皆さんは最高位戦Classicというルールをご存知だろうか。
一発、裏ドラが無く、もちろん赤ドラも無い。カンしてもドラは増えず、増えるのは符だけ。
テンパイ料がなく、リーチ者も流局時は手牌を伏せる。
ドラの枚数が極端に減るため打点が高くなりにくく、低打点でジリジリとした展開が続くことが多い。
打点が高くなりにくいということはつまり、オーラスでの着順上昇条件も作りにくいということだ。
しかしだからこそ、副露での1000点などの低打点の価値が高くなるのが面白いルール。
さて、本記事ではそんな最高位戦Classicルールで1月22日(日)に行われた、最高位戦Classicプロアマリーグ2022決勝の内容を記していく。
決勝進出選手
田中恭平 選手(最高位戦日本プロ麻雀協会)
大森康弘 選手(最高位戦日本プロ麻雀協会)
島方武司 さん(一般)
奥山春文 さん(一般)
《1回戦》
座巡は起家から、田中―島方―奥山―大森(以降敬称略)の並び。
【東1局 1本場 ドラ】
東発から景気の良い2000オールで先制に成功した田中が、1本場でも好配牌。
8巡目にテンパイへこぎつける。
か
の選択。
2枚差での方が多いが……
ここは待ちを選択。索子の方が場に安く、中でも
はかなり山に残っていそうだ。
田中が選び抜いたは……
しっかりと2枚残っていた。
最高位戦Classicルールでは副露が増える傾向にある。
相手の副露の手役を読み、ターツ構成をある程度読むことができれば、こうした山読みも精度を増していく。
立て続けの2000オールで、田中がリードを広げる展開で1回戦は進む。
(アガリを決めた田中)
【南2局3本場 供託2 ドラ】
最高位戦Classicルールの特徴としてもう1つ。
形式テンパイが無いので局の終盤でオリの判断に回ることが多い。
そうなると自然と流局も増える。
この1回戦もその例に漏れず流局の多い展開で、南2局は3本場になっていた。
親番を迎えた島方が、この下家から切られたをポン。
裏や一発が無い影響でリーチがあまり強くなく、相対的に副露が強いこのルール。
ポンから発進して、狙いを萬子のホンイツか、トイトイに絞った。
白を暗刻にして手牌を進めていた島方が、このドラを引いて選択を迫られる。
高くするなら、問答無用で切りだ。親の倍満まで見えるようになるのだから。
しかし島方はを切った。
打点はドラを引いたことによってある程度担保された。このルールであれば親の満貫12000点は十分に決まり手になり得る。
ならば倍満狙いの切りよりも、他者視点盲点になりやすい
を狙った形。
これが功を奏して、下家の奥山から切られたをポンすることに成功。
安目のでも満貫のテンパイを入れると、
さらにそのを次巡更に持ってきて、カン。
カンドラが増えないため、加槓のリスクも少ない。当然のカンをして嶺上牌に手を伸ばせば――
嶺上開花!
本来ツモることのできない高嶺に、ドラが眠っていた!
手牌に溺れず、優秀なポン材を残した島方の技ありのアガリ。
あまりにも大きすぎる6000オールで、島方が一気にトップ目へと突き抜ける。
この大きなリードを守り切って、1回戦は島方がトップ。東1局で点棒を稼いだ田中が2着となった。
(1回戦トップとなった島方)
〈1回戦結果〉
島方 +31.6
田中 +11.5
奥山 △13.0
大森 △30.1
《2回戦》
座巡は起家から、田中―島方―大森―奥山
【東3局 ドラ】
副露が強いルールだからこそ、役牌は鳴く手順になることが多い。
しかしこの局の奥山は違った。
大森から切られた、2枚目の中をスルー。
これを鳴いても1000点にしかならず、そしてその1000点すらも相手の先をとれるような手牌ではない。
であればこれを鳴かずに、安全度を保ちながら、手牌を育てる進行。
更に局面は進み、ここでが暗刻になるも……奥山はこの
をツモ切った。
中をスルーした段階で、この手にトイトイや順子手の未来はない。であれば、ドラを引いてのチートイツドラドラか、字牌を重ねてのメンホンチートイツで高打点を狙いたい。
チートイツはただでさえ他の手役に比べテンパイへの枚数が少ない手役。
ここはチートイツへの重なりをマックスに見る一打。
この構想がズバリハマる。
地獄単騎のを1回戦トップの島方から捉えて8000のアガリ。
中を鳴いていく打ち手も多そうな手牌だったが、打点を見たスルーで見事高打点へのルートを逃さなかった。
(見事高打点をモノにした奥山)
2回戦は親番で多くの加点をモノにした大森がトップ、そしてこの見事な8000をアガった奥山が2着につける形で決着。
〈2回戦結果(カッコ内はここまでのトータルスコア)〉
大森 +28.8(△1.3)
奥山 +9.7(△3.3)
島方 △12.0(+19.6)
田中 △26.5(△15.0)
《3回戦》
座巡は起家から、大森―奥山―島方―田中。
総合順位的にも、ここで島方にトップをとられると他3は厳しくなる。
そろそろ着順意識もしなければなくなってくるのが、3回戦だ。
東場は大きなアガリが出ることなく、南場へ突入。
【南1局1本場供託1 ドラ】
親番を迎えた大森に、ここでチャンス手が入る。
ドラドラで手なりに進行してもホンイツまで見える超勝負手。
副露前提でも跳満まで見える手だ。
道中、下家の奥山からドラのが出てポン。一旦自身2枚使いのカン
テンパイではあるが、
ホンイツドラ3の跳満テンパイだ。
そしてここで上家からが絶好の待ち変えチャンス。
もちろん大森はチー発声。
しかし実はこの時……
大森の下家に座る奥山がの
で三色のテンパイを密かに入れていた……!
大森のドラポンを警戒しダマ選択。後ろで見ていた私は静かにこの局の終わりを感じ取った。
跳満テンパイでは、流石に放銃は避けられない……。
……思わず声が出そうになったのをギリギリで堪えた。
何故その牌が止まる……?!
神回避の切り。一体大森の目には何が見えているのか。
大森は対局後、この局について「このルールなら12000で十分決定打になりうる。は危険牌だしね」と口にした。
しかし副露している田中はが2巡目に切っていて
ポンなので比較的打ちやすく、他2人はリーチはおろか副露も入っていない。
切りで跳満なら
を切ってしまう人が多数派に見えるが、大森は放銃を回避した。
(見事な放銃回避を見せた大森)
このClassicルールで勝てる打ち手は、こうしたリスク管理に長けていると、私は思う。
ダマテンに対する嗅覚。自身の手牌価値を鑑みた押し引き。
大森がこの決勝の舞台までたどり着いた理由の一端を、見た気がした。
【南4局 ドラ】
現状トータルでもラス目の田中がオーラスの親番で勝負に出る。
2つ役牌を鳴いてホンイツの仕掛け。
田中に選択の機会が訪れる。
ここまでは単騎だったが、これで
に待ちを変えることができるようになった。
田中はさほど時間を使わずに西を切った。
打点を作らなければならない立場の島方、大森両者の捨て牌が濃く、自身もホンイツなのは他3人にもちろんバレているため、字牌単騎がそれほど魅力がない事。
は残り1枚しかないが、その
は山にいてもおかしくないと田中は感じ取った。
しかしこれが痛恨の裏目……
オーラスの条件を作りに来る手組が多かったからこそ、田中の山読みを狂わせた。
そしてその裏で、虎視眈々と逆転の機会を伺う選手が1人。
島方だ。2副露で親の田中に危険なも勝負して、チートイツドラドラのテンパイ。
出アガリでも3位になれるこの手をダマに構えた。島方はトータルトップ目。この3回戦が3位に上がるだけでも大きな価値がある。
勝負は流局間際。
流局で、奥山が薄氷のトップとなるか……と思われたその瞬間。
海の底に、島方のアガリ牌が……!
ハイテイもついての3000/6000は、なんとトップまで駆け上がるアガリ。
島方にとっては願ってもない僥倖。そして他3者からすると絶望的ですらあるアガリになった。
〈3回戦結果(カッコ内はここまでのトータルスコア)〉
島方 +16.5(+36.1)
奥山 +7.4(+4.1)
大森 △18.5(△19.8)
田中 △1.4(△20.4)
《4回戦》
最終4回戦が始まった。
3回戦オーラスの島方のラス目からトップ目のアガリにより、田中大森の両者はかなり厳しい条件がつきつけられた。
総合2位の奥山とて、簡単な条件ではない。だが、島方以外の3人の共通見解として、『島方がラスでなくてはいけない』ということが前提にあるのは大きいか。
それが色濃く出るシーンが南3局にあった。
【南3局 ドラ】
現状2位につけている奥山が、ピンフドラ1のテンパイ。
通常の状況であれば喜んでリーチをかけるところだが、奥山はこのテンパイすらもとらなかった。
対局後に奥山はこの選択について「現状ラス目の大森さんにアガって欲しかった。タンヤオがついてメンタンピンになったり、ドラを重ねたりしたらリーチをする選択肢もあった」とコメント。
島方をラスにするためには、大森のこの親番でのアガリは必須。
自分がこのピンフドラ1をリーチしてツモっても、オーラスの条件はかなり厳しい。
であれば大森が満貫をツモって島方が3位になってからの方が、オーラスの条件は比較的緩くなる。
そしてこの選択が、奥山にとって理想的な展開を演出する。
なんと親番の大森が満貫をツモることに成功したのだ。
これで一時的に島方がラス目に。大森の捨て牌にはが置いてある。
これの意味するところは、少なくとも奥山がリーチをかけていればこの状況にはならなかった、ということだ。
そして勝負はオーラスに突入する。
【南4局 ドラ】
オーラス、奥山の条件は1000/2000、のツモ。
南3局の選択で上手く並びを作ったのが功を奏した。自分がトップにさえなれば、奥山の優勝。
しかし冒頭でも述べた通り、このルールは条件をつくるのがとても難しい。それはたとえ1000/2000であったとしてもだ。
これが奥山の配牌。手っ取り早いのはドラが手の内にあって、リーチツモドラ1の1000/2000だったが、残念ながらドラはない。
道中でドラを引くか、役牌の南を暗刻にしてのリーチか……。
奥山が丁寧に手牌を進めていく。道中で自風のも重ねることに成功し、どちらかが暗刻になれば条件クリアだ。
テンパイに辿り着いた……!
三色の変化を待つ手もなくはないが、ここはもう、どちらをツモっても優勝がきまるリーチへ!
待ちの南西は山に1枚。そのラスト1枚は……
奥山のツモ山に残っていた!
1300/2600は文句なしの逆転劇。
南3局で他家を使った着順操作を試み、それを成功させたうえで、オーラスの条件も完遂させてみせた奥山が見事逆転優勝となった。
素晴らしい4回戦での着順操作と、そこに行きつくまでの打点意識が要所要所で見えた奥山。
文句なくこれは奥山自身が自力でつかみ取った優勝と言えるだろう。
奥山は「周りも強かったし、条件戦ならではの面白さがあった」と語っていた。
確かに、終盤の3回戦からは着順を意識した条件戦ならではの面白さがあったと思う。
そんな高レベルな条件戦が体感できるのも、プロアマClassicの魅力。
是非皆さんも、参加してみてください!
文:後藤 哲冶