コラム・観戦記

【40期後期北海道C1C2リーグ第3節自戦記】伊藤奏子

2015年10月4日(日)
40期後期北海道C2リーグ第3節

「パイピンカオパイピンカオ…」
毎回戦、最初の井桁を組む際に、私はこの言葉を心の中で唱えた。

『パイピンカオ』
これは、新しいデザートの名前でも怪しい呪文の言葉でもない。
漢字で表すと、『牌品高』。
「品高く麻雀を打つ」という意味であるが、所作の品の良さを表すだけでなく、対局中の心の品格も表している言葉である。

40期C2リーグの第1節、2節を終え、私のトータルスコアは+53.4。22名いる選手の中でちょうど真ん中あたりに位置する。ここでマイナスせずにポイントを伸ばせるかどうかが今期の結果に大きく影響してくるはずの第3節。私だけではなく、プラスしている選手にとってもマイナスしている選手にとっても、残り2節を前に、自分のポイントを強く意識する節ではないだろうか。

リーグ戦前日、私は対戦者と自分のポイントを確認した。
対戦者は、松本亮一、森本輝美、相川誠(敬称略)の3名。

 

 

私を含めた4名の第2節終了時点のスコアは以下の通りである。
松本亮一:△49.8
森本輝美:+35.1
相川誠:△112.2
伊藤奏子:+53.4

マイナスしている松本、相川にとっては、私と森本を抑えてマイナスを少しでも挽回したいはずである。一方、私と森本にとってはトータルスコアの上位を目指すためには、マイナスは避けたい。

対戦プランを頭の中で描く。
初対戦の相川誠。観戦している限りでは、強気に前に出ていくタイプの打ち手かと思われる。
松本亮一は、今回の対戦者の中では比較的守備を重視した打ち手であるが、自らの勝負所を模索しながら、そうとなれば攻撃に転じてくる選手。そして、森本。彼女は他のリーグ戦でも何度も戦ってきた相手であり、手役重視の攻撃型。私自身も近いタイプであり、過去の対戦を思い返してみても、手がぶつかり合うが故にどちらかが爆発し、どちらかが大きく沈むという展開が多いように思う。
トータルポイントが近い森本が一番のマーク者だろうか…、相川はどんな戦いをするのだろうか…プラスできるだろうか…などの言葉たちが対戦前夜に頭の中でぐるぐる回っている時、ふとこの言葉がよぎった。

『牌品高』

私はまだ牌と向きあってもいないのに、何をああだこうだと考えているのだろうか。麻雀は人読みのゲームではないし、まして数字のゲームではない。対戦相手の打ち筋や各選手のポイントばかりを考えすぎて、大事なことを忘れるところだった。
まずは正しい所作を目指すこと。無駄のない摸打をすること。牌をこぼさないこと。対戦者に感謝の気持ちをもって打つこと。心を強く持つこと。
「牌品高を目指して打とう!」それだけを心に誓って迎えた第3節。

1回戦目  起家から、相川、松本、森本、伊藤。

東1局と東2局で2つのマンガンが炸裂した。
アガったのは私ではない。森本と相川である。

東1局 北家 
西家の森本が中盤過ぎにリーチを打ち、待ちのフリテンを一発でツモアガる。ドラは。リーチ・一発・ツモ・ドラでマンガン。森本の目には、場にある程度出てはいるものの、悪くないフリテン三面張に映っていたであろうが、私の目からはかなり薄い待ちであり、おそらくラスト1枚を一発で引きアガったのではないかと思われた。

東2局 西家
前局親っかぶりをした北家の相川がと切って3巡目にリーチ。
親の松本が一発目で切ったがロン和了される。
リーチ・一発・チャンタ。南の雀頭待ちリーチであった。

この2人のうち、運気が高いのはどちらか。東一局に一発でツモアガリを見せた森本だろうか、それとも早い巡目に型が入っている相川だろうか。

東3局 南家 
親は森本。ここで今日の森本の運気がかなり高ければ、ミスをしない限り連荘されるであろうと予測していたのだが、あっさりと決着がつく。相川が軽くタンヤオの1000点を松本からアガり、森本の親が流れた。要マークは相川である。

東4局 東家 ドラ
配牌

東1局から東3局まで、自身の牌の来方はそれほど悪くないが、いまいちスピードが追いついていない。このままでは、卓上で傍観者になってしまいそうだ。リズムに乗るためにはどうしたら良いか…

仕掛けはあまり得手としていないが、感性に従い、3巡目に生牌のをポン。
次いでその巡に出たをポン。
  ポン ポン

引っ張っていたがくっつき、打
さらにすぐに上家が打とし、チー。
 チー ポン ポン
  
ドラが雀頭の待ちですぐにトップ目の相川からロン和了となる。
要マークの相川から5800点の直撃は大きかったように思う。

東4局 1本場 東家 ドラ

中盤にドラのカンチャン待ち、役なしリーチをかけた。が場に3枚。自分でを切っているのでを引いてのフリテンの手変わりもそれほど魅力的ではないということで、リーチを敢行。あまり牌品高のリーチとは言えないが…。すると、5800点の放銃をもろともしない相川がすぐに追いかけてリーチ。ドラが手中にある、自風の南と何かのシャンポンだろうかと読んでいた。南を掴んだらおしまいな予感がした。が、流局。とドラのシャンポン待ちであった。相川の状態は全く落ちていないようだ。

東4局2本場 東家 ドラ

中盤に北家の森本からリーチが入り、即座に私にもテンパイが入る。
場に表示牌も含め、が3枚見えているところに、ツモが先に入るよりも感触はかなり良い。リーチ。数巡後にをツモ。裏ドラがとなり、親のハネマンのアガリとなった。

東4局3本場は、マンガン放銃後、耐え忍んでいた松本がしっかりと親の連荘を1000点で止めてきて、南場に突入。

南1局は要マークの相川の親番である。北家の自分は絶対に要牌を流さないように心がけなくてはと気を引き締めた。しかし、それも虚しく相川が4000オールをアガり、1本場。
この1本場をピンフのみ1000点で流し、親をそれ以上連荘させずに終えることができた。

南2局、苦しんでいる松本の親番であったが、2本場まで連荘するも、本手はアガり切れず、南3局へ進む。森本は東1局に感触のいいマンガンをアガったものの、その後は勝負には出るが自分のアガリに繋がることはなく、リズムが掴めないままでいたかもしれない。前掛かりになってしまったか、手がぶつかってしまったか…この親番で相川へマンガンの放銃となる。

南4局 東家

オーラスを迎えて、それぞれのポイントは以下の通り。

相川:47500点
松本:9300点
森本:13500点
伊藤:49700点

迫ってきた相川に脅威を感じていたこのオーラスでこそ、「パイピンカオ」と心に誓わなくてはならなかったと後から悔やんだ1局となる。

テンパイ・ノーテンで変わる点差である。相川は最後まで諦めずにテンパイを取りにくるだろう。しかし、中盤まであまり相川の気配は感じない。それよりも大きな手を作りあげている気配を出しているのは森本だった。中盤、私は役なしののシャンポン待ちのテンパイが入るがヤミテンに構える。しかしこのテンパイを組んでいることこそが間違いであった。さえなければタンヤオのテンパイなのである。私のテンパイ気配は出ていたかと思うが、そこで意を決したかのように、前に出てきた森本。森本と2着目の相川との点差はかなりあるが、おそらくハネマン、いやバイマン以上の本手が入っているのだろう。ここで私が焦ってツモ切りリーチをかけてしまう。「牌品高」の欠けたリーチである。リーチ後も森本が下がる気配はない。南家相川の打を北家の森本がポン。親のリーチに通っていない牌がまた打たれる。そして、そのポンと同巡に相川からリーチが打たれてしまった。「リーチ」の声を聴いた瞬間に、「あぁ、負けるだろうな」と思った。予感は的中。一発で当たり牌を掴み、5200点の放銃となった。

1回戦 結果(順位点込み)
相川:+52.7
松本:△50.7
森本:△26.5
伊藤:+24.5

2回戦目 起家から、森本、伊藤、相川、松本

1回戦目のオーラスの情けなさを反省し、再び心の中で「パイピンカオ」と呟く。

2回戦目も相川の勢いは止まらない。
東3局 北家

西家の森本から早い巡目にリーチが打たれるが、直後、森本が切ったを親の相川がポン。
そして、松本が切った發で、發・トイトイの7700をロンアガリする。
なんとかこの親をピンフツモでかわすものの、なかなか勝機を見出せないまま局は進み、南2局の親番を迎える。

親で一度700オールをアガり、
南2局 1本場 東家 

ここで、トップ目の相川とリーチ勝負となる。先制は相川。

私のテンパイ形は、

であるが、678のソウズが河に並び、ピンフの和了逃しをしている。
ずっと固執し続けた残しが間違いだったか…
相川からのリーチ後、を入れテンパイ。
場には2枚出ているが、思い描いていたテンパイが入った以上は勝負である。
あまり自信のあるリーチではなかったが…予想に反して相川がを掴むこととなる。
裏ドラが乗って、12000点のロン和了。これがこの半荘の決定打となった。

南2局2本場

明らかな一色場となった。
上家の森本はピンズ、下家と対面にはマンズが濃い。
3人から放たれるソウズは場に安く、私はソウズの一色手に向かう。

森本がピンズと役牌を2フーロしている終盤に、メンホン・チートイツのテンパイが入る。
イーシャンテンで残していた牌は、の3枚。
最後にが残れば自信のあるテンパイであったのだが、そのが入り目の牌となる。
はどちらもションパイ。
どちらを切っても森本にロンと言われておかしくはないが…
打、でリーチ。
誰からも声はかからない。

リーチ後に私がツモ切りしたを森本がポン。
相川も松本も、2人の勝負を見守る態勢に入った。
決着はつかず、流局。

森本はのシャンポンであった。

を切り、待ちにしていれば、森本にリーチ宣言牌でポンされ、でツモアガリされていた場面である。全員共通の役牌よりも森本の役牌を重視したのだが、ただ運が良かっただけかもしれない。

オーラスは相川が3着から2着となる和了をし、2回戦終了。

2回戦 結果
森本:△44.5
伊藤:+45.8
相川:+10.0
松本:△11.3

3回戦目 起家から順に、相川、森本、松本、伊藤

「パイピンカオ…パイピンカオ…」
1、2回戦目で連帯できたこともあって、もう既におまじないの言葉である。

3回戦目の東場は均衡した戦いとなった。
大きく動いたのは南1局。
親の相川が森本から7700点を直撃。しかし、次局に森本がマンガンをツモアガり、放銃した分を取り返す底力を見せた。このアガリで、相川、森本、私の3名が31600点の同点となる。25200点の松本。

南2局、なかなか和了り番に巡り合えないでいた南家の松本であったが、ここで非常に面白い展開を作り出す。1300/2600をツモアガり、4者のスコアが拮抗する南3局を迎えることとなった。

相川 30300点
森本 29000点
松本 30400点
伊藤 30300点

南3局 南家 12巡目 

 (ドラはなし)

終盤を前にして上記のテンパイとなるが、既に場にはが3枚、が1枚見えている状況。マンズは河には安いほうではあるが、さすがにリーチはせず。すると次巡、ツモとくる。
残り一枚の一は、他家が持ってきたらすぐに打牌されそうではあるが…。
ツモの流れに逆らわず打とすると、次巡にツモ
ここで少考。
もうツモ番は数回しかない。これだけ点差が狭まっているだけに、ヤミテンにしたままの方が良いのか…。おそらく他家は全員、オーラスに勝負をかけているはずである。リーチをかけたとしてもツモらない限り流局は濃厚。
オーラスの親は自分。テンパイ連荘であるため、この点差では、テンパイまたは和了を目指し続けなければならない。
このというツモの流れ。
もしかしたら勝負はここなのでは?
「…リーチ!」

「…ツモ」

海底牌でツモ
リーチ・ツモ・ピンフ・ハイテイ・三色でハネマンのアガリとなった。

オーラスは、一度テンパイ流局で連荘するものの、1本場で相川へ放銃。
1着は1着のままで終了となるが、私と同様に連帯している相川への放銃である。
詰めが甘い。南3局のアガリがなければラスである。反省。

3回戦 結果 
相川:+15.3
森本:△15.5
松本:△37.1
伊藤:+37.3

4回戦 起家から 相川 伊藤 森本 松本

忘れてはいけない。
「パイピンカオ!」

もう完全に呪文と化しているこの言葉だが、姿勢や所作に意識を向けていたことが、結果的にその日の集中力を高めていたように思う。

東2局 東家 配牌

パイピンカオの呪文が効いてしまったのか、下記の配牌を授かる。

 (ドラはなし)

でリーチ。
すぐに他家からもが場に放たれるも、しばらくが場に出てこない。
しかし、中盤、1回戦目から3回戦目まで連対を続けていた相川から、が放たれる。

絶好の相手からの12000点直撃。

東2局 東家 ドラ
パイピンカオの神様からプレゼントしてもらったようなダブリーをアガった次局に、なぜもっと大らかな気持ちでいられなかったのか。

中盤、森本から打でリーチが打たれる。

私の手は、

ドラが対子ではあるものの、配牌からツモもあまりかみ合っていない上に、森本のリーチには通っていない牌ばかり。を仕掛けたところで、メンツが1組できるだけである。リーチに対して押し返せるかの目途も自信もないにも関わらず、ポン。即座に森本がツモ。タンヤオ・ピンフ・イーペーコーの高めツモであった。

リーチを受けたからこそ、冷静に、丁寧に対応すべきであった。ただドラに飛びついただけの無策の愚行である。パイピンカオの神様を怒らせてしまったかもしれない。

南1局 南家 ドラ

ダブリーの12000放銃で東場は弱っていた相川であったが、さすがその日好調なだけあって、最後の親番を必死で連荘させにいく。

9巡目  

ツモ
既に親から一枚打たれているドラを重ね、テンパイ。
カンのまま、テンパイに取るか、取らないか…。
場にソウズが安いと判断し、その形のまま打としたが、
と打てない自分の心の弱さをすぐに猛烈に反省することとなる。
次巡のツモ…

ヤミテンに構えている間にが2枚場に放たれる。
そこでツモ切りリーチ。
すると相川から追いかけてリーチ。
宣言牌は
私の顏は真っ青である。

3回戦目にハイテイので助けられた私だったが、今回はハイテイでを掴み、放銃。
親はリーチのみのカン四。
相川は最後のツモ牌で、暗刻で持っているをツモ切ったらしいのだが、私はダブドラドラのアガり逃しをしていることのショックに動揺していたため、相川が槓を選択しなかったことで、自分にそのままハイテイが巡ってきた事実に気づかなかった。

このアガリをきっかけに相川は連荘。大分息を回復した。

南2局 東家 ドラ

暗いオーラをまとって迎えた最後の親だったが、気持ちを落ち着かせるためにも再び「パイピンカオ」と心の中でつぶやき、姿勢を正す。

ここで、北家の相川が役牌を2フーロし、動いた。すると私の手牌も進んだのだが、ドラを1枚抱えている。相川には当然打てない牌である。4メンツできてしまった。ドラと心中する気持ちでリーチを打った。
終盤にをツモ。大きな4000オールのアガリとなる。

次局は、それまで放銃することもなくしっかりと押し引きしていた森本が相川からドラを含んだチートイツをロンアガリし、トップ目に立った。

南4局 西家 ドラ

トップの森本とは6300点差。対子含みの手牌にドラは1枚だったが、途中で重なり条件を満たしたため、チートイツへのGoサイン。中盤に親の現物でテンパイするものの、その瞬間に相川が3着死守のアガリをして終了となった。

4回戦 結果
相川:△23.1
伊藤:+21.5
森本:+45.2
松本:△43.6

トータル成績
伊藤:+129.1
相川:+54.9
森本:△41.3
松本:△142.7

今回、最初に心に誓った「牌品高」は完璧とはとても言えないが、意識していたことで集中力を持続できただけでなく、ミスをしても、それを素直に受け止められ、再び牌と向き合うことができたように思う。しかし、たまたま好成績ではあったにせよ、対局内容は「牌品低」な場面がまだまだあるのを、自分自身実感している。麻雀はメンタルが大きく左右するゲームである。どんな場面でも「牌品高」を保てるように、今後も牌と自分と向き合っていきたい。

 

(文:伊藤奏子)

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