コラム・観戦記

第35期最高位決定戦②

第2回目、いよいよ初日から書いていくが、ここからは日本オープンの自戦記と同じ文体に変更する。本来は「~です」「~しました」という書き方の方が好きなのだが、観戦記や自戦記はそのほうがしっくりくるだろう。
なお、飯田永世最高位は「飯田」水巻渉は「水巻」だが、佐藤崇は「崇」と表記させていただく。佐藤は最高位戦に数人いて、毎回「佐藤(崇)」と書くのがわずらわしいからだ。飯田永世最高位は本当は「飯田さん」と書きたいのだが、やはり文体にあわないので飯田で統一することにした。
初日の朝、思ったよりも緊張していない自分に驚いていた。決勝戦慣れして来た、というのとは少し
理由が違う。どんな時でも自分が出来ることは一緒だ、実力以上のことはできないのだ、というある種開き直りのような心理状態である。昔は「決勝戦にふさわしいいい牌譜を残したい」「ギャラリーが納得する麻雀を打ちたい」といった「欲」があったのだが、そういう思いはどうしてもよそ行きの麻雀、あるいは言い訳しやすい無難な麻雀を打たせてしまう気がする。
無心になって麻雀と向き合い、勝つためにベストを尽くす。14年かけて培って来た最善のバランスをいつも通りに出すだけだ。この一年タイトルに恵まれたのは、技術面もさることながらそういった精神面が大きいように思う。
さて、自分としてはベストと思える精神状態で臨んだつもりの一回戦、自分で思っているよりも相当入れ込んでいたようだ。村上淳人生三回目の最高位決定戦は、東2局0本場、崇の親リーチに対して12000をオリ打ち、という最悪の幕開けだった
  ドラ
13巡目、ここからアンコのに手をかけてリーチ裏3の12000点。入れ込んでいたのにオリ打ちというのは矛盾しているように思われるかもしれないが、13巡目のこのリャンシャンテンから親リーチに対して無筋を何種も切ってアガりに行くのは得策ではない。ではなぜを打ったのか、捨て牌を見てみよう。
二枚目の以外全て手出しのリーチ。親でトップ目、ストレートな手作りであることはほぼ間違いない。リーチ後にと通り、リャンメンならば可能性がある待ちは、
の10通りとなった。
よって自分の手牌は全てリャンメン待ちで「ロン」と言われる可能性があるわけだ。
崇の捨て牌にヒントがあるとすればリーチ直前の三枚。まずを2巡目に切っているにもかかわらずを手出し。ほぼいずれかの形から。
を引いたいわゆるスライドの可能性もあるが、の後に
手出ししていることから切りの瞬間はメンツが完成している可能性は低い。どちらにせよほぼ4を持っている形と読めるのでを持っていれば切るのだが・・・・。
続いての手出し。関連牌であればはかなりの本線となる。マンズはすぐに打牌候補から消える。
そして宣言牌が。手牌に関連牌があるわけで、単純ながあるとしたらカン待ちからを引いた形。親で役無しカンをダマテンにしていた可能性も低いながらにあるが、どちらかと言えばのように複合形であたる可能性のほうが高い。
にあたる形よりも、単純なリャンカンからの切りカンリーチの可能性のほうが高そうだ。どちらも他の色のリャンメンよりは可能性は低いだろう。
全てを総合すると、あたる可能性はが一番低く、続いて、あとはソーズ、マンズともほぼ同じくらい。
いずれにせよリャンメン10とおり、カンチャン、ペンチャン、タンキ、シャンポンの可能性もあるわけで、何を切ってもロンと言われる可能性は10%以下だ。
このようなことを5秒くらい考えたのだが、結論としては、今一番通りそうなを切ったとしても、
次巡また他の危険牌を切らなければならなくなるケースも多々ある。
ならば今少し危険な端牌のアンコを切り、通った場合にさらに2巡しのげるほうが放銃の可能性は低いと考えた。この考え方には賛否両論あると思う。アンコで4枚持ちのが他のスジと比べてどのくらいあたる確率が高いかはわからないが、よりも高いのは間違いないからだ。
がドラであるため安めになる、というのももちろん理由の一つだ。
この形から結果として12000放銃となったことは仕方ないのだが、この局をピックアップしたのには別の理由がある。
8巡目、自分の手はこうなっていた。

正直、たいして魅力のない手である。こんな手は第一に放銃を避けることを考えるべきであり、アガりに向かうとしたらドラから1メンツ作れた時のみ。
よって、ここで崇、水巻二人に危険なを切るべきだったのだ。最初に入れ込みすぎたと書いたのは、ここでを切らずに崇の現物である1を切ってしまったからなのだ。結果として12000放銃になってしまったからミスなのではない。こんな手で親の現物を一枚減らしてまでにくっつけてメンツを作ろうと考えたことがすでにミスなのである。この一打は冷静さを欠いていた恥ずかしいミスであり、最高位としてあえて公表してみた。
いきなりこんな決定的なミスを犯してしまったが、その後それなりに冷静に打てたと思っている。もちろん検証してミスを探していけばいくつもあるのだが、その瞬間「ベスト」を選び続けたつもりだ。この日の半荘四回、親番で一度もアガることなく126ポイントマイナスしたのだが、まだまだ勝負になると思っていた。この時までは…2日目に続く

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