はじめまして、最高位戦46期前期入会の舩木駿一です。
最高位Classicプロアマリーグ2021決勝戦の観戦記をお届けします。
<選手紹介>
奥山 敏行 プロ(日本プロ麻雀協会所属)
大里 幸弘 さん(一般)
中井 昌 さん(一般)
山下 陽介 さん(一般)
■1回戦
座順は起家から、中井-山下-奥山-大里(以降、敬称略)
【南1局3本場供託1 ドラ】
東場では大きなアガリが発生しないまま、南場に突入。
まず動きを見せたのが、南家の山下であった。
7巡目に中井から打ち出されたをポンして、リャンメン×2のイーシャンテンとなる。
しかし、同巡に奥山が絶好のカンを引き入れ、タンヤオピンフドラ1のテンパイを入れる。
通常の最高位戦ルールであれば、リーチをかけて満貫を確定させにいく人が多いような手牌だが、ここはClassicルール。
和了が発生しにくい環境においては、より和了率を上げに行きたい。
次巡、奥山はをツモり、1300/2600のアガリを掴んだ。
通常の最高位戦ルールであれば、「うわぁ…リーチすれば跳満だったよ…」とやや溜息が出てしまうかもしれないが、Classicルールには一発や裏がなくリーチによる打点上昇が少ないため、ここまでの均衡を崩すには十分なアガリである。
アガリを決めた奥山
【南3局1本場供託0 ドラ】
3巡目、南家の大里がドラのを重ねて3シャンテンとなる。ここはぜひをポンして3900点以上のアガリを拾いにいきたいところだろう。
しかし、このが全然河に打ち出されない。親の奥山がガッチリと絞っているのである。
さらに、同巡北家の山下が大里からをポンして、ならアガれる片アガリのテンパイを入れ、ドラドラの大里はスピード感的にも厳しい状況となった。
もも打ち出されることが無いまま、局面は3段目に突入。
奥山はを握り潰したままオリに回っており、アガリが発生するとすれば、バックの山下か、中盤でピンフドラ1のテンパイを入れていた中井のいずれかかと思われた。
しかし、ここで大里による”驚異的な一打”が繰り出されることになる。
大里は以下の牌姿でを引き入れて6ブロックの中からターツ選択を迫られることとなる。自身で4巡目にを切っているため、フリテンとなるのターツを外す選択をする人が多いかと思う。
ところが、なんとここで大里はを切ったのである!
はフリテンかつ場に3枚切られており、は場に一枚も切られていないにも関わらずだ。
後ろから見ていた筆者はえぇ!?と思わず声が出そうになった。
しかし、実はこの時は山に残り1枚、は残り2枚であったため、がやや有利であった。
そして、この大里の選択は大成功を導くこととなる。
次巡に大里はドラのを暗刻として、フリテンのダマテンを入れた。
まさかこのままアガリがあるのか…?と思っていたらそのまさか。2巡後にを力強くツモ!
2000/4000は2100/4100の大きな収入で、大里は一躍トップ目に踊りでた。
100人が同じ席に座って何人がこの選択をできるのだろうかというような、場況読みがキラリと光った1局となった。
南4局では山下が静かに300/500をツモアガリ、着順維持のまま1回戦は静かに終了した。
アガリを決めた大里
<1回戦終了結果>
大里 +19.2
奥山 +5.7
山下 △7.6
中井 △17.3
■2回戦
座順は起家から、中井-山下-奥山-大里
【東3局1本場 ドラ】
東3局0本場では中井から奥山への2900の放銃し、奥山が連荘して1本場。
中井は放銃の後で苦しい配牌だったが、早々にドラの發を2枚引き入れ勝負手に変化。
をチーしたのち有効牌を引き入れ、単騎から単騎を経て待ちの好形テンパイを取る。
直後、山下からが打ち出され、満貫のアガリとなった。
アガリを決めた中井
【東4局0本場 ドラ】
前局手痛い放銃となった山下だが、2巡目でドラの南引き入れ暗刻とする。伸び方によってはトイトイやホンイツなども見える手だ。
しかし、真っ先にテンパイを入れたのは奥山。
を引き入れて高目ならばチャンタ三色となるリーチをかけ、高目のをツモ。
Classicルールではなかなか拝めない3000/6000のアガリを決め、一気にトップ目に躍り出る。
【南2局1本場 ドラ】
ここまで苦しい展開が続いていた山下であったが、ここでチャンスが訪れる。
端寄りの配牌から順調に有効牌を引き入れ、門前チャンタのカン待ちのテンパイが入る。
ツモれば満貫、出アガリでも80符2飜で7700の強力な手である。
この時点では河に3枚切れ。見るからに残り1枚の牌となっていたのだが、残り巡目もわずかになったところで、大里がを掴む。
やや少考したのち、残り2回のツモでアガリも見込めると判断したのか、またが自身の目から3枚見えていたこともあってかこのをツモ切り、山下への放銃。
山下の執念が生んだ7700の力強いアガリとなった。
アガリを決めた山下
【南2局2本場 ドラ】
前局大物手をアガった山下だが、まだまだ終われないと言わんばかりに、七対子へ向かっていく。
そのまま山下がドラ単騎七対子の先制テンパイ。しかし奥山も絶好のを引き、高目のをツモればメンホンイッツーダブナンツモという呪文のような倍満になる強烈なテンパイを入れた。
単騎vs4面張、これは勝負ありかと思った矢先、奥山がこの牌姿からラスト1枚のを引いてしまう。
さすがにこのテンパイから引くわけにはいかない。奥山はこれをツモ切り、山下に対して9600は10200の痛恨の放銃となった。
これによって、暫定着順が中井-奥山-山下-大里の順となり、オーラスでは中井が6巡目で高速のアガリを決め、トップをもぎ取った。
<2回戦終了結果(カッコ内は2回戦までのトータルスコア)>
中井 +19.9(+2.6)
奥山 +7.9(+13.6)
山下 △0.8(△8.4)
大里 △27.0(△7.8)
2回戦終了時点で1位と4位の差はまだ50ポイント未満で、平たい状況と言える。
次の3回戦で抜け出る選手がいるのかどうかが見どころだ。
■3回戦
座順は起家から、山下-中井-大里-奥山
【東2局0本場 ドラ】
まず北家の山下がの仕掛けを入れた。ここから山下は索子を引き入れ、ホンイツを目指していく。
しかし、山下の仕掛けの段階で親の中井が実はすでにイーシャンテン。
さらに中井は良形変化の後、高目ならば三色がつくテンパイでリーチに出た。
ここでホンイツのイーシャンテンとなっていた山下がを掴み、放銃。
12000の大きなアガリとなった。
【東4局3本場 ドラ】
初っ端に奥山から放たれた第一打のを中井がポンして、トップ目から局を流そうと試みる。
特段早そうな手の人はおらず、このままでは貴重な局の消化が進んでしまう。
しかし、後方から一気に追いついたのが北家の大里。
高目ならば三色がつく待ちのテンパイを入れ、リーチに踏み込む。
索子は場に高く、高目のは山に残り1枚となっていたが、このをツモ。
2000/4000は2300/4300のアガリとなった。この手応えの良いツモに、大里の声が踊っていたように感じる。
【南3局0本場 ドラ】
親でトップ目の大里がなんと配牌で七対子のイーシャンテン。
しかも2巡目にテンパイを入れて、リーチとする。待ちは中単騎、早すぎるリーチにはいつ出てもおかしくはない。2着目との差を開きに行ったのだろう。
しかし、中が出ないまま巡目が進み、7巡目に山下が追いついてのノベタンリーチ。高目かつドラのならば三色がついて満貫以上が確定の手だ。
そのを掴んでしまったのは先制リーチの大里。8000の手痛い放銃となった。
これによってトップ目が中井へと入れ替わり、オーラスはそのまま流局。2回戦と同様、横移動で中井が漁夫の利を得る結果となった。
3回戦終了結果(カッコ内は3回戦までのトータルスコア)
中井 +20.9(+23.5)
奥山 △10.1(+3.5)
大里 +9.4(+1.6)
山下 △21.2(△29.6)
■4回戦
座順は起家から、大里-山下-奥山-中井
【東1局0本場 ドラ】
ついに最終戦。東1局からさっそく動きが見られた。
各者、配牌もツモも悪くない中、山下がタンヤオドラドラのテンパイ。
次巡、大里がテンパイしてリーチをかけるも、山下が即座にをツモ。
2000/3900のアガリとなった。
【南1局2本場 ドラ】
前局にアガリを決めて繋いだ2本場、大里の手は悪くないが、なかなかくっつきやカンチャンを引けない。
そうこうしているうちに最初にテンパイを入れたのは北家の中井であった。
567の三色が完成しており、高目なら三色、安目でもドラという強力な待ちである。
そしてこれに捕まったのが大里。カンチャン・リャンカンながらも優勝のためには逃すことはできないイーシャンテン、目一杯に構えるべく打ち出したに対してロンの声がかかる。
7700は8300のアガリで中井は優勝に大きく近づき、大里は肩を落とした。
【南2局0本場 ドラ】
大里・山下・奥山がメンツ手へ向かう中、中井が南とをポンして真っ先にペン待ちのテンパイを入れる。さらに優勝へと近付くため前へ前へと出ていく。
しかしここに追いついたのが、南家の奥山。を引き入れてピンフドラドラの待ちテンパイを入れる。
そしてを掴んだのが現状最も優勝に近い中井である。
手繰り寄せた牌がであることを確認した中井は少し訝しげな表情をして一瞬手が止まったが、程なくしてツモ切り。
3900ではあるが、トップ目のライバルから直撃し、奥山にとってまさに「デバサイ」(※『出場所最高』の俗語)と言えるアガリとなった。
【南3局0本場 ドラ】
先ほどのアガリによって中井は3着目に落ちたが、点数状況的にはまだ暫定優勝圏内である。逆に奥山は中井からの直撃は取れたが、まだ点数が足りていない。
その中で真っ先にテンパイを入れたのは奥山。
山下から打ち出されたをチーしてカンのテンパイを入れる。
ここに追いついたのが、北家の山下。
役満クラスのアガリが欲しいのはわかっているが、手が横へ横へと綺麗に伸びていき、見事な待ちのテンパイとなってしまった。
しかし、Classicルールでは連荘が発生しにくいということを考えると、奥山の連荘に期待してこの手を放棄するのも分が悪い。出場所によってはオーラスの条件が緩和される可能性もあるため、素直にリーチとした。
さらにそこに追いついたのは現状暫定首位の中井である。
タンヤオがつくを引き入れテンパイ。しかし、山下はリーチ、奥山もテンパイ気配が濃厚である。この状況に対して中井は悩み抜いた結果、
を切ってリーチした!!
テンパイを取るのはまだしもリーチはしなくて良いのではないかと思ったのだが、これがどうやらそうでもないらしい。
このリーチにはメリットとデメリットがいくつかある。
デメリットはやはり奥山への放銃だ。これはほぼ奥山を暫定首位に立たせることになる。
しかし、メリットもいくつかあった。
メリット①自身のアガリ点の最大化
これは暫定2位の奥山に突きつける条件を厳しくしてオーラスを迎えることができるという明確なメリットだ。
メリット②山下がアガった場合
奥山のオーラスでの条件は奥山-山下-中井の並びを維持したままで山下をまくることが必須。その際、当然奥山と山下の点差は開いていた方が中井にとっては良いため、点棒を山下に渡すことは、奥山にまくられにくくなるという点ではメリットになるのである。
山下の優勝条件が緩和される可能性はあるがそれでも三倍満クラスは必要となりそうだ。
要するに、中井・山下・奥山の三者のうち二者のアガリが中井にとってメリットになり得るため、リーチに踏み込んだのである。
そしてこの決断は中井にとって最高の結果をもたらすこととなる。
この親番は引きにくい奥山がを勝負した結果、中井が2600のアガリをものにし、さらにトップ目に立ったのだ。
最終戦南3局終了時(カッコ内は現時点での暫定トータル)
中井 36200(+41.7)
山下 33900(△21.7)
奥山 30700(+0.2)
大里 19200(△21.2)
<優勝のための条件>
中井:流局時ノーテン宣言
奥山:跳満ツモ or 5200以上を中井から直撃
大里:倍満ツモ or 跳満を中井から直撃
山下:役満ツモ or 三倍満を中井から直撃
【南4局0本場 ドラ】
この局は流局時に中井が必ず手牌を伏せるため、泣いても笑ってもこれが正真正銘の最終局である。
大里は国士無双狙い、山下は四暗刻狙いで手を進めている。
そしてやはり注目は最も逆転に近い奥山である。奥山の配牌にドラのが2枚あるではないか。これをなんとか活かせれば条件に手が届くかもしれない。
奥山はメンツ手で進行し、途中まではを暗刻にした5200で中井から直撃を方針も見ていたが、を暗刻にしたことでを見切る。
345の三色か最終的にを外すタンヤオなどをつけて条件を満たす手を作っていきたい。
しかし、思うようにツモは伸びず、テンパイには辿り着くことはできなかった。
最終局は流局にて静かに幕を閉じた。
4回戦終了結果(カッコ内は3回戦までのトータルスコア)
中井 +18.2(+41.7)
山下 +7.9(△21.7)
奥山 △3.3(+0.2)
大里 △22.8(△21.2)
優勝は中井となった。
要所要所でアガりを決め、大きな放銃は避けた上でここぞという局面で勝負に出る。そんな優れたバランス感覚がもたらした優勝だと筆者は考える。
中井さん、本当に優勝おめでとうございます!
また、中井は「途中、自分以外のアガリによって自分が得をする場面がいくつかあり、良い展開に導かれて勝つことができた」と語っていた。
4人いるからこそできる麻雀の醍醐味がここに現れているのだろう。
Classicルールは普段の麻雀とは全然違っているからこそ面白い。
最高位Classicプロアマリーグは、みなさんのご参加をお待ちしています。
写真左から山下 陽介さん(第4位)、大里 幸弘さん(第3位)、奥山 敏行プロ(準優勝)、中井 昌さん(優勝)