コラム・観戦記

【第40期最高位決定戦第4節観戦記】井出洋介

最高位決定戦第4節観戦記

 

 

 

まさか、私がこうして最高位決定戦の観戦記を書くことになるとは思わなかった。
第6期から第21期まで16年間在籍した最高位戦。第19期には最高位にも就くことができた私だが、第21期終了とともに麻将連合(当時は麻雀連合)設立のために最高位戦から去った。そこからルールも大幅に変わり、新生最高位戦となってからすでに18年も経っている。古巣であり、私の青春でもあった最高位戦に恩返しできる機会を与えてくれたのだと思って、私なりの観戦記を書かせていただく。

第3節を終え、首位は宇野公介+183.8、以下、近藤誠+158.8、村上淳▲140.6、設楽遥斗▲204.0(敬称略)
宇野はこの中でたった1人だけ、私が最高位戦代表だった頃に入ってきた選手で、当時は一緒に飲んだことも数知れない。
Aリーグに上がって最高位決定戦の常連から、その後リーグ陥落を繰り返しながら復活。久々のAリーグで決定戦進出した上、ここまで首位を快走する大活躍は見事である。
近藤と村上は私と入れ違いに第22期から最高位戦に入ってきた。だからしばらくは親交もなかったが、近年は最高位戦Classicなどを通じて顔を合わせる機会も増えた。
勿論、すでに最高位も戴冠しているお2人の実績は現在のトップクラス。
設楽だけが初対面。麻雀を見るのも初めてで楽しみなのだが、現状最下位という苦しい状況なので、すでにフラットには打てないかもしれないか…。

 

 

 

13回戦

 

 

東1局、北家の設楽が4巡目に切りでリーチ。

 

  ドラ

 

すぐに西家の村上が追いつく。

 

 

三色への手替わりはないから追っかけるのかと思ったが、を切って現物待ちのヤミテンに構え、すぐに近藤からが出て「ロン」。
起家・近藤の手も、ドラのがくっついて、

 

 

こうなったところからのだった。
この1局だけでも私には面白い。現代の麻雀では設楽のリーチは当然なのだろうが、私なら出て5200、ツモってマンガンならまずヤミテンを選ぶ。その場合、村上はどうしただろう。村上がリーチなら近藤はを切ったかどうかなど、思いが膨らむ。

東2局は、親の宇野が先制リーチ。

 

  ドラ

 

安目ながらあっさりとをツモって1300オール。

 

 

1本場もダブをポンした2900は3200を設楽から出アガリ。

 

 

2本場は流局(近藤、村上テンパイ)で親が流れた東3局3本場、
北家・宇野が2巡目で、

 

 ツモ  ドラ


ここから切り。
タンピン狙いでのトイツ落としといく人もいそうだが、イーシャンテンを維持しながら1手で567の三色手のテンパイになるを選んだのが現在の宇野の打ち方のようだ。

そして4巡目、安目のツモでもためらいなく打で即リーチ。
宇野としては、何が入ってもリーチのつもりならばイーシャンテン維持が最善という考え方なのだと思う。結果は1人テンパイで流局。

 

 

東4局4本場は、近藤が三色確定のピンフリーチ。親の設楽が追いかけるも、先に近藤のロン牌をつかんでしまう。これで近藤が宇野をかわしてトップ目に立つ。

 

 

南1局、その近藤が親で、設楽がメンチンでリーチも、近藤との2人テンパイで流局。

 

 

1本場、宇野が10巡目にチートイツドラ2のテンパイ。

 

  ドラ

 

まず切りで待ち、次巡に待ち替え。その途端、近藤がツモ切り。
さらに1枚切れのに待ち替えすると、近藤がイーペーコー完成のをツモっての切り。
そして次の宇野のツモは。こんなにアガリを逃しながら、村上がをつかんで放銃。
アガったものの、近藤からの直撃もツモアガリも逃した形になった宇野、再びトップ目に立ったがどんな気持ちだっただろうか。ここから、宇野の見せ場がなくなっていく。
宇野の親番は、500オールの連荘後、近藤が3フーロのホンイツで流し、南3局は村上にとって大きな親番。ここで何とかしないと上位2人にさらに離されて残り7回戦となり、条件がさらに厳しくなる。
7巡目に先制リーチをかけたのは設楽。

 

 ツモ  ドラ

 

この時点ではまだ山に7枚生きていた。近藤と宇野は勝負せず完全ガードの中、村上は必死に粘り、追いついてカンリーチ、流局に持ち込む。

 

 

1本場も設楽、近藤のリーチをかわして食いタン・三色のツモアガリで連荘。

 

 

2本場もリーチツモ、1200オール。3本場もリーチで流局、これで持ち点も34400になり、逆転トップも見えてきた。

 

 

しかし4本場、近藤の配牌があまりに凄かった。

 

 ツモ ドラ

 

ここからの第1打にを選んだ近藤、2巡目のツモでテンパイ。しかも、1手替わりでツモリ四暗刻まである。近藤は冷静にヤミテンを選択。設楽から高目のでロン。3200+供託2000+4本場で合わせて6400点の収入でまたまた再逆転。

 

 

オーラスを迎え、トップ近藤と2着目の宇野の差は2700点。3着目の村上もマンガンツモでトップという状況で、まずはラス親の設楽がリーチ。手詰まった宇野がスジを頼って2000点放銃。安いとは言え、これでトップまで4700点差となり、ノーテン罰符では変わらなくなる。

 

 

そして1本場、ドラは。そのドラがトイツで仕掛けた近藤だが、なかなか手が進まない。だが他家も同様で、親の設楽もイーシャンテンのままツモ切リの打牌が強くなっていく。その上家の村上、ピンフのみのテンパイをして、最後のツモがアガリ牌だったが、アガリを宣言せずノーテン気配の設楽にテンパイを入れさせるべくドラまたぎのを抜いた。
近藤にはが現物、が場に4枚見えていたのでのリャンメン待ちもなかった。
ところが、これが設楽のチーを飛び越えて近藤のシャンポン待ちにつかまってしまった。

 

 チー ポン  ロン

 

必死の粘りを見せた村上だったが、これで現実的には近藤と宇野のマッチレースがほぼ確定的となった。

 

 

13回戦成績

近藤47900 宇野39000 村上30200 設楽2900

 

 トータル

近藤+206.7 宇野+202.8 村上▲150.4 設楽▲261.1

 

 

14回戦

 

起家から 村上 近藤 宇野 設楽

 

 

東1局、ドラは。途中で宇野がをアンカンしてカンドラが
南家・近藤にこんな手が入る。

 

 

カンドラが乗ったので、安目のでもマンガン、高目ならハネマンとなり、近藤はヤミテン策。ここに高目で飛び込んだのは設楽だった。

 

 

東2局、その設楽がのシャンポン待ちで即リーチ。

 

  ドラ


トップ目の親・近藤が手なりで追いついた。

 

 ツモ

 

ション牌のを切って追いかけリーチ。自然体とも言えるし、手を緩めないという表現もできそうだが、大事を取って守ろうとするよりも辛抱強く攻める姿勢が、最近の近藤の強さなのだろう。またも先に設楽がをつかんでリーチ棒つき4900点を打ち上げる。

 

 

近藤の連荘1本場は、村上のリーチ、1人テンパイ。

 

 

東3局2本場供託1、設楽がドラ2枚のチートイツをテンパイし、待ちでリーチ。

 

  ドラ

 

親の宇野も2つ仕掛けて追いついたが、村上からが出て設楽にマンガン放銃。

 

東4局は村上がカン待ちで先制リーチ。親の設楽が追いつき、追いかける(ピンフ、高目タンヤオの待ち)も、村上のツモアガリ。

 

 

  ツモ  ドラ 裏ドラ

 

その村上の親番、南1局は設楽に早いタンピン・リーチ。決着は終盤ながらツモアガって1300・2600。
こうして、トップ目の近藤としては、ライバル宇野の出番がなく設楽と村上のアガリで局が進むという理想的な展開になっていった。

 

 

そして南2局、自らの親番でまたまたチャンス手を迎える。(ドラ
5巡目に、絶好のをツモって手なりでトイツ落とし。

 

 ツモ

 

この後、をツモ切った後に8巡目に安目ながらをツモって即リーチ。
同巡、宇野がツモった牌はだったが、リーチのお蔭ですぐには出ない。
近藤の一発目のツモはだったものの、もしヤミテンならば宇野のツモ切るで2900点のアガリになっていたから、このを見ることはなかっただろう。
さて、宇野の手牌に安全牌がなくなった。

 

 ツモ

 

リーチの現物なし。がワンチャンスで、これに頼るなら切りだが安全牌ではない。
そこで自分の手がイーシャンテンに進むを切り放銃の道へ。
裏ドラが乗って親マン、12000点の直撃はあまりにも強烈だ。これで宇野がラス目に落ちた。

 

 

1本場こそ、仕掛けた宇野の1人テンパイで近藤の親を落とすが、南3局2本場、宇野の親番は近藤がメンゼンのタンヤオのみを宇野からアガってオーラスへ。
そしてこの局も近藤の速攻で、宇野のテンパイ打牌がジャストミート。
並んでいた2人がトップ・ラスとなり、情勢は一気に近藤有利に傾いた。

 

 

14回戦成績

近藤57800 設楽23600 村上23500 宇野15100

 

トータル

近藤+264.5 宇野+157.9 村上▲166.9設楽▲257.5 

 

 

15回戦

 

起家から順に 近藤 設楽 宇野 村上

 

首位近藤と2着目宇野の差が100P以上ついた。

が、まだ残り6回戦の直接対決なので、まだ大差とはいえない。

1着順で20Pつく順位点なのだから、たとえ残り4勝2敗ペースでも負けが1着順、勝ちが平均2着順ならば、順位点だけで120P逆転できる。
まずはこの日、ここからの2戦が極めて大事な勝負になる。とにかくこれ以上差が開けば開くほど状況は悪くなるし、逆に差を詰められれば最終日1日の勝負に持ち込める。

 

 

東1局、南家・設楽。残念ながら念願の最高位は遥かに遠くなってしまっても、決して雑にはならず、自分ができるだけのことをやろうとしている。
5巡目

 

  ドラ

 

を切ればテンパイだが、ペンのリーチを嫌って切り。

高得点か、さもなければ自分が納得する最終形の待ちでリーチというスタイルをずっと取り続けている。
8巡目にをツモってカン待ちに取るが、役なしでもリーチはしない。
そして10巡目にをツモって長考。が2枚、が1枚場に出ていてノベタンが良い待ちではない。

ただ、一旦ノベタンから、その後のソーズのツモに期待する手もある。
いい加減に打ってないからこその長考で、結論はマンズに待ちを求めたほうが良いと判断してをツモ切った。

そして次のツモが
ヤミテンのままのアガリになってしまったのは不満だろうが、とにかく良いほうを選んだ。
しかし、親の近藤にはダメージを与えられなかった。

 

 

東2局は南家・宇野が高目イッツーの3メン待ちでリーチ。
安目ツモながら裏ドラが1枚で1000・2000。

 

 ツモ  ドラ 裏ドラ


そして親番となるが、近藤がその親の現物となる待ちで早いチートイをテンパイ。
もし宇野からリーチが来ても、まずは現物待ちで他家からの出が期待できるし、危険牌をもってきたときにはを切ることで一発や放銃を回避することもできるというわけだ。
このヤミテンに村上が放銃。近藤が簡単に宇野の親番を流した。

 

 

そして東4局、南家でが暗刻の近藤。ドラのもトイツにしたところから仕掛ける。


 

ここからのポン。そして親の村上から切りのリーチに対し、これをチーして無筋のを勝負。

 

 チー ポン

 

手詰まった宇野がスジのを切って5200放銃。またも宇野からの直撃で、近藤がトップ目に立つ。

 

 

南1局、近藤の親は設楽がピンフ・リーチをツモアガるが、裏ドラはない。

 

 

南2局、親となった設楽がドラ1でリーチ、ツモアガって2000オールでひとまずトップ目に。

その1本場は宇野の2フーロのタンヤオ仕掛けに対し、村上がリーチ、設楽も追いかけるという激しい戦いに。
これを制したのは村上の一発ツモ。

 

 ツモ  ドラ

 

が4枚切れだったが、このハネマンのツモアガリで一気にトップ。

 

 

しかし南3局、宇野の親番で近藤が9巡目の先制リーチ。

 

 ドラ

 

宇野も追いついて14巡目にピンフ、イーペーコーの追いかけリーチまでいったが、高目のをつかんでまたまた大きなマンガン直撃放銃。
これで近藤が再びトップでオーラスを迎えた。
2番手の親・村上とは1900点差、3番手の設楽までも6800点差の近藤は逃げ切りを図り積極策に出る。カンチーから食いタンで仕掛け、

 

 チー

 

ここからチー、打のテンパイ。
一方、村上はをポンしてピンズのホンイツ手に。

 

 ポン

 

近藤がをツモ切り、ポンした村上は切り。実は場にが2枚、は出ていなかったのだが、近藤の仕掛けにのほうが打ちにくかった。

実際は、は宇野にトイツ、設楽はドラのが暗刻の三暗刻でペン待ちだった。解説を担当していた醍醐大プロは、この村上の選択が印象的だったという。
しかし、この仕掛けにをつかんだ近藤がこれもツモ切って、ポンした村上からを引き出した。

このもよく勝負にいけたと思う。

村上の切りの逡巡で満足な待ちではないと読めたのだろうか。
とにかく、このアガリで3連続トップの近藤と連続ラスの宇野の差は大きく広がった。

 

 

15回戦成績

 

近藤40400 村上34500 設楽31600 宇野13500

 

トータル

近藤304.9 宇野111.4 村上▲152.4 設楽▲265.9 

 

 

16回戦

 

起家から順に 村上 設楽 近藤 宇野

 

残り5回で近藤と宇野の差が193.5。

単純に5で割っても、40Pずつ詰めてやっと逆転という大差がついてしまった。
この日の最初には自分のほうが上だった宇野にしてみれば、焦るなというほうが無理な話だろう。

 

 

東1局、その宇野が不思議な打ち方をした。

 

 ツモ  ドラ

 

2巡目にテンパイした宇野、いつもならを切って迷わずリーチといきそうだが、を切ってヤミテン。そして2巡後、直前に近藤から出たを見逃してツモ切りでリーチ。直撃といっても1000点ではつまらないと思ったのだろうが、とにかく何か変わったことをしなければこの状況を打開できないという意識から生まれた見逃しリーチか。
親の村上からの出アガリ2000点という結果は、宇野にとって必ずしも良いとは言えないが、これを見た近藤は、今後の宇野はもう何をするかわからないと思ったに違いない。

相手に疑心暗鬼の気持ちを植え付ける効果はあったかもしれない。宇野の必死さはよく伝わった。

 

 

東2局、親の設楽がドラのカンで足止めリーチをかけ、ツモアガって2000オール。1本場は、ドラのタンキリーチだが、これは流局。

 

 

2本場は、宇野のピンフ、ドラ1リーチにホンイツでテンパイの村上が飛び込み、裏ドラも乗ってマンガン。

 

 

 ロン  ドラ 裏ドラ

 

しかし、東3局の近藤の親番で村上が直撃。

 

 チー  ドラ

 

マンズはで三暗刻の可能性もあるところからのチーテン。メンゼン派の村上だが、確実に5200を拾いたいという必死の仕掛けに近藤が飛び込んだ。

 

 

東4局、宇野が親でポン、さらにをポンしてのリャンメンテンパイ。

 

 

 ポン ポン ポン  ドラ

 

これに対してポンテンで追いついた村上はとドラののシャンポン待ち。

 

 ポン 

 

ここにをツモ。ソーズはも通っていないのだが、直前に3枚目のが切られたところでリャンメンより高目ドラのシャンポンを選択、をツモ切って宇野への放銃を回避。さらに宇野からを大ミンカンし、終盤、見事にを食い取ってのツモアガリ1300・2600。
この選択には解説の水巻プロもかなり驚く。この日が終わった後に最も記憶に残ったシーンとして、この1局を挙げていた。

 

 

さて、これで近藤がラス目となって南入。
親を迎え、配牌でドラが暗刻の村上だったが、実らず設楽に1300放銃。

 

 

しかし、まだまだ諦めない村上、南2局でもリーチ。

 

  ドラ

 

ここにをツモってのテンパイは拒否。その後にとツモって切りでリーチ。

 


 

ソーズでメンホンチートイツのイーシャンテンになった近藤がでマンガン放銃。ラス目とは言え、かなり前のめりの放銃に見えた。
だが、もしかするとこの時点でトップ目は設楽で、2番手が宇野。

村上を2番手に押し上げる分には宇野に大きく差を詰められることがないから良しという判断もあったのか。

 

 

南3局、近藤は親で2000オール。しかし1本場、村上のハネマン・ツモで親っかぶり。

 

 ツモ  ドラ

 

ただ、これで村上がトップ、設楽が2着目となり、宇野が3着目でオーラスを迎えた。

このままの並びで終わらせたい近藤だが、村上がドラのを雀頭にした早いリーチに設楽が放銃。これで村上トップ宇野2着となり、近藤がラス。

 

 

16回戦成績

村上49000 宇野30900 設楽27700 近藤12400

 

トータルはこうなった。
近藤+257.3 宇野+122.3 村上▲103.4 設楽▲278.2

 

宇野とは135.0、これなら4回戦あればまだ十分、逆転のチャンスが残ったと言える。

この日は近藤の強さが目立ったが、近藤を含め、宇野、村上、設楽の4人が全力で戦う姿は清々しく、伝統の最高位決定戦の雰囲気を久しぶりに味わえたことを嬉しく思う。どうもありがとう。

 

 

 

井出洋介

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