第4話
最終6回戦、同卓は金選手、近藤選手、中里選手。
自分のポイントは116.5、94.1ポイントの金選手にまくられなければ決勝進出なので、金選手とのサシウマ勝負のつもりで席につく。
とはいえ金選手がトップでも自分が2着か浮きの3着なら決勝進出の可能性は高い(別卓で山下選手がトップ、田幸選手が2着だとまずいが、他の並びならだいたいセーフ)ので、金選手がトップの展開ならば無理に捲りに行ってラスをひかないようにしなければならない。
どちらにせよ相当有利な状況なのだ、さすがに普段のバランスで打つわけにはいかない。
東1局、中盤にタンヤオ3色のカン、ヤミテン5200をテンパイした。
2巡後近藤選手からリーチがかかり、いったんは現物を切って回る。
終盤、タンピンで張りなおして1牌勝負、すぐ2000を出アガりできてかなり楽になった。
近藤選手、中里選手は自分か金選手を沈めた上にかなり大きなトップが必要なので、2人の打ち方はもともとかなり限定される。
そんな状況下で先行できれば、リーチを極力避け、手牌や打点を読むことでラスはかなり回避できる。怖いのは三人がそれぞれ大きな手をツモアガりしてしまうことだが、たいていは下位者が無理して放銃するものだ。
ダンラスができてしまえば、自分の決勝進出の可能性はかなり高くなる。
その後は近藤選手が東場の親でリーチ一発ツモの4000オール、南場の親でもヤミテンのチートイドラ2をツモって4000オールとダントツになるも、自分もヤミテンで2900、3200とアガりがっちり2着キープ。当面のライバルであった金選手に手が入らなかったこともあり、かなり楽な形で決勝進出を決めた。
さて、最終戦ダントツのトップで終えた近藤選手であったが、トータルポイントは約プラス90。
別卓で山下選手(RMU)がトップだった場合、田幸選手(協会)がラスでないと決勝には行けないのだ。
会場であるバカンスはそれほど広くはないので、山下選手の点数申告の声が何度も聞こえて来ていた。
近藤選手もその声が聞こえていたのだろう、5万点を超えた後も必死にアガろうとしていた。
田幸選手の卓は山下選手以外は大トップ条件のアマチュアが2人、おそらく3着あたりに滑り込むことはたやすい。
山下選手がトップであれば、近藤選手は残念ながら決勝には進めないと思っていた。ところが…最終戦別卓、トップ山下、ラス田幸!
近藤選手が田幸選手をわずかにかわして決勝進出を決めたのだった!!
不謹慎と思われるかもしれないが、決勝メンツが決まった瞬間、近藤選手と握手をかわし、心から喜んだ。
それは決勝で田幸選手より近藤選手がやりやすいとか、最高位戦選手が2人になるから、とかそんな理由ではない。
近藤選手は自分と同期のプロ入り14年目、最高位戦が協会と分裂した後最も苦労したのは間違いなく事務局長の近藤誠一さんだった。
自分も理事という立場になり最高位戦の建て直しに協力したが、どうしても「選手でありたい」「もっと麻雀が強くなりたい、麻雀の勉強だけやっていたい」という意識が強く、事務仕事は誠一さんにまかせきりになっていた。
誠一さんは事務関係を一手に引き受けながらもAリーグに昇級した。
麻雀プロになる前は塾講師という経歴からもわかる通り、頭の回転は自分なんかよりも全然早い。
麻雀も強いはずなのだが、麻雀に集中できないせいかAリーグの成績も思わしくなく、タイトル戦でも決勝まで行くことはなかった。
自分と違って毎日麻雀が打てない分、反射神経なども鈍ってくるだろう。
そんな苦労をずっと見ていたからこそ、純粋に決勝進出が嬉しかっただけなのだ。
もちろん同卓すればそんな人間関係など微塵も関係ない。
麻雀は自分以外全員皆殺しにするつもりで打たなければならないゲームなのだから。
私情を挟んだら八百長になってしまうのだ。
自分はそう思う。
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