コラム・観戦記

【第40期最高位決定戦第2節観戦記】五十嵐毅

(文:五十嵐毅)

第40期最高位決定戦 2日目

ドラが2枚あるピンフ手だった。

で3900、でタンヤオ、さらにイーペーコーが付く。 リーチを掛けた。

ハイテイにがいて僥倖の「倍満!」と思った瞬間、力が入り過ぎてツモッた牌が後方に吹っ飛んでいた。

そのを拾い上げてくれたのは観戦していた宇野公介らしい。

本人がそう言うのだから間違いないだろう。

 

旧ルールではなかなか見られないバカヅキのアガリが決勝点になって20.4Pという最高位戦史上最低ポイントで(それまでは大隈秀夫さん)私は21期最高位になった。
「五十嵐さんが最高位になれたのは僕が拾って上げたからですよ」
本当は飯田正人さんの後ろで見たかったのかもしれないが、当時入会2年目のペーペーなので一番人気のない私の後ろにいたのかもしれない。
宇野公介20期入会。 もう21年在籍しているのか。

後輩何人かに最高位を先に取られたが、今期チャンスが巡ってきた。

 

 

そして私がを飛ばした3か月後、最高位戦は分裂し、新人を例年になく大量に取った。

この年入った新人ばかり20人で最下位リーグは構成された。

20歳代がほとんどの中で、30代で落ち着いた男がいた。

常識もあり、仕事ができる。

中間層の主だったところが麻将連合にいったため圧倒的人手不足だった。
「誠一、お前が事務局やれよ」当時の代表が(あっ、今もか)そう言って新人がいきなり事務局をやることになり、数年間まっとうした。
彼が事務局長を辞めたあとに「なんで辞めたの?」と酒席で訊いたことがある。


五十嵐さん、僕は麻雀打ちたくて麻雀プロになったんですよ。事務仕事やりたかったわけではないんですよ!


魂の叫びだった。


彼の事務能力を買ったのは私を含めた当時の執行部であり、彼がやりたいと言ったわけではなかった。

あまりに似合っていたので、近藤イコール事務局長と思い込んでいたが、本人は辛かったんだろうな。
そして、麻雀打ちたくて麻雀プロになった男は3年前にプレーヤーとして花を咲かせた。

37期最高位になった年に50歳になっていた。


村上淳も近藤と同じく22期生。

筆記試験も実技も抜群で、いちいち点数を発表しなかったが、トータルで首位通過だったと思う。(実戦のポイント首位は国士をアガッた渡辺洋香)
25期が始まるときに、翌年の下位リーグ増設が決まり、人員確保のために試験に落ちた者たちを「研修リーグ」として1年間つなぎとめておくことが決まった。
例の如く、「五十嵐、お前がやれよ」と言われたので引き受け、村上をサポートに選んだ。

○○定石とか○○理論などに感化されず効率重視の考え方は新人を素直に教えるにうってつけだと思ったからだ。
研修の場では私はあまり発言せず村上にほとんど任せた。

なぜなら、そろそろ新人教育を誰かに任せたいと思い、村上を育てて押し付けようと思っていたからだ。

もっとも、押し付けるどころか私自身がこのときの教え子数人を引き連れて翌年最高位戦からいなくなってしまったが。
村上はすぐにAリーグに上がり、すぐにタイトルを取ると思っていた。

この予想は半分当たり、半分はずれた。

Aリーグにはトントン拍子で上がったが、初タイトルは日本プロ麻雀協会の第8期日本オープン。

予想に反してプロ入りから13年もかかった。

この年勢い余って35期最高位にもなり、その後もタイトル数を増やしているので、まあ予想は当たったことにしておこう。


設楽遥斗は……私が最高位戦にいなくなってからの入会なので思い出なんか全然ないや、ゴメン。

 


初日の4回戦が終わって近藤+70.8、設楽+27.7、宇野△37.8、村上△60.7となっている。

上下が小さなトップラス2回分の差である。

 

 

 

5回戦 (座順は村上-宇野-設楽-近藤)

 

 

東1局、宇野が配牌に恵まれ3巡目にリーチ。



 

イーペーコーができていて絶好の3メンチャン。 ドラのでのアガリなら満貫以上。

宇野は、この巡目なら悠々と一人旅でツモれると思っていただろう。
しかし、その考えは、甘かった。


親の村上が10巡目に追いついてリーチ。

 


 

設楽もドラドラで12巡目にリーチ。



親を含む3人リーチとなれば残る1人はオリに四苦八苦となりそうなものだが、近藤はちがった。

13巡目に設楽のツモ切りをチー。


 チー  打


まだイーシャンテン。

とても勝ち目はなさそうだったが15巡目に設楽がを持ってきて追いついた。


 チー チー  打


この段階でも宇野1枚2枚、村上1枚、設楽1枚のみ、近藤ともに1枚ずつと、宇野の3枚残りが有利だったが、と近藤の必要牌をまるでベルトコンベアのように流してきた設楽のツモはも運んできた。
様子見から入ってよさそうな緒戦から、誰も緩めない激しい攻防は素晴らしい。

そして最後方から追いついた近藤のかわし手の喰いタン1000点。

リーチ棒3本回収して計4000点だが、得点以上に値千金のアガリである。
そういえば22期に入ってきたばかりの近藤はこうしたかわし手がうまかった。

なんでもリーチで攻めたがる若い奴らの中で年齢相応のテクニシャンだった。

その分打点が低いのがキズだったのだが……。

 


東2局、親の宇野がダブポンの2900(放銃・近藤)、1本場1人テンパイで迎えた2本場、またも早いテンパイが入った。


 (ドラ

 

と切った4巡目のテンパイ。

ドラのタンキはもちろんのことを引いてのリャンペーコー手変わりを待ってのヤミであったが次第にピンズの下が良く見えてきた。

しかしツモ切りリーチでは訳アリを読まれてしまう。

そこで8巡目にツモッたを空切りでリーチといった。
読み通りは丸生き。

1枚は近藤に流れたがすぐにツモッて3200オール(裏ドラ)。
宇野の親は4本場まで続き、親落ちしたときには59700点持ちのダントツになっていた。

 

 

東3局、親の設楽がリーチするも、


 (ドラ 裏ドラ

 

流局。

 

1本場、南家の近藤が仕掛ける。(ドラ

 

 ポン

 

この後、ホンイツに向かうのだが、なかなかピンズを引かず苦労する間に、9巡目設楽のリーチが入った。

 


 

前局に続き打点がともなう当然のリャンメンリーチだが、これを待っていたかのように近藤のツモが利きだし、がアンコに。

 

 ポン

 

で真っ向勝負とは行かず、切り。

これは西家・村上が対子であったが、すでにオリていたので当然ポンせず。
近藤ツモでテンパイし、ここでを勝負。

すると、東1局のように設楽のツモは近藤のアシストをするが如くロン牌のを運んできた。
この局の仕掛けは最高位戦に入りたてのころの近藤のイメージにはない。

当時ならば1000点で終わっていたのではないか。 力強さも身につけている。

そうだよな、19年もたっているのだから。

 

 

東4局1本場(ドラ)、ここまで勝負手が実らなかった設楽にようやくアガリが出る。
6巡目、をポンして打でテンパイ。

 

 

 

捨て牌は一直線のホンイツ模様だが、まだ6巡目であり、をポンしてを打っただけでマンズを余らせていないのでテンパイは気づかれていない。

その証拠に近藤は同巡にを、宇野はを切っている。
そして次巡、近藤は切り。

村上は手にあるが余剰牌で、いつ切ってもおかしくなかったが、近藤のに合わせるように同巡を切った。
設楽、それまでのリーチ攻勢にくらべれば3900とやや小粒のアガリだが、ようやく初和了。
一方、近藤や宇野よりも慎重策を取っていた村上が放銃。麻雀の難しさである。

 

 

南2局、親を迎えた宇野に決定打が出る。
3巡目の宇野の手牌、

 

 (ドラ

 

なかなか難解である。

私なら打としそうだが(この時点で場に1枚も出ていない)宇野はストレートにイーシャンテンに取る切りとした。
これが正解で、6巡目にドラのを引き入れ、カン待ち即リーチ。

この時点では近藤がピンズの上をと持っているだけで3枚残りだった。

宇野のリーチ後、は村上にどんどん流れ込み、最終的にはアンコになった。

それなのになぜ宇野はアガれたのか。 近藤が打ったに他ならない。



 

終盤にこの形となった近藤、ピンズはほとんど通っていない。

2スジにかかるの選択はない。

テンパイを取るならの二者択一でを選んでしまった。
裏ドラで7700。

宇野はこれで65100点となると同時に2着目近藤からの直撃でトップを不動とした。

 

 

南2局1本場(ドラ)、ようやく村上に手が入る。
村上5巡目にドラアンコのリーチ。

 


 

これを受けた宇野は6巡目、
村上の捨て牌

 


 

に対し、

 

 ツモ

 

から、安全策&七対子のイーシャンテンとする切りとはせずに、真っ直ぐ切りで打ち上げたのだが、これはこれでいいと思う。

異論はあるだろうが、6万点以上持った親がラス目のリーチを怖がる必要はない
このアガリで村上は18400点となって13500点の設楽を抜き、ラス脱出。

 

 

南3局(ドラ)、またも宇野に手が入る。

 

7巡目、 ツモ

 

を切れば次巡には七対子のテンパイがほぼ約束されるが、点棒を持ったら大振りしたくなるのはO型の性。

一応ツモでのイーペーコー仮テンも見れる切りとした。
10巡目にを叩いてポンテン。
このは1枚目。

私なら数牌のならともかくの1鳴きはしない。

宇野のO型濃度は私より薄いようだ。
しかし、この宇野の判断が正解。
設楽が、

 


 

一触即発のこの形になったところで宇野がツモ。 2000/4000。

 

 

オーラスを迎えての点棒状況は、親から順に、
近藤29300、村上16400、宇野64800、設楽9500
ラス目の設楽が11巡目にリーチ。

 

 (ドラ

 

ツモっても村上を直撃しても少し足りないので基本的には裏ドラ期待か。
村上は当然このリーチには向かえない。

宇野は真っ直ぐアガリに向かってその過程で設楽に打って終わらせてもいい立場であったが、頑張るほどの手にはならず、設楽のリーチ前からオリ気味だった。
局は長引き、親の近藤が17巡目にテンパイが取れる形になった。

 

 ツモ

 

テンパイ取りで打たなければいけないは厳しい。

設楽の捨て牌にマンズは、そしてリーチ打牌のがあるだけだ。 むしろ本命スジ。
結局、近藤は長考の末、現物の打。 テンパイを取らずにこの半荘を終了させた。
ちなみにこれが日本プロ麻雀協会の対局で近藤の立場であれば、を勝負する者が大半ではなかろうか。

設楽相手に満貫を打っても2着から落ちない状況では、勝負して親を続けトップへの可能性を残したほうが有効と思えるからだ。
オカ有りでトップに+50も付く協会で上記のような点差状況では2着はトップに挑むポジションだが、+30、+10、△10、△30と均等差順位点の最高位戦では2着は「守るポジション」の意識が強くなって当然で、なおかつトータルポイントまで考えれば近藤の選択は至当。

もしかしたら、南2局に7700を打って宇野のトップを決定付けてしまったあたりからこの幕引きも考えていたのではなかろうか。

近藤が「体勢論」的なことをどの程度まで考えるのかは知らないが、微妙に影響しているように思う。


宇野+63.8 近藤+8.3 村上△24.6 設楽△48.5 (供託+1.0)


〔5回戦終了時トータル〕 近藤+79.1、宇野+26.0、設楽△20.8、村上△85.3

 

 

 

6回戦 (座順は村上-設楽-宇野-近藤)は、前回デカトップの宇野が気分良く飛び出した。

 


東1局(ドラ)、設楽が9巡目にリーチ。

 


 

これに宇野が追いつく。

 


 

こっそりヤミテン。

一通の手変わり待ち、がリーチの現物というのが理由だろうが、がドラ表も含めて3枚も見えており(は生牌)、リーチでぶつける気にならなかったというのが本当のところではなかろうか。
しかし、このラス牌のを設楽がすぐに持ってきて、宇野が2000を召し取る。

 

 

東2局(ドラ)は全員の手が遅かった。

近藤も宇野も設楽もイーシャンテンで長らく喘いでいた。

 


 

この形でツモ切りを続けていた宇野がようやくテンパイしたのは14巡目。

ツモでは打のドラタンキとするしかない。 もちろんヤミ。
設楽はをアンカンしたあと(カンドラ)、17巡目にようやくテンパイ。

 

 アンカン

 

カンしたため親の自分がハイテイ手番になっている。

ハイテイ一発ツモの合わせ技を狙って、凄い気合でを切ってリーチ。
すると、その気合いをあざ笑いかのように宇野の手元でが踊った。
積極的にアガリを取りに行っているわけではないのにアガリ切り、もれなく設楽のリーチ棒付き。

美味である。
ところでこの局、実はテンパイが一番早かったのは近藤であった。
4巡目の選択が凄い。

 


 

ストレートに打つならだが、生牌なので絞るならが効率的だ。

567の三色をチラ見するなら打だろう。
しかし近藤は打とピンズの上を完全に断った。

この時点でピンズの上はが1枚ずつ出ているだけである。
こう打つ以上、カンからの喰い仕掛けも考えていたと思えるが、結局メンゼンでテンパイする。

 


 

13巡目テンパイ。

それまでには場に2枚切れとなっていたが、15巡目にはを引き入れタンピン高目イーペーコーにまで育った。

そして、その間ピンズの上は何ひとつ引いていないのである。

先攻する宇野の陰で反撃のチャンスを窺う近藤。 アンテナの周波数は合っているようだ。

 

 

東3局(ドラ)、気分良く親を迎えた宇野。

7巡目と早いリーチが入る。

 リーチを受けた一発目、村上にテンパイが入る。

 

 ツモ

 

テンパイ取りのはドラマタギで危険牌、そんなのはわかっている。

オリるなら現物の、中抜きで死ぬのが嫌ならのアンコを下ろして手を再構築させる、そんなこともわかっている。
手を止め唸っている間、村上が何を考えていたのかはわからない。

ベースギターを肩に背負い最高位戦を受験した早大卒業間近のあの頃なら、さほど考えずに「ムリムリ、この手で親リーに一発で行けないよ」と言って、やめたかもしれない。
しかし、19年の経験が熟考の末にテンパイを取らせた。
そのは21年目の先輩の高目(18000)だった。
 


 ロン (ドラ 裏ドラ


 

 

1本場はまたも設楽と宇野の攻防。
設楽(北家)10巡目、

 

 ツモ (ドラ

 

「こんなペンチャン待ち取れるか!」とばかりに切り。

次巡ツモでは「正解!」と思ったことだろう。

無論切りの3メンチャンリーチ。
しかし、設楽のリーチを待ちかねたかのように宇野にテンパイが入る。

 

 ツモ

 

切りリーチ。
もう、こう書けば流れはおわかりだろう。

麻雀に流れはないという方も文章の流れで結末を読み取ってもらいたい。
そう、宇野が一発ツモ。 親満、またも設楽からのおまけ付き。

これでこの半荘も6万点超え。

 

 

この親を落としたのはやはり近藤だった。 しかし、色々とアヤはあった。
まず設楽、


 ツモ


テンパイは取れるが役無し、ドラツモもちらつき、テンパイ取らずの切り。

すると、これが宇野に純チャンのテンパイを入れさせてしまう。

 

 チー 打タンキ。

 

すると近藤にテンパイが入った。

 

 ツモ

 

待ちはペンと良くないが、打点で勝負とばかりにリーチ。
すぐに設楽がツモで再テンパイ。 を勝負してヤミテン。
ここに最後方から村上が追いついた。 ここはドラドラ。

 


 

ピンフのみ、かわし手の設楽はラス目に来られてはもう行けない。

宇野もすぐにギブアップ。
そして近藤がツモアガッた。 満貫。 裏ドラ表示がでラス牌だった。
この後は真っ二つに身分がわかれた上位2人の攻防と下位2人のせめぎ合いが続いた。

 

 

オーラス、親の近藤がリーチ。

 

 (ドラ

 

宇野も待ちピンフで追いついたが、近藤がツモ。

この2600オールで宇野まで5000点差と詰め寄る。

 

 

だが次局、宇野があっさりとテンパイを入れ、リーチ。

 

 (ドラ

 

このときすでに、ハコ点ながらも3着目の設楽が1600点しかないため、2000点+積み棒で3着浮上となる村上が喰いタン・ドラ1の仕掛けを入れていた。

これではが止まるはずもなく、村上が打ち上げてしまった。

 

宇野+63.5 近藤+36.9 設楽△38.4 村上△62.0

 

〔6回戦終了時トータル〕 近藤+116.0、宇野+89.5、設楽△59.2、村上△147.3

 

 

 

7回戦 (座順は設楽-近藤-村上-宇野)も宇野の好スタートで始まる。

 

 

東1局(ドラ)8巡目、

 

 ツモ

 

を残しているのはチャンタも考えてのことか。

しかし、自風のをアンコにして文句無し。 切り即リーチ。
これを受けた親の設楽、

 


 

ツモでテンパイ。 追っ掛けリーチ打牌ので一発放銃である。(裏ドラ
これは致し方ない。 設楽のポジションでは親番は1回たりとて無駄にできないのだから。
しかし、ツモなら万全、ツモテンパイでも放銃を避けていい勝負になったかもしれないのだが、ロン牌が押し出されるツモ、つらいだろうな。

設楽は本当にこの日、宇野に対して巡り合わせが悪い。

 

 

さて、ここまでは宇野が先行し、近藤が追いかけるというパターンに終始していたが、この半荘はちがった。

要因は東3局にあった。
前局の東2局はテンパイできずに親を流してしまった近藤だったが(村上の1人テンパイ)、東3局は12巡目に三色出来合いのリーチ。

 


 

ドラのが行方知れずのままなのは不気味だが、だからといってリーチしない人がいるだろうか? 
14巡目、親の村上が追いつく。

 


 

3メンチャンよりも打点を取るドラタンキでリーチ。

150近いマイナスを背負っている村上にしてみれば当然の応手。
は設楽に対子だったが、そのラス牌を近藤が持ってきてしまった。 裏ドラで親満。
この半荘は上位2人が宇野と村上、下位2人が近藤と設楽という図式で推移する。
ただし、近藤が沈んでいるのなら無理する必要のない宇野に対して、村上はアクセル吹かしっぱなしの印象である。

それでいて南場に入ってリードしているのは宇野のほうであった。

村上はさらにアクセルを踏み続けなければならない。

 

 

南2局(ドラ)、6巡目に村上がリーチ。
これにをポンした親の近藤が無スジをバンバン飛ばして追いつく。

 

 ポン

 

近藤18300、設楽16400とラス落ちは怖いが、この親番で駒を下げるわけにはいかない。

仮に村上に打ってラス落ちしたとしても、残る局で3着再浮上か、または村上に宇野をまくってもらえばよい。

近藤からすればどちらも同価値である。

それに近藤の手、現状は南・ドラ1だが、も1枚ずつ残っており、親満に変貌する可能性もあった。
近藤にかぶせまくられ、肝を冷やした村上だったが、終盤に残り1枚となっていたを引きアガッた。

 

 (裏ドラ

 

チャンタになりそこないの1000/2000ツモだが、これで宇野との点差を4500差と詰めて親番を迎える。
だが、宇野が3巡目に簡単にテンパイ。

 

 ツモ

 

でヤミ。

ツモのタンヤオ、あるいは2方向のリャンメン変化でピンフの手変わりを待つ。

次巡、あっさりとツモ打でピンフに。
次巡のドラは当然ツモ切り。 次巡をツモ切っておもむろにリーチ。

 

宇野の捨て牌

 

解説者はの切り順に目をつけ、この捨て牌ならでなくが本線になるが、ヤミテンの間に近藤がを打っていてが否定されているので、連鎖でが盲点になるというようなことを言っていたが、そんな深淵なものではないだろう。

ドラのに動きが入らなかったからだと思う。
宇 野にしてみれば、ピンフのみで村上の親を流すことに異存はないが、その場合はオーラス(ラス親は宇野である)1000/2000ツモ、あるいはリーチ棒が 出てからの5200出アガリ(設楽と900点差の近藤のリーチ棒は期待薄だが、設楽のリーチ棒は期待できる。そして村上は設楽のリーチに降りる理由がまっ たく無い)など、中堅手でまくられてしまう。

できれば点差をもっと広げたい。

そこでドラのに声がかからなかった時点で次巡リーチと決めていたのだろう。
結果は一発でツモ。

裏ドラはでのらなかったが、村上のハードルを上げる1300/2600。

タイミングばっちりのツモ切りリーチだったわけだが、それがドラのおかげならば、この日の宇野は不要なドラさえ味方につけている。

 

 

オーラスは12300差となってハネマンが必要になった村上、アガッて3着に浮上したい設楽、ノーテンにするわけにはいかない近藤、3人それぞれが「~しなければならない」条件を抱える中で、宇野だけが悠々と降りていた。

結局、アンコの設楽がアガリ切り、近藤がラス。

どこまでも宇野に都合の良い結果が出る。

 

宇野+49.0 村上+18.0 設楽△20.7 近藤△46.3

 

〔7回戦終了時トータル〕 宇野+138.5、近藤+69.7、設楽△79.9、村上△129.3

 

 

 

8回戦 (座順は近藤-村上-設楽-宇野)は前回ラスを引かされた近藤が奮起し、トップで場を回していた。

 

 

オーラスを迎えて近藤44800、設楽34600、宇野26200、村上14400と、宇野を3着に抑え込んでもいる。
しかし、その宇野がラス親であった。
宇野、11巡目にリーチ。 同巡、村上が追っかけリーチ。(ドラ

 

宇野 

 

村上 

 

宇野の一発目のツモは村上の待ちを掠る
村上の次巡のツモは宇野の待ちそのもののだった。 さらに裏ドラがだった。
心の中で叫び声を上げたのは村上だけではなかっただろう。

この親満で宇野は39200となって2着に浮上し、近藤まで5600差と迫る。
もうひとアガリでよもやの4連勝のチャンス、他3人にとってはピンチだったが、1本場は近藤まで10200差、積み棒があるので満貫ツモでトップとなる設楽が5巡目に高目ツモ限定(または裏ドラ)ながらも条件を満たすリーチ。


 (ドラ

 

しかし、これがツモれない。終盤イーシャンテンとなった宇野も、

 


 

メンツ手、七対子、どちらでもイーシャンテンのこの形で押し続けたがテンパイを取ることはできなかった。

 

近藤+43.8 宇野+18.2 設楽△3.4 村上△59.6 (供託+1.0)

 

〔8回戦終了時トータル〕 宇野+156.7、近藤+113.5、設楽△83.3、村上△188.9

 

 

 

この日は、ひとことで言えば「宇野の日」だった。
ツイていたのは間違いないが、その状態を長続きさせるのは技術である。

そして、それが長丁場の戦いではもっとも大事な技術だと私は思っている。

その点においてこの日の宇野は完璧だった。
ただひとつ欠点があったとすれば、これが最終日でなかったことである。

コラム・観戦記 トップに戻る