10回戦
近藤→村上→佐藤→新井の順。
東1局 ドラ
新井が9巡目リーチ。
待ちは、直前に南家村上が放った1枚切れの。
これに対し、オヤの近藤が15巡目にダブをアンコにして追いつくと、16巡目にツモ
で少考。
ツモ
と
は両方新井に通っていないが、
と
は通っている。
新井がリーチ後にを切っているが、誰もそれに合わせて打っていないため、
はヤマには残っていそうか。
そのように考えれば切りリーチもありそうだが、近藤は
ツモ切りでシャンポンを選択。
が3枚切れており、
が狙い目となっている。
すると、次巡ズバリのツモで4000オール。
ツモ
ドラ
これでまずはトータル2着目の近藤が先制する。
東3局2本場ドラ
佐藤31100、新井23100、近藤41400、村上24400
村上が6巡目にピンフリーチ。
8巡目、マンズのホンイツに寄せていた新井が手を止める。
ツモ
トイツ落としの2枚目が1巡間に合わなかった格好。
が1枚切れ。
村上の河はこう。
さすがの新井といえど、ここからは押さないだろう。
新井は安全牌候補の字牌を豊富に有しているし、何よりリャンシャンテンなのだ。
ここからの押し返しなど、さすがにありえな・・「ブンッ」・・い。
ん?
今何か通りました?
が・・・ない。
出ました、今日イチの狂気。略して狂イチ!
アライはこのを押し、さらに
を引いて
を切ると、無筋の
もツモ切り。
何コレ?
その後、2枚目のが打たれたところで、ようやくオリ始めた。
仮にこのをポンしていたら、本当にただの狂人だが、これをポンせずオリていくのがアライに残っている最後の理性。
東4局3本場供託1000ドラ
アライ 22100 近藤40400 村上26400 佐藤30100
オヤのアライが5巡目にツモ。
ツモ
ここからアライは打を選択する。
ここはドラを使った5800かホンイツの12000以上しかアガる気なし、という意思。
アライらしい高打点打法だ。
7巡目にイーシャンテンになるとドラのを打ってこの形。
ここに、上家佐藤から4枚目となるが放たれるが、何事もなかったようにヤマに手を伸ばすと、ツモ
でテンパイ。
を打って
と
のシャンポンに受ける。
は生牌、
は村上が第1打に処理しており1枚切れ。
をチーしてのテンパイに比べると、門前でのテンパイは出アガリ確率がかなり上がっている。
しかし、人間側もこれ以上やられるわけにはいかない。
ここから、このダマテンを受けた3者が、素晴らしい対応を見せる。
私は、今局が今決定戦最高の1局であると確信している。
アライがを打ったときの河がこれ。
これに対し、同巡、まずは南家近藤がツモ。
ツモ
自分でを打っているので、攻めるのであればツモ切りだが、近藤の選択は打
。
ソウズはもう打たないという意思がビンビン伝わってくる。
次手番は西家村上。
村上はツモ。これはアタリ牌そのもの。
そして自分で第1打に切っているである。
ツモ
長考の末、打。
解説席からも「さすが」の声が漏れる。
最後は北家佐藤。
ツモ
村上が序盤に切っている1枚切れのを止め、三色のために残していた
をノータイムで打ち出す。
この一連の打牌は、当然のことながら、ある共通認識と信頼の下に成り立っている。
「アライがソウズのホンイツでテンパイしている」
これが最高位戦Aリーグの呼吸。
その後、近藤はへのくっつきを軸に形式テンパイ構想を組み、
佐藤もアライに併せてを切ることができて、後に引いた
へのくっつきテンパイを目指し、
村上に至っては、テンパイしてもを離すことはなかった。
アライはその後、ツモで
と
に受ける(
が3枚切れのため、
に受けず)。
ツモ(1枚切れ)やツモ
(2枚切れ)でチートイツへの変化があったが、これを拒否してシャンポンを継続。
人間3人の意地が、アライの1人テンパイでの流局に持ち込んだ。
という素晴らしい4重奏なのだが、実は解説では4者が紡いだハーモニーには一切触れられず、を止めた村上に対する賞賛に終始していた。
ナイスコンビネーションで安定感ある解説をしていた石橋・石井だっただけに、これは少し残念に感じた。
対局後に佐藤もこう言っている。
「打からメンホンは全員気づいてケアしていた。例えば私は1枚切れの
を切るつもりはなかった。
手出しがポイントなんですけど、それを(解説が)拾うのが遅くて、おかげで村上ヒーローで終わったんですが、仮にアライが
単騎や
単騎に変えても誰も切る人いなかったんだけどなあ。そこに触れられていませんでしたね」
私は3日目終了後、対局者4名にアンケートを送った。
その内1つの質問が「解説に物申したいところはあるか?」であり、それに対して佐藤がくれた答えが上記である。
このメールを見て、私の抱いた感想はといえば
「だよな」
である。
やはり、何度見てもこの局の解説には物足りなさを感じたため、観戦記で補足させていただいた。
東4局5本場ドラ
アライ 30400、近藤38300、村上24300、佐藤27000
アライが4本場で供託2000点込みの700は1100オールでラスから2着目に浮上した後の5本場。
佐藤がを強い意思で引っ張ると、待望の
をツモってリーチ。
ツモ
これに飛び込んでしまったのが近藤。
一発で高目に飛び込み、12000は13500。
ロン
(一発) ドラ
ウラ
近藤は余剰牌の切り順で、オヤのアライに対して安全度の高いを残して
切り。佐藤の一発目にドラが入り、下記から放銃となってしまった。
ツモ
ようやく佐藤らしい強い待ちでの高いアガリが炸裂。
これで佐藤が突き抜けてしまうかと思われたが―。
南1局ドラ
近藤24800、村上24300、佐藤40500、アライ30400
前局の放銃でトップ目から3着目に落ちて南場のオヤ番を迎えた近藤が、3巡目に1枚目のを仕掛け、続いて
をポンしてその次巡に打
。
オヤとはいえ、1枚目のから仕掛け始め、序盤に
の良い形を処理するとはただごとではない。
打点が低いながらもすでにテンパイか、ドラがトイツ以上あるテンパイかイーシャンテン、もしくはトイトイのテンパイかイーシャンテン。
というのが一般論。
しかし、これがそこまで当てにならないのが近藤だ。
セオリー通りの仕掛けもあれば、遠くて安い仕掛けもある。
また、安い仕掛けでも押してくることがある。
結果、近藤の仕掛けは本物かどうかがわからなくなる。
その証拠に、村上が9巡目にドラ単騎チートイツをためらいなくリーチといった。
この直前に近藤がさらにを手出しし、テンパイが濃厚なのにもかかわらずである。
このリーチを誘発させることができるのが近藤の強さ。
「50歳超級自由形」
50歳を過ぎてもなお、様々な麻雀を吸収し、それらを基に変幻自在の攻撃を入れていく。
つかみどころのない打ち手。
それが近藤である。
これで近藤の仕掛けと村上のリーチに挟まれた格好となってしまったのが佐藤。
ツモ
近藤の仕掛けに対し、念のためトイトイ等をケアしてを抑えていた佐藤は、村上のリーチ一発目に打てる現物が
と
のみ。
村上の河はの手出しを挟んで、リーチの直前まで1枚切れだった
を切ってのリーチで、チートイツの可能性もあるため、近藤に対する安全牌として持っていた
を切りにくい。
とすると、一発目だけは近藤の仕掛けには目をつぶって村上の現物を切るのが得策か。
佐藤の選択は村上の現物。
これに近藤からロンがかかる。
トイトイでは当たらない牌であるため、ドラトイツの5800が多そうか?近藤なら2900も1500もありえるが。
ポン
ロン
ドラ
なんとこれがドラアンコの12000。
この仕掛けでドラがアンコのケースはかなり稀だろう。
確かに、普通の仕掛けなら、それなりにドラアンコの可能性も考慮できるが、近藤の仕掛けではかなり稀であると言わざるをえない。
対局者に少しでもそう思わせるのが、雲のように掴みどころのない男、近藤の力である。
たった1局でトップ陥落の佐藤にとっては、依然として厳しい戦いが続く。
南1局2本場ドラ
近藤39600、村上23300、佐藤26700、アライ30400
ここで村上に持ち味の門前大物手が炸裂する。
ツモ
7巡目に1枚切れと生牌のドラ
との選択。
村上は貪欲にドラ待ちを選択する。
そうそう、これが王道。
すると、13巡目にラス牌をツモって4000/8000は4200/8200。
ツモ
ドラ
実は、テンパイする前に1つアンコができ、トイトイへの変化があったが、これを拒否してチートイツの受け入れMAXを選択する門前派の村上らしい手順が光った1局。
これで村上が一躍トップ目に立つ。
他方、佐藤はこの村上のアガリでなんとラスまで落ちてしまう。
南2局ドラ
村上39900、佐藤22500、アライ 26200、近藤31400
トップ目に立った村上が序盤のを1枚目からポンしていく。
これは怖い。
おそらく5800以上の好形を誰もが想像するところ。も両面でチーしていよいよテンパイ。
チー
ポン
予想に反して打点は2900だが、3者にはドラトイツ以上に見えているはずの仕掛け。
これに対して、跳びかかる影が横切る。
アライだ。
村上の最終手出しがだったのにもかかわらず、気にせず下記から
外し。
そして、リーチをあっさりツモアガリ。
ツモ
ドラ
ウラ
2000/4000。
つ、強い。
抑え込んでも抑え込んでもこじ開けてくる。
南4局ドラ
アライ 32200、近藤26100、村上35200、佐藤26500
そして、アライが2着目のオヤでオーラスをむかえた。
ということは、当然人間側の総攻撃をくらうことになる。
まずは近藤が逆転に向けて7巡目リーチ。
これで苦しくなったのが佐藤。
オヤのアライも退き気味に打っており、流局ノーテンでもラス落ちとなってしまうため、押さざるをえない。
そんな状況で近藤のアタリ牌を掴むと、ここからの粘りが凄い。
ツモ
まず宣言牌のスジを打つ。
次に引いたで長考の末
を勝負。
そして、を引くと、
を切っていく。
続いて、13巡目にを引き入れると、今までで最も素早い打牌で
を打ち付けリーチといった。
はこの時点で純カラだったが、佐藤が
と
を抑え切ったことにより、近藤の待ちも薄くなっていた。
アライも安全牌のみを打ち出している。
流局か。
そんな空気が流れたハイテイの1つ前。
アライが突如口を開く。
「ツモ」
ツモ
500オールでいったんトップ目には立つのだが、これはアガった方がよいのだろうか。
トップ目とはいえ2着目の村上とわずか1000点差、さらに佐藤・近藤もマンガンツモ圏内に残るため3着落ちのリスクが残ってしまう。
解説席の人間たちは言う。
「これはアガらない方が得なのでは?近藤のハイテイだけ耐えれば、ノーテンを宣言して2着で終われるのだから」
しかし、アライはアガった。
これは、つまり、こういうことだ。
「リーチ」
1本場でアライの声が響き渡る。
そう、取れそうなトップは全部強奪する。
これがアライの普通。
ドラ
しかし、ここでは、追いついた近藤が冷静にダマテンをツモって捌き、アライを再度2着に押し返して10回戦に終止符を打つ。
ツモ
なんとか2着に抑え込んだが、アライの正面突破が決まり始めた10回戦となった。
第10回戦結果 村上 +34.2 アライ +13.9 近藤 ▲12.6 佐藤 ▲35.5
第10回戦終了時トータル アライ +197.2 近藤 +61.5 村上 ▲109.3 佐藤 ▲151.4
第38期最高位決定戦第3節観戦記 その3 へ続く…
記:鈴木聡一郎