:神尾亮

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