文・沖中祐也
このエキシビションマッチの観戦記が好評のようだ。
多くの参加者のモチベーションになっていると聞き、私の執筆モチベーションもアゲアゲである。
しかしワンデーの大会で上位2名に入ることは至難の業。
実力もさることながら、当日限定の波とか風とかそういった類のものに乗り、ワンデーモンスターになる必要があるからだ。
この日、そういう意味で私は乗っていた。牌が寄ってくるし特に親で簡単にアガれる。
連勝で迎えた3回戦目。
西家の私はこのような配牌から凡庸に南に手をかけた。
しまった…!牌が手から離れる寸前に後悔の電流が体を駆け巡る。
ドラもなく形も悪いこの配牌でまともに手を組んでどうする。
私のミスを咎めるように親から3巡目リーチが入った。
そして親の河にはなんと南が置いてある。
私は唯一の現物を切ってしまっていたのだ。
背中に気持ちの悪い汗が流れるのを感じながら、字牌や筋を頼りに凌いでいく。
ほどなく親が2600オールをツモり、私の切った南は悪い結果を招くことなく、卓に吸い込まれていった。
好事魔多し。ミスをすることより、ミスを引きずることの方が良くないが、私はその後も精彩を欠いたままぶら下がりの2着に終わり、波やら風やらに乗り切ることはできなかった。
代わりに優勝したのは内藤岳選手。
北海道から東海支部にやってきた内藤は、この日親の国士無双をアガるなどして、+170.6を叩き出す。エキシビションマッチでも
この白単騎をリーチしてツモり、めくったウラにが寝ていてハネマンになるなど、これぞワンデーモンスターというアガリを決めていた。
しかし最初に主導権を握ったのはアマのはひゅうさんだった。
白のつなぎを見て、現場の仕事を抜け出してきたのかと心配したが、これはゲストの日向・河野が配信している「するしない」のユニフォームに合わせてきたらしい。
「するしないの大ファンです!」と
ちゃっかり背中にサインをもらっていた。
しかもこのつなぎの下にはPiratesのユニホームを着ていたとか。
そういや前節では天鳳Tシャツをきて「ZEROさんの大ファンです!」と言っていた記憶がある。読めない男であり、私は油断しないぞ。
そのはひゅうの勝負どころは東一局、親番でやってきた。
3巡目、ここから何を切るか。
ピンズかソウズのカンチャンに優劣がほとんどないだけにを切って6ブロックに構える打ち手も多いと思う。
しかし、はひゅうはを切った。
マンズをと持っておくことで
好形変化が強くなったり(上)123の三色に渡りやすくなる(下)。
ソウズとピンズのカンチャンの選択はわずかにピンズが安かったのを見逃さなかった。
「ツモ、4000オール!」
憧れの舞台で、はひゅうが持ち前の技術を見せつけた瞬間だった。
このはひゅうをおっかけるのが、さきほど紹介した内藤と
ダンディズムが漂う河野直也選手である。
私はずっと河野の後ろで見ていたのだが、その選択に驚かされるばかりだったので、いくつか紹介したい。
(南家・配牌)
河野はここから打。
中が重なった時に備え、普通にから切るべきでは?
河野「うーん、がならそうするけど、これはトイツ手メインかな」
トイツ手とメンツ手、どちらも天秤にかけることで速度は最大化するが、それはあくまでも1人麻雀でのこと。
相手のいる実戦では、押し返すためにどちらかに決め打つことも1つの選択肢となりうるのだ。
はひゅう「リーチ」
親からリーチが入るも、溜め込んだ字牌を放流して形を維持する河野。
そのおかげで…
チートイドラドラのテンパイを果たす!
暗刻の超危険牌であるを切り飛ばして押し返していく河野。
この局は流局したものの、鮮烈な切りだった。
迎えた東2局の親番の配牌。
河野はを切った。
ダブ東暗刻のチャンス手だが、→と切ることにより警戒されないのか?
河野「僕はかなりの頻度でこう打つので、もう警戒されることはないんですよね」
なるほど。
警戒されないのであれば形のイマイチなこの手牌、鳴かれる前に発を切ることにより、局が長くなることに期待できる。
こうして河野は決め手になりうるリーチを打つことに成功。
この親リーチを受けた内藤の手の内から、のトイツが落とされる。
あのは鳴かなかったのか、それとも後から重なったのか…いずれにせよ早めに切ったことが功を奏した可能性が高そうだ。
残念ながら、これも流局。
もう1つだけ紹介。
(西家・配牌)
河野はここからを切った。?
チャンタを強く見た選択か。それにしてもこれまでに私は2468から4を切った記憶はない。
河野「正直、こういう手は何を切ってもいい」
こういう手…とは、形も悪くドラもない手牌のことだろう。
付け加えるように河野が言ったのは
河野「ただ絶対やっちゃだめなのは…放銃することだと思ってて」
その瞬間、私は3回戦での体験がフラッシュバックした。
河野だったら一打目にやを選んでいたのだろう。
麻雀、放銃はつきものであり、放銃自体は悪いことではない。
ただアガリの見込めない手牌での「無駄な放銃」は避けるべきである。
価値あるルートだけを残し、無駄な放銃は極力避ける、という構えは最高位戦ルールにおける基本とも言えるのだが、河野のそれは徹底度が違った。
こうして迎えた最終局
東家 河野 30400
南家 小池 14300
西家 内藤 33300
北家 はひ 42000
はひゅうを河野・内藤が追う点棒状況になっていた。
その中で
「ツモ!30006000!」
最後に手を開いたのは、元新人王・小池諒だった。
小池は河野に麻雀を教えてもらっていたという。
月に一度、東京から報酬を払って呼び、勉強会を開いていたのだ。
恩師の前でのハネマンツモで一矢報いること形に。
小池(このアガリはどうですか?河野さん!)
河野(おいおい、俺がラスっちまったじゃねーか)
なんてやりとりがあったとかなかったとか。
小池ではないが、あなたも普段の成果を出す場として最高位戦のプロアマリーグに参加してみてはいかがだろうか。
この日のゲストの日向藍子選手も
開始前の挨拶でユーモアを織り交ぜながらも
「いろんな方がいらっしゃっているので、みんなで楽しく打ってもらえれば。各卓に最高位戦の選手がいるので、わからないことがあれば何でも聞いてほしい。」
と語っていた。
個人的には日向の神がかり的なトークスキル、気遣い、そしてプロ意識に感動すら覚えた。
最高位戦プロアマリーグは東海だけではなく、東京・関西・九州・新潟・北海道の各都市で開催されている。
我々最高位戦選手一同は、あなたの参加をお待ちしております。