コラム・観戦記

【第40期特別昇級リーグ最終節観戦記】中川英一

自戦記に引き続き、観戦記を書かせて頂けることになりました。
なかなか思うように書けず、もどかしい限りではありますが、ご一読頂ければ幸いです。
また、敬称は略させて頂きます。

昨年度より、最高位戦は特別昇級リーグを開設した。
これにより、入会一年目の選手でもB2リーグに昇級することが可能となった。
今期は、いったい誰がB2リーグへと駆け上がるのだろうか。

特別昇級リーグのシステムは、以下の通りである。
 ・12半荘の予選を行い上位4人が決勝。
 ・決勝は予選のポイントを持ち越して、4半荘を戦う。
 ・優勝者にはB2リーグへの飛び級が認められる。
 ・2位はC1リーグ、3位はC2リーグへの昇級が認められる。

決勝を戦うのは以下の4人。

   

・ 原 周平 +219.9P (C2リーグ所属)
 昨年前期のC3リーグを2位で昇級、1月に行われた「大学対抗麻雀駅伝」で優勝と、これからの活躍に期待の持てる22歳。
 今回の予選も1位通過と、実力は折り紙つきか。 2位までに入れば昇級。

   

・ 浜田 修 +176.6P (D1リーグ所属)
 入会一年目で、Classic準決勝まで進出、發王戦でも5回戦まで進出と、好成績を残す。
 打ち筋は非常にクラシカルであり、ゆったりとした手組み、ダマテンを多用するスタイル。
 3位までに入れば2つ以上の昇級が確定し、どこまで上位リーグに行けるかの勝負となる。

   

・ 栗田 恭弘 +113.3P (C1リーグ所属)
 ロジカルな打ち手であり、喰い仕掛けで先手を取っていく。
 昨年、今年と新人王戦の決勝戦に残っており、タイトル戦の経験は豊富。

 C1リーグ所属のため、優勝しか昇級することが出来ない。

   

・ 西嶋 千春 +105.3P (C2リーグ所属)
 昨年行われた女流名人戦、女流最高位戦でどちらも決勝に進出。
 オーソドックスな打ち手であり、鳴くべきは鳴き、曲げるべきは曲げていく雀風。
 原と同様に2位までに入れば昇級。

1回戦は、起家から 浜田→西嶋→栗田→原 となった。

トータルポイントで首位を走る原が、開局から魅せる。
北家に座った原が開けた配牌がこれ。

 

東1局 ドラ 

 

九(9)119東東西白白發發中

国士か、大三元か、はたまた字一色か。なんとも贅沢な配牌である。
白、發と序盤に仕掛け、最終的には以下の形で聴牌。

   チー  ポン ポン

 

は1打目に切られており、は生牌。
9巡目にあっさりと東をツモって4000/8000

快調にスタートを切ると東3局でも、ドラ待ちのカンチャンを一発でツモり、2000/4000
あっという間に5万点オーバーのダントツとなる。
東1局で倍満の親被りとなった、トータルは2着目だが現状は4着の浜田、迎えた南1局の親番。

 

南1局 ドラ

 


 

ドラのが浮いているが、連荘は期待できる配牌である。
門前で進め、7巡目に分岐点が訪れる。

 

  ツモ

 

すでに、西家の栗田が、タンヤオにも役牌の後付けにも見える仕掛けを入れているものの、まだ聴牌ではなさそうである。
筆者であれば、親番ということもあり、ドラの切りをセレクトするが、浜田の選択は落とし。
この後、を引いて単騎でダマテン。2回ほど良形変化があったものの、栗田がさらに仕掛けたこともあってか、手を変えることはなかった。
最終的に栗田が

   チー  チー  チー

 

 で、役牌のをツモって1300/2600

浜田のディフェンシブな選択が裏目に出た形となった。

 

1回戦は、このまま原が、5万点オーバーのトップで終了。
トータル2着目の浜田がラスを引き、原にとってかなり有利な展開となった。
痛恨のラスを引いた浜田であるが、特に焦りの様子もなく、ゆったりと煙草を吸う姿が印象的であったことを記憶している。

 

 1回戦結果
 原    +219.9 → +271.9
 浜田  +176.6 → +134.0
 栗田  +113.3 → +125.1
 西嶋  +105.3 →  +84.1

 

 

 2回戦の並びは 西嶋→浜田→栗田→原 となった。
原を除く三者の共通認識としては、やはり、原を連対させないことの一点に尽きるだろう。

 

東1局 ドラ

 

北家の原が2巡目にいきなりオタ風のをポン。その後手出しでと外していく。
第一本線はホンイツ。しかし、ドラのは対子であることはなさそうにも見える。
しかし、ポイントを持っている原が、序盤から不安定な仕掛けをすることもまた考えにくい。
親の西嶋は以下の形。

  ツモ

戦えそうな手牌であるものの、原の仕掛けに対応し、打とする。
その同巡、西家の栗田がを打つ。すると原が即座にポンの声。
これを見た西嶋と浜田は、栗田に任せると言わんばかりに受けに回る。
数巡後、栗田がリーチを打って、原のアガリを阻止しに行く。
結果は、原、栗田の二人聴牌で流局となったものの、栗田のリーチによって、原は聴牌形を変えさせられ、アガリを逃した形となった。
 
南2局 1本場 ドラ 
西嶋268→浜田361→栗田317→原254
浜田の親番。ここはさらに加点が欲しい所。
7巡目に原から先制リーチが入るも、そこには被せろと追っかけリーチ。

  ロン 

原がを掴み2900は3200のアガリとなった。
浜田はさらに次局で4000オールを引いて5万点越えのダントツに。
オーラス、原の親番も早いピンフでさくっと終わらせ、ラスを押し付けることに成功した。

2回戦結果
 原    +271.9 → +219.3 
 浜田  +134.0 → +190.3
 栗田  +125.1 → +142.9
 西嶋     +84.1 →   +62.6

 

 

3回戦の並びは浜田→西嶋→栗田→原となった。
優勝しか意味の無い栗田はここでなんとしてもトップをとっておきたい所。
その栗田が以下の形で先制リーチ。

 

東1局 ドラ

 

筆者であれば、どちらも一枚切れであり、リーチを躊躇してしまいそうだが、栗田は迷うことなくリーチを宣言。筋のを原が一発で放銃し、裏が乗って8000のアガリ。
開局から幸先の良いアガリとなった。
実は、親の浜田が栗田よりも早く、良形変化の多いノベタンのをダマテンにしており、もし先にリーチをしていれば、栗田が追っかけリーチといけたかはわからない。待ちは確かに絶好とは言えないものの、先制かつ親ということもあり、リーチしてしまいそうだが、これが浜田のスタイル。

東2局 ドラ

そのスタイルの浜田が4巡目に先制リーチ。前局の条件でもリーチをしなかった浜田のリーチである。いったいどんな手格好か。数巡後にあっさりとツモって開かれた手牌は

   ツモ

三色の方をツモり、裏ドラ表示牌は。4000/8000のツモアガリとなり、この瞬間にトータルトップ目に立った。

 

南1局 ドラ
栗田に点差を詰められ、トップ目とはいえ予断を許さない状況の浜田。
6巡目に以下の聴牌が入る。


 

浜田はこれをダマテンに構えた。
この日中、浜田の麻雀を後ろから見てきた身としては、ああやはりダマなんだな、という感想。
しかし、これはリーチを打たなければいけないのでないか。
点数状況からも、加点は必須である。また、さすがに聴牌スピードも速く、待ちも悪くない。
立会人の坂本プロも、弱気になっているのではと評していた。
結果、すぐにツモって1000オール。

 

南4局 ドラ

浜田492→西嶋106→栗田481→原121 という点数状況で迎えたオーラス
このような点数状況になるのでは、やはりあの時リーチを打っておくべきだったかと浜田が悔やんだかどうかはわからない。
もちろん、栗田としてはなんとしてもここで浜田を捲っておきたい所。
の両面チーから入り、もチーして、ソーズに寄せていく。
そこに原の親リーチ。栗田が一発で飛び込んで痛恨の5800放銃となった。

  ロン

 

原としても、栗田からアガると浜田のトップが確定しやすくなるため、あまりアガりたくはない。
しかし一発目ということ、栗田が明らかに聴牌であるということで手を倒した。

 

オーラス1本場は、浜田がすぐにタンヤオをツモあがって終了となった。

 

3回戦結果
 浜田  +190.3 → +241.3
 原    +219.3 → +196.4
 栗田  +142.9 → +164.7
 西嶋     +62.6 →   +12.7

最終戦は、栗田→原→西嶋→浜田の並びとなった。
優勝しか意味のない栗田は、浜田とトップラスかつ、16600点差を付けなければならない。

 

東1局、浜田のチンイツにまわしながら聴牌を入れ、親権維持。

 

東1局1本場 ドラ
原がを仕掛けてピンズのホンイツへ。が余ったところで、栗田の手牌が以下のようになっていた。

 

 

 の並びシャンポンの聴牌。しかし打ち出す、もしくはは原に切りづらい。
それでも行かなければならないのが今の栗田。手出しに対応する形で、打のリーチ。
このを原がポンして打
栗田が掴んだのは、場に一枚切れのだった。

 

   ポン  ポン  ロン

原の手牌が倒され、12000の放銃を確認した栗田は、それでもしっかりとハイの返事とともに点棒を支払った。

 

東2局 ドラ

跳満をアガり、一気に条件クリアが現実的になってきた原。
気合の入る親番だが、ここは浜田が早い七対子でかわし、主導権を与えない。
さらに浜田は、西嶋の親リーチに競り勝って加点に成功。
自身の親番を流し、栗田151→原433→西嶋188→浜田398で南入となった。

 

南1局の栗田のラス親は原が500/1000をツモ。これにより栗田は現実的な条件が消失。

 

南2局、原の親は浜田がピンフをツモって終了。

南3局 ドラ

西嶋の最後の親番。とにかく連荘するしかない西嶋。
原としても、西嶋にアガってもらい、浜田を捲ってもらえれば、条件がかなり楽になる。
栗田も役満、高い手を狙う為、続けやすい親番ではある。

 

 で先制リーチ。

 

このは山に2枚残っていたが、ツモれず流局。

 

南3局 ドラ
西嶋に配牌でドラのが対子。


 から、

 

をチー。

浜田も自分で蹴りにいかなければならないと、3副露。

 

   ポン  ポン  チー

 

浜田がを掴めば、間違いなく切るであろうし、西嶋は浜田の当たり牌となるは収納出来る。
かなり、西嶋有利かと思われたが、原からリーチの声。
結果は西嶋が原に放銃。

 

  ロン

 

裏が乗って5200

西嶋は結局4半荘通して、アガれたのは一度だけ。非常に、非常に苦しい展開ではあったが、打牌姿勢、態度に変化はなく、常に前を向いて打ち続ける姿は見習わなければならないと強く感じた。

 

オーラス ドラ

浜田370→栗田149→原558→西嶋123
浜田は伏せれば優勝。
原は3200点以上を浜田から直撃か、6400点以上の出アガリ。
または1200/2300のツモアガリが条件となった。

 

原の6巡目の手牌が

 


 

これが、11巡目に

 

 となってリーチ。

 

は純カラ、は山に1枚だけ。
祈りをこめてツモを繰り返すも、届かず。
浜田がB2リーグへの昇級権利を手に入れた。

終わった後に深々と頭を下げる浜田。
無理を言って少し話を聞かせてもらった。

 

 

― 優勝おめでとうございます!今のお気持ちをお願いします。
・ いつも肝心なところで負けていると感じていたため、なんとしても優勝するという気持ちで臨んだ決勝でした。自分らしい麻雀が打てた一日だったと感じています。

― ご自身のいわゆるクラシックのような、リーチを打たないスタイルについてお願いします。
・ リーチは自分が充分形だと思わなければ打たないようにしています。ちろん手変わりや、相手の動向を見て最終的に判断するようにしています。

― 3回戦の南場での親番。ダマテンに構えた理由をお願いします。
・ あの局は、原さんと西嶋さんから非常に嫌な雰囲気を感じていました。(その二人に)押し返されるのが嫌だったのでダマテンに構えました。

― 最後に、B2リーグに向けての抱負をお願いします。
・ すごく不安ではありますが、今日戦ったメンバーの分も頑張りたいと思っています。

編集後記

この日、一度も焦りを見せなかったのは浜田選手であったように思われました。
その分、内に秘める思いには強いものがあると感じました。
来期B2リーグで同卓するであろう大森選手も、浜田選手の麻雀を食い入るように見つめていました。自らのスタイルを貫き、打ち続けた浜田選手のこれからの活躍に期待したいです。

 

 

 

 (文:中川英一)

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