コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.35】松島浩太 ~去年の忘れ物を獲りに。九州本部のエースは今年もA1を目指し冒険の旅へと~

(インタビュー・執筆 徳岡明信)

 

松島 浩太 (まつしま こうた)

九州本部所属 第39期後期入会

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第46期(2021年)最高位戦A2リーグ。昇級点「2」を保持し、5位までに滑り込めば最高峰A1リーグに昇級できる位置にいたが、6位に終わった悲劇の男の話。

最終スコアだけみると200p近い大勝ではある。まさに試合に勝って勝負に負けたという表現が合うか。

悲しい現実だが、世間が注目しているのは3位までの昇級争い。最終節の放送卓においても、浅井と河野の昇級争いが注目の的であった。

だからこそ、筆者はこの記事を書いて伝えたかった。1年間紆余曲折の荒波に揉まれ、無残にも最後に荒波に飲み込まれてしまった、A1リーグに最も近いところまで行った男がいたことを。

 

―あの悪夢から約4ヶ月。3/16より第47期最高位戦A2リーグが開幕する。

昇級が目の前ですり抜けていったあの時、浩太は何を思ったのか。

そして、今期に懸ける意気込みとは。創設3年目を迎える最高位戦九州本部の自他共に認めるエース・松島浩太の過去と現在、そして“未来”に迫る。

 

体も気もデカかった三男坊

広島県広島市東区で生まれ育った浩太。

3人兄弟の末っ子で、上2人も同じく最高位戦九州本部に所属している松島和也(長男)と松島力也(次男)である。浩太の幼少期については長男の松島和也にインタビューした。こちらの方が浩太の幼少期が分かるだろう。

 

浩太は、中学生まで空手と野球に明け暮れる少年だった。

浩太は野球も空手も好きだったけど成績が良かったのは空手やったね。小学生の時は無敗やったからね。空手の全中にも出てたよ。高校で怪我しちゃったことをきっかけにやめちゃったけど。

小さい時から気は強かった。曲がったことが大嫌いで、年上でも平気で噛みついてたわ。何回母親が謝り行ってたことか。でも根はめちゃくちゃ優しかったよ。ある日道端に猫の死骸が落ちていて、可哀想だからと拾って埋めてあげてたもんね。

そんな気は強くても根は優しい浩太は、高校に入り麻雀を覚える。ここからは浩太本人にインタビューしたものである。

一応広島の進学校に入ったけど、入学と同時くらいにゲームサイト『ハンゲーム』のネット麻雀で麻雀を覚えて、そっからはずっと麻雀してたね。力也の友達とかとひたすら寝る間を惜しんで家で手積み麻雀してたわ。しかも何でかはよお分からんけどずっと勝ててたんよね。それで麻雀の楽しさを知ってしまった。

その後何とか高校をギリギリで卒業して広島経済大学に入った。大学落ちたら当時発足したてだった「RMU」に入ろうと思ってた。多井さん(多井隆晴・RMU)は当時MONDOTVで見てて強いなあこの人って思ってたね。

浩太の麻雀ライフは幼少期の空手と同じく負け知らずからスタートした。大学進学後には、さらに麻雀にどっぷりハマっていくこととなる。

 

負けてる人の麻雀をよく見て、敗着打を打たないようにして勝ち続けた

浩太は19歳で初めて雀荘でのスタッフ業に就き、現在に至るまで生活基盤としている。

19歳で初めてサンマ(3人麻雀)の店で働きだした。まあそこは3ヶ月で辞めちゃったけど。

そのあと20歳のときに広島にあった『オープンリーチ』って店で働きだした。そこではとにかく麻雀を打ってた。お客さんがいない時は1人麻雀したりして、ずっと牌を触ってたって感じかな。

このときにも勝っていたという浩太に、なぜ麻雀を始めた頃から勝ち続けているのか聞いた。相当な勉強量をこなしていたというような答えが返ってくるかと思ったが、意外な答えが返ってくる。

麻雀の勉強はほとんどしたことない。

やっぱ打数がめちゃくちゃ多かったから、そこからの経験値と勝負勘だけで勝ってきたのかなと思ってる。言えばアナログやね。

強いて言えば、負けてる人の麻雀を後ろでよく見てた。敗着打ってのが麻雀には必ずあるんだよ。負けてる人からそれを学んで、自分ではやらないように気をつけた。

あと22歳くらいの時にお店を盛り上げたい気持ちから『コータ軍団』っていう麻雀サークルみたいなのを作ったんよ。勉強会ってよりはセットを楽しんだりする活動がメインやね。天鳳位になる前のおかもと(第12代・15代ヨンマ天鳳位)さんもコータ軍団の一員やったね。

最近よく耳にする「打数は正義」を体現している浩太。そして2014年、26歳の時に満を持してプロの世界に足を踏み入れる。

お客さんからプロになれって言われ続けてとりあえず最高位戦の試験を受けた。理由はたまたま最高位戦の関西本部ができたってのを知って、じゃあ最高位戦でいいかって。んでデビュー戦でいきなり昇級して、ああこの世界でも勝っていけそうだなって。だから今より熱があった訳ではないよね。

羨ましい。筆者も堂々とそんな発言をしてみたいものだ。

しかし、ついにこの後、順風満帆の浩太の前に高い壁が立ちはだかる。

 

リーグ戦での大敗、そこから考え方が変わった

2年目のC2リーグの1節目に人生で初めて大負けしたわ。

マイナス122.5P。悔しすぎて今でも負けたのはっきりと覚えとるね。C1との合同リーグで、当時C1だった友添さん(友添敏之)にボコボコにされた。まぁ結果的にはそこから昇級したけどね。

でも、このマイナス3ケタで完全に火がついた。全員倒して最高位獲るまでは何があっても麻雀プロ辞めないって心に誓ったんよ。

あと、この時は広島から関西までリーグ戦に毎回通っててさあ、店のお客さんがトップ獲ると500円積み立ててくれて、それを交通費として貰ったりしてて。だから応援してくれる人のためにも負けれんなっち同時に思ったね。腑抜けた打牌なんてもっての他。結果で恩返ししたいし、一番の恩返しは最高位を獲ることやからね。

浩太から放たれる唐突な熱い言葉に筆者は胸を打たれた。最高位への気持ちを語る浩太はどこか目が輝いているように感じた。さらにここから浩太は少年のように目を輝かせてA2リーグでの話を語ってくれた。

 

A2リーグの猛者には冒険しないと勝てない

入会から順調に昇級を重ねていき、第44期(2019年)にはついに「魔境」と呼ばれるA2リーグまで昇ってきた浩太。ここで浩太はA2リーグの層の厚さに驚いたと言う。

A2リーグで初めての放送対局が金子さん(金子正輝)、聖誠さん(佐藤聖誠)、優さん(鈴木優)ってメンツで日和ったね。こんな人達に技術や読みで勝てる訳無いと思ったわ。

だけん俺は経験側や場況を信じて一般的な選択とは違うことしてみたり、他人じゃ押さないような牌でも強く踏み込んでみたりする。冒険しないとA2リーグでは勝てんもん。

その後、そういった押しっぷりや独特の押し引きを指し、解説の土田浩翔から「冒険王」呼ばれることとなる。この二つ名は浩太もかなり気に入っているそうだ。

最初のA2リーグは本当最終節まで耐えて耐えてって感じの戦い方だった。

最終節の最終戦が、別卓の優さん(鈴木優)とトップラス30000点差くらいのわりと現実的な条件で迎えられて、その半荘で親の四暗刻ツモって。

これはマジでA1行けるぞ!って思った瞬間、体と手が震えだした。まあ結局は49000点くらいの並のトップになっちゃったからダメだったけど、4位で昇級点2を貰えたのはデカいし、めちゃめちゃ嬉しかったね。食らいついていける手応えは感じたね。

そんな「冒険王」に翌年、波乱な荒波に揉まれる一年が訪れる。

 

4連勝からの4ラス、荒波の先に待っていた人生で1番悔しかった涙

麻雀人生の中で最も印象に残った1年は、冒頭の「第46期最高位戦A2リーグ」だと浩太は語る。

序盤の1、2節で90Pくらい勝って、いいスタートダッシュ切って気分良かったね。そっからは耐えの節が続いたけど7節目の放送対局の時に4連勝して一気に2位までジャンプアップしてこれは行けるってまた震えたわ。あの日は選択がバッチリハマってたし、読みも冴えてた。カメラにビビッて押せなかった牌もあるけどな(笑)。

第7節の放送卓でこんな場面があった。

微差ながらリードしている南1局の親番。
前巡にの役なしテンパイを果たすと、ダマテンに構えて次巡にツモアガる。場にはが2枚見えで、ドラ無しとはいえパッと見リーチでも良かったのでは無いかと筆者は思った。

なぜダマテンに構えたのだろうか。気になったので後日メッセージを送った。すると以下のような答えが返ってくる。

ちなみに、この時は山に2枚。高倉は2枚使いで待ちをダマテンにしていた。全てがドンピシャに当たっていて鳥肌が立つ。なおかつ状況判断についても言われてみれば納得しかない。冒険王の思考に本当に驚いた。同時にこのレベルに至るまでに筆者は何年かかるのだろうと落ち込んだ。

その後、順調にポイントを重ねる浩太。しかし悲劇は息を吸うように静かにやってくる。

10節目で地蔵の4ラス引いたよ。本当何もできなかった。焦りとかは全く無かったから前がかりな放銃はほとんどしてないけど、ひたすら同卓者のツモアガリを見てたよね。ポイントも一気に減っちゃって、昇級点2があるから5位までに入れば昇級なのにそれすら危険信号が灯っちゃって。その日終わってから久々に焦ったわ。残り2節はとにかく気負わないで普通にやろうってずっと自分に言い聞かせてた。

4連勝からの4ラス。まさに荒波。冒険王には荒波が似合うなど粋な言葉を思いつくほどの余裕は無い浩太。ついに運命の最終節がやってくる。思い出したくないだろうが、今回のインタビューで筆者が読者に一番伝えたいところであるため、当時の心境を詳しく話してもらった。

最終節は高倉さん(高倉武士)と下山さん(下山和生)とのポイント勝負だったんだけど、俺だけ別卓だったから2人とも負けるっていう状況は可能性は低いと思ってた。

だから、まずは自分が1ポイントでも大きく勝つことを一番の目標にしてたね。とにかく平常心でいつも通りに打って勝つ。だけどどっかで気負ってたんやろな。1回戦でいきなり4連続放銃して。まあでもそんな位じゃ俺クラス気持ち切れないから何とか2着をもぎ取ったけどな。

2回戦目は50000点のトップ取ったけど、高倉さんが1、2回戦ともトップ取って少しリードされちゃってて。3回戦目はとにかく高倉さんのことだけ気になってた感じ。それがいけんかったよね。3着でマズいなこりゃって思ったよ。9節目まで2位におって昇級できんとか、応援してくれとる人達に申し訳なさ過ぎるやん。

幸い高倉さんも3回戦は3着で、最終戦はほぼ着順勝負になった。ただ素点で少し負けてるし、2着じゃ厳しいなと思ってたからほぼトップ条件だなと思って望んだ。最終戦のオーラスを2着目で迎えた親番で配牌開けたらグチャグチャ。仕方ないから7巡目から形テンで仕掛け始めて、何とか形テン取りきったけど、最後の最後で横移動して結局3着で終わった。悔しいよりも先に、まだA1リーガーの器じゃなかったんだなって思った。

この結果、浩太は全体順位を6位で終えた。目の前の昇級どころか、保持していた昇級点も波に飲まれて消えてしまった。

終わって道場出て雨が降ってる中、傘もささずにホテルまで歩いて帰ったわ。

ホテルで人生で初めて麻雀負けて泣いた。まだまだ弱いなと思ったのと、やっぱ応援してくれてた人に申し訳なさすぎたよね。俺も実際ここで昇級逃したらもうA1入りは無いくらいの気持ちで挑んでいたけん。

まあでも今年こそは絶対昇級するよ。完全に火がついた。もうこんな悔しいのは味わいたくないし、応援してくれる人を残念な気持ちにさせるわけにはいかんのよ。

絶望から這い上がった浩太から前向きな気持ちが聞けて筆者は安心した。

3/16(水)より第47期最高位戦A2リーグが開幕する。

 

飛躍の年へ~松島浩太はさらに強くなる~

九州本部に移籍してきて今年で2年目となる浩太。今期より九州本部の事務局長にも就任予定だ。

プロになってすぐに入社した『マーチャオ』の福岡中州店がオープンすることになって、そこで店長として働くために九州本部に移籍したんだけど、九州本部に来てまず思ったのは、周りにプロがいる新鮮さだったよね。九州来る前は広島在住だったから周りにプロなんかいなかった。

今年からは初めて私設リーグにも参加させてもらったり、坂本さん(坂本大志)主催の勉強会に参加させてもらったりと、とてもいい経験させてもらってるよね。俺は益々強くなるわ。

あと、プロ活動や勉強会でシフトに入れない時に代わりに入ってくれる店のスタッフにも本当に感謝してるよ。頭が上がらないよね。

マーチャオのお客さんにも「店長リーグ戦頑張ってね」ってお声かけしてもらったり、いろいろ応援してもらえて嬉しいね。

事務局長に関しては、本当に俺なんかでいいの?って感じだけど。

だけど広島から来た訳分からんヤツでも快く受け入れてくれた九州本部のみんなには感謝してる。やるからには必死でやるよ。これもいろいろと協力や応援してくれている人への恩返しの1つになるやろうから。今年こそは飛躍したいねえ。

(私設リーグ対局風景 九州本部所属のプロ有志で行っている私設リーグ『S.Fリーグ』はYouTubeチャンネルにて配信も行っている)

あまり麻雀を勉強せず打数で強くなってきたタイプだが、今までに無かった経験や知識を取り入れ進化していこうとする浩太。

今年こそA2リーグの荒波の掻い潜り、悲願のA1リーグに辿り着くことはできるのか。いや、浩太なら辿り着いてくれるだろう。

九州本部の冒険王は、去年の悔しさと周りの応援を胸に、今年もまた荒波へと舵を切る。

 

※対局画像提供:㈱スリーアローズコミュニケーションズ

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