文・沖中祐也
朝起きて、仕事行って、帰ってきて、風呂入って、YouTubeを見て、寝る。
安定はしているけど、繰り返しの日常は退屈でつまらない。
かといって刺激的な道を選ぶと、安定した日々が恋しくなるだろう。
安定と刺激…人間はないものねだりをするようにできているのか。
そういう意味でプロアマリーグはちょっとした刺激になっているのかもしれない。
1牌を巡る週末に想いを馳せ、それが日々の原動力になる。
この日激闘を勝ち抜き、エキシビションに参戦したちゃんこばさんもその1人だった。
180cm 95kg 仕事の関係で顔出しNGのちゃんこばが、競技麻雀にハマったのはごく最近のこと。
参加者が真剣に戦うその熱量に魅せられ、積極的にプロアマリーグに参加するようになる。
そして昨年は東海プロアマで優勝。
そう、ちゃんこばは東海プロアマのディフェンディングチャンピオンなのだ。
プロとも親交が深く、実力は折り紙付き。
そのちゃんこばが東1局、ドラのを切って 待ちの七対子リーチを打つも…
ゲストの内間祐海選手がピンフのみでスッとかわす。
以降、ちゃんこばの出番は一切なかった。
アガった内間は、21歳のときにプロになってから11年という長い月日が経っている。
「30歳になって結果が伴わなかったら辞めようとかとも考えていたんですが、最高位戦の居心地があまりに良くて、辞めれませんでした」
屈託のない笑顔で話す内間。
辞める予定だった次の年に女流最高位に輝くのだから人生分からない。
関係なさすぎて恐縮だが、祐海の祐の字が私の名前(沖中祐也)にもあり、勝手な仲間意識を抱いている。
「ゆう業界」では裕のやつが幅を利かせており、祐はいつも肩身の狭い思いをしているのだ。
話を戻して、このように内間は話しているときはとても穏やかなのだが、いざ麻雀となると視線が鋭くなり、攻めっ気が増す。
東2局内間の親番で、もう一人のゲストである竹内元太選手からリーチが入る。
捨て牌はこう。
内間が余剰牌の中からを選ぶと…
竹内「ロン、2600」
(あらあら、竹内さんちの元太くん、ずいぶん手の込んだ事をしてくれるわね)
そう思ったかどうかはわからないが、内間の負けん気に火が付いたのは明らかだった。
次局、内間の手牌。
カンもカンも待ちとしては絶好。
しかし内間は考える。
(この捨て牌でなりなりを手出ししてのリーチは関連牌濃厚を疑われる…ここは)
を切ってダマテンに構えた。
(こうしておいて678の三色、もしくは)
(手出しできる牌を持ってきてのリーチ!これならが少しだけ出やすくなる筈!)
これに飛び込んだのが親の竹内。
一発でを打ち、8000点の放銃となった。
内間(やっぱり元太くんから出るよねぇ。さきの姑息なペンのお返しよ)
竹内(いやいや、俺テンパイだからは捨て牌関係なく出るし!ってか自分もやっておいて姑息って!)
(注・選手のセリフは100%私の妄想です)
竹内元太選手 195cm 85kg。
竹内は今どき珍しいくらい純粋な男である。
実はこの夏、一緒に富士山に登ることになっているのだが、登山にハマった理由を聞いたら
「東京にいると、心が汚れていく気がして、定期的に自然に浄化されたいんです」
とかなんとか言っていた。
純粋な性格だからこそ、麻雀でも先輩の技術を素直に吸収し、タイトル(BIG1カップ)を獲ったりAリーグでも首位を走ったりと活躍しているのだろう。今が一番旬な選手かもしれない。
そんな竹内にチャンス手が入る。
(慎重に決める)
これをソウズのホンイツにするのは当たり前だが、その中でいかに目立たないように捨て牌を作るかが大切だ。北家の竹内はオタ風のから切り出した。
次のツモに竹内の表情が曇る。
(よりによってかよ…)
→と切り出していくことにより、捨て牌が目立ってしまうのだ。
それでも竹内は目立たないように外側のから切り出した。
次にツモってきたをツモ切り。リャンメン落としを極力見せないようにしているのがわかる。
そして、と引き入れてリーチを打った。
普段なら絶好となる字牌シャンポン待ち。
しかし周りの3人は捨て牌の違和感を見逃さなかった。
ツモ切りのを挟んで入るものの、、はリャンメンターツ落とし。そして宣言牌の…3人の手から字牌はしまいこまれ、この局は流局。竹内の大砲は空振りに終わったのだ。
ここまでゲストの2人がキャッキャウフフと点棒のやり取りをしているだけで、ちゃんこばともう1人の伊藤には出番が全くなかった。
伊藤高志選手 172cm 82kg。
こんな画像を掘り出してきたが、もともと伊藤は気が小さくプレッシャーに弱いタイプだ。しかし筋トレをはじめてからというものの、筋肉とともに自己肯定感が増し増し。
麻雀も自信が満ち溢れているように見えてくるから不思議なものだ。
南2局1本場。そんな伊藤の手牌。
超絶チャンス手だが、ちゃんこばから先制リーチが入っている。
(は危険な両無筋…とはいえに何かをくっつけたとして、落としていくターツが見当たらない、ならば)
伊藤はを切った。
小さくまとまっていた過去を吹き飛ばすかのように。
「ツモ、3000/6000」
守備に徹していた伊藤が、鬱憤を晴らした瞬間である。
鍛えられてたくましくなった両腕で点棒をかき集める。
しかし追撃もこの1発止まり。
トップを取ったのは、卓が小さく見えるくらいの巨漢3人に囲まれた内間だった。
あのカンの8000の他にも4000オールをアガリ、他家のリーチに対しても常に攻めっけを見せ、最後の最後までアガリきったのだ。
こうして刺激的な週末は幕を閉じ、人々はいつもの日常に戻っていく。
苦しくも楽かった卓上に思いを馳せながら。