第6話
決勝前夜、たくさんの方々から応援メールをいただいた。
その中のひとつ、公私ともに長い付き合いである水巻渉からこんな内容のメールが届いた。
「内容はどうでもいいから、とにかく勝ってくれ」…水巻選手は自分と同じ、いわゆるデジタル
論者である。牌の流れも人の流れも結果論であり、それを予測することは不可能だ。
予測できないことを変えようとする行為も無意味であり、したがって我々がすべきことは常に目の前の瞬間瞬間で最善を尽くすことだけだ、という考えである。
人事を尽くして天命を待つ、あるいは必ず当選する方法などない、だから1%でも当選確率をあげるしかない、ということだ。勝つために最善は尽くすが、絶対勝つなんてありえない。
お互いこのように考えていることは死ぬほど理解している。
その上で今回のメール…
水巻渉は自分の1年後輩で、年齢もひとつ下。
水巻がプロ入りした時からお互い大学生同士、歳も近い、家も近い、酒が好きということですぐ仲良くなった。
もちろん麻雀が強い、というのが一番ひかれたところなのだが。
よくセットをし、若手だけで勉強会もひらいた。
当時は自分がリーグも上ということもあり自分がリーダー的存在だったが、水巻、大柳、佐藤崇、石橋、一緒に学んだ人間は今ではみなAリーガー、ここ数年は自分がやられまくっている。
その中でも水巻は出世頭だった。
まずBリーグ時代にプロ連盟主催の「マスターズ」で見事優勝、早くもタイトルホルダーの仲間入りを果たす。B1リーグは3年かかったがAリーグに昇級、昨年当最高位戦主催の「發王戦」優勝で2タイトル目、完全に水をあけられる形となった。
そんな水巻だが、自分の実力は昔から変わらずに評価してくれていた。
だからこそ「そろそろ勝つべきだ!」と飲むたびに言われていたのだ。
結婚して子供もでき、プロとして家族を養って行くためにも是が非でもタイトルが欲しい。
そんな自分の想いも全部知っている上でのメール。
今までは「落ち着いてベストを尽くせ」「結果はついてくるはずだからいい麻雀を」という内容だった。
14年目にして初めて「村上淳、いい加減にしろよ!」と叱咤された気分だった。
普段とは違うメール…なんだかさらに勝てそうな気がしてきた。
決勝当日、気分は驚くほど落ち着いていた。
「今回はきっと俺が勝つんだろうな」不思議な自信につつまれていた。
今思えばこういった「根拠のない自信」というのが、タイトルをとるためには実は大事なのではないか。
そのためにも「俺は三人よりも麻雀強いはずだ」という根拠のある自信を身に付ける必要がある。
その自信を身に付けるために13年間麻雀を強くなることだけ考えて来たのだ。
「仮に少し強かったとしても半荘5回で結果を出すのは無理」不思議なことに普段のこの考えはこの日は本当に出て来なかったのだ。
今回は俺が勝つんだ。
きっとそうに違いない。
今までにはなかった精神状態で、決勝戦の半荘1回目は開始された。
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