コラム・観戦記

第10期 飯田正人杯 最高位戦classic決勝最終日 観戦記(鈴木聡一郎)

10 飯田正人杯 最高位戦classic決勝2日目(最終日)観戦記

鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)

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1日目の観戦記はこちら

https://saikouisen.com/kansen_s.php?i=274

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「麻雀バカ勝ちの法則 ()

 

20149月、筆者が竹書房に招集されると、そこには石井一馬が座っていた。

「石井さんの戦術本を作ります」

そう、編集者に告げられる。

石井の書いた原文や話した内容を踏まえて、読み物に仕上げる。

それが構成として筆者に与えられた役割。

週に1度会っては、石井の原文を見ながら何時間も麻雀の話を聞き、内容に応じて石井の文章を直す。

後に「麻雀偏差値70へのメソッド」という表題で世に出ることとなる著書の、仮題として置かれたのが「麻雀バカ勝ちの法則」。

 

バカ勝ちとまではいかないが、最高位戦Classic史上最強とも噂されたメンバーを相手に、初日を終えて首位に立っていたのが、その石井だった。

 

5回戦(初日終了時)トータル

石井 +32.5

多井 +11.3

たろう▲8.9

石﨑 ▲10.2

 

 

 

▼▼▼6回戦▼▼▼

 

【哲学vsバカ勝ちの法則】

 

起家から石﨑、たろう、石井、多井

 

1局ドラ

石﨑293 たろう346 石井288 多井273

 

東場でたろうが細かくアガリ、少しリードして南場を迎えた。

比較的静かな立ち上がりといえるだろう。

 

最高位戦Classicのルールでは少しでもリードすると守備を重視する打ち手が多い。

ノーテン罰符がないのだから当然だ。

しかし、少しでもリードを得ると、逆に躍動するのが鈴木たろうである。

 

ここでも、なんとトップ目のたろうが、あっという間に3フーロ。

しかも、こんな仕掛けなのだから呆気にとられる。

 チー ポン チー

 

手役は役牌の後付けであることが確定しているため、まだ残っている役牌のダブまたはとのシャンポンということになる。

ここまでは「盤面の把握」。

 

ここから先が「読み」の範疇だ。

「打点にこだわる鈴木たろうが、3フーロしての後付け」

この結果を原因まで正しく巻き戻そうとするなら、「3フーロまでして2000ということはない」となる。

すると、3フーロまでした原因は自ずと「高打点の3900になるダブとのシャンポンだったため」が本線。

すなわち、たろうの仕掛けはもしくはのような形と推測できる。

ここまでが「読み」の範疇。

 

そして、ここからが哲人・鈴木たろう先生による「哲学」の時間だ。

 

「みなさんの麻雀の概念をぶっ壊します」

1日目開始前にそう言い放った哲人たろうの仕掛け。

 

 

 チー ポン チー


 

それは、哲学という名のノーテン。

 

後日、たろうはこの局について飄々とこう言ってのけた。

「ああ、あれね。ダブでアガるつもりだったんだけどなあ

これはもう、読みなどでどうなるものではない。

というより、気が触れているとしか思えない。

対局直後には、「あれはバックだよね?」と問う多井に対し、「うん、ダブバックだよ」と平然と答えたそうだ。

確かにダブバックには違いないのだが。

 

この哲学に対し、も掴まなかった石﨑が追いつき、オヤリーチで応戦。

 

こうなるとさすがにたろうがきつい・・・

かと思いきや、安全牌のを切ってあっさりベタオリを開始。

手牌4枚からでも危なげなくベタオリを完遂して見せた。

 

リーチ後、石﨑の一人旅となったが、アガリ牌を引けずに流局。

結局、「かなり厳しい配牌のトップ目たろうが危なげなく1局を消化した」、そんな局となった。

 

 

 

21本場供託1000点ドラ

たろう346 石井288 多井273 石﨑283

 

西家の多井が5巡目にここからをポンして打とする。

を切って両面テンパイを確定させる打ち手も多いが、2枚切れ、も良い両面というわけではないため、多井は打1sと柔らかく構えた。

すると8巡目にツモでテンパイ。

 ポン ツモ

とし、目論見通り単騎へ。

 

しかし、このが石井に捕まる。

 ロン

石井は直前にテンパイしたのだが、リーチをかけるとその瞬間に着落ちするということもあり、ヤミテンに構えていた。

戦前に石井は言った。

「このルールで本当に良いときというのは、ヤミテンでアガれるときだと思っています」

なるほど。

手役があって、打点も伴う。

そんな手が入る今の石井は、好調ということになろう。

 

 

 

31本場ドラ

石井361 多井224 石﨑276 たろう339

 

前局、石井が700オールをツモってトップ目に立った1本場。

石井以外の3者にとって、トータルトップの石井にこれ以上走られるのはかなりまずい。

そんなときにしっかり仕事をするのがたろうだ。

 

たろうは、6巡目にこんなリーチをかける。

Classicルールではまず見かけない「リーチのみ愚形」なのだが、多井が序盤にを切っており、石﨑もソウズとピンズをバラ切り。

上記2人はを持っていなさそうであるため、アガリもそれなりにありそう。

そして何より、たろうのリーチに対しては、オヤの石井を含めて押し返しにくい。

 

この後、石井、多井にテンパイが入るが、2人ともすぐに撤退し、結果は流局。

たろうが駆け引きで石井のオヤをきっちり落とす。

 

 

 

42本場供託1000点ドラ

多井224 石﨑276 たろう329 石井361 

 

石井を除く3者の思惑としては、石井にトップを取らせないことが優先事項だろう。

そんな中、石﨑が6巡目に切りで超大物手をテンパイした。

ダブ南サンアンコドラ212000

これならどうアガっても文句なく石井をまくる。

 

8巡目にはたろうもリーチでトップをまくりにいった。

 

たろうのリーチに対し、このまま石井がトップで終了するのだけは避けたい多井が、「たろうになら打ってもよい」とばかりに真っ直ぐ打ち進め、でたろうに20002600を放銃。

これでたろうが石井をまくり、3者にとって最悪は免れた。

 

鉄人多井の犠打的な一打で、石井をギリギリ抑え込むことに成功。

裏を返せば、そうまでしなければ石井を止められなかったということになる。

これを見て、石井は「やられたな」という感じで笑った。

2人がかりで来られてはな。

なかなかバカ勝ちとまではいかせてもらえない。

 

6回戦成績

たろう+18.5

石井 +10.1

石﨑 ▲6.4

多井 ▲22.2

 

6回戦終了時トータル

石井 +42.6

たろう+9.6

多井 ▲10.9

石﨑 ▲16.6

 

 

 

▼▼▼7回戦▼▼▼

 

【バカ勝ちタイフーン】

 

起家から石井、多井、石﨑、たろう。

 

1局ドラ

北家のたろうが、ここでも7巡目にをチーして先手を取りにいく。

 チー

 

これに対し、次巡にオヤの石井がドラを手出しして、場に緊張が走る。

 

すると、同巡にたろうが石井のアタリ牌を引く。

 チー ツモ

石井はさすがにテンパイだろう。

ヤミテンということは、15002000クラスのかわし手か5800以上か。

いずれにしてもノーテンから無スジを打つわけにはいかず、石井の現物を切ってを止める。

さきほど3フーロのノーテン仕掛けをし、ペンチャンの1300リーチをかけたプレイヤーが、このを止めたのである。

その繊細さには本当に舌を巻く。

 

しかし、事態は思わぬ方向に転がる。

次巡に石井がツモ切りリーチに打って出たのだ。

 

たろうはこれで逆に押しやすくなったともいえる。

まず、リーチということはヤミテンで3900以下の手牌だったということになるだろう。

5800以上ならアガリ率を上げるためにヤミテンを継続する可能性が高く、役なしドラ1やタンヤオドラ1なら打点的に即リーチになるからだ。

したがって、リーチときた以上は、リーチのみの2000、リーチピンフの2900、リーチタンヤオor役牌の3900辺りに絞られそうだ。

もちろん高目イーペーコーや三色、愚形などを加味するとバリエーションはもっとあるのだが、このリーチに対する筆者の第一感はこんなところ。

 

上記がズレていないとすると、アガれれば供託を合わせて3000点となるたろうの手牌は、テンパイなら勝負する価値があると見る。

たろうもここは勝負とばかりに、石井がツモ切ったをポンして打

 ポン チー

このテンパイでめくり合いに持ち込もうとした瞬間、そのテンパイ打牌が石井に捕まった。

 ロン

3900で石井が先制する。

すると、ここから石井一辺倒となっていく。

 

 

 

11本場ドラ

石井339 多井300 石﨑300 たろう261

 

まずは多井が6巡目に万全のリーチをかける。

 

これに対し、リーチが来る前からドラを重ねる構想だった石井。

安全牌もなく、ここから真っ直ぐ打で押す。

すぐには現物になったが、まだ安全牌はこの1枚だけであるため、無スジのもツモ切る。

すると、次巡に待望のドラが重なり、10巡目に強烈な追いかけリーチに踏み切った。

 

この時点で石井5枚対多井2枚。

枚数通りに多井がを掴み、石井の96009900が炸裂した。

 

 

 

12本場ドラ

石井448 多井191 石﨑300 たろう261

 

こうなると完全に石井のペース。

8巡目にはこんなホンイツのテンパイが入る。

ツモれば6000オール。出アガリでも960012000と破壊力満点だ。

 

これをアガられると、石井に突き抜けられてしまう。

3者にとって大ピンチなのだが、ここでキラリと光る守備を見せたのが石﨑。 

ピンズのホンイツに向かっていた石﨑だが、石井のの手出しを見て、この巡目以降、ピタッと字牌とソウズを止めた。

手出し時の長考と手出し時のノータイムを見れば、確かにテンパイでもおかしくないと思うかもしれないが、この石井の河でそれをかぎ取ってオリ始めるのは職人芸の部類だろう。

石井の待ちはこの時点で4枚ヤマに残っていたが、石﨑の職人芸も光り、流局となって3者としてはギリギリ踏みとどまる。

 

 

 

23本場ドラ

多井191 石﨑300 たろう261 石井448 

 

前局鋭い守備を見せた南家石﨑が、13002200を多井からアガり、石井に食らいつく。

 ロン

まだまだ勝負はここからだと言わんばかり。

 

 

 

4局ドラ

たろう272 石井445 多井166 石﨑317

 

しかし、石﨑の追走も石井があっさり打ち砕く。

6巡目にまたしてもメンホンテンパイが入ると、トータル2着目のたろうが飛び込んだ。

 ロン

イーシャンテンから8巡目に飛び込み、8000

このアガリで、この半荘でもトータルでも石井が完全に突き抜けた。

 

 

 

11本場ドラ

石井540 多井166 石﨑317 たろう177

 

5万点を超えても、石井のバカ勝ちタイフーンは終わらない。

前局に1500をアガった石井が、5巡目にドラ切りリーチ。

いけるときにどこまでも突き抜ける。

今までそうやって勝ってきた。

 

これに対して石﨑も6巡目にテンパイし、ヤミテンで押していく。

ここを勝負所と見た深い踏み込みだったが、石﨑がワンチャンスのを掴んで58006100放銃となる。

 ロン

 

2本場では石﨑がアガって石井の連荘を止めるが、そのときには石井の持ち点は6万点を超えていた。

 

 

 

2局ドラ

多井156 石﨑292 たろう151 石井601

 

連荘必至で仕掛けた多井を尻目に、たろうが11巡目にテンパイし、すぐにツモ。

開けられた手牌が強烈だった。

 ツモ

40008000である。

この男、本当によくアガる。

このアガリ一発でたろうが戦線に復帰した。

 

 

 

43本場ドラ

たろう311 石井535 多井50 石﨑304

 

いったんは石﨑にかわされたたろうだったが、オーラスの2本場で石﨑から20002600をアガって2着に舞い戻った。

 

そのたろうが、11巡目に少考。

 ツモ

リーチをかけるかどうかなのだが、リーチをかけると瞬間3着に落ちる。

つまり、ここでリーチをかけることは、順位点込みで9000点を供託するのに近い感覚。

それでもたろうの選択はリーチ。

トータルで石井をまくるためには、「このオヤ番で勝負をかけることが必要」と、腹を括った。

 

ここに多井も14巡目に追いかけリーチ。

 

2軒リーチに対し、共通安牌がなくなった石井。

トータル2着目のたろうにだけは打てないと、たろうの現物で多井に39004800を放銃。

たろうが3着のまま終わるのなら、悪くない結果と捉えるか。

 

7回戦成績

石井 +30.7

石﨑 +4.4

たろう▲3.9

多井 ▲31.2

 

7回戦終了時トータル

石井 +73.3

たろう+5.7

石﨑 ▲12.2

多井 ▲40.3

 

 

 

▼▼▼8回戦▼▼▼

 

【鉄人vs魔法使いタロー】

 

起家から石井、多井、石﨑、たろうの順。

 

21本場ドラ

 

たろうが9巡目にタンピン高目三色をヤミテンに構える。

 

これに対し、石﨑がたろうから、ドラのと連続でポンして、このマンガンテンパイを組む。

 ポン ポン

すると、直後にたろうがを掴む。

ドラ3の仕掛けが見えているため、たろうにも少考が入ったが、自分のチャンス手を優先してを切った。

これで石﨑のアガリ・・・と思いきや、石﨑はこのに手牌を倒さない。

たろうのを見逃しである。

この半荘を入れて3半荘で石井とのポイント差80

それをまくるためには石井から点数を奪うことが必要、というのが石﨑の出した結論だった。

 

しかし、石﨑の決意は実らず、逆に次巡オヤリーチときた多井に捕まり、39004200の放銃となる。

 ロン

結果は放銃となったが、石﨑の強い意思を見た。

 

 

 

22本場ドラ

多井342 石﨑258 たろう300 石井300

 

石﨑がカンのヤミテンからを引いてカンのハネ満テンパイにたどり着く。

 

直後にたろうがドラを雀頭にしたリーチ。

 

そして、すでにテンパイしていたオヤの多井もツモ切りで追いかけリーチに出る。

 

石﨑が2軒リーチに対して生牌のドラをノータイムでツモ切ると、一瞬卓内の時が止まった。

 

ここを制したのは鉄人・多井。

たろうから39004500を打ち取ってトップ目の地盤を固める。

 ロン

 

 

 

23本場ドラ

多井397 石﨑258 たろう245 石井300

 

ラス目になった西家たろうが8巡目にヤミテン。

そして、次巡にをアンカンする。

 

そこに石﨑がリーチ。

 

石﨑のリーチをあっさりかわしたのがたろう。

ツモで2000400023004300

 アンカン ツモ

あっという間に多井に並ぶ。

 

 

 

3局ドラ

石﨑225 たろう344 石井277 多井354

 

2日目開始前、たろうは言った。

 

魔法をかけにいきます

 

筆者には、ちょっと何を言っているのかわからなかった。

 

そのたろうが、オヤ石﨑の第1をここからチーしていく。

 

もし魔法が使えるのなら、例えばこういうチーからアガれたりするのかな、などと妄想しながら、たろうの仕掛けをぼんやりと眺める。

 

そして、9巡目にテンパイ一番乗りを果たしたのがたろうだった。

 ポン チー

それも、打点十分なホンイツである。

これか?これが魔法なのか?

 

そこにドラアンコの石井がリーチをかける。

確かにチャンス手だ。でも、これは・・・

 

「だから言ったでしょ?」

筆者の頭の中でたろうが笑顔でそう語りかける。

 ポン チー ロン

石井がを掴んでたろうに7700

本当に使えるんだな、魔法。

 

 

 

1局ドラ

石井170 多井444 石﨑205 たろう381

 

多井にマンガンツモでまくり返されるが、たろうも当然トップをあきらめたわけではない。

ここからもう1回まくり返してやる。

そんなたろうに立ちはだかったのは石井だった。

 

石井は、1巡目にポンから入ると、次巡にはもポンしてあっという間にテンパイ。

 ポン ポン

そして、何かに魅入られるように、たろうが5800放銃。

 

こっちも魔法使えるんかーい!

 

これで石﨑をまくった石井だったが、最終的には石﨑と同点3着で8回戦を終える。

たろうもここから再度多井をまくることはできず、2着で残り2回にかける。

 

8回戦結果

多井 26.4

たろう4.0

石井 ▲15.2

石﨑 ▲15.2

 

8回戦終了時トータル

石井 58.1

たろう9.7

多井 ▲15.7

石﨑 ▲27.4

 

 

 

▼▼▼9回戦▼▼▼

 

【ベテランの意地】

 

起家から石﨑、多井、たろう、石井

 

21本場ドラ

 

石井が6巡目にテンパイ。

出アガリだとリーチのみだが、ツモで13002600まであるため、小考の末リーチをかけた。

 

これに対し、石﨑が無スジを押してくる。

守備を重視する石﨑のリーチに対する押し。

これは恐い。

10巡目には当然のように打点と待ちが伴った追いかけリーチ。

 

しかし、このがヤマにあまり残っておらず、逆に石井のが多く残っている。

石﨑がを掴んで、石井に26002900の放銃となった。

 

 

 

3局ドラ

たろう300 石井339 石﨑261 多井300

 

字牌を併せ打って手を進めていた石井の10巡目。

 ツモ

悪くないリャンシャンテンだ。

確かに三元牌は1枚も見えていないが、それでも何も動きのないこの状況なら、普段はを切るだろう。

しかし、ここで石井は冷静にをツモ切った。

 

実はこのとき、また魔法でも使ったのか、たろうがこのリャンシャンテン。

 

その直後、も掴んだ石井から三元牌が打たれることはなかった。

まっすぐ進めて前局のリーチをかけられる打ち手が、ここでは三元牌を抱えて流局を選ぶ。

この使い分けが妙技。

これが、石井一馬のバカ勝ちを支えてきたバランス感覚である。

 

 

 

12本場ドラ

石﨑261 多井300 たろう300 石井339 

 

結局石井のアガリしか出ず、石井がトップ目のまま南入してしまった。

追う3者としてはなんとか石井をまくりにいきたいところ。

 

9巡目にテンパイを果たしたのはたろう。

 ツモ

このリーチ判断は難しい。

リーチをかけると瞬間3着に落ちてしまうが、ここで石井をまくっておかないといずれにしてもきつい。

もう一つの思考はスーアンコ。

ヤミテンにすれば、こんな手になる夢も残る。

しかし、ここはの待ちのよさと、石井をまくることを優先し、着落ちリーチという現実を選択する。

結果は、たろうが選択した現実に軍配。

 ツモ

1000200012002200で石井をかわし、たろうがこの半荘のトップ目に立った。

 

 

 

2局ドラ

多井288 たろう346 石井327 石﨑239

 

たろうがさらに加点を狙う。

 ツモ

直前の7巡目に多井がドラを打っているのだが、併せず。

ここからをツモ切り、三色かドラの重なりのどちらかは付けるという方針で高打点を狙っていく。

 

一方、イーシャンテンからドラを打った多井は、10巡目にこのテンパイ。

 

たろうもすぐにカンで追いついてヤミテン。

目論見通りの三色に仕上がった。

 

すると、多井が13巡目に絶好のを引いてリーチ。

高目ツモ6000オールの超勝負手だ。

多井にとってはここが勝負どころ。

このオヤ番、すなわちこの手がアガれず流局すれば、優勝の目はほぼ消滅すると言ってもよいだろう。

 

多井のリーチに向かっていったのはたろう。

と、無スジを切り飛ばしていく。

 

しかし、ここは多井のツモアガリ。

 ツモ

4000オールでこの半荘のトップ目に立ち、優勝へ望みをつないだ。

 

 

 

21本場ドラ

多井408 たろう306 石井287 石﨑199

 

13巡目、今度はたろうが勝負のリーチ。

これがアガれれば最終戦でかなり現実的な点差まで詰められるのだが、こちらは流局。

 

 

 

32本場供託1000点ドラ

たろう296 石井287 石﨑199 多井408 

 

石﨑も当然諦めていない。

8巡目にタンヤオ三色のテンパイを果たすと、直後に多井から切られたを見逃し、たろうから13巡目に切られたも見逃した。

結果は流局だが、これがベテランの意地。

これが優勝するための選択だ。

 

 

 

43本場供託1000点ドラ

石井287 石﨑199 多井408 たろう296 

 

すると、絶対に諦めない石﨑が、9巡目にリーチを宣言。

石﨑がリーチを宣言するからには、当然石井をまくれる手牌になっている。

これをツモると、石井をラスに落として、自身が2着。

ギリギリ最終戦に臨みをつなげる。

 

石﨑の一人旅になり、その行方に注目が集まる。

 

 ツモ

2000400023004300

 

これで石﨑が2着に浮上し、石井がラス。

最終戦を迎え、多井とたろうには石井まで35ポイント差という現実的な条件が、石﨑にも大トップという条件が、それぞれ残った。

条件を残したのは、石﨑という最高位戦を長年支えてきたベテランの意地。

 

9回戦結果

多井 20.5

石﨑 3.8

たろう▲6.7

石井 ▲17.6

 

9回戦終了時トータル

石井 40.5

多井 4.8

たろう3.0

石﨑 ▲23.9

 

 

 

▼▼▼10回戦(最終戦)▼▼▼

 

【バカ勝ちと、惜敗と、()

 

起家から多井、たろう、石﨑、石井

 

1局ドラ

 

まずは、オヤの多井が6巡目に切りリーチで先制を狙う。

捨て牌にはが置いてあり、しかもヤマに3枚。

ヤマの浅いところにあれば出アガリも期待できたが、流局。

 

 

 

21本場供託1000点ドラ

たろう300 石﨑300 石井300 多井290

 

西家石井が10巡目に生牌2つのシャンポンテンパイを果たすと、ここではきっちりヤミテンを選択。

たろうのオヤを落としにいく。

 

12巡目に多井が追いついてこちらもヤミテン。

直後にたろうがを切るが、多井は静観。

これが、鉄人多井が吟味した、優勝するための選択だ。

 

しかし、次巡にたろうがを打ち、石井が13001600で多井のチャンス手をきっちりつぶす。

石井がトータル23着のオヤを確実に1回ずつ終わらせた。

 

 

 

3局ドラ

石﨑300 石井326 多井290 たろう284

 

西家多井が9巡目にして4フーロ。

 チー ポン ポン ポン

待ちは1枚切れの

 

はヤマに残っていたのだが、を引いたのはたろう。

 チー ポン

を抑えきってテンパイを果たす。

 

すると、ツモ番を一度残した石﨑がドラを引いてリーチ。

その宣言牌がで、たろうが3900をアガる。

 

 

 

4局ドラ

石井326 多井290 たろう323 石﨑261

 

オヤの石井が10巡目にこのイーシャンテンから白をポンしてアガリに向かう。

打牌は、場に高いソウズを払う

ドラ単騎の手順だったが、次巡にを重ねると打でテンパイを取り、すぐにツモ500オール。

 ポン ツモ

リードを広げる。

 

 

 

41本場ドラ

石井341 多井285 たろう318 石﨑256

 

1本場では、これ以上石井に加点を許すわけにはいかないたろうが、石﨑から10001300で石井のオヤを落とす。

 ロン

 

 

 

1局ドラ

多井285 たろう331 石﨑243 石井341

 

南入し、石井にとってはいよいよこの南1局と2局、多井とたろうのオヤ番が最大の山場となる。

その石井が6巡目にテンパイ。

 ツモ

南はオヤの多井が切っていて1枚切れで、石﨑がピンズに寄せている状況。

多井からオヤリーチがきた場合にアガれそうなと、この瞬間にアガリが取れそうな生牌

ここで石井は待ちに受ける。

 

すると、予想通り、多井が11巡目にオヤリーチ。

 

 

これに対してたろうの一発目がすごい

 ツモ

は現物なのだが、ワンチャンスとはいえ無スジの打とする。

多井に放銃しても、石井の上にいってくれる分には問題ないとばかりに、貪欲に打点を追う。

 

手にならない石﨑は、2枚切れのトイツ落とし。

石井がを切っていなければ、石﨑の打牌候補はともに多井が切っているだっただけに、が出た可能性もあった。

このとき、石井はアガリ逃しを認識する。

 

  ツモ

その石井も、無スジのを引くと、これをノータイムでツモ切って勝負に出る。

 

さらに、たろうが無スジのをツモ切る。

 

これに対し、石井は14巡目にツモでオリを選択。

も通り、のノーチャンスでカンぐらいしか当たらないが、たろうもテンパイに見える状況で生牌を打ってまでテンパイ維持はやりすぎだという判断。

すでに14巡目で、が固められているとの感覚もあるのだろう。

は実際に石﨑がトイツで、ヤマに残り1枚であった。

 

しかし、結果は無常で、直後に多井が切り。

石井、2度目のアガリ逃がし。

 

結局たろうもテンパイせずに流局となる。

 

石井としては2度のアガリ逃がしがありながら、流局で多井のオヤ番が落ちたため、悪い結果ではない。

しかし、これは、この決勝で石井が見せた唯一の隙であるように見えた。

 

 

 

21本場供託1000点ドラ

たろう331 石﨑243 石井341 多井275

 

たろうが終盤にテンパイするが、待ちが場に高いピンズのカンチャンとあって、ヤミテンを選択する。

たろうの読み通りはもうヤマにはなく、変化を待ったが、最終手番1つ前で儀式的なツモ切りリーチをかけて流局。

儀式的なツモ切りリーチが始まり、多井とたろうのオヤが終わった。

もう石井の優勝だ。

多くの者がそう思った。

2人を除いては。

 

 

 

32本場供託2000点ドラ

石﨑243 石井341 多井275 たろう321

 

オヤ番を失ったたろうは、2局連続ハネ満ツモが必要。

一発裏ドラなしのこのルールでハネ満を作るのは至難の業だ。

それも2局続けて必要とは・・・もうこれは消化試合になる、普通なら。

 

2巡目のたろう。

 ツモ

当然たろうもここからピンズのホンイツへ向かう。

ほぼ成就しないホンイツへ。

すると、意外にも11巡目にテンパイを果たす。

 ツモ

も生牌。

というより、多井が国士、石井が配牌オリであるため、字牌が極端に切られない場になっている。

ここでどちらかの単騎でリーチという選択もあるが、たろうは我慢のヤミテン。

大丈夫、先に引くのはピンズだ。

 

12巡目、

 

13巡目、

 

ピンズはまだか、早くしてくれ!

 

14巡目、ようやくたろうの願いが届く。

  ツモ

を切れば待ち。

これでリーチをかける。

 

15巡目、ツモ切り。

ツモはあと2回。

 

ここで多井にも国士テンパイが入った。

2枚切れで2枚ヤマに残っている。

やはり最後はこの2人か。

 

哲人vs鉄人の、石井への挑戦権をかけた最後のめくり合いは、直後にアガリで決着。

 

  ツモ

3000600032006200

哲人たろうが、まず1回目のハネ満をクリアしていった。

 

 

 

4局ドラ

 

たろうは石井から7700直撃かハネ満ツモ。

多井はたろう以外からの役満出アガリか3倍満ツモ。

 

たろう配牌

ピンフ三色ドラ1などのハネ満が見えるだけ悪くない。

字牌から打ち進めていく。

 

9巡目にはこう。

ここからすべてのハネ満の可能性(メンタンツモイーペーコードラ2、タンピンツモ三色ドラ1)を残す打

 

11巡目の多井。

チートイツテンパイからスーアンコを見ていた多井に、1つ目のアンコが完成する。

 ツモ

しかし、多井は残り2巡でこの形のままとなり、投了。

 

残るはたろう。

たろうの15巡目。

 ツモ

もヤマには残っておらず、ここから2巡でハネ満をツモるためには、ヤマに2枚残っているを先に引き、リーチして残り1枚のをツモるしかない。

いずれにしても、まずはヤマに残っていないのどちらかを切ってを残さなければならない。

 

ここでたろうは、2枚切れの打を残す。

1関門クリア。

 

2関門、ここでを引かなければならない。

 

「魔法をかけにいきます」

 

わかっている。

魔法なんてものはないのだ。

そんなことは周知の事実。

しかし、「それでも、たろうなら・・・」

観ている者にそう思わせること自体がたろうの魔法であり、観戦者の多くがその魔法の感染者となった。

 

たろうがツモったを手牌にとどめ、を切る。

完全安牌ではなく生牌のを切ったのは、(万が一にもあり得ないが)誰かが鳴いてツモ番が1回増えたときにアガリに向かえるようにである。

 

地味。

ベースはそういう積み重ねだ。

どんな小さな可能性だって見逃さない。

その意思が、たろうが使う魔法の原料。

生牌のとともに置かれたのは、紛れもなくたろうの意思であり、信念だった。

 

10回戦結果

たろう28.7

石井 4.9

多井 ▲9.7

石﨑 ▲23.9

 

優勝 石井一馬

2位 鈴木たろう

3位 多井隆晴

4位 石﨑光雄

 

哲人・鈴木たろうを説き伏せ、鉄人・多井隆晴を撃破し、石﨑光雄というベテランの意地を打ち砕いた。

その新たな王は、いつものように無邪気に笑った。

本当にうれしそうに。

 

 

 

 

 

 

 

3週間後、石井はAリーグ最終節を打っていた。

最終節開始時のポイントは、残留ボーダーまで100以上離された最下位。

 

しかし、石井は2連勝を決めて最下位を脱出すると、最終戦で残留争いをするところまで上がってきていた。

その追い上げが、あの日のたろうと重なり、「あるのか、魔法・・・」という思いに駆られる。

 

筆者は後ろで見ていたが、石井はこの日、自身でも言うように「良い麻雀を打ち切った」。

そして、石井はほんのわずかに届かず負けた。

 

会場で、石井と一言だけ交わす。

「おつかれさまでした」

石井が返す。

「あ、おつかれさまでした」

 

悔しさが奥に隠れた石井の目を見て、筆者は思い出す。

 

「ありがとう。でも、勝たないと意味ないんだよ」

日本オープンの決勝で敗れた数日後、「きっちり決勝まで残って、惜しいところまでいって、十分立派だと思うよ」と声をかけた筆者に、石井がしっかりと前を見て応えた言葉だ。

 

そうだよな。

結果を出すために打っているのだから、結果が出るまで前に進み続けるしかない。

 

石井一馬の「麻雀バカ勝ちの法則」は、やっぱり「麻雀バカ勝ちの法則()」なんだろう。

 

石井はとてつもなく強い。

ただ、石井はまだまだ強くなるだろう。

たぶん、来年も進化を続ける。

そういう意味で、()はずっとついたままだ。

 

最高位戦Classic王者は、敗北を糧にまた一つ強くなる。

 

今、我々に見えている石井の強さは、きっとまだ仮の姿。

 

そして、筆者は、その仮の姿に将来の最高位を見る。

 

石井はきっとそこまで勝ち続ける。

 

道中、負けることもあるかもしれない。

 

 しかし、前を向いて打ち続ける。

 

目指すはむろん、バカ勝ちだ。

 


 

文:鈴木聡一郎

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