コラム・観戦記

第11期飯田正人杯・最高位戦Classic観戦記<決勝1日目 3-1> 玉利 一

第11期飯田正人杯・最高位戦Classic観戦記<決勝1日目3-1>

 

“男”は疲れていた。 疲れきっていた。
2016/8/20(土) 大阪
正午から黄昏時迄、”男”は真剣勝負の場で時を過ごす。
競技麻雀。 そのリーグ戦。 その対局を4半荘打ち終え、疲労に満ちた体を休める間もなく夜行バスに乗り込み長距離移動。
そして翌2016/8/21(日)午前11時 東京
「第11期飯田正人杯・最高位戦Classic 決勝1日目」が行われるスリアロスタジオに入る。
決勝になどまるで残っていないのに。 本選はおろか最終予選にすら残っていなかったのに。 最終予選どころか関西予選で既に敗退していたというのに。
では何故、”男”はそのスタジオに現れたのか?
それは、今回の第11期飯田正人杯・最高位戦Classic 決勝の観戦記を書くこととなったから。 いや、書かせていただけることとなったから。 その取材、観戦に来たのである。
そう、”男”とは私。 今これを書いている人物。 最高位戦関西本部に所属する、少々前置きが長い、回りくどい、ただただくどい、そんな短所を短所と捉えず「第24期發王戦決勝」の観戦記に続きまたまた長々と前置きを書いている玉利 一、その人である。
普段は実家の電気屋を手伝いながら、遅くして魅せられた競技麻雀の世界に没頭する日々を送っているわけだが、今回はこの日行われた熱戦、その物語を伝え記す、さしずめ”伝記屋”と言ったところだろうか。
うむ。 巧いこと言って掴みが取れたところで、移動の疲れも取れたところで、そろそろ本編を書き始めるとしようか。 「第11期飯田正人杯・最高位戦Classic 決勝1日目物語」を。

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飯田正人杯・最高位戦Classic 第8期より2012年に逝去された飯田正人永世最高位の名が刻まれしこの大会。
第9期より決勝戦の模様をインターネットで生配信するようになったのだが、ルールが普段一般の麻雀愛好家の皆様が嗜んでいるルールと比べ、ちと特殊。
旧最高位戦ルール 一発・裏ドラ無し、槓ドラ・槓ウラ無し、リーチ後の暗槓無し、ノーテン罰符無し、繰り上げ満貫無し、オカ無し、ウマは4-12、アガリ連荘、リーチをかけていても流局時に手牌の公開をしなくてもいいなど、普段から競技麻雀を嗜む私からしても、この大会でしか経験することがないクラシカルなルールである。
だが、この観戦記を目にして下さっているぐらいマニアックな皆様には今更ルールの説明は不要でしょうから、早速選手紹介に移らせていただくとしよう。

準決勝1位通過  日本麻雀101競技連盟所属 堀川 隆司
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獲得タイトル : 第15期名翔位

一発・裏ナシ、アガリ連荘、テンパイ料無しは所属団体のルールと同じ。 今回の決勝面子で最もこのルールでの経験値が高いといえよう。
所属団体の対局数826でラス率がなんと所属団体内の現役選手の中で最も低い20.34%。
以前は塾講師をしており、夏期講習と本戦以降の日程が被ってしまうため参加できずにいたが、仕事をヤメ、今は雀荘のメンバーとして働くようになり、昨年からClassicの予選に参加。
昨年は予選5組からの参加であったが、準決勝(ベスト16)まで勝ち上がり、8位と好成績で終える。
そして今年。 予選4組から参加し、最終予選へ。 そこから再び勝ち上がるもベスト32では惜しくも次点。 が、準決勝で補欠繰り上がりの幸運に恵まれ、準決勝は安定した成績で1位通過。
地力がある上に勢いも付いた。 今回の優勝候補筆頭であることは間違いないだろう。

準決勝2位通過  最高位戦日本プロ麻雀協会所属 飯沼 雅由
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獲得タイトル : 特に無し

私も所属している最高位戦日本プロ麻雀協会関西本部の本部長。 麻雀歴も長く、年齢も結構おっさんだが、最高位戦への入会は関西本部発足時の38期後期とまだ年数が浅いため、獲得タイトルはまだ無い。
が、同じ関西所属ということで同じ大会の予選に出ることが多いのだが、飯沼の予選通過率は恐ろしいほどに高い。 「予選って大体通るやつやんね?」と言えちゃうほど、参加した予選は大体通過し、大体ベスト16ぐらいまでいって敗退するのを得意としている。
スタイル的にこのルールのデリケートゾーンにジャストフィットしていると以前から思っていたが、遂にこの決勝の舞台まで勝ち上がってきた。 しかも今期は予選から未だラスを一度もひいていない。
そして奇しくも、準決勝1位通過の堀川と同じく、予選5組(関西)から参加した前期はベスト16進出7位という好成績を収め、そして予選4組(関西)から参加した今期、決勝まで勝ち進む。 この二人が同い年というのだから、面白い偶然もあったものだ。
昨年のベスト32、今年のベスト16と後ろ見観戦させてもらった感想としては、手牌の見切り、受けへの切り替えが秀逸で、プレイスタイルとしては堀川や阿部側のタイプと思われる。
関西本部の長として、関西にデッカイ手土産を持ち帰れるか!?

準決勝3位通過  Real Mahjong Unit所属 阿部 孝則
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獲得タイトル : 鳳凰位3連覇、第2期・7期RMUリーグ優勝、第2期日本オープン、第15期麻雀マスターズ、 他

RMUの副代表。その実績は、今回の決勝進出者5選手の中で圧倒的。
このClassicの決勝進出のみならず、TwinCupでの決勝進出や、麻雀最強戦2016のファイナルへの切符を手にするなど、今年の活躍も衰えることを知らない。
5年程前、赤ドラ有りのルールで行われた「アルバンスタジオ オープニング対局 -4団体対抗戦- ~四神降臨~」では、コメントで“昭和”を通り越し「大正ロマンの麻雀」と書かれるほどにレトロな麻雀を見せていたが、今年「麻雀日本シリーズ」での対局などを見ていると、同じく受けの強い相手との対戦ではその持ち味がいかんなく発揮されるタイプと見受けられる。
雀力だけでなく、大きな舞台での経験値も高い“寡黙な王者”が、最高位戦のタイトル初奪取なるか!?

準決勝4位通過  日本プロ麻雀協会所属 愛内 よしえ
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獲得タイトル : 第12回野口恭一郎賞女性棋士部門受賞、第4回麻雀オフ会日本一決定戦優勝

2年前、第9期にもこの「飯田正人杯・最高位戦Classic」決勝の舞台へ勝ち上がり、惜しくも準優勝となったものの、最終半荘を首位で迎えるなどその活躍は見事なものであった。
「女流モンド杯」や「The萩原リーグ」など、メディア対局での活躍も目覚ましい。
小動物のような可愛らしい見た目とは裏腹に、とある放送対局ではジーパン・パーカー姿で登場したり、とある勉強会には“ジャンプ”片手にやって来るなど、ワンパクな一面もあってか、ニコニコ生放送のコメントでは「ヤンキー」の愛称で親しまれている。
麻雀としては、アガリへの嗅覚が鋭いタイプとの印象。 ノーテン罰符が無いルールだけに受けに回る局が全体的に多くはなるだろうが、そのアガリに向かう時の“行き腰の良さ”に今回も注目したい。
2年前、あと一歩のところで捉え損ねた大きな栄冠を、今回こそ掴み獲るのだ!

準決勝5位通過  最高位戦日本プロ麻雀協会所属 石橋 伸洋
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獲得タイトル : 第36期最高位、第19期發王位、第10回モンド杯優勝、第3回天鳳名人戦優勝

いわずも知れた、“麻雀勝ちまくり王子”
勝つために必要だと思ったことは何でもやるタイプのその雀風は、“黒いデジタル”と言われている。
「ノーテン罰符が無く、順位点の小さいClassicルールは苦手。」と言いながらも、昨年もベスト32まで勝ち進み、今年は予選1組を1位通過しベスト16へジャンプアップを決めるなど、苦手意識などまるで感じさせないほどの結果を残している。
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確かに5期以降の通算成績を見てみると、今回決勝に残れず解説席に座る3選手よりも悪いようだが、
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決勝まで勝ち残った今期の成績は素晴らしいものである。
最高位戦主催の三大タイトル、最高位、發王位、飯田正人杯・最高位戦Classic、その3つのタイトルをすべて獲った者はまだ一人も居ない。
史上初の最高位戦グランドスラム達成なるか!?

さて、お気づきになった方も多いでしょう。
麻雀は4人で打つゲームである。しかし選手紹介が5人いるじゃないか?!
というわけで、決勝戦のシステムを説明しましょう。
決勝戦は全部で10回戦(10半荘)行われる。 抜け番制度を設け、決勝1日目に1人4半荘の計5回戦を戦い、ポイント下位1名がその時点で敗退。(同ポイントの場合は準決勝の勝ち上がり順位が上の者を勝ちとする。)
勝ち残った上位4名で1週間後(決勝2日目)に5回戦を戦い、一番ポイントの多かった選手が優勝となるのだ。
決勝1日目の抜け番順は抽選ではなく、準決勝通過順位上位者から順番に希望の抜け番を選んでいくというものだ。
準決勝1位通過の堀川が選んだのは3回戦抜け番
準決勝2位通過の飯沼が選んだのは2回戦抜け番
準決勝3位通過の阿部が選んだのは4回戦抜け番
準決勝4位通過の愛内が選んだのは1回戦抜け番
準決勝5位通過の石橋は「5回戦抜け番です。」と言われ「嫌です。」と答えていた。
そう、1日目の敗退者が決まる5回戦目に卓外に居るということは、微妙なポイント状況だとポイントを合わせられ、自ら足掻くこともできずに敗退となってしまうからだ。
この抜け番順が対局に影響を及ぼすことがあるのか。 ないのか。 それでは対局を覗いてみるとしよう。

 

1回戦

起家~  阿部 堀川 飯沼 石橋

東1局はClassicらしく静かに流局スタート。

最初に点棒の動きを見せたのは東2局1本場 ドラ
親の堀川の配牌

メンツ0、リャンメン0の苦しい形ながら、ドラ2のチャンス手。
Classicルールでの対局は2ハン手役を追った終盤決着の手牌進行が多くなるため、こんな良形0の4シャンテンからでも案外間に合ったりするのである。
8巡目、堀川の手牌

 ツモ

イーシャンテンとなり、メンツ選択。
受けは残すとして、ペン受けとペン受け、2つのペンチャンどちらを残すのか?
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さてこの景色。
みなさんなら何を切りますか?(牌が薄暗くなっているのがツモ切り)
単純見た目枚数では、が場1で、は場0とペンの方が優秀。
しかしソウズの上は飯沼が第1打でを切っているだけで場に高いが、ピンズ下は阿部の第1打石橋の第3打からの次巡ツモ切りなど、3枚見えで場に安い。
一長一短、これぐらいだと私の受ける印象では山期待度は大差ないように思われる。
それだけに、どちらもペンチャンターツなので一手変わりでリャンメン変化はしないものの、ピンズは1手カンチャン変化した際に234の三色同順という2ハン役が付くので「落としとしそうだな」と後ろから見ていて思ったのだが、堀川の選択は打しかも一切の逡巡なくである。
1回戦終了後、私は堀川のもとに駆け寄り、いの一番にこの選択について訊いてみた。
「東2局の親番、ドラがの局なんですけど、ペンとペンの選択、あれって ・・・ (見た目枚数ですか?それとも“読み”ですか?)」と続ける間もなく、ノータイムで堀川はこう答えた。
「感覚ですね。」
デジタル派と称される考え方が主流となった昨今の麻雀界。
「感覚」というフワっとした表現を嫌う人も多いかもしれないが、私は思う。
この場合の「感覚」とは、なにも「その場の思いつき」や「なんとなく」とは違う、そのプレイヤーの知識・経験・演繹によって脳内で瞬間的に導き出された解答であり、立派な脳力(能力)の一つなのではないか ・・・ と。
今回の「決勝1日目」終了後の呑みの席で、阿部もまた感覚派のプレイヤーであると言っていた。
今回の決勝戦の解説者である近藤誠一最高位もまた、自らの麻雀を「感覚で打っている」という。
そしてこの、素点の関係ないラスにのみマイナス評価の付くルールにおいて現役選手の中で一番ラス率が低く安定した好成績を残す101競技連盟・堀川の言葉。
これだけ感覚で麻雀を打っている者に強者が多数いる以上、決して無視できる能力ではないように思える。
「数学」や「科学」も人間が作り出した学問の一つでしかない。
それらで導き出された答えが、必ずしもイコール真実・真理であるとは限らない。
つまり何が言いたいのかというと、一つの物事も見る角度・思考によって様々な捉え方があり、そのどれが正しいかなんてのは一概には言えないということだ。
たとえばここに、一つのおにぎりがあるとしよう。
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・・・ 失礼、間違えました。
この方はこの日の対局の立会人を務めた最高位戦日本プロ麻雀協会Aリーガー・坂本大志プロ。
おにぎりではない。
改めまして、ここに一つのおにぎりがあるとしよう。
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このおにぎりを作るのに、どれぐらいの水が必要だと思いますか?
お米を炊く時に使う水、おにぎりを握る時に手にちょんちょんっとつける水ぐらいまでを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし実際はお米の前、稲を育てるのにも沢山の水を必要としていて、その“米作り”の段階から考えると、なんと270リットルもの水が必要なのである。
この水の存在に、ほとんどの人が気付かない。
しかし見えない水を想像した方が、世界は広がる。
私たちはまだまだ知らないことだらけ。
私たちが普段感じているよりもずっと、世界は広い。
麻雀でいうならば、数値化された分かり易くカテゴライズされた理だけを信奉するのではなく、 “感覚”という目に見えない存在も認識した方が、麻雀観に広がりを見せるということもあるだろう ・・・ ということだ。
話を局に戻そう。
この時、が山に残り2枚、は山に残り2枚と同数。
そして10巡目の山に、は1枚ずつ眠っていた。
10巡目、堀川の手牌

 ツモ

感覚で残した受けがズバっと埋まり、をそっと縦に置く堀川。
ヤミテンに構えた。
は、飯沼がを1枚、阿部が1枚切っていて場に2枚切れ。
残り2枚のが山に残っているならば、自身のツモ以外にも2人からアガリ抽選を受けようということだ。
ピンフドラ2、最高位戦ルールならば打点上昇効率の良いこの手はリーチが主流だが、ノーテン罰符が無く、アガリ連チャンで、点棒の動きが無いままに局が進むことが珍しくないClassicルールでは、5800の価値が一発・裏ドラ有りのルールより高くなるため、ヤミテンに構えるプレイヤーも多い。
11巡目、飯沼からツモ切られた場に3枚目のを石橋が仕掛け、テンパイを入れる。

 チー

堀川と同じ、待ちテンパイだ。
ダブロンは無し、アタマハネとなるため、阿部から切られれば堀川のアガリ、飯沼から切られれば石橋のアガリとなる。
同11巡目、阿部の手牌

 ツモ

234の三色同順のイーシャンテン。
堀川からリーチがかかっていれば止まったであろうが、見えているのは子方の仕掛け一つ。
は通っていないが、で鳴いていてのである。
自身がこの手牌ならば ・・・
阿部のツモ切ったにかかる2つのロンの声。
石橋への放銃ならば1000は1300で済んだのだが、そこは座っている席が悪かった。
アタマハネでアガリとなったのは、親の堀川。
ピンフ・ドラ2、5800は6100と大きなアガリを仕留めてみせた。

東2局2本場 親 : 堀川 ドラ

阿部 23900 堀川 36100 飯沼 30000 石橋 30000

一つ大きなアガリが生まれ、局面が動き出す。
4巡目、飯沼の手牌

マンズのイッツーやピンフが見え、ドラも1枚あるイーシャンテン。
MAXメンピンツモイッツードラ1のハネマンまで見込めるチャンス手だ。
5巡目、阿部の手牌

456の三色同順も見えるピンフのイーシャンテン。
テンパイする前にを持ってくればタンピンにも変化し、MAXメンタンピンツモ三色のハネマンまで見込めるこれまたチャンス手。
そして7巡目、石橋の手牌

 ツモ 打

雀頭の無いイーシャンテン形から、くっつきのイーシャンテン形に変化。
ピンフドラ1や、ピンフ三色の見えるチャンス手に昇格。
子方3者が2ハン手役の見えるイーシャンテンとなり、激闘必至か!?
最初にテンパイを入れたのは石橋。
11巡目、ツモでピンフドラ1の待ち。
しかし既にが場に4枚打たれており、ヤミテンに構える。
次にテンパイを入れたのは飯沼。
14巡目、イッツーが完成するツモでのテンパイで、ドラ表示牌の待ち。
は12巡目に阿部が1枚ツモ切っており、2枚見え。
ヤミテンに構える。
そして3番目にテンパイを入れたのは阿部 ・・・ ではなく、親の堀川、15巡目。

 ツモ

雀頭の無い、タンキ待ちテンパイ。
ストレートに手牌を進めてのこのテンパイ。
を河に置き、山に残っていそうな待ちへ受ける。
勿論ヤミテン。
そして同15巡目、ようやく阿部もテンパイ。

 ツモ

悲しい安目ビキテンパイで、ピンフのみの待ち。
ヤミテンに構える。
中・終盤以降はヤミテンケアで手終いすることも多いこのClassicルールにおいて、15巡目に4人ともがテンパイしているとは、なんとも珍しい光景。
16巡目、堀川。
ツモで石橋の待ちを1枚吸収し、待ちへ変化。
17巡目にはをひいてタンヤオも付き、打点UP。
一番遅そうだった堀川の手が、一番魅力的な手に仕上がった。
しかしこの局アガリをものにしたのは、最初にテンパイを入れていた石橋。
自身最後のツモ番17巡目にを引き当て、ツモ・ピンフ・ドラ1、700/1300は900/1500、3300点の収入を得、堀川が親被りしたため、その差は僅か1300まで詰め寄った。
「ナナトーサン」の響きからくる印象よりもずっとずっと大きなアガリとなった。

東3局は、飯沼がタンヤオチートイツの絶景のタンキでテンパイを入れるも、王牌に2枚眠ったまま、流局。

東4局 1本場 親 : 石橋 ドラ

阿部 23000 堀川 34600 飯沼 29100 石橋 33300

9巡目、親の石橋の手牌

 ツモ

チートイツのセオリーとして1枚切れの字牌というのは“狙い目”の牌とされているが、この場況。
堀川、飯沼の河に字牌が1枚も出ておらず、阿部の河にも5巡目のと6巡目のだけ、字牌が場に高いのである。
一方、ソウズの下目は場に安い。
自身で2枚使いのは場に1枚切れで計3枚見え。
は場に2枚切れ。
は自身で1枚使っている1枚見え。
は場に1枚切れ。
メンツ手の目もまだ残しには手をかけず、チートイツの“狙い目”としてを残し、打とした。
そして次巡、ツモでチートイツのテンパイ。
5巡目に堀川が切っている待ちにするのか、前巡堀川が切った待ちにするのか、どちらも良さげな場1の牌の待ち取り選択。
石橋が選んだのは ・・・ 打待ち。
ヤミテンに構える。
同10巡目、堀川から切られる アガリ逃しか ・・・ と思いきや、同10巡目、ホンイツの2シャンテンである飯沼からスパっとツモ切られる
自身が待ちにしてる時には同じく山2でも全然ひかなかったくせに、他人が待ってる時はすぐ掴むんだから ・・・ まったくもう。
石橋「ロン。4800は5100。 ・・・ あ、すいません。2400は2700。」
チートイツのテンパイは待ち頃の牌を待つなどせずに即リーチを打ち、相手を抑えつつアガリ抽選を受けるスタイルの石橋。
しかしそれはテンパイ連荘、ノーテン罰符での収入があるルールでのこと。
何度も言うようだが、Classicルールはノーテン罰符無し、アガリ連荘のルール。
ダマでアガる2400点の価値も普段打つルールに比べ高い。
つまりこのヤミテンは、普段のフォームには無い“クラシックダマ”ということだ。
そんなこんなでアナコンダ、石橋は親でチートイツのみをヤミテンに構えることが普段ないため、チートイツをアガって「2400」とか言ったことが無いのだそうだ。

言ったことがないならしょうがない 人間だもの  たまを

南1局 3本場 親 : 阿部 ドラ

阿部 23000 堀川 34600 飯沼 26400 石橋 36000

ラス目で迎えた南場の親番、阿部にチャンス手到来。

配牌  打

2巡目、ツモ
3巡目、ツモ
チートイドラ2イーシャンテン。
4巡目、ツモ
役の確定したメンツ手もイーシャンテンに。
5巡目、ツモ
無駄ヅモ無しでとドラののシャンポン待ちでテンパイ。
ツモれば三暗刻も付いてハネマン、出アガリ高目マンガン、安目でも9600。ヤミテン
この巡目で、危険牌先切りで切ったがロンと言われ、9600点も払えとか言われちゃった日にゃ~「高過ぎて払えませんよ~」って泣いちゃいますよね、マジで。
一発裏ドラ有りのルールならばそれぐらいの事故失点もなんとか挽回できることもあるが、このルールでこういう早くて高い手のアガリが生まれた時には、ロースコアで均衡していたゲームバランスが一気に崩壊しちゃいますからねぇ ・・・ 恐ろしや、恐ろしや。
9巡目、阿部

 ツモ 打

出アガリ9600、ツモって4000オールの両面待ちへ変化。
は山に4枚残り。
ヤミテン続行。
同9巡目、飯沼

 ツモ 打

くっつきのイーシャンテンになり、234の三色同順を見たと、ピンズの3メンチャンを見たを残し、ここでドラのを河に放つ。
もう1巡早くをひいてしまっていたら、親に12000の放銃となっていたのを助かった飯沼。
パソコンの前で応援していた関西本部所属の面々も、これには肝を冷やしたそうな。
それはさておき、この飯沼の切りを受けて、親の阿部には3つの選択肢があった。
ドラポン ツモ切りリーチ ダマ続行
もちろんヤミテンのままにした方が自身の出アガリ確率は高いだろう。
ただし、ドラを打ってきた飯沼のアガリ確率も保たれたままだ。
しかし親のドラポン、もしくは親リーチが入った場合、飯沼はまっすぐアガリに向かうことができるだろうか?
流局すればリーチ棒を出した者だけが失点するこのルールでラス目の親リーチ、3着目とはいえ、ドラを持っていない飯沼の手牌がそれに向かうだけの価値を有している可能性は高くないだろう。
相手のアガリ確率を下げることで、自身のツモアガリ抽選回数を確保し、アガリ率を保つ、そういう選択肢もあるということだ。
その辺のリーチ判断に関することは、この日放送の解説をしていた村上淳の著書「リーチの絶対感覚」を読んでいただくとして、話を局面に戻そう。
阿部の選択は、は鳴かず、ヤミテン続行だった。
これが阿部の基本フォーム、阿部らしい選択なのだろう。
10巡目、飯沼

 ツモ 打

ピンフ高目三色のテンパイ。
リーチを掛けてマンガンを狙いたくなる手だが、飯沼の選択はヤミテン。
これもClassicルールにおける、飯沼らしい選択といえよう。
どちらが掴んでもロン牌がツモ切られるであろうこの静かなる捲り合いは、13巡目に決着。
阿部がを掴み、飯沼へ1000は1900の放銃。
チャンス手をアガリ損ねた阿部。
失った点棒以上に辛い結果となった。

南2局 親 : 堀川 ドラ

阿部 21100 堀川 34600 飯沼 28300 石橋 36000

7巡目、親の堀川、阿部からツモ切られた2枚目のもスルー。

この手牌ならば、特に一発裏ドラ有りのルールよりもリーチの価値が下がるClassic ルールならばなおのこと、鳴く者が圧倒的に多いだろう。
しかしこれこそが、この守備意識の高さこそが、101でラス率の最も低い選手、堀川の麻雀なのだ。
9巡目、ツモ
を切れば、待ちのテンパイ。
他にはに手を掛け、のくっつき、メンホンのイーシャンテンに取ることもできるし、取りダマとし、そのままのツモアガリ抽選も受けつつ、イッツーの手変わりを待つという選択肢もこのルールならばあるだろう。
少し考えた後、堀川はを横に曲げた。

 ツモ 打リーチ

何とこれがこの決勝戦で最初のリーチ。
待ちとなるは山に3枚残り。
流局か、はたまたツモアガれるのか?
一人旅になることが多いこのルールでの親リーチ。
しかし、そんな親リーチに刃向かう“親不幸者”が現れた。
その名は阿部孝則、48歳
最近では「おばあちゃん」と呼ばれるようになったオジサンである。
10巡目

 ツモ 打

ドラが浮いた手格好だが、ホンイツのイーシャンテンとなり、を勝負。
そして次巡ツモでイーシャンテンがより手広くなったところで、ドラのもリリース。
しかし13巡目、宣言牌またぎのをひいたところで打とし、チートイツのイーシャンテンと狭く受ける。
が、16巡目、ツモでテンパイ。

 ツモ

を切ればメンホンチートイツのテンパイ。
を切ればただのチートイツのテンパイ。
自分の手牌価値でいえば切り一択なのだが、は親リーチに対し、危険牌。
一方が通っていて、が4枚見えで、両面待ちにもカンチャン待ちにも放銃することは絶対になく、場に1切れの牌でもあるのでほぼほぼ通る牌。
自身のツモ番は残り1回、堀川からの出アガリ抽選は2回、そんなド終盤。
ラス目なだけに、強く踏み込む手もなくはないが、阿部の選択は ・・・ 打タンキ。
しかしこの一見弱気な、無難な選択が、実は好手。
見えていない残り2枚は飯沼の手の中で山0だが、はまだ山に1枚生きている!
18巡目、堀川がひいてきた牌は、なんとその零牌の

阿部  ロン

一見チャンタっぽい凄く高そうなこのチートイツのみで、阿部がこの日の初アガリ。
リーチ棒が付いて2600点の収入を得る。

南3局 親 ; 飯沼 ドラ

親の飯沼にチャンス配牌到来

3巡目

 ツモ

を切る手が無いわけではないが、三色が崩れても純全帯么九ドラ1で十分高いだけに、少し考えたもののさすがに打とした飯沼。
しかし次巡、ツモで裏目。
結局ビキで諸々狙いが崩壊するだけに、対局終了後に話をした際、少しこの選択には後悔が残ったそうだ。
8巡目、飯沼

 ツモ 打

これで順調にMAX8000オールまで見えるイーシャンテンとなったのだが、ピンズのメンツを捉えていればこの段階でテンパイとなり、ピンフイーペーコー高目ドラの待ちでリーチを打てていたわけだ。
同8巡目、阿部

 ツモ

ドラを切ればテンパイとなるが、は目に見えて4枚見えている待ちのテンパイ。
6巡目に上家から切られたを仕掛けてホンイツ移行という選択もあったのだが、メンゼンで手を進めた阿部。
を切ってダマが阿部の基本フォームかもしれないが、今はラス目で迎えた南3局。
リーヅモの1000/2000で3着へ浮上となるため、少し乱暴な選択となるかもしれないが、をツモるつもりでリーチを掛ける選択も無きにしもあらず。
だが、阿部の選択はどちらでもない打のテンパイ取らず。
ドラを使い切る道を求めた。
10巡目、飯沼

 ツモ

ビキとの翻数差、何と6翻。
なんとも残念過ぎる入り目である。
しかしそんなことを言ってもどうしようもないので打としてカン待ちのテンパイを取り、ビキによる手牌変化を待つ。
同10巡目、阿部

 ツモ

でのツモアガリ逃しとなったが、これでより高打点の見込める役有りのドラ待ちテンパイか、待ちでツモって1300/2600の手でリーチを打つのかの選択に。
阿部の選択は、ドラタンキ。
が、前巡残したそのテンパイ打牌のが、飯沼のテンパイにジャストミート。
アガリを迎えていたかもしれないこの巡目で、親へ2000点の放銃となった阿部。
この結末に何を思う。
一方アガった飯沼としても、入り目がでもテンパイ打牌は同じできっとアガれていて、打点は9倍UPしていたとか ・・・ 何とも残尿感の残るアガリとなってしまった。

南3局 1本場 親 : 飯沼 ドラ

阿部 21700 堀川 32000 飯沼 30300 石橋 36000

5巡目、飯沼

 ツモ

ドラを使い切るために、Classicならではの選択として打とマンズをドラを中心にリャンカン形とする選択もあるが、飯沼はシンプルに打とした。
順位点が小さいとはいえ、1着順上げることは8000点の加点に相当し、このルールの8000点は相当価値が高い。
ゆえに、ラス前、このポイント状況ならば、リーチツモの1000は1100オールでも2着目へ浮上し、トップ目と肉薄できるだけに、形重視の手牌進行にも価値があるということだ。
次巡、ツモとスライドさせることができたのだが、ツモ切りを選択した飯沼。
ドラの縦ビキ時のタンヤオへの渡りよりも、2軒現物のを残すことを優先したようだ。
次巡、をひいてイーシャンテンに。
そして8巡目、ツモでテンパイ。
こういう手組みにしたということは、ドラを切ってリーチに行くのかと思いきや、を縦に河へ置く飯沼。
このテンパイでリーチに行く気がないのであれば、ドラが出ていかない手組みで手牌価値を高める選択が良かったんじゃないかという気がしなくもないが、そんなことよりも何よりも、なんとこのドラのにロンの声がかかる!?

 ロン

直前にチートイツのドラ待ちテンパイを入れていた堀川。
ダマっていたところで河に放たれにくい中張牌のドラ待ちだが、しっかりとひっそりとヤミテンに構え、見事討ちとってみせた。
飯沼としても仕方のない放銃といえば仕方のない放銃なのだが、少し気付きのサインがあったとすれば、6巡目。
暗刻になったを残し、四暗刻の2シャンテンにも取れる手牌となった時、それまで飄々淡々と打っていた堀川から「ん~」と少し声が漏れた。
そして次巡手出し。
・・・ ん~、やっぱ無理かw

南4局 親 : 石橋 ドラ

阿部 21700 堀川 38700 飯沼 23600 石橋 36000

10巡目、阿部

 ツモ

チートイドラ2のテンパイ。
生牌の待ち。
ハネマンをツモれば2着順UPの2着となるため、リーチを打つ選択もある。
なにせこの戦いは安定した好成績を残すための戦いではなく、5分の1の優勝者を決める戦いだからだ。
しかし阿部はヤミテンに構える。
3着良しということなのか、もっと良い待ちで待ちたいということなのか。
12巡目、石橋

 ツモ

ピンフのテンパイを入れ、ヤミテンを選択。
13巡目、突如大きな呻き声が対局室に響いた。
声の主は、堀川。
この呻き声がこの日解説席に座っている村上から発せられたのなら「なんだいつものやつか」で済むところだが、あの淡々と打っていた堀川からこの呻き声。
何事かと思い、手牌を見てみると ・・・

 ツモ

なるほど、このClassicルールでこの巡目、この点数状況。
ここから放銃してトップ目から落ちたとなれば大悪手となるが、順位点の小さく、素点が大事なこのルールにおいて、役満のアガリ逃し、32ポイントの加点ロスはそれまた罪。
そんなところにひいてきたお荷物のドラ。
撤退が無難な選択なのだろうが、5分の1の優勝者になるためには、どちらが得な選択といえるのだろうか?
長考の末、堀川の選択は ・・・ 打
ヤミテンを入れている石橋、阿部に通っていないを切っての前進を選んだ。
次巡14巡目、堀川

 ツモ

堀川の勇断にツモも応えた絶好のビキ、四暗刻単騎のテンパイ。
ドラを叩き切っての確定役満、生牌の待ちか、を叩き切っての待ちか。
堀川のチョイスはを切っての待ち。
ツモる手に気合いが入る堀川。
テンパイしているのは誰の目からも明らかであったが、17巡目、阿部、ドラ表示牌のをツモ切り、堀川へ8000点の放銃。
トップ目の堀川がドラ表示牌の待ちで、こんなド終盤に気合いマンマンに押すのか?という読みがあっての選択なのだろうか。
しかし開けられた手を見て阿部も納得。
「安めで助かった~」と安堵したことだろう ・・・ 知らんけど。

 

【1回戦結果】
1着 堀 川  46700
2着 石 橋  36000
3着 飯 沼  23600
4着 阿 部  13700

 

 

第11期飯田正人杯・最高位戦Classic観戦記<決勝1日目3-2> へつづく

(文 : 玉利 一(最高位戦関西本部所属)) 玉利 一

 

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