第10期 飯田正人杯 最高位戦classic決勝1日目 観戦記
鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
哲人:
識見が高く、真理を悟っている人。また、思想家。哲学者。
鉄人:
鉄のように力や体が強い人。主に、ある分野においてトップクラスの実力を持った人。
「哲人vs鉄人」
戦前予想をするのであれば、当然そういうことになる。
哲人:鈴木たろう(日本プロ麻雀協会)
「ゼウスの選択」というキャッチフレーズもすっかり板についた。
意外性ある打牌と勝負強さに、ゼウスというキャッチフレーズが相まって、しばしば神のように扱われることがあるが、それは全くの誤解である。
近代麻雀で連載中のコラムでも哲人として登場するたろうの正体は、自分が論理的に正しいと考える思想を普及したい、ただの負けず嫌いである。
そんな哲人たろうにかかれば、戦前のコメントもこうなる。
「みなさんの価値観をぶっ壊してやろうかなと思っています」
壊せるものなら壊してみろ。
哲人鈴木たろう、本日の布教活動開始。
鉄人:多井隆晴(RMU)
「最速最強」、RMUの総監督にして絶対的エース。
読みの深さと引き出しの多さは麻雀界随一と言われている。
スリアロチャンネルの「麻雀の鉄人」でも、鉄人の1人として活躍する。
とにかく麻雀の王道を行きたい多井のコメントは当然こうなる。
「鈴木たろうが卓の中にいるだけでイライラするんですよ」
よくぞ言ってくれた。
鉄人多井隆晴、本日の哲人狩り開始。
この2人を相手にしてなお、石井一馬(最高位戦日本プロ麻雀協会)はいつも通り飄々と言ってのけた。
「どんなに強くても、麻雀では1ターンに2回攻撃とか使えないですからね。ただ殴るだけです」
さすが。
この若人が、哲人と鉄人に割って入る最右翼ということになるだろう。
▼▼▼1回戦▼▼▼
起家から高倉、石井、多井、石﨑 (抜け番:たろう)
【繊細ゆえに手も足も出ない鉄人】
東1局ドラ
たろう不在の半荘であるため、注目は鉄人多井に集まるが、最初に目を引いたのは意外にも高倉武士(最高位戦日本プロ麻雀協会)だった。
高倉は、5巡目に下記の手牌になる。
高倉は2枚切れを見て、ここからを先切り。
何でも即リーチにいく構えである。
8巡目に上家が切ったには目もくれず、ヤマに手を伸ばすとを引いてリーチ。
次巡ツモの3900オールで先制する。
ツモ
聞きなれない3900オールという単語がいきなり飛び出したので、ここで最高位戦クラシックのルールを説確認しておこう。
・一発裏ドラ、カンドラなし
・連荘はオヤのアガリのみ
・ノーテン罰符なし(=流局時に手牌の公開義務がない)
・順位点は12000、4000
・子方の7700、オヤの11600が切り上げマンガンにならない
・リーチ後のアンカンができない
・食い替えができる
高倉のアガリは正に上記5つ目の「30符で切り上げマンガンにならない」ケースであり、3900オールとなる。
なお、決勝戦は2日間で行われ、1日目(5回戦)終了時に下位1名が敗退となる。
東1局1本場ドラ
高倉417 石井261 多井261 石﨑261
続いて手が入ったのが石﨑光雄(最高位戦日本プロ麻雀協会)。
9巡目テンパイを果たす。
これをセオリー通りヤミテンに構える。
ノーテン罰符のないクラシックルールでは、リーチして流局すると純粋に供託した1000点分の失点となる。また、アガリでしか加点できないため、アガリそのものの価値が大きく、ヤミテンの回数がぐっと増える。
守備に重きを置く石﨑のスタイルからすれば、なおさらヤミテンである。
すると、同巡に石井がテンパイ。
こちらは、切りで2枚切れのカンリーチ。
近年、クラシックルールのセオリーも変化しつつある。
石井のように序盤から積極的にリーチをかけるのが、現在の主流になっているように見える。
石井の現物にがあり、石﨑もヤミテンで何牌か押したが、脇から出ないのを確認すると、13巡目にツモ切りリーチを敢行する。
残り枚数的にはあまり差がなかったが、ここを制したのは石井。
最終手番で力強くを引いて1300・2600は1400・2700。トップ目の高倉を追走する。
ツモ
東4局ドラ
石﨑231 高倉374 石井359 多井236
石井がひとアガリでトップというところまでこぎつけると、4巡目に下記からをチー。
が直前に1枚切れていることもあり(切れていなくても)、この手牌ではチートイツに向かう選手が多いのではないかと思うが、石井はためらいなく仕掛ける。
すると、多井がすぐに打とし、石井があっという間にイーシャンテンとなり、8巡目にはもチーしてテンパイまで持ってくる。
チー ポン チー
しかし、ここは終盤に追いついた石崎が石井から冷静にヤミテンでを打ち取り、2900。
ロン
石井の攻撃を食い止める。
南1局2本場ドラ
高倉374 石井330 多井236 石﨑260
前局の失点もなんのその。5巡目に石井がリーチ。
あっさりをツモって1300・2600は1500・2800で石井がついにトップ目に立った。
南3局1本場ドラ
多井221 石﨑245 高倉346 石井388
これまで他家の動きに対して敏感に反応し、丁寧に危険牌の先切りからオリという選択を繰り返していた多井だが、気づけばラス前でラス目。
ここはアガリがほしいところだが、配牌がこれではまっすぐに門前でというわけにはいかない。
多井はここから、2巡目に切られたをポンしていく。
この形から鳴いてしまうとアガリまでは難しいかもしれないが、他家のアガリ率を低下させ、相対的に自分のアガリ率を上げるという作戦に出る。
どうしてもアガリがほしいこの局面では、自分の純粋なアガリ率を下げるのは微妙だが、この手牌ではやむを得ないところ。
しかし、多井の思惑とは逆に、石﨑が早くもイーシャンテンになっており、字牌を押してくる。
ここからを押し、9巡目テンパイでを押す。
次巡に絶好の引いてリーチ。
このとき、多井はこう。
ポン ポン
すでに石﨑に対して受け気味にドラを抱えている。
実は石﨑の打牌に合わせて切った東がすぐにかぶっており、まっすぐに進めていればホンイツのイーシャンテンまで来ていた格好。
石﨑のリーチが入った後ではなど切れるはずもなく、繊細なバランスが裏目に出てしまった形である。
そして数巡後には安牌が切れる。
ポン ポン ツモ
多井自身でポンしているのスジならリーチしてくる形になりにくいという理由で打。
石﨑に1300放銃となった。
多井としては1300で済んだ良い結果だが、石﨑としては1300にされてしまったという感触の悪さが残る。
南4局ドラ
石﨑261 高倉346 石井388 多井205
石井が軽快にポン、ツモでテンパイ。
ポン
これに対して再逆転を狙う高倉。
がポンされているにもかかわらず打とし、ツモで高目三色のヤミテンを入れる。
ここで三面張を崩して高打点を狙っていき、テンパイまでこぎつける。
1回戦全体を通しても、高倉は非常に打てている印象を受けた。
ここは石井がをツモって1000・2000とするのだが、高倉の次戦以降にも期待が膨らむ。
哲人不在の半荘を制したのは石井。
コメント通り、殴り続けて鉄人に反撃の隙を与えなかった。
1回戦終了時
石井+24.8
高倉+7.6
たろう±0
石﨑△9.9
多井△22.5
▼▼▼2回戦▼▼▼
起家から、たろう、高倉、石﨑、石井 (抜け番:多井)
【押し返される哲人】
抜け番多井の代わりに卓につく哲人鈴木たろう。
鉄人多井は何もできずにラスを引いたが、こちらはどうか。
東1局ドラ
この半荘も高倉が先手を取る。
ツモ
3巡目にこの形になると、2つの三色に対応できるように打。
盤石のイーシャンテンに構える。
これに待ったをかけたのは石井。
ポン
6巡目にをポンして上記イーシャンテンにすると、すぐにを引いてテンパイ一番乗りを果たす。
そこに高倉が8巡目リーチ。
残り枚数は、高倉8枚vs石井2枚。
枚数的には高倉有利だったが、高倉がを掴んで石井に3900。
ポン ロン
高倉はイマイチ流れに乗れない。
逆に石井は、引き続きアガリの巡り会わせに恵まれているようである。
東2局ドラ
高倉251 石﨑300 石井349 たろう300
石﨑の手牌進行が面白い。
中盤に差し掛かり、ここから打のテンパイ外しとする。
すると、次巡に高倉がドラのをツモ切り。
石﨑はこれを見て猶予がないと考え、同巡に引き戻したで、今度は単騎のテンパイに取る。
ロン
これが高倉のテンパイ打牌を捕える形となり、1600。
絶妙なバランスで石﨑が高倉の攻撃を回避する。
東3局ドラ
石﨑316 石井349 たろう300 高倉235
ついに哲人が動く。
2、3巡目にトイツ落としした4巡目、まずはあいさつ代わりとばかりに、をでチーして打。
他家がアガリ抽選に入りにくいように打牌を制限する、たろうらしい選択だ。
しかし、このメンツ、たろうの思い通りにはさせてくれない。
まずは、石井がたろうのに食いついてホンイツへ。
ポン
たろうの仕掛けと似たけん制効果もあるが、どちらかというと、自身が少しでもアガリ抽選に入りやすくする意味合いが強い選択である。
この後、もチーして打。
チー ポン
そして11巡目、高目7700のアガリ抽選が受けられる形まで持っていってしまう。
チー ポン
この辺りのアガリへの嗅覚はすさまじいものがある。
これに対し、13巡目に石崎もテンパイ。
ここからドラ切りでいったんはヤミテンに構えるが、次巡にを引くと、と振り替えてリーチ。
このリーチを受けては石井もギブアップとなり、オリに回る。
石井からアガリ抽選権をはく奪し、強引に自分の抽選権に変えてしまう選択だ。
三者が三様の選択を見せてくれたが、結果は流局。
たろうとしては、自分の仕掛けに2人からも自由に押し返され、少し不満といったところか。
南1局2本場供託1000点ドラ
たろう300 高倉235 石﨑306 石井349
またたろうが仕掛ける。
2巡目にここからポン。
ホンイツ本線なのだが、さきほどの仕掛けとは異なり、どちらかというと自分がアガリ抽選に入りやすい選択である。
ポンからであるため、ドラ頼みになっている可能性は比較的低いが、ドラを固めていないとわかっていても嫌な仕掛けだ。
ポン ツモ
5巡目にを引くと、打。
低打点の仕掛けを好まないたろうらしくない選択だが、供託と2本場があるためアガリ率の勝る1500の目を残したということだろう。
結果、たろうにが3枚かぶり、もアンコになった直後、高倉が打でリーチ。
この、たろうがホンイツに向かっていれば
ポン
で7700を捕えられていた牌。
7700のアガリが、逆にマンガンのオヤかぶりとなってしまった。
ツモ
なにやら、たろうらしくない打牌が気になる。
高倉は、この2200・4200でトップ目に立った。
南3局2本場ドラ
石﨑316 石井327 たろう226 高倉331
ロン
高倉がヤミテンの2000は2600できっちり石﨑の連荘を止める。
これで石井は3着まで落ちてしまうのだが、ここからが殴る続けると言った石井のターンだった。
南4局ドラ
石井301 たろう226 高倉357 石﨑316
まずはをポンして500オールで2着目に上がる。
ポン ツモ
南4局1本場ドラ
石井316 たろう221 高倉352 石﨑311
続く1本場でも上記から7巡目にをチーすると、11巡目にはこんなアガリに仕上げてしまう。
チー ロン
石﨑から5800は6100でトップまで
石井の2連勝が決まった。
2回戦成績
石井 +19.7
高倉 +9.2
石﨑 △9.0
たろう△19.9
2回戦終了時トータル
石井 +44.5
高倉 +16.8
石﨑 △18.9
たろう△19.9
多井 △22.5
▼▼▼3回戦▼▼▼
起家から石﨑、高倉、たろう、多井 (抜け番:石井)
【背水の、鉄人vs哲人】
1半荘ずつ打ってラスを引いた鉄人多井と哲人たろうが、初めて同卓する。
東2局1本場ドラ
たろうが9巡目にチー打でテンパイを組む。
チー
が薄く、逆にがヤマに3枚残っている。
形だけではなかなか反応できるではない。
徐々に哲人の攻撃が鋭さを増しているように見えた。
これを追ったのが高倉。
終盤にポンして苦し紛れのテンパイを入れる。
ポン
たろう・高倉2人の勝負かと思われたが、意外な形で決着。
ドラトイツでチートイツのイーシャンテンだった多井からがツモ切られ、高倉がまさかの2900は3200を得る。
ツモ
前巡に下家のたろうが切ったにポンがかからず、高倉は自身でを切っているため、あるとすればほぼの片アガリしかない。
当たる可能性はさほど高そうには見えないが、それでも15巡目という巡目と、チートイツの3種が全て生牌で所在がわかりにくいことを加味すれば、いささか押しすぎな感は否めない。
少し前がかりすぎではないかと感じた。
東2局2本場ドラ
高倉332 たろう300 多井268 石﨑300
多井がを抑え込んでいれば存在しなかったかもしれない高倉の連荘。
ここで事件が起こる。
8巡目にしてオヤの高倉が国士イーシャンテン。
しかも、ヤオチュウ牌なら何を引いてもテンパイである。
こうなると、国士成就が頭をよぎる。
同巡のたろう。
ツモ
目一杯なら打だが、イッツーを見据えて打とする。
この打点を追ったたろうらしい選択が運命をわけた。
13巡目にを引いて高倉が待ちの国士テンパイ。
そんなことなど知る由もないたろうが、同巡にリーチ。
宣言牌はであり、あのときではなくを選んでいたら、48000の放銃であった。
しかし、オヤ国士の危機はまだ続く。
同巡の石﨑。
ポン ツモ
たろうの河にはがあるが、まずはを併せ打って凌ぐ。
当然、高倉の国士が本物であることなど知る由もない。
ここで高倉が安全牌をツモ切ると、高確率で次巡に石﨑がを打つことになる。
注目の高倉のツモは、。
たろうはマンズをしか切っていないため、これはド無スジ。
このが高倉からノータイムで切られる。
これで石﨑が助かった。
現物となったを抜き、無事に流局。
リーチをかけたたろうもほっと一息つく。
東3局3本場供託1000点ドラ
たろう290 多井268 石﨑300 高倉332
多井が3巡目に下記から1枚目のをポン。
打牌は。
チャンタ・ドラ受けを残しつつ、本線をホンイツに置く、非常にバランスの良い仕掛けだ。
直後、石﨑がドラを手出しして緊張が走る。
さらに同巡、テンパイ一番乗りは高倉。
多井も7巡目にテンパイ。
ポン ポン
これに対して、9巡目、たろうがオヤリーチでぶつけた。
こうなっては、高倉はオリ。
石﨑もオリていく。
そして、鉄人と哲人の「カンチャン引くまでツモ切りしまShow!」が開幕。
たろう、無スジのを叩く!
多井、無スジのを叩く!
多井、さらにドラの!その後もいく!
しかし、結果は流局。
両名とも、なかなかアガリに結び付かない。
東4局4本場供託1000点ドラ
多井268 石﨑300 高倉332 たろう280
たろう、高倉が供託狙いで軽く仕掛ける。
それに対して多井がダブ東アンコのイーシャンテン。
ここから打とし、ツモで13巡目にヤミテン。
これを察知したかのように、高倉、たろうがオリていく。
それを見た多井がドラをツモ切って勝負にいき、最終手番でを手繰り寄せた。
ツモ
多井の初アガリは、大きな大きな2600オールは3000オール。
これで一躍トップ目に踊り出た。
南1局ドラ
石﨑270 高倉327 たろう225 多井378
例によってたろうがをポンして仕掛け始める。
ソウズのホンイツ本線で、トイトイやチャンタもあり得るといった捨て牌。
オタ風のもポンして2フーロ。
いくら色んな仕掛けがあるたろうといえど、安全牌候補のをポンしてまでの2フーロであれば、アガリに来ている可能性がかなり高いだろう。
ここに、2着目の高倉がトップを見据えたリーチ。
高倉がツモ切ったを鳴いて、ついに3フーロとしたたろう。
さすがに本物のテンパイである。
ここに高倉がで飛び込み、8000。
ポン ポン ポン ロン
たろうも初アガリを決め、あっという間に鉄人・哲人のワンツー状態となる。
南4局1本場ドラ
石﨑253 高倉220 たろう296 多井431
多井が1300オールで加点し、迎えたオーラス1本場。
多井がイーシャンテンから3巡目にドラのを放すと、あろうことか北家のたろうがポン。
そして、たろうが8巡目にテンパイ。
ポン
ドラを切った多井も三色のイーシャンテンまでこぎつける。
両者1歩も退かない構え。
多井がたろうに放銃するとトップ逆転となるが、たろうがをツモって2000・3900は2100・4000。
たろうは、逆転とまではいかなかったが、十分な加点でこの半荘を2着で締めた。
3回戦成績
多井 +21.1
たろう+11.8
石﨑 △10.8
高倉 △22.1
3回戦終了時トータル
石井 +44.5
多井 △1.4
高倉 △5.3
たろう△8.1
石﨑 △29.7
▼▼▼4回戦▼▼▼
起家から多井、石井、たろう、高倉 (抜け番:石﨑)
【高倉チートイツ・哲人チートイツ】
東2局ドラ
石井313 たろう300 高倉287 多井300
南家たろうがをポンして8巡目テンパイ。
ポン
ソウズ、マンズから切り出し、字牌を切って、ポンして打。
普通に考えれば、テンパイ間近の手が入っている。
すると同巡、高倉がリーチをかける。
待ちは2枚切れの。
このリーチについて高倉に尋ねたところ、「ツモったときにハネマンになる期待と、他家の手を少しでも止めたいという気持ちが半々ぐらい。13巡目ぐらいまではリーチ、14巡目以降ならヤミテンという心構えだった」と語った。
なるほど、確かに短期決戦である決勝戦でこれをハネマンにすることの意味は大きいかもしれない。
しかし、これは微妙だろう。
まだ巡目の浅い8巡目で2枚切れの待ち。
さらに、河もチートイツを疑うには十分な濃さ。
筆者には、焦りに押されたリーチに見えた。
このリーチに対してたろうが何事もなかったかのように押し返し、をツモって2000・4000。
ポン ツモ
たろうが初めて頭一つ分のリードを得た。
トップ目に立ったときの押し引きが強いたろうだけに、ここからの戦い方が楽しみになる。
南1局ドラ
多井300 石井263 たろう380 高倉267
石井がダブポン、チーで4巡目には早くも手牌が7枚。
チー ポン
他家にプレッシャーをかけていく。
これに対して、トップ目のたろうがきっちりリーチを入れていく。
待ちは直前に1枚切れた絶好の。
そう、これだ。
「アガれるチートイツはリーチしないとね」
たろうのそんな言葉が聞こえてきそうなチートイツリーチ。
さきほどの高倉のチートイツリーチと対照的で、かなりアガれそうな感触がある。
イーシャンテンになった石井がを掴んで3200。
これで2連勝の石井がラス目に転落した。
南2局1本場ドラ
石井246 たろう397 高倉267 多井300
石井が仕掛けて1500をアガった1本場。
高倉が6巡目にテンパイを果たすと、ヤミテンに構える。
が3枚切れなのだが、これこそリーチではないだろうか。
ドラ
前半荘で2着目からたろうのホンイツ仕掛けに対してこのリーチをかけていった高倉であれば、ここもリーチした方がよいのではないかと思われた。
高倉は5回戦目が抜け番であるため、ここでラスを引くと、1日目終了時での敗退を逃れるのがかなり厳しくなる。
敗退の二文字が思考を支配し始めたのだろうか。
そうこうしている間に、高倉に対する無スジを2枚切って石井が8巡目リーチ。
高倉のリーチがあれば、おそらくかからなかったリーチである。
結果としてはすぐに高倉がをツモって1000・2000は1100・2100で2着目に浮上するのだが、1~3回戦の堂々とした高倉とは別人に見えた。
南3局ドラ
たろう386 高倉310 多井289 石井215
そしてついに、高倉の崩壊が顕著に表れてしまう。
たろうが12巡目にヤミテンを組む。
直前に多井が切っている。
とはいえ、すでにオリ気味に打っていた高倉がノータイムで打つ牌ではない。
しかし、高倉は何かに押されるようにフワッとを切って5800放銃。
確かに切る牌に悩む局面ではあったが、これで高倉の緊張の糸が切れたように思えた。
南4局ドラ
高倉242 多井322 石井215 たろう421
最後は石井が7巡目テンパイ、次巡ツモのチートイツであっという間に800・1600。
ツモ
高倉をかわしてラス抜けを果たす。
逆に高倉は、抜け番の最終戦を残してトータル4位で、全員の標的になってしまった。
4回戦成績
たろう+23.3
多井 +5.4
石井 △9.3
高倉 △19.4
4回戦終了時トータル
石井 +35.2
たろう+15.2
多井 +4.0
高倉 △24.7
石﨑 △29.7
▼▼▼5回戦▼▼▼
起家から石井、石﨑、たろう、多井 (抜け番:高倉)
【鉄人激走、石﨑追走】
鉄人多井が3連続のアガリでスタートダッシュを決める。
東1局ドラ
チー ツモ
500・1000
東2局ドラ
ロン
2000
東3局ドラ
ツモ
300・500
全て他家のチャンス手をつぶしたアガリであり、最速最強の力をいかんなく発揮する。
東4局ドラ
多井351 石井287 石﨑292 たろう270
連帯しなければ敗退となる石﨑も粘る。
ポン ポン
5巡目テンパイを果たすと、すぐにへ絶好の手替わり。
これに石井がで飛び込んで3900。
ポン ポン ロン
南1局ドラ
石井248 石﨑331 たろう270 多井351
決勝戦ここまで絶好調の石井も黙っていない。
12巡目リーチをツモって2600オール。
ツモ
あっという間に多井・石﨑をかわしてトップ目まで突き抜ける。
南1局1本場ドラ
石井326 石﨑305 たろう244 多井325
1人だけアガリのないたろうがをポンしてアガリに向かい、ドラが重なった後、8巡目にもポンしてテンパイ。
ポン ポン
この時点でが1枚、ドラが2枚残っている。
12巡目にを引くが当然ツモ切り。
すると、次巡にを引く。
ポン ポン ツモ
全員が自分に対応している状況で、自分が切ったに誰も併せ打ちしない。
どうせツモしかアガリがないのだから、打点はマンガンに固定されるが、ツモる確率が高いフリテンの両面に受けて打。
そして、見事、直後にをツモ!
ツモ
ツモったのは多井。
粘ってテンパイを入れていた多井が400・700は500・800でトップ目に返り咲く。
南2局ドラ
石﨑300 たろう239 多井343 石井318
まずはラス目のたろうがすごいところから動く。
4巡目、場に3枚目となるをチーして打。
ピンズの一色手に向かう。
すると石﨑が8巡目に盤石のオヤリーチ。
アンカン
この時点でたろうは
チー
しかし、すぐにチー、ツモで追いつく。
チー チー
なんなんだ、これは。
たろうの麻雀を見ていると、魔法か何かを見ている気持ちになる。
そして、石井も終盤にドラポンで参戦。
ポン
最後の1牌までアガリがある状況となったが流局となる。
南3局1本場供託1000点ドラ
たろう239 多井343 石井318 石﨑290
石井が7巡目にテンパイ
ポン
すると、石井のテンパイ打牌を石﨑がチーする。
チー
普通、これはアガれない。
遠い仕掛けをしない石﨑のこの仕掛けに、發と中を打つ者はいないからだ。
しかし、この時点でたろうの手が育ちすぎていた。
オヤでドラアンコの好形イーシャンテン。
直後にたろうがとを連続でツモ切り、石﨑が5200は5500。
ポン チー ロン
石﨑が待望のトップ目に立って敗退を逃れると、オーラスも軽く仕掛けてアガリ切った。
5回戦成績
石﨑 +19.5
多井 +7.3
石井 △2.7
たろう△24.1
5回戦(初日終了時)トータル
石井 +32.5
多井 +11.3
たろう△8.9
石﨑 △10.2
高倉 △24.7(敗退)
1日目終了時で5位の高倉はここで敗退となる。
1~3回戦まで、実に堂々とした戦いぶりで楽しませてくれただけに、4回戦での失速が残念だった。
4位に滑り込んだのは石﨑。
最初の3回を3着で凌ぎ、最終戦でトップを取って1日目での敗退を回避してみせる辺りは、ベテランの味。
3位はたろう。
「内容はよくわかんないす。結果マイナスですごい悔しいです」
こういう風に、素直に悔しいと言えるところも、哲人たろうの人を惹きつけるところではないだろうか。
そして、その内容にすぐ反省が混じるところが強者の証。
2位には多井。
ノーホーラのラススタートだったが、プラスでまとめる辺りはさすが。
「たろうのオヤが怖すぎたよ。びびっちゃった。こんなんじゃないなあ」
と苦笑いを見せた。
たろうと同じく、こちらも素直に対局者への敬意と自身への反省を含んでいる辺り、鉄人たる証だろう。
そして1日目を1位で折り返したのは、石井。
元気よくコメントしにやってくると、「いやー、あんだけリーチツモってれば楽しいですね」と満面の笑みで答えた。
みな、この笑顔にだまされる。
優しそうな顔、人懐っこい性格、あの若さで、こんなに強いやつがいるなんて思いもしないのだ。
石井は強い。
若人よ、
鉄人を殴打せよ。
哲人を論破せよ。
~2日目につづく~
***編集後記***
こんにちは。最高位戦の観戦記者、鈴木聡一郎です。
いやー、1日目面白すぎでしたね!
ニコニコ生放送の1日目のアンケート見ました?
とてもよかった94.4%、まあまあよかった3.4%!!!!!!
こんな特殊なルールなのに、面白さが伝わってうれしいです!
今回2日目に残った4名、みんな魅力的で誰を応援していいかわからなくなりません?
私もそうです笑。応援迷子です!
「麻雀偏差値70へのメソッド」を一緒に作った一馬くん、近代麻雀で連載中のコラムを一緒にやっているたろうさん、最高位戦の大ベテラン石﨑さん、そして言わずと知れた多井さん。
もうあれですね。誰が勝ってもいいから楽しみですね!
2日目の放送もよろしくお願いします!
あ、2日目の観戦記も後日アップしますので併せてよろしくお願いします!
鈴木聡一郎