文・沖中祐也
「プロアマにおけるプロ選手の意識が低い」
これは、とあるゲスト選手から頂いた指摘である。
観戦記で書くことではないかもしれないが、プロとアマどちらの立場としても参加したことのある私であるからこそ、あえてここで語っていきたい。
プロアマリーグはその名の通り、プロとアマチュアが入り混じって行われるリーグ戦であり、数少ない交流の場と言える。
プロの活動には主に2種類ある。
①リーグ戦や大会に参加することと、②麻雀を普及していくことの2つだ。
選手にとってそれぞれの比重は違うだろうが、どちらも大切なことである。その中でプロアマリーグは①の側面も持ちつつもメインは②。
決して安くはない参加費と時間を使ってお越しいただいた参加者に対し、麻雀の、最高位戦の、東海支部の魅力を伝え、参加してよかったと感じながら帰ってもらうことに全力を尽くすことが理想である。
良い大会であることが広まれば、参加者が、ひいては麻雀人口が増えることにつながり、最終的には自身に返ってくるはずだ。
とはいえプロ選手も1人の人間。報酬があるわけでもないのに(むしろ参加費を払う)運営を手伝い、麻雀を打ちながらもファンサービスをしろ、というのは酷だ。
ボランティアを強制しているようなものかもしれない。
それでも、参加を決めた以上はプロの一員として、アマ選手に楽しんでもらえることを第一に考えるべきではないか。それをふまえて参加するかどうかは本人の自由である。
そこで、具体的にどうすればよいのかを、指摘を頂いた某ゲストの言葉を使って見ていこう。
・卓を仕切る
プロが卓マスターとなり、場決め・親決めをリードしたり、全員分の点数記入を率先して行う。点数計算の確認・訂正や簡単な裁定なども行い、ゲームを滞りなく進行させる。アマチュアが麻雀に集中できるような環境を作るのだ。
指摘していただいたゲストによると、半荘間、サイドテーブルにおしぼりやゴミなどが残っていないように軽く掃除をするそうな。(私もそこまではできていなかった…)
・積極的に交流する
「東海支部のプロ達はみんな仲がいい」
どのゲストも口を揃えて言う。東海支部は、全国の本部・支部の中でも屈指の仲の良さらしい。だが、その仲の良さも時には仇となる。プロ同士でくっついて長いこと話し込んだりしている場面をよくみるのだ。
なるべく参加者の方と交流する。特に同卓者とは全員なんらかの話ができるといい。中には話すことが苦手な人もいるだろう。それでも一言話すだけでも印象は変わってくる。挨拶だけでもいい、質問に答えるだけでもいい、まずは参加者ファーストの精神を持つべきである。会場内では仲の良い相手でも「◯◯さん」と呼びあうのが良さそう。
東海支部の結束力がいい方向に向けば、とても素晴らしいリーグ戦になると私は信じている。
これらに加えて、最近私が胸に秘めていることがある。
・全力で麻雀を打つ
麻雀が始まったら話は別。交流は一切シャットアウトし、麻雀に没頭する。
比較すべきではないのだが、普段のリーグ戦や大会と比べると、プロアマの成績の重要度はどうしても下になる。しかし、麻雀において上も下もないのではないか。ルールやメンツに合わせ最適な選択を繰り返していく…経験からの反省、常に真剣に向き合うものだけがプロを名乗る資格がと私は考える。
それに参加者にとって、これが最後の同卓になるかもしれない。ならば全力で打つのが礼儀というもの。多くの卓がひしめき合う中での片隅の出来事でさえ、同卓者はよく覚えているもので、それが評判となり広がっていく。
「沖中プロは強かった。全力で打ってくれた。」
そう思っていただけるように、私は1牌たりとも気を抜かずに打つつもりだ。
打ったつもりなのだが…
麻雀は難しい。
さて前置きが長くなったが、この日のエキシビションマッチには園田賢選手が降臨した。
園田選手のホスピタリティはホテル・リッツカールトンも驚くほどのもてなしぶりで、多くの参加者に対し、一緒に写真を撮ったり、本にサインを書きながら、大きな声と満面の笑顔で対応していたのが印象的だった。
これぞプロだ。
エキシビションマッチ出場選手
ゲスト・園田賢
一位通過・ヨネヅ
二位通過・オカダ
三位通過・平根瑞大
東2局、リッツカールトン園田が魅せる。
上家の平根からリーチが入っている状況で、その平根から出たやをスルーしたのだ。切らないといけないは危険牌だが、園田は親。
この手材料をもらって2900で終わらせていては、A1リーグを勝ちきれないということか。
園田--いや、難しいですね。リーチという明確なテンパイサインが入っている以上、鳴いて捌くという選択もあります。しかしエキシビションマッチはトップを目指す方向だったので、スルーして決定打を狙いました。
こうして園田は
念願のを引き込み、一撃必殺のリーチを打つ!
しかしアガったのは平根でも園田でもなく
「ツモ2000/4000」
1位通過のヨネヅさんだった。
3人リーチをかいくぐって一発ツモを決めたヨネヅは、「タイミングがよかった」と笑顔で語る。Mリーグを見て学生時代にくすぶっていた麻雀熱が再燃したというヨネヅ。そのヨネヅにはどうしても園田に言わせたい一言があるという。その一言とは何なのか。
東3局は園田がリーチを打つも、ドラポンのオカダが平根から8000のアガリ。
アマチュア二人が抜け出す形に。
東4局は平根が2000/4000のツモ、園田が置いてきぼりとなった。
それでもギャラリーは園田の一挙一投足に注目していて、エキシビションマッチ独特の緊張感が卓を支配していた。
南2局、親の園田の手牌。
ここから打たれたをスルーした。
園田--僕はよく何でも鳴くと思われがちなんですが、実は最高位戦の中でも打点派なんです。この手はまだブロックも頭も決まっていない不安定な手なのでスルーして…
リーチに持っていったほうがいいですよね。
会場に園田の大きなリーチ発生が響き渡る。
いよいよ園田の逆転劇が始まるか--
「ロン2600」
アガったのはヨネヅだった。平根から、園田の現物であるを拾った。
園田から、例の一言が漏れかけそうになるが、まだ出ない。
決定的になったのは南3局。
「ロン、12000」
ヨネヅが狡猾なダマテンで12000を打ち取り、半荘の趨勢を決めた。
放銃した2位通過のオカダは、雀歴35年の大ベテランであり転勤族ゆえ各地の競技麻雀に関わってきたという。
結局、園田は何度もアガリ直前までたどり着くも、一度もアガれなかった。
対局終了後、ようやくあの一言が発せられる。
「なんなん?」
待望の一言を聞けて、ヨネヅは満足そうだ。
園田が打ち上げの席で語っていたことが忘れられない。
「僕がD3リーグにいたとしても、降級する可能性は十分にある」
私は耳を疑った。
園田の成績を見てもらいたい。
通算で+3588.2、A1(A)リーグだけでも1295.2勝っている。
もし自分がこの成績を収めていたら「最高位戦ルールを極めた、俺は強い」と思うだろうし、世間もそう見るだろう。しかし園田はこれだけの成績を収めつつも、麻雀の本質から目を逸らさない。
園田--間違いなく上ブレですね。一牌の後先で栄光を勝ち取るか、地獄を見るかが決まるのが麻雀です。
そうした運の要素が強い麻雀においても、1牌1牌全力で取り組み、成長への努力を惜しまず、ファンを楽しませる。これが園田の魅力であり、プロとしての意識なのだと痛感した。
ボロ負けした私の心も「また前を向いて頑張ろう」と少しは癒やされた。