第11回戦
起家から佐藤→アライ→近藤→村上
東2局ドラ
ここでもアライのオヤ番に合わせて人間側が総攻撃。
まずは西家村上が11巡目リーチ。
続いて、北家佐藤がリーチ宣言牌から瞬く間に2つ仕掛けてドラ2のテンパイ。
ポン チー
これに対し、直後にアライにもテンパイが入る。
ツモ
ドラなしチートイツで後手を踏んだ場合、単騎待ちではめくり合いに不利なため、受け気味に構えてダマテンにするのがセオリー。
まして、もも2人にド無筋。
テンパイすら取らない打ち手もけっこう居そうである。
「Boon!!」
しかし、そこはArai。
当然のように待ちタンヤオチートイツでリーチに出る。
このは村上に1枚使われているものの、ヤマに2枚生き。
すると佐藤が一発でを掴む。
長考に沈む佐藤。
下した決断は勝負。
その結果、Araiに放銃となる。
ウラドラ2枚で18000のアガリとなった。
ロン ドラ ウラ
実はこの、村上のリーチが入る前にマンズの順子を崩してまで残したチートイツ専門の攻撃要員。
後手を踏んでも自分の描いた形になれば攻撃の手を止めない。
このチートイツこそ、Araiが殴り続けたからこそ取ることのできた大きなアガリであろう。
これについて佐藤は言う。
「新井のリーチモーションが3回戦南1局の単騎メンタンチートイツの追っかけリーチと所作が一緒だった。
手牌を開けられてからそれを思い出したくらいにもう頭ぱんぱんでした。
切りは微妙。検証中だが、たぶん切らない方が良い。
冴えているときなら歯を食いしばってを切っていたような気がします。」
佐藤の持ち味はアガリに対する瞬発力であるが、それを支えているのがギリギリの我慢であると思われる。
いくのか、退くのか、その辺が微妙なときに下す我慢の判断が的確なのである。
しかし、今回の決定戦では、全20回戦でできる我慢の上限回数を超える逆境が佐藤に降りかかり、判断が少し揺らいだように見えた。
この辺りが、近藤・村上というベテランの人間2人およびAraiとの違いなのかもしれない。
東2局1本場ドラ
Araiは続く1本場でも、8巡目テンパイをきっちりダマテンにし、次巡にソウズホンイツ狙いの近藤がツモ切りしたで7700は8000。
ロン
これで持ち点を6万点に乗せる。
東2局2本場ドラ
ここで反撃していったのは1人だけ無傷の村上。
西家村上はわずか3巡で下記手牌となると
ここから生牌の切り。
を残す細かい技術。
からは両面待ちができないため、を残してを打っていく打ち手もいるだろう。
しかし、ここは単なるテンパイ確率以上にを残した方がよい場面。
それはとの組み合わせにある。
にがくっついた場合、待ちはリーチ宣言牌のスジであるになる。
また、にがくっついた場合でも、待ちリーチ宣言牌の裏スジであるになる。通常、単純な両面待ちではリーチ宣言牌の裏スジにはならない(例えばがあった場合、より先にが切られるはず)ため、若干ながら出アガリ確率は高くなるであろう。
このように、くっつきテンパイで4と9が残った場合、受け入れ枚数が多いだけでなく、愚形になったときの出アガリ確率が少しだけ上がるはずなので、より残した方がよい。
今局はといえば、残したにがくっつき、4巡目に即リーチ。
ツモ(一発) ドラ
これを一発でツモって2000/4000は2300/4300とするのだが、しっかりとを残す細かい技術が拾わせたアガリである。
東4局1本場ドラ
村上36500、佐藤10200、Arai 55400、近藤17800
Araiを追いかける村上は、オヤ番でも5巡目リーチ。
ここに向かっていったのは、やはりArai。
ツモ
安全牌はのみであるため、ひとまず手を崩さず打ち進めるとして、何を打つか。
一般的にはイーシャンテンキープのだろうか。
Araiの選択はといえば、リャンシャンテン戻しの打。
これを本人に聞いたところ、平均放銃打点を考慮してを打ったとのこと。
ということは、その裏には当然アガリに結び付いたときの「平均アガリ打点」を考慮した判断がある。
つまり、で当たる分にはタンヤオがつかず、逆に自分の手を中張牌だけにしてタンヤオの可能性を生み出していく打牌である。
その後、すぐにツモで打、そしてツモ。
ツモ
ここから、Araiは安全牌を切るようにノータイムで無筋の打。
Araiも言っていたが、が薄くなっており、ツモでタンヤオが消えてこちらの打点が見込めなくなったため、ここで撤退すべきだったかもしれない。
それが、一発目にを打ち抜いた者が選ぶべき打牌というものだ。
ロン ドラウラ
結果は、この半荘の競争相手である村上に5800は6100を放銃。
確かに結果は放銃だが、安易なイーシャンテンキープでを一発目に打っていたら12000放銃という最悪の結果であった。
放銃・アガリ打点のバランス感覚で最悪だけは回避したAraiの隠れたファインプレーと微妙なエラー。
持ち前の攻撃面でエラーが出ると焦ってしまうのが普通の人間だが―。
東4局2本場ドラ
村上42600、佐藤10200、Arai 49300、近藤17800
ここから攻撃し続けることで立て直してしまうのがArai。
近藤から10巡目の本手リーチを受ける。
Araiは、トータル2番手である近藤のリーチにイーシャンテンから押していき、終盤に直前に通ったを見てダマテンでかわし切る。
ロン
これはちょっとすごい。
何がすごいって、入り目がなのだ。
入り目がということは、ドラが使えることが確定していなかったということだ。
もちろんドラが使い切れなければ押さない手組みにしているのだが、それでもドラが浮いた状態で押し返せるのはすごい。
トータル2着目の相手に対してこれを押していける打ち手が今までにいただろうか。
しかもそんな打ち手が今トータルトップに君臨している。
Araiが最高位戦の、競技麻雀の固定概念を壊し始めている。
南1局1本場ドラ
トップ目の南家Araiが開けた配牌がこれ。
ダブ南アンコのリャンシャンテンである。
ここに第1ツモでが重なってイーシャンテンとすると、Araiは1打目にを選択。
私のような小物は、1打目にを選んで少しでも目立たず、かつが鳴きやすいようにと考えるのだが、Araiは違う。
Araiらしく強欲に、一応ホンイツまで見る打だ。
そして、4巡目にをポンするとを打って8000のテンパイを組む。
ポン
不運にもこれに捕まったのが、手牌の整っていたオヤの佐藤。
ツモ
直後にここからスリムに構える打とすると、これが8000なのだからたまらない。
これは我慢とかそういうレベルのものではない。
なんというか、天変地異に近い。
圧倒的な何かになす術なく巻き込まれる人間。
そういう感じだ。
Araiはこれで持ち点を再び6万点に乗せる。
南2局ドラ
Arai 60700、近藤13700、村上42200、佐藤3400
Araiトップの空気が流れ始めた南2局、嵐の中を村上が歩を進める。
1枚切れので佐藤から8000をアガると
ロン
南3局では
ツモ ドラ ウラ
5巡目リーチ9巡目ツモで2000/4000。
これでAraiと並んでオーラスへ。
南4局ドラ
村上58200、佐藤△6600、Arai 58700、近藤9700
こうなると、当然Arai包囲網が敷かれる。
まずは5巡目に佐藤がテンパイ。
手替わりしてからのArai直撃狙いでダマテン。
続いて、近藤も8巡目にテンパイを入れる。当然Araiからの直撃狙い。
その同巡のArai。
これはさすがに放銃かと思われた。
しかし、ここになんとラス牌のを引いて逆にアガり切ってしまう。
ロン
終わってみれば、嵐のようなAraiの半荘。
全てのものをなぎ倒す天変地異のような麻雀で、トータル2着近藤との差を200以上に広げた。
第11回戦結果 Arai +59.7 村上 +37.2 新井 +59.7 近藤 ▲30.3 佐藤 ▲66.6
第11回戦終了時ポイント Arai +256.9 近藤 +31.2 村上 ▲72.1 佐藤 ▲218.0
12回戦
起家から近藤→Arai→佐藤→村上
東3局2本場供託2000点 ドラ
佐藤35300 村上21700 近藤28300 Arai 30500
佐藤が細かいアガリでついにトップ目に立つと、ここでもリーチ。
しかし、これがすんなりいかないのが今決定戦の佐藤。
まずはAraiが追いかけリーチ。
続いて近藤。
ツモ
ここからなんと打とし、薄いピンズ待ちを嫌って、良さそうに見える単騎でリーチ。読み通り15巡目の時点ではヤマに2枚。
最後にこれを受けた村上。
ツモ
は近藤にのみ危険だが、の良さに賭けて切りリーチ。
なんと4人リーチという珍事に発展してしまう。
オヤリーチに対して3人に押し返されるなど、今後、佐藤の競技麻雀人生でもなかなかないだろう。
これには佐藤も肝を冷やしたはずである。
全員の待ちが生きていたが、結果はピンズでアガリを逃した格好の近藤がすぐに4を掴んで佐藤へ3900は4500。
ロン ドラ ウラ
これで佐藤が供託5000点も獲得し、一気にダントツとなる。
苦しい戦いを強いられてきた佐藤がついに来た。
南1局ドラ
近藤35700、Arai 20800、佐藤46900、村上16500
村上が好配牌を丁寧に仕上げ、7巡目リーチを高目ツモとウラで3000/6000にする。
ツモ ドラウラ
これはAraiをラスにできるので、近藤・佐藤にとっても悪くないアガリ。
3日目も最終半荘にきて、ようやく人間側が主導権を握る。
南2局ドラ
Arai 17700、佐藤43800、村上28800、近藤29700
村上のアガリでラス目になって迎えたAraiのオヤ番。
人間側3者の想いはほぼ共通で、「ここはさくっと終わらせようぜ」だ。
佐藤から6巡目にリーチが入り、ドラが浮いた状態のAraiが粘って12巡目にこの形。
ツモ
は現物で、ピンズはのみ現物。
12巡目ということも考えれば打で問題ないだろう。
しかし、座っているのがAraiとあらば、もう1つの選択肢が現実的な選択肢に入る。
ドラ切り。
を残しておけば三色目が残るし、テンパイ確率も上がる。
特に、マンズが場に安いため、を残せばテンパイ確率どころかアガリ確率まで上げることができる。
また、はドラとはいえ、字牌であるため待ちになっている可能性はかなり低い。しかもトップ目のリーチであるためなおさらだ。
さらに、リーチの主がトータル下位の佐藤であれば、仮に放銃したとしても悪くはない。
アガリ、手役、オヤ権維持、放銃確率、トータル順位を総合的に考え、Araiが長考の末に出した結論は打であった。
佐藤
ロン ドラウラ
人間側にとってはAraiの8000放銃という最良の結果でAraiのオヤ番を終了させることに成功。
南3局ドラ
佐藤51800、村上28800、近藤29700、Arai 9700。
前局の放銃でラスがほぼ決まった形のArai。
普通であれば素点に目を向けて、少しでもキズを浅くこの半荘を終えることを考えるところ。
やはりここでのポイントは「普通なら」という枕詞である。
そう、大事なことなので何度も言わせていただこう。
ここに座っているのは、普通じゃない男。
戦うことに飢えた狂人Araiなのである。
近藤がカンチー、ポンと仕掛けてソウズのホンイツテンパイ気配。
Araiもなんとか最終手番直前にチーしてテンパイを取る。
チー
佐藤・村上がノーテン気配であるため、ここでテンパイ料を得ておくと、オーラス村上をハネ満ツモでかわして3着になることができる。
そのわずかなハネ満ツモ条件を残すためのテンパイである。
このAraiのテンパイ打牌に対し、オヤの佐藤が最終手番直前で手を止める。
オリている佐藤の手牌は
なんとここからチー。
佐藤がチーしたことによって、ハイテイがAraiに回る。
ハイテイでソウズを掴めば、さすがにAraiといえど打つことはできない。
そして、ハイテイ。
佐藤の目論見通り、Araiがを掴む。
チー ツモ
西家近藤捨て牌
チー ポン ドラ
さすがにここに対してなんて打つわけ・・「Boon!!」・・がな・・い・・?
河に打たれる。
この打ちは本当に早かった。
あまりに早く、が現物だったかと疑ったぐらいだ。
そして、無事に通過し、Araiの目論見通り、近藤とAraiの2人テンパイでオーラスに突入することとなった。
実はこれ、近藤の最終手番がポイントで、このが少考の上で放たれたものなのである。
ドラがだけに、迷ってが打たれた手牌に、はアタリにくいというもの。
例えば、にを引いたのなら迷わずであるし、にやに、にを引いてもノータイムでだ。また、にを引いたとしても残り自分のツモ番がないとなれば、迷わずを打つだろう。
このように考えると、確かにはアタリにくそうである。
とはいえ、とはいえだ。
打てない。普通は。
というより、打たない方が得だろう。
これを打てるのは、圧倒的な力を持って戦闘を好むArayのみ。
Aray:
古代アルメニア人が信仰した戦いの神。
ーEncyclopedia Mythicaより抜粋、日本語訳。―
この一打で、Arayは自ら戦闘神であることを証明した。
傲慢かつ剛腕。
狂気の戦闘神、Aray. K. Boon。
このでオーラスハネ満ツモ条件を残したArayだったが、南4局は佐藤がスッとアガって静かに終わる。
しかしながら、この闘志というか狂気というか、Arayがまとう空気は一体なんなのだろうか。
Arayの通った後にはキズを負った人間のみがたたずみ、
ただただ、その神々しいほどの狂気を静かに観するほかない。
Aray. K. Boon (アライ ケイブン)
戦闘神
性別:不明
生年月日:不明
血液型:超攻撃型
かくして、最高位決定戦はArayダントツのまま4日目に続く
第12回戦結果 佐藤 +52.6 近藤 +10.6 村上 ▲13.8 Aray ▲49.4
第12回戦終了時ポイント Aray +207.5 近藤 +59.6 村上 ▲85.9 佐藤 ▲165.4
記:鈴木聡一郎