コラム・観戦記

【東海Classicプロアマリーグ観戦記⑥】~ありがとう最高位戦 ありがとう東海支部 醍醐大の包容力に、団体愛を考える

追憶のZ

今年最後のプロアマリーグとなった12月18日。
関東では新輝戦の決勝が行われていた。

スマホに映る決勝卓を見て、心の内に閉じ込めていた悔しい気持ちが蘇ってきた。
最高位戦内のタイトルであるこの新輝戦、私は結構いいところ(ベスト16)まで残っていたのだ。

 

あの日の朝、決勝へ進むための対局に臨んだとき、脳裏に浮かんできたのは東海の仲間たちの顔だった。
(後半に続く)

 

最高位戦のお父さんが沈んでいく

この日のエキシビションマッチは、そんな東海の若手たちがゲストである醍醐大選手に挑戦する、という構図になった。

東家・宮下史也 最高位戦
南家・川村靖広 一般
西家・醍醐大  ゲスト
北家・内藤岳  最高位戦

 

場が動いたのは東4局。

「リーチ」
「リーチ」
「リーチ」

Classicでは異例となる3軒リーチ、その3軒目の醍醐の宣言牌が親の内藤に捕まる。

メンタンピンの5800。

 

45期後期入会・内藤岳
2年前、北海道から東海に移籍してきた内藤は、今年「タイトル求めて三千里」という二つ名で麻雀最強戦に出場した。

 

タイトル戦の予選ならばどこであろうと参加する意欲。
それだけでなく普段からの勉強も欠かさない。この日の飲み会でもゲストの醍醐に何切るを聞きまくっていた。

内藤「これ打でいいです?」

醍醐「僕も切るね」

内藤「やったぁ!ギモチイイィー!」

内藤「次なんですけど、これはですか?」

醍醐「いやーこれは相当だね」

内藤「クゥゥゥゥ…キモチイィイイイイ!」

 

駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。

 

東4局1本場、巻き返したい醍醐の配牌。

字牌の重なり次第では…という配牌だが、これが意外とまとまり、7巡目には

ここまで進んでいた。
Classicルールではカンをしても新ドラが増えない(=相手の打点が高くならない)ので、醍醐はツモってきたを迷わずにカン。
そしてリンシャンからツモってきたのは一見不要に見えるである。

 

か)
醍醐は自分の捨て牌にあるを見つめる。
戻ってきたになんらかの運命を感じたのか、醍醐は2枚切れのを切った。

なるほど、こうしておけばをポンしてタンキやソウズ待ちになった時に、をあとから切ることによってソウズのホンイツがぼやける。そして実戦のように

マンズにくっつけば3巡目に切ってあるによって、強い待ちになる!

暗カンのおかげで打点も3900とそこそこだ。

 

「リーチ」

エキシビションマッチ二度目の登場となる、炎のリーチファイター川村から火の手があがるも、リャンメン3900のテンパイとあっては無筋をプッシュしていく醍醐。

 

「ロン」

「7700は8000」(リーチ・ピンフ・一気通貫)

醍醐が再びツモってきたが捕まったのだ。

この日の醍醐はほぼ全局と言っていいほどテンパイが入るものの、勝負手が実らずにダンラスへと沈んでいく。

 

宮下の奇跡

南2局、はっきり言って宮下は諦めていた。

11巡目にこの手牌。

9種あるので国士が狙えるが、11巡目とあっては遅すぎる。次に何かが重ねればホンロウチートイツのイーシャンテンになるのでそちらの方が現実的か。

 

だが宮下がツモってきたのはだった。これで10種。静かにを置く。

宮下史也、23歳の新人である。

ノンフィクションだからこそ面白い、と麻雀の魅力を語る宮下の手牌が、フィクションかのように進んでいく

あれよあれよのうちに国士無双をテンパイしたのだ!

待ちのは2枚切れている上、さきほど川村(下家)が切ったばかり。

 

大金星をあげてしまうか…

宮下の緊張が伝わってくるが、見ているこっちも違う意味で緊張してくる。

 

(そわそわして対局者に国士テンパイが伝わってはいけない。

かといっていきなり視線を外すのも逆に不自然か?

いつもの俺はどうやって観戦していた?落ち着け…。そうだ、お茶でも飲もう。)

 

と、サイドテーブルに手を伸ばすと…

ドンガラガッシャーン!

ああ、ご無礼。スマホを落としました。

 

(めっちゃ怪しくなってしまった!ごめん!宮下くん!)

 

などと1人で何かと戦っていると

 

「ツモ、1000オール」

と川村がアガっていた。

 

オーラス、醍醐以外の3者が並ぶ中

内藤による決め手(12000点)が炸裂し、決着はついた。

 

対局が終わったあと対局者を含めた多くの選手が醍醐に対し、打牌に関する質問をぶつけていた。

若い打ち手の多い東海支部に対し笑顔で受け答えする醍醐を見ると、最高位戦のお父さんといった雰囲気である。

 

帰属意識

人は誰もが帰属意識を持っている。
帰属意識というのは、自分の所属している組織や団体に対し、必要以上の愛着を感じてしまうことだ。

 

良いとか悪いとかでなく、これは人類に植え付けられた本能である。

 

石器時代、我々の祖先は獣や飢えから身を守るため、村を作った。
その村に属していれば一緒に狩りもできるし食料も分け与えられる。
逆に言えば村から孤立すると、それすなわち死を意味するのだ。

 

帰属意識は自分を守るための本能であり、それが現代の人類にも受け継がれているというわけ。

 

――その中でも私は帰属意識の薄い人間だと思っていた。
天涯孤独の無頼。信じられるのは自分のみで、最高位戦に入ったのも自分の力を見せつけたいからであり、決して仲良しこよしがしたいわけではない。

 

だから、ベスト16を迎えた朝、東海の面々が浮かんだ自分自身に驚いた。

 

最高位戦に入会してちょうど一年になる。
東海支部として活動していく中で、いつの間にか私の中にも帰属意識が芽生えたのだ。

 

思えばこのベスト16に勝ち進むまで、多くの予選で同卓者を倒してきた。
1次予選も2次予選もギリギリの戦い。
出場者全員、わずかな勝者を決めるため、一日の予定をあけ会場に集ったわけだ。

 

こうして負けていった同胞たちは、恨み節1つ口にすることなく、会場を去っていく。
その姿を何人も見届けてきて、自分だけが残っているのは不思議な感覚になる。

 

東京で行われた本戦も同様。
久々に牌で会話したアサピン(朝倉康心選手)も、次点で破れていった同じ東海の中野ありさ選手も、この記事を編集している浅見真紀選手も、凛とした表情で戦い続け、ギリギリのところで散っていった。

 

ベスト16に残ったとき、東海勢は自分だけとなっていた。

 

帰属意識なんて、1人で生きていける現代においては不要なのかもしれない。
でも私はTwitterを覗いたときに目に入った、多くのファボやメッセージに自分だけの戦いじゃないんだと初めて感じ、そして感謝した。
あの日の朝、東海を代表して戦いに赴くような、そんな感覚になったのだ。

 

――結局、私は何もできずに負け、多くの敗者たちと同化した。

 

おそらく、これからもずっと負け続けていくのだろう。

 

 

一年間、ありがとう最高位戦。

一年間、ありがとう東海支部。

 

何も為せなかったけど、少しだけ仲間の一員になれた気がする。

 

来年もよろしくお願いします。

 

文:沖中祐也

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