最高峰の舞台が開幕
プロ入り初年度の私(沖中)は初めて知ったことがある。
なにやら最高位戦にはオフシーズンがあるらしい。
10月にリーグ戦の全てを終え、次のリーグ戦が始まる春先まではあまり予定が入らないとのこと。
そのオフシーズンに入る前の一大イベントとして最高位決定戦がある。
選手がみな憧れる最高峰の舞台。4度目の挑戦になる園田賢は「最高位は入ったときの目標である」と語りつつも「必ず勝ちます」というありふれた宣言は絶対にしない。
「確率でいったら25%なんですけど、それを25.5%…26%と少しでも勝てる可能性を高められるように頑張っていきたいと思います。」
【開幕直前】第47期最高位決定戦選手インタビュー(YouTube最高位戦チャンネルより)
このように園田はいつも身も蓋もないことを言う。
良く言えば実直、悪く言えば面白みのない意気込みといったところだが、それは麻雀の本質に対して真摯であるとも言えないだろうか。
最高位戦Aリーグでは
恐るべき成績を残しているが、Mリーグでは大きくマイナスしている。
これをもって「園田は赤入りに向いていない」と揶揄する人もいる。しかしそれは間違っている。
ちょっとのルールの差で実力は大きく変動はしない。
その人の実力を判断するにはあまりに半荘数が少なすぎるだけだ。
園田はAリーグで勝っているのもたまたまだし、Mリーグで負けているのもたまたまだと語る。もちろん勝つ確率を高める努力最大限した上で。
そのたまたまに、我々は一生を賭す価値があるのだろうか。
前回も同じような問いかけをしたような気がしないでもないが、私は常々なんのために麻雀をやっているのかと考えてしまうのだ。
おてんば娘による驚愕のリーチ
あつしぼのぬくもりに感謝する季節…。
老舗の落ち着きと高級感を兼ね備えた雀荘「琥珀」にて東海Classicプロアマリーグ第3節は行われた。
Classicの良いところの一つとして紹介したのが「みんなわかっていない」点にある。
Classicは強者を凡夫に変える。園田も「手探り段階ですが…」と挨拶をする。
4半荘は滞りなく終わり
(プラスの方だけ掲載)
エキシビションマッチに進出する3名が決まった。
東家・日比琢也 最高位戦
南家・佐藤芽衣 最高位戦
西家・早見 一般
北家・園田賢 ゲスト
東1局が全てである。
「慎重に決める」
配牌を見た北家・園田は色めきだった。
マンガンからハネマン…最高で役満まで見える配牌である。
慎重に、目立たないように端牌から並べていき…
「ポン」「チー」「ポン」
高めのドラでハネマンのテンパイを組む。
なるべくソウズと悟られないよう道中ツモってきたを引っ張るなどの工夫をこらしたものの、3副露となってしまってはさすがに目立つ。
何より園田は北家である。
この仕掛けを受け、親の日比も2副露して対抗。
さらに南家の手牌。
役無しドラ無しの手牌。
園田の仕掛けに対して、とどちらも切りづらい。
「リーチ」
見ている誰もが耳を疑った。
この手牌の持ち主は…
東海のおてんば新人、佐藤芽衣。
東海だけならず、関東でもひそかにブームを巻き起こしている佐藤。
その佐藤の魅力を一言で表すなら、平等な人懐っこさ、になるだろうか。
相手が誰であろうと親しげに話しかけ、笑顔を振りまく。
あるとき、参加者の方が帰ろうとしているとエレベーターまでついていき挨拶しているのを見た。
帰ってきた彼女に対し「偉いね」と言ったら、何を褒められたのかわからなかったようで、キョトンとしている。
プロ意識ではなくそれが彼女の自然体、なのだろうか。
またtiktokにも動画を上げ続けフォロワーを獲得するなど、おじさんからしたらよくわからないが、今どきの言葉で言うと「陽キャ」になるのだろう。
とはいえ…
このリーチは厚かましすぎないか。
Classicルールにおいては、たとえリャンメン待ちだろうと「リーチのみ」はご法度とされている。リーチ棒の1000点が重く、オリられて流局するとテンパイ料すらもらえない。リターンが1300点では割に合わないのだ。
だからClassicでは、なるべくリーチに頼らないように手を組むのだ。
ましてや今局は園田の派手な仕掛けに加え、親も2副露していて、ドラの北も見えていない。
勝算が低い上、あまりにリスクが大きく、そしてリターンが低い。
逆・逆・逆…すべての要素がリーチにいきづらくなっている。
「ロン」
いきなりの修羅場を制したのは…
まさかの佐藤だった。
テンパイした親の日比からこぼれた中で、1300点のアガリ。
(まじかよ…!)
アガリ形を見た園田の表情が歪む。
アガった佐藤は、あの時と同じようにキョトンとしていた。
結果的には親のテンパイと園田の大物手を蹴ることに成功。
ご法度とか普通とか誰が決めた?
やはりこれが彼女の自然体なのだと思う。
ある程度Classicを嗜んだ人なら絶対打てないリーチ。
でもこのアガリが後に続く佐藤のワンマンショーへのスイッチだったように思えてならない。
東2局・3局は
「大学で勝手に麻雀サークルを作るくらい麻雀が好き」
と語る日比琢也が細かくアガリを拾い、迎えた東4局。
「チー」
佐藤がここからをチーした。
を切るものだと思っていたが、彼女はを切る。
「ツモ 2000/3900」
見据えた最高形が成就する。
南入して早見にチャンス手が入る。
6巡目、ここからを切る。タンヤオ三色(567)を強く見た選択だったが…
チートイツのテンパイに!そっとを河に置く早見。
ナイスミドルといった風貌の早見は、雀歴37年のツワモノ。
瀬戸熊直樹プロ(日本プロ麻雀連盟)を尊敬し、門前派を貫いているという。
しかし雀歴37年のハネマンテンパイを…
佐藤がギャラクティカツモのみでキックする。
今度はダマなんかい!
「だってトップ目だし…」
オーラス、失意の早見に逆転手が入る。
すぐに佐藤もテンパイ。
ドラも見えていないし、は通っていない。
でも佐藤なら…
もうワクワクして佐藤の選択に釘付けになっている自分がいることに気が付く。
「リーチ!」
おてんば娘は卓上を自由に駆け回った。
三人は完全に脇役になった。
早見が力なくを切る。
「…ロン、1300」
こうして二度のリーチのみで、佐藤はエキシビションマッチを制した。
「いやー緊張しましたよ」
そうは見えなかったけど。
「あれはリーチですか?」
いや単騎はダマにしたほうがいいと思うよ。
「そうじゃなくてオーラスのです」
あれも怖くてリーチしづらいけど、リャンメン待ちだしアガればトップだからいいんじゃない?
「だってリーチ棒出すと、2.3着目の条件がマンガンで良くなって…」
案外細かいところを考えているんだな…
大胆な部分と繊細な部分のギャップに笑えてくる。
前回の新津代表とは違った意味で「麻雀の根源的な楽しさ」を、麻雀覚えて数年という彼女から教わったように感じる。
「リーチのみはご法度」なんて勝手な縛りを設けるのは良くないな。
奔放なチャンピオンを見て、そう感じたのだった。
(文・沖中祐也)