コラム・観戦記

【第40期最高位決定戦第3節観戦記】土田浩翔

(文:土田浩翔)

 

2節8回戦が終わっての成績

 

  開幕節 第2節 TOTAL
宇 野
▲37.8 +194.5
+156.7
近 藤 +70.8
+42.7
+113.5
設 楽
+27.7
▲111.0
▲83.3
村 上
▲60.7
▲128.2
▲188.9

連覇を狙う村上にとっては、早くも正念場を迎えた今節。
首位を走る宇野との差が340p余りあるが、今節で200p以内に詰めることができれば、大逆転の目が出てくる。
もうひとりのマイナス組、設楽にしても、いまある240p差を150p以内に詰めることができれば、射程圏内に入ってくる。
中間点の3節目、マイナス組の反撃に期待するとともに、その軌跡を注視したい。

 

 

〔対局直前のコメント〕

宇野公介

 

「開幕節の後半、集中力が途切れ、完全安全牌があるのに放銃してしまったことを次局に気づくありさまだった」

「理で打つというより、気分というかテンションで打つところがあるので、7万点超えトップの次半荘、近藤にやり返され、あれっ⁇となって集中力が途切れてしまったようだ」

「でも2節目でラッキーにも息を吹き返すことができて良かったが、3節目との日程がつまっているので少し気になっている」

 

 

 

近藤誠一

 

「52歳にして、ようやく本来の自分というものを出せるようになった」

 

「いままでの自分は、素の自分を表に出すのが恥ずかしかったので、出せるようになってからは楽で、いまはとても開放的な気持ちで打てている」

 

 

 

設楽遙斗

 

「8回戦終わっただけなのでポイントは気にしていない。このポイント差は想定内ですし、開幕から勝てるリズムに入れればよかったものの、全然気にしていない」

 

「ただ、開幕節はリラックスして打てていたのに、2節目に入ると構えて打ってしまい、場が見えていた分、少し逃げたところがあり反省している」

「酒を断ち、ポテチを食べてストレス発散してきたのでコンディションは上々。卓掃はできないけれど、これから卓に座って牌を磨いてきまーす」

 

 

 

村上淳

 

「悩んでます。このままだと、もっとダメになるパターンに陥りやすく、耐えるのが信条とはいえ、このまま耐えてるだけで終わってしまう心配も…」

「ツカなくても何とかしたいし、19年培ってきたバランスで打っても、きっといいことはないはず。でも、普段どおりに打った方がいいのか、ムリは承知で突っ込んでいけばいいのか…悩んでます」

 

「今日は、リーチを20回くらいかけて、役々ホンイツをアガって、なんとか浮上したいなと思ってます」

 

 

 


9回戦   起家 設楽  南家 宇野  西家 村上  北家 近藤

 

 

 

東1局  ドラ

 

2巡目という速さで親の設楽が好形のイーシャンテンに

キモのさえ引ければという面持ちの設楽が6巡目に引いてきた牌は
これで789の三色が見え、ドラも使い切れる形になったためを切る。
安目の引きでも、恐らく設楽はカン待ちのリーチを打つはずだ。
ところがこの手がテンパイしない。

そうこうするうちに、おっとり刀の村上が12巡目に追いついてくる。

道中はこんな手だったが

カンがすんなり埋まればよかったのだがタンヤオ手になり、ドラもひとつあるので本日の運試し的なリーチに出掛ける。
「流局になるだろうナ」と村上が思っていたかどうかは知らぬが、このドラ表示牌待ちに感触があったとは、お釈迦様でも言えないはず。
ところが…近藤がこのをあっさりというか『ブーン!』と放銃していく。
なんだか気持ちよさそう。

 

 

東2局  ドラ

 

3巡目、親の宇野がダブをポンしてくる。

 ポン

おっと!目にも止まらぬ親満の仕上がりだ。 
ポンテン親満への放銃、しかも早い巡目でのそれは、子方にとっては悪夢の出来事となってしまうわけだが、見抜く方法はないのだろうか…
河? 手出しの多さ? いや、やっぱり鼻息の荒さかな。
たま~に感じるイヤな予感…でもやっぱり交通事故だよな~。
と見ていると、7巡目に「ドーン‼」という衝撃音が近藤の切ったから放たれ、事故発生。

5200→12000と連続放銃した近藤のメンタルはいかに…

 

東2局 1本場  ドラ


9巡目、南家村上の手牌

10巡目  ツモ 打
11巡目  チー 打

 チー

この苦しそうなカン、なんと山に3枚生き。

14巡目  ツモ 打

 チー

18巡目  ツモ八  300/500

 

村上らしからぬ遅攻のノミ手仕掛けであったが、戦前に語ってくれていた「いつものバランスじゃダメじゃないかと思う」を早くも見せてくれたような気がして嬉しかった。

 

東3局  ドラ 裏ドラ 

 

親の村上が11巡目にテンパイ

ただしは3枚枯れ。
それでも親ならリーチも辞さずのタイプだが、さすがに引きで4ハンアップの可能性がありヤミに構える。

南家近藤が13巡目リーチ。

すると北家の仕事人宇野が一発を消して親の村上を助けにいく。
本来は一発で摑んで放銃(いや、もしかしたら回避…いや、やっぱりひとつくらいはGOしたはず)していたはずのが近藤の手元に1300/2600

 

東4局  ドラ 裏ドラ

 

8巡目、親近藤

2枚目のをスルー。
あれ? 親は村上なの? と見紛ってしまった私。
なんとModernな打ち方なの。
ポンしてを打って

 ポン

これで十分!とか思ってしまう私がちっちゃく見えます。
同巡、北家村上

ツモ
あいにく待ちはフリテン。タンキリーチもあるのか!と注目すると、そのを横に曲げて『リッチ!』と小気味いい発声をする村上。

13巡目、ツモ。1300/2600

 

南1局  ドラ

北家近藤以外の3人テンパイで流局

南1局 1本場  ドラ

 

持ち点40700、トップをひた走る南家村上の5巡目


このイーシャンテンからのトイツ落としに入る。

次巡を引いて暗刻カブりしてまうが、痛さの「イ」の字も感じさせぬ村上。
次巡、にポンテンをかけ、すぐに近藤が放銃するという、極めてトップ目らしいリズムで終局

南3局  ドラ

トップ目 村上  45300
2番手  宇野  38300
3番手  設楽  24500
ラス目  近藤  11900

10巡目、南家近藤にテンパイが入る。

か…手替われ~…チャチャチャ
できれば引いてリーチかけたいなナ…と思っていた矢先、宇野からがポロリと出てしまい、無念そうにロンする近藤。1300

 

 

オーラス  ドラ

北家 村上  45300
西家 宇野  37000
南家 設楽  24500
親番 近藤  13200

村上 5巡目イーシャンテン

宇野 9巡目イーシャンテン

設楽 10巡目イーシャンテン

圧倒的不利な状況だった親の近藤はと言えば、5巡目にこの形

ところが、局面は長引くだけ長引き、14巡目にこんなリーチを打てるところまで育っていく。

しかしながら…近藤の1人テンパイで流局。オヤリー強し‼

 

 

オーラス 1本場 供託1  ドラ 裏ドラ

北家 村上  44300
西家 宇野  36000
南家 設楽  23500
親番 近藤  15200

6巡目、設楽にテンパイが入る。

ところがを切って即リーチをせず、のトイツ落としを始める設楽。
マンガンをツモっても2番手まで浮上できない点差ゆえ、このままリーチでも良かったような気がするが…
次巡ツモでピンフテンパイに戻るが、その間、親の近藤からが打ち出されていただけに、設楽の心中や如何に…

13巡目、が振り替わり、ハネツモ(一発・裏期待)条件がやや整った設楽が渾身のリーチ


本当によく仕上げました。
ところが…というか案の定、放銃に相成らなかった親の近藤から追いかけ「リーチ」の声が

16巡目、ツモ、4000オール
観念した設楽の表情が印象的だった。

 

 

オーラス 2本場  ドラ

 

北家 村上  40200
西家 宇野  31900
親番 近藤  29500
南家 設楽  18400

マズイ、これはマズイぞ。
トップ目の村上はもちろんのこと、トータルポイントで競り合っている宇野も、置き去りにしていたはずの近藤の足音が聴こえてきて、安閑とはしていられない状況となった。
3巡目、宇野がをポンと仕掛けてくる。

 ポン

6巡目までに、首尾よくを引いてテンパイを果たす宇野

 ポン

8巡目、親の近藤の手牌

くっつきテンパイの、怖いコワーイ形。さあどうなる!

9巡目、村上からが出てきて事なきを得る上位陣。
 『ホッ』と胸をなで下ろす2人。

 

             9回戦     トータル

トップ  村上    38.3 → ▲150.6
2番手 宇野    13.8 →  +170.5
3番手 近藤  ▲10.5 →  +103.0
ラス   設楽  ▲41.6 → ▲124.9

 

 

 


10回戦   起家 設楽  南家 村上  西家 宇野  北家 近藤

 

 

 

東1局  ドラ

 

宇野以外の3人テンパイで流局。

村上の七対子リーチ不発。

 

東1局 1本場 供託1  ドラ

 

南家村上、8巡目にドラのカンをチー

 チー

 

ドラを切った親の設楽の手はどんな手かといえば見てビックリ‼

ここからドラ含みリャンメンを外していったのである。
『気でも狂ったのか?』
そうではない。
<山読み>に絶対の自信を持つ男ならではの鋭利なチョイス。
次巡、読みどおりのを引いて、これまた残り山にたっぷりの待ちリーチをかけたが、10巡目に村上のロンパイを摑んでしまいTHE・END!! 2000

 

東2局  ドラ

 

4巡目、南家の宇野がリーチ。

すぐにアガリがあるかなと見ていると、あにはからんや、親の村上が11巡目に追いついてくる。

 

<リッチマン>村上でも、さすがにこの形では『リッチ』と行けず、渋々のヤミ。
すると13巡目、僥倖のツモ。
1300オール

 

東2局 1本場  ドラ

 

17巡目、北家設楽が少し後ろに下がる一打を見せる。

このテンパイがとれず、すぐに親の村上から出てくるをキャッチできず。
大丈夫か?設楽。
結局、村上の1人テンパイで連荘を許す。

 

東2局 2本場  ドラ

 

大きく息をついて、血の流れを再び活性化させて卓に戻ってきた設楽が6巡目に動く。

 ポン

北家での仕掛けには勇気がいるが、早期決着が図れると読んだ設楽のポンテン。
その読みどおり、次巡あっさりをツモアガる。 300/500
よかったよかった。

 

東3局  ドラ

13巡目、親の宇野がリーチ

不十分形だが、親の特権を活かしての即リーチ。
あと5回しかツモがないところでは、この即リーチ策がけっこうな決め手になる。

17巡目、ギュッとをツモり、裏も乗せて会心の4000オールを手にする宇野。

ニヤリの巻。

 

東3局 1本場  ドラ

 

13巡目、宇野チーテン

 チー

16巡目、設楽ポン形テン

 ポン

いっぽう、北家村上も苦労しながらも…10巡目にドラをポンして

 ポン

14巡目にカンがチーできて

 ポン チー

この仕掛けに宇野がダウンして、設楽との2人テンパイで流局

 

東4局 2本場  ドラ

 

設楽が234の三色テンパイを果たしたのが12巡目のこと。

今イチの感触なのかヤミに構えた。
すると、10巡目からこの形でテンパイしていた北家宇野がソロリとをツモる 500/1000

 ツモ
設楽の複雑な視線が印象的。

 

南1局  ドラ

 

前局のカンツモの感触がいい西家宇野、そのをツモってきて6巡目にテンパイ。

ドラの引きテンパイでもヤミに構えたのかもしれないが、ここは慎重な選択。
この前巡、北家の近藤からリーチがかかっていてのヤミである。

このリーチとの決戦、さてどうなる?
軍配は宇野に挙がる。
9巡目、ツモ。 500/1000

 

南2局  ドラ

 

2巡目に南家の宇野がをポン

 ポン

4巡目、ツモ 打
6巡目 ツモ テンパイ

 ポン

この動きに対して西家のラス目近藤は9巡目にテンパイが入る

ここからの選択は、打
すぐに裏目のを引いてしまいを打ち直す近藤。

ラス目ゆえ、3メン待ちリーチにいくのかなと思いきや、ヤミのままをツモアガる。 700/1300
実に落ち着いた余裕の和了に見えるのは気のせいだろうか。

 

南3局  ドラ 裏ドラ

 

トップ目 宇野  39600
2番手  村上  37500
3番手  近藤  22700
ラス目  設楽  20200

5巡目、南家近藤が好形イーシャンテンになる

このとき、すでに西家設楽が2フーロしているが実に危うい仕掛け

 ポン ポン

大丈夫なのか?設楽。
すると、近藤がを重ねて即リーチをかけてくる。

下家の設楽、ノータイムでを手中から放出、一発放銃の巻 8000
設楽としては非常に珍しい愚形残りの2フーロ形。
果して心中はいかに…

 

オーラス  ドラ

 

北家 宇野  39600
西家 村上  37500
親番 近藤  30700
南家 設楽  12200


4巡目、宇野がポンで仕掛けていく

 ポン

すると、親の近藤も6巡目にカンをチーして仕掛け返す。

 チー

更に9巡目、をポン

  ポン チー
対する宇野は、6巡目にを引き入れてテンパイ。

 ポン

10巡目、すでにを河に並べていた近藤がを摑み、ツモ切り放銃 1000

激しい戦いに幕が下りた。

 

           10回戦   トータル

トップ  宇野    40.6 →  +170.5
2番手 村上    17.5 → ▲133.1
3番手 近藤  ▲10.3 →  +92.7
ラス   設楽  ▲47.8 → ▲172.7

 

 

 

 

11回戦   起家 村上  南家 近藤  西家 宇野  北家 設楽

 

首位を突っ走る宇野と、エンジンがまったく掛からず4番手に低迷する設楽との差が340p余り。
ちょうど折り返し地点を迎えたところではあるが、そろそろ起死回生の一発を放っておかないと、最高位を戴く道から転落してしまう。
もちろん、4番手を脱したとはいえ、村上とて宇野との差が300p余りあり、潮目を変えるには、この11回戦あたりでの噴火が望みだろう。
近藤は、この節連続3番手に甘んじてはいるが、何か余裕を感じさせる負け方で、宇野にしてみれば、80pリードは、あって無いようなものに感じているのではないだろうか。

 

 

 

東1局  ドラ 裏ドラ

 

2巡目、早くもイーシャンテンになる南家の近藤

 ツモ

5巡目ツモ
ここで近藤はをチョイスし、リャンシャンテン戻しのタンヤオ・ピンフ手筋に入る。

いっぽうトータル首位を走る西家宇野は、8巡目にこの形になる。

次巡、を引いて即リーチ。
ただは3枚切れだった。

すると、近藤も次の形から、11巡目に入り目に当たるドラを叩き切って追いかけていく。

雌雄を決する勝負の軍配は、次巡宇野がを摑み近藤に挙がる。 5200

 

東2局  ドラ

 

決戦を制した近藤が親を迎え、11巡目にのポンテンをとる。

 ポン

少し時間がかかったが、ドラのをツモり1000オールをものにする。

 

東2局 1本場  ドラ

 

3巡目に親近藤から「ポン」の声がかかる。

 ポン

そして10巡目にはこの形に伸び

 ポン

次巡、村上からが出てきてテンパイを果たす。
待ちが少々苦しいため、子方が受けに回ってのツモ専流局覚悟かと思いきや、13巡目、敢然とリーチをかけて立ち向かってきたのが宇野。

マンズの一色手の親満が見えている親に向かって同じマンズ待ち、サシ勝負に挑んだ宇野に鳥肌がたったのは私だけだろうか。
「ウノ~~!!」と大向こうから声援が入ったような気がしたが、両者がっぷり四つのまま流局。

 

東2局 2本場 供託1  ドラ


宇野・村上の2人テンパイで静かに流局。
親の近藤にテンパイが入るも、終盤勇気ある撤退をし、納得の親落ち。

東3局 3本場 供託1  ドラ

 

3巡目、親の宇野が早くもイーシャンテンに。

7巡目、ツモ、打としてテンパイとらず。
欲張って打としないところが宇野らしい。
12巡目、を引き直し、『ここまで!』という見切りで今度は辺リーチをかける宇野。
しかしながら流局、1人テンパイ。

 

東3局 4本場 供託2  ドラ

 

供託が2本ある4本場となると、卓上は空中戦の雰囲気が増してくる。
案の定、親の宇野がをポン。

 ポン

合いの手を入れるかのようにを6巡目に叩く村上

 ポン

首尾よく9巡目にを引いてテンパイとなる。
一方、宇野は8巡目にを重ね、とのポン材チェンジを始めていたが…
その最中、村上のロン牌を引かされ、1000点放銃となる。
村上供託・積み場込みの4200の和了は美味しかったろう。

 

東4局  ドラ

 

4巡目、北家の宇野がスッと動き始める。

 ポン

ドラがだけに少し時間がかかるかなと思っていると、を重ねをチーしてこんなテンパイに

 ポン チー

7巡目、近藤があっさりを放銃して終わるわけだが、この1000点のアガりを宇野はどんなふうに捉え、近藤はどう感じていたのか、興味深いところであった。

 

南1局  ドラ 裏ドラ

 

第1打を完了した親村上の手牌

ドラのよ、入ってこい!
という想いも空しく、7巡目にツモってきた牌は
『そりゃそうだ』と村上が思ったかは知らないが、ドラ待ちヨシヨシの即リーチ。
スパっと12巡目にツモり上げる村上。『裏よ乗れ!』
ととと、乗らずの2000オール
『そりゃそうだ』
まあ、でも気分は上々。
ところが次局は設楽に1000点で親落ちさせられる村上。
むむむ、まだ来てないのか…

 

南2局  ドラ

 

7巡目、親の近藤がこの好形イーシャンテンに


ヨシヨシ、と思ったのはほんの2秒くらいか。
下家宇野からリーチがかかる

一気通貫のカンチャン待ちは、いつ眺めても美しい。
そしてなにより、なんかアガれる気がするカンチャンに見えてしまう。
10巡目、西家の設楽

ここから苦渋の放銃
が先だろうとか、を勝負する手もあったのでは、と批評するのは簡単であるが、設楽は設楽の攻め方というものがあるのだろう。
攻め方は生き方に通じるところがあるから、設楽の人生を垣間見た思いがする放銃の5200であった。

 

南3局  ドラ 裏ドラ

 

トップ目 村上  36900
2番手  近藤  35200
3番手  宇野  28800
ラス目  設楽  19100

北家近藤が2巡目にをポン

 ポン

トップ目の村上とはハナ差ゆえの仕掛け
9巡目、ドラ筋のもチーしてゴールへ一直線に向かう近藤

 ポン チー

すると10巡目、設楽がリーチ

下家の村上、このリーチを受けての数巡後、このテンパイからアブリ出しを食わされたかのような放銃をしてしまう

6400 トップ目からの痛いイタイ放銃となった。

 

オーラス  ドラ

 

西家 近藤  35200
南家 村上  30500
北家 宇野  28800
親番 設楽  25500

 

3巡目、2番手に転落した村上の手牌。

トップ目の近藤とは4700差。
ピンフ・イーペーコーをツモるか、ピンフにならなくてもツモりさえすれば再逆転できる好手牌である。
6巡目ツモ
8巡目ツモ
これなら出アガりしても逆転となる満点リーチ。

前局、村上から会心の6400を仕留めた親の設楽はどうなっていたかと云うと、6巡目にこの形から2枚目のをスルー。

賛否は渦巻くところだろうが、設楽という打ち手は、<七対子>作りに相当なスキルを持っているようで、『鳴けばいいのに』と心配してしまうような手牌でも、じっくりと対子作りに勤しむ男なのである。

だが、残念ながら今局はそのスキルが活かされる途中で、村上に息の根を止められてしまった。

12巡目、をツモり2000/4000での再逆転トップを果たす村上。

ムムム、これは大逆転の予兆か…

             11回戦    トータル

トップ  村上    38.5 →  ▲94.6
2番手 近藤    13.2 →  +105.9
3番手 宇野  ▲13.2 →  +197.9
ラス   設楽  ▲38.5 → ▲211.2

 

 

11回戦を打ち終えて、村上が首位との差300pを割るところまで詰めてきた。
まだまだ連覇への道のりは遠いが、3節目最終戦の12回戦でトップを取り、宇野をラスに沈めることが出来れば…可能性が出てくる。
設楽にとっては、この12回戦からが辛い戦いになる。
勝負とは、とてつもなく過酷なものである。「苛酷」と書くべきだろうか。
無慈悲なものなのである。
恐らく設楽にとっては初めて経験する勝負がこれから始まる。
それは、自身が勝つための勝負ではなく、自身の心に打ち克つための勝負が始まるのである。
『逆転の目がまだある』などとはツユほども思ってはならない覚悟が必要とされるのである。

 

 

 

 

12回戦   起家 設楽  南家 村上  西家 近藤  北家 宇野

 

 

 

東1局  ドラ 裏ドラ

 

親の設楽が6巡目に好形イーシャンテンとなる。

ドラも三色も無い手牌だが、せめて連荘くらいは許されてもいいのではないか。
ここまで苦しんで苦しんで、好手牌がやってきても、さっと蹴られるか、放銃の憂き目に遭うか、思わず目を逸らしたくなるようなシーンの連続だったから、せめて今局くらいは…
と思った矢先、北家宇野からリーチがかかってしまう。

ピンフのみのリーチであったが設楽にしてみれば、『また先を越されちゃったか、きっとアガられちゃうんだろうな』という半ば諦めにも似た境地だったのではないだろうか。
そしてその予感はすぐに現実のものとなる。
8巡目、をツモって裏ドラを開けると雀頭のがドラになっているという、宇野にしてみれば超ラッキーな、設楽にとっては愕然とする結末に…
誠に非情な2000/4000であった

 

東2局  ドラ 裏ドラ

 

南家近藤の手がいい。
4巡目にしてこの形。

次巡、あっさり肝牌のを引き、気持ちよさそうにを横に曲げる。

何をツモるのかな?…と思ったのも束の間、下家の宇野が「リーチ!」と追いかけてきたではないか。

前局マンガンをツモって意気揚がる宇野の追いかけリーチだけに、場の緊迫感はマックスまで上昇した。
親の村上、北家の設楽の下位陣は、ただただ呆然、なすすべもなく眺めているだけだった。
7巡目、宇野がを摑む。
裏ドラは
そのは宇野の手牌に3枚組み込まれており、一歩間違えば、2局連続の裏爆弾の炸裂となり、村上の首も危なくなるところだった。
宇野から近藤へ8000の移動となったわけだが、この移動の重さを宇野が感じるのはしばらく経ってからであった。

 

東3局  ドラ 裏ドラ

 

6巡目、親近藤の手牌

そして8巡目に4枚目のをツモり、即リーチ。
すでには場に3枚切れていたものの、4枚目のが引けた感触からも、近藤は『アガれる』と確信してのリーチだったように思う。
12巡目、ツモ。
実に力強い2000オールだった。

 

東3局 1本場  ドラ カンドラ 裏ドラ カン裏 

 

設楽が動く。
このままじっと耐えていても埒があかないと踏んだようだ。
2巡目、ポン

 ポン

ホンイツ含みの遠い仕掛けであるが、西家という立ち位置を活かしての仕掛けに映った。
そしてこの仕掛けによって、ふって湧いたような幸運が設楽に訪れるのである。
5巡目までにが暗刻になり、遠い仕掛けに見えた手牌がアッという間にイーシャンテンになる。

 ポン

6巡目、ツモ
少し逡巡したものの、腹をくくって暗槓する設楽。
すると、手中にトイツのが新ドラとなり、更にそのが9巡目に暗刻になってテンパイ。

 ポン アンカン

同巡、北家の村上がリーチをかける。

123の三色手替わりを待たずに即リーチとしたのは、やはり槓ドラ効果だろうか。
珍しく下位陣が主役となる1局となったが、11巡目に村上がを放銃という、やはり上位陣には傷が付かぬ結果となってしまった。

 

東4局 ドラ

 

親の宇野が5巡目にこの手格好に

ところがこの好手牌、まったく動くことなく村上の1人テンパイで終わる。
もしや宇野に翳りが出てきたのだろうか…

 

南1局 1本場  ドラ

 

1巡目、西家近藤の手牌

なんじゃこれは!
翳りのみえる宇野とは真逆の<本局も晴天なり>いや<快晴なり>の超好手牌。
親の設楽が2巡目にをポン

 ポン

東3局1本場の再現を狙うかのような遠い仕掛け。
でも柳の下にどじょうは二匹いなかったようだ。
6巡目、にポンテンをかける近藤。

 ポン

辛い辛い仕掛けを施して8巡目にあっさりをツモる近藤。
そろそろ《ゾーン》に入ってきたか。

 

南2局  ドラ 裏ドラ

 

親の村上5巡目の手牌

ここにを持ってきてツモ切りする村上。ドラがゆえの選択に見えるが、マンズのリャンメンターツのどちらかを外して暗刻手やトイトイを狙っていく村上も見てみたかった。
一方、南家の近藤は7巡目にしてこの好形イーシャンテン。

トップ目を独走する男と、ラス目に甘んじる男の差なのだろうか。
11巡目、ようやくをポンした村上の手牌はまだイーシャンテン。

 ポン

近藤は8巡目にをチーテン。

 チー

そして再び村上にを摑ませて終局するのであるが、あまりに悲しい結末に、思わず目を背けてしまった。

 

南3局  ドラ

    

トップ目 近藤  49300
2番手  設楽  30200
3番手  宇野  24900
ラス目  村上  15600

12巡目に南家宇野がリーチ

そして16巡目、意を決した表情で追いかけるラス目村上

なんとも言えぬ哀愁を帯びた最終形。
当然のことながら、奇跡の起きようはずもなく、流局。
親番だった断トツの近藤にとっては、理想の親落ちとなった。

 

オーラス 1本場 供託2  ドラ 裏ドラ

 

北家 近藤  47800
南家 設楽  28700
親番 宇野  25400
西家 村上  16100

7巡目、親の宇野からリーチが入る

を切ってのリーチであったが、数巡前にドラのも叩き切っているだけに、迫力を感じた子方は早々に受けに回ったかに見えた。
12巡目、西家の村上に宇野のロン牌が渡る。

くっつきテンパイで粘っていた村上だったが、この引きで万事休すかと思われた。しかしを切って執念のイーシャンテン維持。
そして16巡目、「リッチ!」と出る

3番手の宇野がリーチ棒を出して村上とは8300差となり、供託も2本あり、ノミ手リーチとはいえ、ラス目の村上としては最善を尽くしての追いかけリーチ。
ロン牌を止め切って、タンヤオを棄ててまでのカン待ちに、現最高位の意地とプライドを見た思いだった。
そして凄味のある流局となった。

 

オーラス 2本場 供託4  ドラ

 

北家 近藤  46300
南家 設楽  27200
親番 宇野  25900
西家 村上  16600

トップ目近藤の手が軽い。
5巡目にしてこの形。

どうにでも好形変化していきそうな形であったが意外に長引き、を引いてテンパイしたのが11巡目。

14巡目、村上がを打って終局となったわけだが、行く末を充分に暗示させてくれる近藤のアガりに見えた。

 

           12回戦    トータル

トップ  近藤   +52.9 →  +158.8
2番手 設楽    +7.2 → ▲204.0
3番手 宇野  ▲14.1 →  +183.8
ラス   村上  ▲46.0 → ▲140.6

 

 

 

 

残り2節8回戦で3番手村上と首位宇野との差は300pを超えてしまった。
それでも《勝負は下駄を履くまでわからない》と見る向きもあるかもしれないが、2番手の近藤ともほぼ300p離れており、村上・設楽の最高位戴冠の目は消失した。

「一生懸命、集中して自分の麻雀を打つだけです」と2人は云うであろうが、これがまた難しく、辛い道中が永遠に続いていくような感覚のなかで打っていかなければならない。

プロは孤独な存在である。
自分しか自分のことはわからないし、自分しか自分の敗因を消化していくことはできない。
どんなに信頼できる仲間であっても、勝負の渦中で起きたことに対しての慰めはかえって傷が深まる。

それでも残り8半荘、幕が開いたらプロとして打つ宿命が待っている。

最高位戦選手300人余りの頂点に聳え立つ12人のAリーグ戦士たち。
そして決定戦に進出できるのは、たった4人の強者たちだけである。
その強者たちの中で、最高位を戴冠できる1人が勝者で、残りの3人は敗者となってしまうのだろうか…

私はそうは思わない。

 

 (文:土田浩翔)

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