(インタビュー・執筆:梶田琴理)
今年5月、第44期後期(2019年)入会の筆者の同期で初めてのタイトルホルダーが誕生した。
『第13回μレディースオープン』優勝、菅野真由。
延べ120名超の頂点に立ち、満面の笑みでトロフィーを掲げる元アイドルの彼女。
えええええええ 真由がタイトル獲ったぞーーーーーー!!!
とTwitterで報告。一人称が真由なのが、なんだかとても元アイドルっぽい。
正直に言おう。最初に湧き上がった気持ちは「嫉妬」だった。
同期で、麻雀歴も約4年とほぼ同じ。
公式戦でこれまで全く結果を出せていない自分の醜い気持ちに蓋をしながら、祝福のLINEを送った。
菅野は昨年、アイドルを卒業し麻雀に専念すると決意した直後の第46期後期D3リーグでも首位で2段階昇級。
乗りに乗っている彼女の素顔に迫った。
菅野 真由(すがの まゆ)
最高位戦選手ページ→ https://saikouisen.com/members/sugano-mayu/
Twitter→ @mayuyu_1226
押しまくるイノシシ打法で掴んだ初タイトル
予選大会、決勝大会の2日間にわたって行われたμレディースオープン。プロアマ混合で、延べ120人余りが出場した。主なルールは一発・裏ドラ・カンドラなし、積み場なし、テンパイ連荘、テンパイ料は場に3000点。
予選大会の菅野は、全5回戦のうち4回戦を終えた時点で通過ボーダーを下回っていた。5回戦でトップをもぎ取り17人通過の17位、わずか2.0ポイント差で翌日の決勝大会に滑り込んだ。
真由は一発・裏なしは苦手なルールだと思ってた。イノシシ打法って言われるぐらいの押し型で、オリるのは嫌いなんだけど、繊細なオリ判断が必要なルールだと思うから。
類似のルールでアガリ連荘、テンパイ料がない最高位戦Classicは打ったことがあるが、μカップルールを打つのは初めてだったという。多忙なスケジュールの中、大会に向けての準備も自身では十分とは思えなかった。
予選大会で5回打って、すぐ次の日が決勝大会で。決勝大会は4回戦と準決勝、決勝の全6回戦をずっとポイント持ち越しでやるんだけど、3回戦終了時から毎回敗退者が出るんだよね。真由はボーダー近くのところから3回戦に残ったんだけど、ポイント持ち越しで1日やるんだからこのままギリギリで残っても意味がないって思ってて。元々押すタイプだけど、めちゃくちゃ押したよね。ピンフのみもリーチしたし、形式テンパイの価値が高いからそれはかなり気にした。普段あんまりやらない役牌バックの仕掛けもやったかな。積極的に手を進めておくことでアガリやテンパイ料を取りやすくなるし、ポイントを持っている相手だと慎重になってオリてくれたりしてうまくいった気がする。4回戦は手も入って7万点のトップを取れたの。
自身の打ち方を貫き、4回戦を終えて首位に浮上した。
準決勝から配信だったんだけど、真由、公式戦の放送対局は初めてだったの。でも、4回戦が終わった流れですぐに準決勝で、緊張してる暇もなかったから逆に良かったのかも。μのお姉さま方が、牌を置く位置とかの配信での見え方を教えてくれて優しかった。
準決勝はトップ目で迎えた南3局に3900点の放銃をし、3着まで落ちてしまう。しかしオーラス、ドラ3枚の両面テンパイをリーチし、親の小宮悠のリーチ宣言牌を捉えてトップ終了。
小宮さんの入り目が違っていたら3着だったかもしれない。勝ち上がり方が全体的にそうだったんだけど、本当に紙一重だった。
放銃してもすぐにアガリで取り返し、トータル首位をキープして決勝に進出した。
決勝は、東2局にトータル2着目のライバル選手の親リーチが入っているところに追いかけリーチをして2000-4000をツモれたのが大きかった。でも、南3局は反省してるんだよね。
と振り返る。役牌のとが対子の好配牌からすぐさま2つともポン。このとき菅野は打、打とした。
役役ホンイツの満貫を見た進行にしてしまったけど、点数状況的に局を消化することが大事だから、ここは一色手にこだわらず安くてもアガリを優先した方がよかった。くっつきの強い孤立牌を残すべきだったよね。
菅野の河には皮肉にも、、が並び、アガリを逃してしまう。
この後ライバルの選手が満貫の勝負手をテンパイしていて、アタリ牌を持ってきたときに堪えられたのは良かった。でも、もう少し巡目が早ければ打ってしまったかもしれない。満貫直撃されたら優勝できなかったかもしれない。この局は失敗したなーって思ってる。
オーラスは親からのリーチを受けながらタンヤオのテンパイで押しきり、自らの手で優勝を掴み取った。
本当に2日間ずっと連続で対局だったから、しばらくは全然実感が湧いてこなかった。プロになったからにはタイトルを取りたいと思ってはいたけど、こんなに早く取れるとは。TwitterとかLINEでおめでとうってたくさん言ってもらって嬉しかった。
初タイトルを喜びながら反省も欠かさない彼女。実戦で筆者が同じ立場だったらオリてしまいそうだなと思う牌を押して戦い抜いていた。取材後には嫉妬心は自然と薄れ、快挙を素直にすごいと思った。プロとしての実績は一歩も二歩も先に進まれてしまったが、筆者も負けずに頑張ろうという情熱をもらえた。
まりちゅうファンから、自身もアイドルに
神奈川県川崎市で生まれ育った。
小さい頃から、人見知りのくせに目立ちたがり屋だった。小学生のときにはもう将来はタレントになりたいって思ってた。中学校のソフトボール部は厳しくて短髪だったんだよね。今は髪長いから想像つかないでしょ。それから高校は1年生のとき軽音楽部でドラムやってて、2年生からはダンス部だった。卒業して短大に入ったんだけど、前期で留年が決まって半年で辞めちゃった。臨床検査技師を目指すところで、真由暗記系は得意だったんだけど物理とか計算が壊滅的で。
同期で飲んでいるときにクイズをしていて、アンモニアの化学式を菅野が一瞬で答えたことは記憶に新しい。そのときも暗記は得意だからと語っていた。ちなみに他の問題では珍解答を連発していた。
短大を辞めてからはいろんなバイトしながら暮らしてた。セシル(女性ファッションブランドのセシルマクビー)とか引っ越し屋、コンカフェ(コンセプトカフェ)、マック(マクドナルド)、ティッシュ配りとか。AKB48の握手会のストップウォッチ係とかもあったな。
引っ越し業者を呼んで菅野のような小柄な女性が来たら驚きそうなものだが、段ボールは意外と運べたらしい。
そのころK-POPオタクだったんだよね。日本のアイドルに対してはどっちかって言うとアンチだった。でも『放課後プリンセス』っていうアイドルグループで活動してたまりちゅう(後に日本プロ麻雀協会に入会する長澤茉里奈)を見て、めっちゃかわいくてファンになった。
まりちゅうとの出会いが、菅野の人生を変えることになる。
K-POPと日本のアイドルは文化が違うと思っていて。K-POPのファン層って歌もダンスも完璧を見たくて、日本のアイドルは成長過程を見守りたいって感じ。自分は完璧にはできないんだけど、それでもアイドルをやれるんじゃないかなって思った。まりちゅうに近づいて、いつか一緒に仕事ができたらいいなって。
元々目立ちたがり屋な菅野の性格にも合っていたのだろう。意を決してアイドルの世界に飛び込んだ。活動拠点が名古屋のアイドルグループだったため、引っ越して一人暮らしを始めることになった。
推しの好きなものは自分もやりたい!で麻雀をやってみた
名古屋でアイドル人生を歩み始めた菅野は、多忙な生活を送っていた。
土日はほとんどライブで、毎週火曜日に定期ライブ、水金がレッスン。アイドルのお金だけではやっていけなかったから、合間に居酒屋のバイトもしてた。名古屋に来たばっかりでお金もなくて、本当にもやしで生活してた。
(ライブのステージに立つ菅野。1枚目右、2枚目中央)
その頃、麻雀漫画の『咲-Saki-』が実写映画化し、まりちゅうが出演した。
真由、麻雀は全く分からなかったけど映画はもちろん見た。その後、まりちゅうが麻雀にハマってるって聞いて、自分もやってみたくなった。推しの好きなものは自分も好きになりたいから!
そこで、麻雀店『マーチャオ』でアルバイトを始める。
麻雀に詳しい知り合いとかいなかったし、麻雀打てるお店で働きながら覚えようって思って。居酒屋のバイトも掛け持ちだったから、かなりハードだったけどね。夜10時までライブがあって、朝まで居酒屋でバイトして、一回帰ってシャワーだけしてまたすぐマーチャオ出勤とかしてた。食生活はまあ最悪だったよね。一時カップ麺の味がしなくなって、これはヤバいかなって思った。
華やかに見えるアイドルだが、実情はかなり過酷だ。それでも菅野は推しの存在によってエネルギーを補充していた。
真由は元々は麻雀プロになるつもりはなかった。でもまりちゅうが『麻雀最強戦』のアシスタントをしたりいろんな麻雀番組に出るようになったりして。あ、麻雀プロになったらこういうところで一緒に仕事できるのかなって思って。番組に出ていたのはプロの中でも有名な人たちだったんだけど、当時はそんなの分からなかったし。それでマーチャオの最高位戦の人にプロ試験のことを聞いたら、東海支部の試験は3日後だって言うからさすがに間に合わなくて、その1週間後にあった東京での試験を受けた。最初は研修合格で、半年後に正規合格になったの。
思い立ってからあっという間のことだった。
プロ入りの動機は不純だけど、強くなって有名になりたい
アイドルと麻雀プロの二足のわらじを履くようになった菅野だが、昨年一つの決断をする。
アイドルは楽しかったけど、きついことも多かったかな。真由はキャラクター的にあんまり王道のアイドルっぽい感じじゃなかったからファンが多かったわけじゃなくて。お客さん何人呼んだとかチェキの売り上げどうだったとかの数字の世界だから、そういうストレスは多かったかな。そんな中で麻雀プロになって、週末に対局があってライブを休むことも増えた。アイドルになったのが20歳超えてからで、その業界の中では遅い方だったし、潮時かなってことで卒業することにした。
名古屋での約4年のアイドル生活に終止符を打ち、地元の神奈川に戻った。それに伴い、最高位戦の所属も東海支部から本部に移籍した。現在は首都圏の複数の麻雀店で勤務し、ゲスト活動もしている。
集客面での数字の世界にストレスを感じるのは今も一緒で、怖くてゲストは得意じゃないかも。お酒がないと喋れないんだよね。自分には常勤の方が向いてるって感じる。
人見知りだけど目立ちたがり屋。根っこの部分は変わらないのかもしれない。
去年の7月に、念願叶ってまりちゅうと一緒に仕事ができたの!麻雀大会にダブルゲストで呼んでもらって。めちゃくちゃ嬉しかったなぁ。可愛いだけじゃなくて対応も素晴らしかった。そのときに連絡先も交換して、プライベートでも仲良くなれた。
(麻雀大会でダブルゲストをした菅野と長澤プロ)
まりちゅうに突き動かされてきた菅野だが、今は自分の道を自分の力で進み始めている。
麻雀プロになった動機こそまりちゅうが好きすぎてって感じで不純だったけど、今はやるからには勝ちたいって思ってる。負けず嫌いだしね。普段の麻雀の勉強は、勉強会に参加したりセットしたりかな。まだ本部に来たばっかりで自分から気軽に声掛けられる人が少ないんだけど。優さん(鈴木優・現最高位)の麻雀が好きで、名古屋での私設リーグに月1回通ってる。優さんも押しの強いタイプだけど、何でもかんでも押すんじゃなくて、自分にはできていない読みに基づいて押してる。勉強して自分もそうなりたいって思う。
女流プロも、若くて可愛い子はどんどん出てくる。自分はしっかりと実力を付けて、強さで有名になりたい。タイトルをいっぱい取りたいし、Mリーガーになりたい。あ、実況もやりたいんだよね。いろんなことができる人になりたい。
菅野も十分若く優れた容姿の持ち主だと思うが、それだけに頼っていてはいけないという地に足の着いたリアルな言葉は元アイドルだからこそなのだろうか。筆者も常々自分で思っていることなので、とても共感した。
今年、最高位戦のYouTube開設記念生配信では園田賢、新井啓文とともに抜擢され、持ち前の明るさで見事に進行役を務めた。実況の練習もしていくつもりだという。菅野は着実に活躍の幅を広げている。144センチと小柄ながらパワフルな彼女の今後に注目してほしい。
※対局画像提供:㈱スリーアローズコミュニケーションズ