(インタビュー・執筆 小西雅)
タフな人、これが彼女に対する印象だった。
麻雀Bar Hana Hana*、麻雀SAKURAのオーナーで、いつもどちらかの店舗に必ずいる。
リーグ戦や予選の後も必ず店にいる。いないと思ったらゲストで遠征。深夜まで飲み会に参加していたと思ったら、次の日には元気に出勤。Twitterではお店のための買い出しなどのツイートを見かける。
140cm後半の小さな体のどこにこんなパワーがあるのだろうか。
足立 玲(あだち れい)
足立とは2度ほどゲストに一緒に入ったことはあるが、どんな人なのか全然知らず、聞くきっかけもなかった。少し緊張しながら大阪十三にあるHana Hana*に向かうと、足立のトレードマークともいえるパンダたちとともに出迎えてくれた。
吹奏楽部がないから作った高校時代
兵庫県で生まれた足立。
家庭の事情が複雑だったんだよね 。
3人兄弟の真ん中で、3人とも父親が違い、兵庫と大阪を転々とする学生時代だったそうだ。話だけ聞くと筆者ならグレてしまいそうな環境に思える。
グレたりはしなかったんだよね。中学の時は吹奏楽部に入ってて、全国を目指すような厳しい学校で。365日中2、3日しか休みもなくて、グレる暇がなかった感じかな。
(画像:最前列左から2番目が足立)
さすがに家族と接する時間がなく、高校では吹奏楽部のない、制服の可愛さで選んだところに進学。部活もするつもりはなかった。
進学先でたまたま仲良くなった子が吹奏楽やりたいって言い始めて。作っちゃったんだよね、吹奏楽部。
入学してすぐ上級生に声をかけ、顧問を探し、楽器も集め、吹奏楽部を立ち上げた。足立が立ち上げた吹奏楽部は今でも活動を続けている。
この頃から、「ないものを作る」という活力と行動力があったのかもしれない。
高校卒業後には企業に就職する。
ネイリストになりたくて。自分のお店も出したかったんだ。勉強も嫌いだから大学に行きたいとかもなくて、とりあえず美容室にアシスタントとして就職したの。
これが大変な会社だった。
要は、ブラック企業ってやつやって。新人研修で山奥にこもって、大声出したり、お辞儀の練習したり、運動したり。先輩とチーム組むんだけど、玲がミスすると先輩がスクワット100回とか。ほぼ精神修行やったね。
1、2週間でやめる人もいたとのこと。
ソーラン節を会社の発表会で踊ったこともある。18歳でソーラン節の練習を泣きながらしたよね(笑)。
でも嫌いじゃなかったんだよね、こういう体育会系のノリ。頑張ることも好きだし、中学の吹奏楽部で慣れてたというか。
でも搾取はされてたよねと笑いながら話す足立。
結局、1年経たないほどのタイミングで体調を崩し、この会社を辞めることになる。
始発から終電まで美容室にいて。レッスン、仕事、レッスン。
毎日行っても1ヶ月の給料が10万ないくらいで、しかもレッスン料まで取られて。
まあ辞めるよね。
辞めた後、「新人頑張ってるで賞」のようなものに名前が上がっていたと連絡が来ていたらしく、辞める前だったら続けていたかも、と彼女は笑う。
その後、個人経営の居酒屋のでアルバイトをしながら、ネイリストの学校に通い、縁があってネイルの店で働くことに。ところが、このお店は働き始めてすぐに潰れてしまう。
自分のお店が持ちたいって気持ちはこの頃もずっとあって。
アルバイト先の居酒屋で「飲食もいいなあ、接客たのしいなあ」って思ってたかな。
3人麻雀で麻雀を覚えた
別の居酒屋でも掛け持ちでアルバイトを始めた足立は、そこで出会った男性と交際を始めた。
その男性の影響で麻雀を知り、自分もこのゲームに混ざりたいと思い、19歳の頃に独学で麻雀を覚えたそうだ。
完全にハマっちゃって。
モンド見るのが好きで、そこに出てた魚谷さん(魚谷侑未:日本プロ麻雀連盟)見て、かっこいい!玲もプロになりたい!と思ってん。
でも、試験受けようって思ったとき、玲3人麻雀しかしたことなくて。4人麻雀だと思ってなくて、必死に勉強したよね。
これを機にビッグウェーブという雀荘で働き始め、半年で最高位戦の試験を受ける。
おもろいんがさ、プロ試験受けてきたよって彼氏に報告したの。喜んでもらえると思って。
そしたらさ、「麻雀プロになって欲しかったわけじゃないんだよね、一緒にやるのが楽しかったのに」って。
えぇー、急になんやそれーってなって喧嘩別れになったんだよね。
いや確かに、なんやそれ。
そのままプロになり、ビッグウェーブでは5年ほど勤めた。オーナーの中前さんとは今でも関わりがあるという。
3麻がすごく強い人で、関西の雀荘対抗戦っていう4麻の大会があったんだけど、4麻全然したことないオーナーがそこで優勝しちゃって。
玲もそういうので成績残したいなーって。尊敬する人の1人かな。
プロ4年目。ビッグウェーブを辞め、雀荘ポン太で社員として働き始める。
競技が4人打ちだから4人打ちの雀荘で働いたほうがいいって色んな人に言われててんけど、中前さんが「3人打ち強い人は、4人打ちも強い」って言ってて。中前さんみたいになりたいって思ってたから、3人打ちの腕を磨こうって思ったんよね。
4人打ちはゲストや勉強会で打って、リーグ戦に臨む感じだったかな。
仕事を掛け持ちし、毎日18時間働いた資金でBARのオーナーに
ポン太で働いていた頃、足立は居酒屋でもアルバイトしていた。聞けば、11時から23時はポン太、24時から6時まで居酒屋。体力おばけ鉄人足立玲。
雀荘だけだと貯金できなくて。生活費もプロ活動費もかかるし。自分のお店をしたいって気持ちは全然なくなってなくて、むしろ強くなってたんよね。だから無理してみようと思ってん。
足立はその頃、リーグ戦で降級。タイトル戦の本戦に残ってもあっさり負ける。成績は全然残らない。
空いている日はほぼなく、いろんなことが中途半端になりそうで、雀荘業界をいったん離れようとも考えていたらしい。
最高位戦もやめようかって一瞬考えたけど、何も結果を出さずにこのまま辞めるのは嫌だったんだよね。
しばらくそのまま働き続けていたとき、たまたま見つけた物件でHana Hana*をOPENさせることになる。それが3年ほど前の話だそうだ。
色々言われたけどね。女流プロは儲かるなとか、ゲストで稼いだんやなとか、パパがおるんやろとか。
いや、玲めっちゃ働いてたしな!
本当にそう思う。毎日18時間の接客業。筆者には無理だ。
足立がHana Hana*を始めたのはもちろん接客が好きなのもあるが、もう一つ理由がある。
8歳差の弟がいたんだけど、親の離婚とかで会えなくなっちゃったんだよね。すごい可愛くて、今でも大好きなんだけど、もう10年以上会えてなくて。たぶん今21歳くらいかな。
自分が表に出る仕事を続けていたら、お姉ちゃん頑張ってるなってどこかで名前を見てくれるかもしれないなって思ったんだよね。お店にいることがわかれば会いにきてくれるかも。
お客さんもそうで、プロになってすぐのお客さんとかも、名前を思い出して調べてくれたときに会いにこれる場所があるといいなって。
OPENから3年、Hana Hana*を続けながらゲスト活動を行なってきた足立。現在は麻雀SAKURAもOPENしている。
最初の1~5年目は、プロって結果が全てだと思ってて。
でも、Hana Hana*でお客さんとの触れ合いが増えてきて、自分の下に付いてくれる子ができて。SAKURAもできたしね。結果も全てやけど、プロになりたいって人に勧めたり、麻雀教えたりしたいって思い始めて。
そうなったら、店のオーナーが弱いとか、指導してるけど弱いとか思われたくなくて、周りの人に話を聞いてもらうために強くなりたいっていう気持ちに変わってきたんだよね。
「3人打ちしてたから勝った」と言いたい
負けず嫌いだが、人と比べられる、比べるのにはかなりストレスを感じると言う足立。この気持ちの変化がなければ辛くなってプロをやめていたかも、と。
昔、「休みの日何してるの?」って聞かれてさ。
寝てるって言ったら、「◯◯プロは充実した休みを過ごしてるから玲ちゃんもそうしたほうがいいよ」って言われて、あ、玲って人と自分を比べられるの好きじゃないんだなって思ったんよね。
それこそ女流プロだからって括られるのとかも好きじゃない。自分は自分って思ってる。
女流プロだから、可愛くてちやほやされて、人気があっていいよね、と言われて病んだこともあったという。
メンタル強いってよく言われるけど結構弱いからね!
強くていいなーって言われるけど、強くない。でも弱いことを言う必要ないかなって。
ただ、玲も悟り開いてるわけではないからちゃんと傷つくときは傷ついてたよ。
ここまできたのは自分が頑張るのが好きで頑張ってきたからだと、足立は言う。はじめは女流プロのお店ということでHana Hana*への偏見もひどかったのだそう。
最近お店に来る人は、そんなこと言う人だいぶいなくなったけどね。
麻雀の話だけじゃなく、人生相談も、恋愛相談もなんでも話すし、きゃっきゃうふふしてると思ってる人は一回きてみてほしいかな。
あと、俺と幸せになってくれーって人もだいぶいなくなったよ(笑)。
今後はHana Hana*とSAKURAを続けながら、これからプロになる後輩たちの手助けをしたいと言う。
玲が始めたときは(関西本部で女流の)先輩って人がいなくて寂しかったから。きっと女流プロだからって言われて困ったりする子とかもいると思うんだよね。
でも、玲が嫌な思いしてきたことって下の子にアドバイスしたりできると思うんだ。そういう存在になりたい。
もちろんリーグ戦とかタイトル戦は続けるよ!
タイトル取ったら「3人打ちしてたからです」って言いたいんだ。
「3人打ちしてるから弱いねん」って言ってきた人たちを見返したいんだよね。
もっと関西の最高位戦女子を盛り上げたいと言う足立は、店のオープン準備を始めた。
そろそろお客さんが来る時間になる。最後に本当に素朴な疑問をぶつけてみた。
パンダが好きな理由?
可愛いのに肉食だからかな(笑)。
今年も夕刊フジ杯に麻雀リズムチームで出場予定の足立。去年は惜しくもベスト16に終わったが、今年こそはベスト8の壁を超えると意気込む。
草食のイメージがあるパンダは、野生では魚、昆虫、小動物なども捕食する雑食なのだそう。4麻だけでなく3麻も突き詰める雑食で、芯の強い足立パンダの活躍に今後も期待してほしい。