-2011年(平成23年)3月11日 14時46分
「東北地方太平洋沖地震」発生。
日本史上例を見ない規模の震災により、最高位戦も3月中の行事予定をほぼ全て延期。
本来3月中旬に開幕を予定したB1リーグ第1節も、約2週間遅れでの開幕を迎えることになった。
最高峰リーグへの切符を2枚を掴むべく今年も集まった16名の選手。
その中には知人、親族は勿論、自身が東北に在住している方も含まれている。
今尚続く未曽有の危機下で、全員が無事にこの日を迎えることができたことへの感謝。
そして被災地へ敬意と哀悼の意を捧げ、冒頭の挨拶に代えさせて頂きたい。
-3月30日
36期B1リーグ開幕の朝、いつも通りかなり余裕をもって会場に入る。
私自身にとっては6年目となる最高位戦リーグ。
最近では新人の頃に抱えた緊張感や高揚感も少し薄れつつあることは否めないが、やはり開幕の朝は独特な雰囲気を感じる。
そして思い返すこと34期、自身にとって初となるB1リーグへの参加権を得ながら諸々の都合で事前に休場届を出すに至った。
そういう意味では2年越しで待ち焦がれた舞台、心に期すものも当然強い。
対局開始が近づくに連れ徐々にモチベーションを高める中、各選手も続々と会場に現れ始める。
まずは昇級候補となるであろう2名、嶋村と冨澤。
現最高位の村上をはじめ立川、近藤、曽木と、近年のB1リーグではAリーグ経験者が好結果を出すケースが非常に多い。
今年も最高峰の舞台で鎬を削った経験と意地が業を成すのだろうか。
続いて浅野、新井、篠原、谷口、山内。
私が入会した5年以上前から既にBリーグで戦っていた彼ら。幾度目かとなる今回の挑戦が実を結んでも何ら不思議は無い。
坂本と中嶋は私と同じ31期前期生。
昨年同期最速でAリーグの座を勝ち取った佐藤聖誠に続けとばかりに、今年への意気込みは相当強いと見える。
更には昨年B2リーグから一緒に昇級を果たした浅埜、清原、齋藤、中村。
女流初Aリーガーの称号をかけ、今年幾度目かの挑戦に挑む山口といわま。
全員が定刻通りに揃い、Aリーグへの最後の関門、昇級率僅か16分の2をかけた激戦が今年も幕を開けた。―
私の第1節の対戦相手は清原、篠原、嶋村。
1回戦目、まず東1局平場はタンピンドラ3の満貫聴牌となる打牌で親の清原に2900の放銃。
続く1本場もホンイツトイトイ役々の跳満聴牌となる打牌で、またも親の清原に7700は8000を放銃。
1本場の放銃は押し引きがかなり微妙な局面ではあったが、開幕戦の開局早々にいきなり本手がぶつかっての連敗。
少なからず精神的に堪えたが、続く2本場で今期初和了を果たす。
ツモ
は場に1枚切れだが、場況的にヤマに眠っている可能性が高い。
8巡目聴牌で即リーチし、終盤にツモ。
1600・3200は1800・3400の加点。先2局の被害を半分以上解消し、大分気が楽になった。
結局この半荘は展開に恵まれる横移動もあり3着。
2回戦目、初戦に引き続き起家の清原が先制リーチを打つ中で迎えた7巡目。
ドラ
5巡目リーチ清原に対して現物が無い。
聴牌取りで切るはドラ跨ぎの危険牌。ピンズの場況が良い訳でもなく、安目ならばピンフのみの手。
ドラの振り替わりもある為リーチ判断は勿論、ダマにする場合の押し引きがかなり難しい。
安全度を追って迂回するならばワンチャンスになっているのトイツ落としも選択肢に含まれるだろうか。
悩んだ末下した決断はリーチ。数巡後にをツモり、700・1300。
あくまで結果論だがは清原に18000の放銃牌だった。
無謀と紙一重と言えなくもないが、強気の選択が実を結んだ1局。
この後も小刻みに加点を続けるも、オーラス和了トップのリーチがラス親の篠原に競り負け5800の放銃。一旦3着に落ちる。
迎えた1本場。6巡目にドラ無しで以下聴牌。
トップまでは満貫ツモ条件、2着とは1300点差。
これがオカのあるルールや通過率の厳しいタイトル戦なら即リーチを打つだろう。
しかし48半荘に渡るリーグ戦の序盤、しかもオカが無い最高位戦ルール。
当然それでもトップは欲しいが、まずは確実に連に絡みたいという気持ちも強い。
又ノーテンでも着順を捲くられる嶋村、ラス親で4着目の篠原はリーチの有無に関わらず前に出てくる可能性が高い状況の為、自分の手に蓋をすることにかなりのリスクが伴う。
小考の後静かにダマに構え、出和了の期待値を増やす選択を採った。
満貫ツモでトップを狙うのはツモリ三暗刻に手変わりした時だけで良い、そう自身に唱える。
結果すぐに他家からがこぼれ、2着をキープして2回戦終了。
3回戦目、東パツ8巡目に先制リーチを打った。
ドラ
今期初となる先制ドラ1、ドラ表示牌待ちの正しく愚形リーチ。
曲げないという打ち手も少なくは無いのだろうが、フラットな状況なら「先制」と捉えた以上自分はラフに曲げる。
このリーチをまるで見透かした様に押し返してきたのが三度起家の清原。
メンホンイーシャンテンから一発目でドラのを切り、その後も無筋を連打してきた。
結局は清原がを掴み2600の和了。
この半荘終了後、清原が笑いながら語りかけて来た。
「東パツは武中のリーチじゃなきゃあそこまで押せないよ(笑)」
清原とは公私でよく卓を囲む。当然私がこういった先制リーチを打ってくるを知った上での押し引きだったのだろう。
その言葉通り確かに紙一重の勝利、だがこれがスタイルだ。
続く東2局、今日一の高打点をものにする。
9巡目にこの形で聴牌。
ドラ
他家からまだリーチは入っていない局面。先の理屈で言えば、当然この手も即リーチだろう。
三色の手変わりよりも、一発と裏を逃す方が惜しい。
只先程の東1局とは一つ違った状況がある。
それは親の篠原が既にドラを放ってマンズの染め手模様に仕掛けていること。
まだ聴牌している可能性は低いが、切り出した生牌のを叩かれた場合12000以上が確定する親と場況的に一番悪いマンズで捲り合いを強いられることになる。
ここでの選択はまずはダマテン、が叩かれるのか様子を見る為だ。
結果篠原から声はかからず次巡に持って来た牌は。まだは自分が切った1枚しか見えていないが、これなればもう迷いは無い。
を横に曲げ、一発で手元に引き寄せたのは。
ツモ ドラ 裏ドラ
安めだが一発に裏ドラも載り、非常に効率的な跳満の和了。
自らの思考とツモ筋が最良の結果を生み出した。
かくして3回戦目にして、今期初となるトップを奪取。
本日最終戦となる4回戦目。
ここを3着で終えればこの日を浮きで終了となるところだったが、結果は嶋村がトップ、私がラスで終了。
4名の初節の結果は以下の様に終わった。
清原 70.0
篠原 7.3
武中 -12.3
嶋村 -65.0
この日4人の勝ち頭となったのは1、2回戦で連続トップを取った清原。
篠原もそれ程展開に恵まれていた訳ではないが粛々とゲームを回し、浮きをキープした。
私は3・2・1・4のサイクルヒットで素点負け。
好スタートとは言えなかったが、初のB1リーグでの開幕戦。悪い立ち上がりとはならず少し安心したというのが本音でもある。
そして最後にマイナス65ポイントと苦しい立ち上がりとなったのが嶋村。この日は終始劣勢に立たされる場面が多かった。
しかしこの日同卓者4名の中で一番強いインパクトを残したのは、間違いなく嶋村だったであろう。
この日3回戦終了時に負債が既に100ポイントを超えていた嶋村。
百戦錬磨のベテランとは言えども、この日の最終戦トップで終えたいという思いは4人の中で一番強かった筈だ。
その豪腕が南1局、驚愕の和了を生み出す。
ツモ ドラ
何とこの手、リーチである。
全員の河はそれほど変則的ではなかったし、ドラ色のソーズは場に一番高い状況。
マジョリティはもっと待ち頃の牌を見つける為にダマテンにするのだろう。
しかし親の篠原が一つ仕掛けを入れた瞬間、嶋村は腕を振り下ろして確かにツモ切りリーチを宣言し、終盤にツモってみせた。
まるで己が逆境を力でねじ伏せんとする様な執念の結実に、同卓者3名はその最終形を凝視する。
勝負勘、経験則、指運。言葉一つではこの和了を表現するには不十分なのだろう。
只何十年と最高位戦リーグ戦の舞台で戦い続けてきた重みを、この和了に感じずにはいられなかった。
思えば最高位戦の門戸を叩いた約5年前、最初にAリーグで採譜を取った相手が嶋村だった。
当人にとってB1はAリーグへ戻る為の通過点であり、本意とする舞台ではないのかもしれない。
しかし私にとっては当時は背中しか見ることのできなかった相手と、この日対峙できた感動は筆舌に尽くしがたいものがある。
勿論敵は嶋村だけではない。
これから1年間B1で戦っていく相手はほとんどが私より格上の猛者達なのだろう。
未だ道の半ば。
どの様な結果が最後に待ち受けているにしろ、今期の戦いを最後まで楽しみ又糧としたいものだ。
―36期B1リーグ第1節結果
1 冨澤 直貴 109.7
2 中嶋 龍太 90.5
3 清原 大 70.0
4 浅埜 一朗 67.3
5 坂本 大志 60.9
6 浅野 剛 38.3
7 新井 啓文 20.0
8 篠原 健治 7.3
9 谷口 竜 0.5
10 武中 真 -12.3
11 山内 雄史 -15.8
12 中村 英樹 -41.9
13 嶋村 俊幸 -65.0
14 山口 まや -87.8
15 齋藤 敬輔 -106.1
16 いわま すみえ -135.6
文責:武中真(文中敬称略)