コラム・観戦記

採譜者フミさんの『迷宮を歩く』 ⑬

こんなコラムだらだらと続けて(あっ!なんとこれ、ぼくの日常と同じじゃないか!)
読む人いるんだろうか…という思いに捉われてしまうが、その数少ない読者のひとりから妙なクレームが来た。


前回のコラムを読んで、これじゃまるでマージャンのコラムだよ!!だって…。
一応、そのつもりで書いてるんだけどなぁ?


たしかに自分勝手な寄り道、脇道が多かったよね。なにしろ題名からして迷宮だからね。(これ、いいわけ?)というわけで、今回は思いっきり寄り道から!!でもだいじょうぶ。あとでマージャンもでてくるし!

 

 

相変わらず、この暑さにも負けず外へも出ず「小説」ばかりと付き合っている。
今読んでいる作家は保坂和志。近年では、色川武大・田中小実昌以来の嬉しい出会いで、同じところを何回も読み返している。


ついでにひとつ、余計なエピソードを。


今現在、押しも押されもせぬトッププロが若かった頃(前原!君のことだよ!)
在命中の色川氏(阿佐田哲也ね!)を訪ねたおり、「俺の本ばかり読んでいないで他の作家のものを読みなさい。」と言われ「例えば誰でしょうか?」と問うと、すかさず名前を挙げたのが田中小実昌だったと。


自分の体験でもないのに、これはぼくの大切なエピソードのひとつだ。

そうかと思うと、時間つぶしに買った売れている作家の作品には、違う意味で驚かされることに。
「私は、異性としてだけではなく、彼女のすばらしい人間性に惹かれたのであった。」
これ、人間描写なの?こういうことをこう書かないために、人は「小説家」になるんだと思っていたぼくはただ唖然!あとはひたすら、滅多にしない斜め読み。
年をとると新しいものがなかなか受け入れられなくなるのかなぁ…

 

いや!そういう問題じゃないだろう!

そうそう、マージャンね。ネットマージャンて何?っていうようなぼくでも新しい情報は入ってくる。が、なる程と思ってもその情報はなかなか生かしきれない。


例えば、第一打の東切り。たしかに巡目が進むほどトイツになる確率は高まるし、もしトイツであった場合でも配牌時の平均シャンテン数などを考慮して、カタチ上鳴いてこないのでは?
うん。うなずける。しかし最近の赤アリのフリーなどでは、やはり北家では切りたくないなぁ…。

でも、マージャンのコラム!?を引き受けた以上、みんながついていけるようにと小説以外は読まないはずのぼくが、戦術書を手に取ってみた。石橋伸洋プロの「黒いデジタル麻雀」が、それ。


今までも、ほんの少しずつではあるが彼を取り上げてはいたが、今回この本を片手にゆっくり話を聞かせてもらった。

もちろん、Aリーグ入りをしてからすぐ目に止まったが、最初はきちっとした基礎力で平均点以上を積み上げてくるタイプのプロかと。それがいつを境か、石橋のマージャンに変化を感じるようになった。


小説でも基礎的な文章力を磨くうちに、それぞれのスタイルが確立されていくように。
今では(デジタル雀士にはふさわしくない表現だが)彼独特の「味わい」を感じさせる。

彼の採譜をしていて、納得させられた局をいろいろ思い起こしてみると、華麗な手作りで高打点をあげた局などより、例え自分自身があがりきれなくても、自分が望んだ展開へと持ち込もうするような選択をみせてくれた局のほうが印象に残っている。
意志力や剛胆さで制するのではなく対応力を武器にしており、その点が一層ゲーム性を強いものにしている。

「黒いデジタル麻雀」でも牌姿や数式をあげて丁寧に彼の論理を検証してくれるが、「各論」的にはなぜかぼくも同様な点が非常に多い。


これはあくまで考え方についてで、実戦で石橋プロのように成果を出せると言ってるわけじゃないよ!もちろん!
そして「総論」としても、文系理系を超えてひとつの共通項をみつけられたと思う。

ぼくは、大好き小説でも実人生と混同はしない。同様にマージャンをよく出来た「ゲーム」として捉えていて、実人生を賭けたりだぶらせたりは決してない。

 

 

「ゲーム」が終われば、家へ帰り、ご飯を食べ、猫と話し、本を読んで、そして眠る。

 

 

彼、石橋プロも(推測ではあるが)決してマージャンという「ゲーム」に人生を賭けはしないはずだ。(見てみたい気もするが、猫とはお話しないだろうなぁ…)

知的な「ゲーム」だからこそ、事象を丹念に検証して制しきってみようとしているんだろう。

牌譜をひとつ紹介しよう。
36期の最高位を手にした決定戦からのもの。


(第6回戦 東2局 1本場 ドラ 6巡目) 

 ツモ


ここで彼の正解としている打。手牌とだけ向き合おうとすると、なかなか簡単には選べないだろう。
でもその打牌理由は、きちっとした論拠に支えられていて、いかにも石橋らしい。

(詳しくは「黒いデジタル麻雀」 P.217を参照されたい)

 

余談だが、この選択が彼自身のアガリで終結していなければ、より一層説得力があったろうね。と意地悪にふってみたら、最初は彼自身もそう感じてたらしく、結果はカットしてほしかったとのこと。本としての体裁上、やむおえずアガリ形まで載せることに。
妙なところで意見が合うんだね。

さて、Aリーグ第7節。1131とポイントを稼ぎ、好位置に。
3回戦オーラスの劇的な倍満直によるラス脱出や、4回戦オーラス大トップから出来過ぎ?のチャンタ三色ドラ1など取り上げてもみたいが、この日の好調さを支えることになった局としてこれを見てもらおう。

 

チー  ツモ 打

 

流局して形テンの1000点収入と地味な譜だが、場読みと対応で必死の形テン取らずからの形テン取りと、形テン維持。

 

 

これがこの日の成績の原動力になった気がしてならない。

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