コラム・観戦記

【第12期女流最高位決定戦初日観戦記】小山直樹

茅森早香   34.9ポイント
野添ゆかり  12.0ポイント


最終戦を迎え着順勝負となった第11期女流最高位決定戦。オーラストップ目で女流最高位に王手をかけた野添は上がれば優勝のリーチを打った。
逆転され追う立場となった茅森。手にしたのはもはや絶望してもおかしくはないバラバラの配牌。・・・終わった、野添に決まりだ。誰もがそう思った。
諦めない。放銃したらそこで終わりだ。慎重に、しかし正確に一筋の道を辿るラス親の茅森。最後の最後、テンパイが入った。まだ、諦めない。

その一瞬、女神が微笑んだ。

第11期女流最高位 茅森早香

 

 

26期後期入会。若くして最高位戦の門戸を叩いて早10年が経った。
入会から2年後、第2回女流モンド杯を優勝し、一躍脚光を浴びる。
その後も第2期、第5期、第6期女流最高位決定戦に駒を進めるが、いずれも最後の一歩が及ばず2位に終わる。
そしてある時期を境に、茅森は公式戦の場から姿を消してしまった。

「最高位戦の女流選手で誰が一番強いの?」

女流リーグの始まる頃になると密やかに話題に上るこの手の話。
本人不在の中でも、必ずや候補に上げられるのが「未冠の女王」茅森であった。
そんな彼女が、昨年ついに女流戦の舞台に帰ってきた。復帰戦となる女流Bリーグを難なく首位通過。準決勝も危なげない戦いで通過し決勝に至っても終始自らのペースを崩さずに戦い、優勝。

10年越しの、4度目の正直だった。

それから一年。

準決勝を勝ち抜き決勝へと駒を進めたのは野添ゆかり、花本まな、石井あやの3名。

野添ゆかり

 

 

第32期後期入会。
入会した年の第7期女流最高位戦に出場。あれよあれよと決勝の舞台へ。
しかしそこで待ち受けていたのはあまりにも厳しい洗礼だった。
根本佳織、涼崎いづみ、和田聡子という百戦錬磨の強豪相手に成すすべ無くポイントを減らし、何をすればいいのかわからない、暗闇の袋小路に迷いながら戦いを終えた。苦い苦い、初の決勝だった。それから4年。準決勝常連となっていた野添は、再び決勝の舞台に昇り、女流最高位にその手をかけた。最後の最後、指の隙間からするりと零れていった女流最高位に、野添は何を思ったのだろうか。

 

あの敗北から1年。この1年の間に結婚して、子供を生んだ。女流最高位を逃した野添は、幸せな家庭を手にした。しかし出産後わずか1ヶ月で準決勝に強行出場。育児に苦労する中での出場は、決してコンディションから言っても簡単なものではなかっただろう。睡眠もろくに取れず、辛い体をおして尚、昨年の雪辱を果たさずにはいられなかった。

石井あや

 

 

第34期前期入会。入会2年目にして、プロクイーンと女流最高位の2冠を達成。一躍時の人となり様々なメディアで活躍している。石井もまた、昨年置き忘れたものがそこにある。
初の防衛戦となった去年。手が入らない。戦えない。石井は自身のスタイルを貫き通した。しかし結果は大きく沈んだ4位。最終戦、芽がなくなった石井は茅森と野添の優勝争いを横目に、淡々と勝負に関わらぬよう打牌を続けた。ディフェンディングである自分が新女王の誕生を指を咥えてみていなければならないという状況。その思いは忸怩たるものだったろう。


迎えた今期準決勝。最終戦こそ危ういところまで追い詰められるも、ほぼ安定したスコアで難なく通過を決めた。地力ならば茅森に勝るとも劣らぬ雀力を持つ石井は、女流史上初の女流最高位奪還に挑む。

花本まな

 

 

第34期後期入会。入会から女流リーグでは毎年好調を見せ準決勝の常連となる。しかし決定戦への壁は厚く、中々その壁を打ち破ることができなかった。
花本は悩みながらも、今年プロテストを再受験する。年間リーグ戦である最高位戦の登録資格を得るためである。晴れて合格し、C3リーグから、上を目指すための戦いに挑んでいる。

その努力が実り、今期第11回野口恭一郎賞女流棋士部門に出場すると、自身初となる決勝に進出する。ニコニコ生放送でも生中継されたこの対局。花本は善戦し、あと一歩のところまで行くものの惜しくも受賞を逃した。

今回女流最高位の決勝へは初となるが、この野口賞の経験により、他の3人との経験差というものは多少埋められたのではなかろうか。
準決勝最終戦、絶望的とも思えるポイント差から見事に条件を満たした花本。この決勝でも、十分に渡り合える力はある。

 

実力十分の4者が揃って紡がれる戦いの行方は果たして―――

 

 

1回戦(起家から石井‐茅森‐野添‐花本)

 

東1局
一番最初の1局というのは非常に重要となってくる。アガリをモノにできれば気持ちは楽になるし、放銃から始まれば決していい気はしないだろう。
よーいドンで4者が得た配牌は皆まとまったものだった。

 

 

そして早くも7巡目に親の石井がリーチを打つ。

   ドラ


―思えば、昨年の決勝も石井は東1局先制リーチを打っていった。

結果はまさかの4人テンパイでの流局。リーチ棒のみを失うという結果は石井の苦戦を予感させるものではあった。果たして今年はというと、このリーチに誰も向かっていけない。

硬いな・・・

のトイツ落としをしてきた親の石井のリーチは確かに怖いが、例えば花本はリーチの一発目、イーシャンテンから現物のをツモ切らずのトイツ落としでリャンシャンテン戻し。テンパイしても向かっていける手格好ではないのだが、いささか消極的すぎる。なるべく早いうちに硬さが取れるといいのだが・・・

一人旅となった石井だがこれが中々ツモれない。流局スタートか、と思った最終ツモにようやくが。これが裏ドラにもなり嬉しい2000オール。好スタートを切ることができまずは一息、といったところか。

重い展開から細かいかわし手で局が進んだ東3局。花本・石井がまとまった配牌を手にする。

 


茅森も第1ツモでドラを重ね、親の野添だけが伸び悩みを見せる。8巡目、石井が純チャン三色のイーシャンテンで
のトイツ落としをすると、これを持ち持ちだった茅森がポン。野添以外の三者の足並みがイーシャンテンに揃った。
最初にテンパイを入れたのは茅森。11巡目に
から打でカンを選択するが、このが純カラ。すると次巡のツモはであがりを逃してしまう。すると石井も純チャン三色ペンで追いつく。

更にはなんと受け気味に進めていた野添にも9600のヤミテンが入る。バラバラな配牌から字牌を丁寧に絞り、をアンコにしてのテンパイ。とはいえ待ちのカンは三枚切れ。あと一枚はというと・・・

花本手牌

 

 

もう一度三人の待ちを確認してみよう。石井はペン。茅森はカン。野添がカン。そして全員の待ちはもう残されていない。この花本の手牌以外には・・・
残り2巡、王牌を含めて残り20牌。この中には花本のテンパイ牌があと3枚残されている。もしテンパイが入ったら石井か野添への放銃は免れない。本人は「テンパって!」と思ってツモるが、卓の外から見れば「テンパるな!」という感じである。
しかし無事に?テンパイを果たせず花本の一人ノーテンで流局。開けられた手牌を見て安堵したのではないか。

 

その後も軽いアガリで局は進んでゆく。
コツンコツンとジャブを繰り出し石井が頭1つ抜け出た南2局。
3巡目にドラを重ねた親の茅森は、早くも7巡目に
単騎のドラドラチートイツをテンパイ。

   ドラ

 

ひっそりとヤミテンに構えた。この、誰が掴んでもすぐに場に放たれるであろう牌。いや、唯一石井だけがずっとを抱えていた。

北家の石井は6巡目、

 

   ツモ   ドラ

 

ここから打とした。親番もない微差のトップ目、役牌を軽く叩いて局を消化する考えもあるだろう。それで無くとも6巡目とはいえ3シャンテン戻しとは。大きく狙えるところは大きくいく、これも石井の麻雀のスタイル。
茅森はというと、9巡目に1枚切れの
に待ちを変えヤミテン続行。するとすぐさまを合わせ打つ石井。あまりにもあっけなく打たれたは、少し待てば出たのでは?と思わせ茅森にしては嫌なものだったろう。
更に茅森は
が7枚見えているを持ってくると少考。しかしこれをツモ切ると次巡のツモは。。。思わず苦い表情を浮かべる。
そして、いよいよ花本が追いつきリーチを打ってくる。

 

   ドラ

 

薄い最後のを引き入れてのテンパイ。全く迷わずリーチを打ったが、親の茅森がを手出ししてからオールツモ切り。ピンフのみで待ちのも良いとは言えないこのリーチはかなり怖い。
リーチを受けた茅森はそのまま気迫のツモ切りを繰り返す。そして、花本の最後のツモは茅森が待ち焦がれた

本はここまで丁寧な打ち回しでギリギリのところで耐えていた。攻めっ気が強い花本とはいえ、これまで通り打っていればヤミテンに受け、放銃を回避できていたかもしれない。初の決勝の舞台という緊張、なんとか一度あがっておきたいという焦り、いつも通りに攻めようという自己暗示、様々なことが花本の背中を後押しし、奈落へと突き落とした。

なんとか挽回したい花本は、同1本場にリーチ。


   ドラ

 

これを受けて、ホンイツイーシャンテンだった石井は


      ツモ

 

初牌の中を掴むやほぼノータイムで現物の打
石井はかなり打牌スピードの速い選手である。そして、他家のリーチに対し、ぱっと見いけそうな時も本当にノータイムで中抜きをする。勿論常にオリわけでなく、回る時は回るし、押す時は押す。ただ、オリを決める選択がべらぼうに早いのだ。
自身の中で、押し引きの線引きがかなり明確に出来ているのだろう。こういった打ち手は精神的にも強く、コンスタントな強さを持っている。
花本、起死回生のリーチも全員に受けられ流局。

南3局2本場 供託1000
西家石井が電光石火のこの仕掛け。


         

 

ポンポンポンと簡単に仕掛けることが出来たものの、河も明らかなホンイツなため、以降全員がピンズを打たぬようオリてしまい石井の一人テンパイで流局。

南4局3本場 供託1000
オーラスを迎えて、


花本12100
石井38700
茅森38600
野添29600


トップ争いはわずか100点差。初戦から熱い戦いを見せてくれる。
二人のスピード勝負か、と思いきや一番早かったのはラス親の花本。
わずか4巡目で


   ドラ

 

このイーシャンテン。しかしこれが中々入らない。ようやくテンパイが入ったのは終盤15巡目。ほんの少し止まり、「リーチ」。
結果は早めに形テン仕掛けを入れ始めた石井との二人テンパイ。

南4局4本場
満貫ツモでトップ、1300/2600で2着になる野添。その野添が4巡目に分岐点


   ツモ   ドラ


で何を切る?
普通なら
で123の三色を見るのが手順だろうか。しかし、が既に場に2枚打たれている。ならばと三色を見切り打とした野添。しかし次のツモはよもやの。。。
これを捕らえるのはあまりにも難しいか。それで
とツモってリーチを打つ。



これを受け後がない親の花本も追いついた!


      

 

「ツモ」手元にが引き寄せられる。

 

   ツモ   ドラ

 

裏も乗らず、唯一三着ままになるラス牌のツモ。茅森・石井は裏ドラが乗らずほっと一息。

1回戦終了時


石井あや  38.8
茅森早香  15.7
野添ゆかり -4.7
花本まな  -49.8

 

 

2回戦 (野添‐石井‐茅森‐花本)

 

初戦を終え緊張も徐々にほぐれ、全員の肩も温まってきただろうか。
2回戦は東1局から激しくぶつかり合う。
第1ツモでドラを暗刻にした花本、6巡目にはこの形。


   ドラ

 

10巡目にツモり三暗刻の形でリーチをするとドラを暗カン。一気に緊迫した空気が流れる。


      ドラ  


茅森もカン
から両面に変化すると追いかけリーチ!


安全牌に窮した親の野添。ダブをポンしており、テンパイから自然な形で二人の筋であるを押し出すと花本に8000放銃。
ようやく、花本に初アガリが出た。

流局をはさんだ東3局、今度は親の茅森にドラ暗刻の配牌が。
字牌を処理していくだけで手が進んで行き、9巡目にはこの形。


   ドラ

 

が若干薄いのが気にはなるが、絶好のを引き入れテンパイ。すっを打ち出し12000のヤミテンをいれt「ロン」うん?


      ロン 


前巡
のポンテンを入れていた花本がぎりぎりでかわした。花本が、茅森への9600放銃から憑き物が落ちたかのような戦いを見せ始めた。

東4局
わずか7巡目。野添からリーチがかかる。


   ドラ



この配牌からほぼ無駄ヅモなしでのテンパイ。そしてリーチ宣言牌のドラ
を石井がチーして前に


      打

 

前に・・・?
以外現物はゼロのチーリャンシャンテン。一発消し、安全牌がなく、子のリーチ。かわしに行くならば宣言牌のドラは必要牌。鳴く選択肢も当然あるが、この仕掛けがあのをノータイムで中抜いたのと同じ選手とは思えない。なんでもやるし、なんでも出来る。石井あやは、女流で群を抜いて引き出しが多い選手ではないだろうかと思う。
この鳴きで花本に暗刻になるはずだった
が野添の手に踊り込み2000/4000。

南1局
野添は、良くも悪くも臆病な打ち手である。守備型に分類されるだろう。
イーシャンテンから押すことは少ないし、先手でも勝ち目のある戦いしかしない。
そんな野添が、親番追いかけリーチを打つ。


   ドラ


先にリーチを打っていた茅森は



 

茅森のリーチはらツモでの必然ともいえるリーチである。そして実際野添の待ちは山に残り2枚、茅森の待ちは山に1枚と大差はない。
茅森は追いかけリーチを受け一発目の
を当たってみろ!と言わんばかりに振りかぶり、引いてきたをアンカン。すると次巡、野添がツモ


   ツモ  ドラ  裏

 

うん?え?8000オール?メンピンツモドラ・・・5!?
予想外すぎる大きな大きな8000オール。しかしピンフでドラ5とは・・・

その後はうってかわって小場へと切り替わる。ラス目となった茅森も果敢にリーチを打っていくのだがどうにも実らない。

南3局
現在ダンラス目、親番の茅森は10巡目、


   ドラ


ようやく三色のイーシャンテンにこぎつけるも花本からすぐにリーチ。あっさりとツモったのは

 

   ツモ

 

こちらは高め三色のメンタンピン。花本はこのあがりで石井をだいぶ離した2着に。


オーラスを迎えて
花本31200
野添59200
石井20700
茅森8900

親の花本の配牌はというと


   ドラ


あまり良くはないか。良いタイミングで
が鳴ければよし、本線は七対子といったところか。
ひとまず打
として次巡ドラのを重ねると、6巡目にを仕掛けていく。
これが11巡目に


   

 

ここまで伸びると俄然期待も高まってくる。
トップ目野添はというと7巡目に早くもテンパイ。



 

流石にこれではリーチは打てない。ピンズの変化も非常に良いのだが、これが全く変わらない。ツモれない。
そして終盤17巡目、


         ツモ

 

花本が力強くドラを手繰り寄せ4000オール。あと親満1回でトップというところまで野添に迫る。

一本場は茅森が高めなら三着浮上のリーチを渋々安めで700・1300をツモり終了するが、花本がようやく本来の自身の打ち方を取り戻してきたように見える。これで、ようやく4者がスタートラインに立ったといったところか。
茅森はいまいち乗り切れないものの、とはいえ「茅森なら大丈夫。まだまだここからだ」と誰もが思っていたことだろう。

しかし茅森の受難はまだ始まったばかりだった・・・

2回戦スコア
野添 ゆかり  +54.3
石井 あや   -26.0
花本 まな   +23.5
茅森 早香   -51.8
 
2回戦終了時スコア

野添 ゆかり 49.6

石井 あや 12.8

花本 まな -26.3

茅森 早香 -36.1 

3回戦(茅森‐野添‐石井‐花本)

東1局 ドラ

 

 

野添・石井の配牌が非常に良い。
ツモもばっちり、石井が先制リーチを打つとすぐさま野添が追いかけリーチ。この2軒リーチに挟まれ、花本が1発で野添に
で満貫を打ち上げる。
ドラドラのイーシャンテン、
のワンチャンス、両者の現物ゼロで河も強いとあってはこの放銃は致し方ないか。

東2局
2回戦からは落ち着きを取り戻したかに見えていた花本だったが、


   ドラ


ここから8巡目、
をポンして打ドラ。ホンイツ一直線でを鳴くのは良い判断だと思う。しかしこの直後、下家茅森から出たをスルーしてしまう。思わず声が出なかったのだろうか。
前局の満貫放銃で硬さがまた戻ってしまった花本、そしてこのスルーが親の野添にテンパイ即リーチをいれさせてしまう。


   ドラ


染め屋が使っている色の愚形リーチのみ。親につき、という抑え目的もあるリーチか。
花本はこのリーチに一発でドラを掴み現物を抜いて降りに回る。
そしてこの時密かに茅森大物手を入れていた。



 

しかし茅森も一発目でドラを掴んでしまいの対子落としで回る。そして



ここから
のノーチャンスで打。野添に3900の放銃となる。
この放銃を見た時、始めて茅森に不安を覚えた。
さっきの牌姿から初牌の
の対子落としで回るならば、ここはまだの対子落としで耐えるべきではないか?普段通りの速度で何の気なしに打ち出された。あまりにも淡白すぎる放銃。

 

東2局2本場
野添の勢いが中々止まらない。これ以上行かれては最悪初日で勝負が決まりかねない。それを食い止めたのは花本。

   ロン   ドラ


野添から出場所最高の満貫直撃。
打った野添は、


   打

 

こちらも七対子が見えるところからのメンツ手決め打ちのが捕らえられ、痛恨の放銃となってしまった。

東3局
ここのところ全く音沙汰がなくなってしまっている石井。しかしこの親番で遂に「入ったか?」と思わせる手牌を手にする。4巡目にして


   ドラ


一通含みの好手牌。しかしカン
を入れ打とすると、2枚切れのを抱え打

 


あがりたい親番、
をくっつき候補として残し目一杯に構えてもいいのでは?と思うが、これが石井のスタイル。石井が予知していたかのように同巡、花本からリーチが入る。


 

急所のカンを引き入れての高め三色のピンフリーチ。石井は現物の打、現物のツモ切り、現物の打とするが、


   ツモ

 

ドラのを重ねたところでと少しずつプッシュし始める。ようやくを引き入れ追いついたのは14巡目。打のヤミテンを選択すると次巡あっさりとをツモって4000オール。ピンズの下はかなり安く絶テンにも思えリーチもあるかと思ったが、石井の場合危険牌を引いてから現物のと落として回ることも考慮しているのだろう。


東3局1本場は、わずか4巡目に花本がリーチ。ホンイツ仕掛けのイーシャンテンだった茅森が高めを掴んでしまい6巡目に8000放銃。茅森は本当に牌の巡りに非常に悩まされている。茅森自身も、どうにもならない厳しさを感じているように見える

東4局、野添が先制リーチ。


   打リーチ  ドラ


これを受けた茅森は、


   ツモ 

 

ノータイムで現物の打。その後、現物のツモ切りと全く戦う気を見せなかった。駄目な時は頭を下げて耐えることも必要になってくる。
この局は石井がピンフドラ1のヤミテンで追いつくも、
をツモ切り野添に6400放銃。
これで上三人の点棒はかなり平たくなった。

南1局


   ツモ   ドラ


親の2巡目でさあ何を切る?
茅森が摘んだのは
。ここからと並べ2枚目のに飛びついた。


   


親のこの仕掛け、周囲は対応に追われ苦しくなる・・・とはいかないのが今日の茅森。
あっさりと南家野添からリーチが入る。


   ドラ


しかしなんとか
を引きカンテンパイ。


   


更に野添がツモ切った
をポンしてに受ける。が、無情にも茅森が引いてきたのはドラ。茅森はふてった顔で渋々を切って単騎に。ここまでの押し方を見ているとツモ切ってしまうかとも思ったが、そこは流石。その後の無筋は押しているため、ほぼ一点心中だろう。だが、いくら止めてもツモられる。をツモって1000・2000。
茅森は
ポンでドラを食いとったのだが、もし鳴いていなかった場合も茅森の本来のツモにはと並んでいた。神は茅森にどこまで試練を与えるのか。

南2局は茅森のリーチのみに3者がオリて流局。

南3局1本場、
親の石井が1巡目か
ポン。


   

 

この仕掛けを見て筆者は目を疑った。愚形残りのリャンシャンテン。1巡目からこういった先手を石井が取るのはかなり珍しい。しかしあっさりとと埋めてテンパイを果たす。
ここへ襲い掛かるのは花本・茅森。

 

花本

   リーチ

 

茅森

      

 

茅森が純カラ、花本の高めが2枚生き、石井のは残り1枚だったが、茅森がラス牌のを掴んで1500。

同2本場も石井は1巡目にポン。またも愚形残りだが今度はイーシャンテン。
茅森は


 

でヤミテンを入れていたが、我慢ならず空切りリーチ。しかしまたも石井の当たり牌を掴み2900は3500。
点棒も無く、有効な手変わりもあまり無いのだが、ここまでの不調で茅森が若干壊れ気味にも感じた。このまま終わってしまうのだろうか・・・

南3局、野添になんと3巡目ドラアンコテンパイが入る!


   ドラ

 

そんなことは露ほども知らない3名。花本も6巡目にリーチを打つ。



 

花本は自身の先手を疑わなかったに違いない。結果はなんとも残酷なもの。野添がツモ切り追いかけリーチ。石井が一発消しのチーをすると花本に舞い込んだのは・・・なんとも手痛い満貫放銃となった。

オーラスを迎えて
花本21000
茅森6500
野添51600
石井40900


大勢は決したかに見えた。しかしここから花本が粘りに粘る。
流局間際になんとかテンパイを入れ親を維持。じわじわと差を詰めていくと、4本場、


  リーチツモ   ドラ

 

この2600オールで遂にトップまで躍り出る。
5本場に、渋々ながら野添が2着を決めるアガリをしてようやく花本の連荘は終了した。

3回戦スコア
花本 まな  +44.6
野添 ゆかり +24.4
石井 あや  -11.0
茅森 早香  -58.0
 
3回戦終了時トータル
野添 ゆかり 74.0
花本 まな 18.3
石井 あや 1.8
茅森 早香 -94.1

女流最高位茅森が一人100ポイント近くの沈み。この展開を誰が予想できただろうか?
絶不調の茅森、このまま終わってしまうのではないかという危惧を誰もが抱いたが、そんな思いを杞憂に終わらせる茅森のターンがついにやってくる。

東2局
300・500をツモって親を引いた茅森に、ついに先手の本手が入る。


   リーチツモ  ドラ

 

ここに至るまで幾多の苦労をした4000オール。常に淡々と打つ印象が強い茅森だが、この時ばかりはわずかながら感情が垣間見えたような気がする。
さぁここから巻き返し、と行きたい茅森だったが、1本場はすぐ花本と石井の2軒リーチに挟まれる。

 

花本
   ドラ

 

石井


これを制したのは石井。高めの
をツモって1000・2000。


東3局は流局して1本場
、わずか5巡目に


東家野添
   ドラ


西家花本


北家茅森


激突必至の3者の手牌!!この局面をあがりきったのはしかしまたも石井。


   ツモ

 

ダブポンテンを取りたい野添に対し茅森がとにかくを絞りに絞ってテンパイを入れさせない。そうこうしてるうちにひっそりとテンパイを入れた石井の500・1000。これはかなりのファインプレー。やや石井がペースを作ってきたか?そうして迎えた親番では


   ドラ


絶好のペン3を引き入れての本手リーチ!石井のターンかと思われた、が、やはり決定戦はそんなに甘くはなかった。茅森が同巡追いかけリーチを打つと石井の一発目の捨て牌に声がかかる。


   リーチ一発ロン


こちらも絶好の
を引いてのテンパイ。これまで一向に恵まれなかった茅森に、ようやく風が向いてきた。

茅森ダントツで迎えた南2局、
野添が3巡目にテンパイを果たす。


   ドラ

 

野添はここから5巡目にツモで打のイーシャンテン戻し、次巡最高のツモ高め一通リーチを打つ!高めのは山に3枚丸生き。手ごたえばっちり、流石に時間の問題かと思われた。その時間は与えられなかったのだが。


  リーチ一発ロン

 

と嘘のようなツモで追いかけリーチを放った石井が野添から一発で出和了。を掴んだ瞬間の野添は「嘘でしょ?」と信じられない様子であった。

半ば呆然とした野添。決してメンタル強者ではない野添が受けたダメージは、やはり大きかったのだろうか。



吸い込まれるようにツモ切られたドラ
は、ド高め12000の当たり牌。
親で無ければ、点棒が少なくなければ、トータルポイントが意識できていれば、前局の一発放銃がなければ、なにより普段の野添ならば我慢して現物の
を抜いて七対子のイーシャンテンに取るか、筋になったを打ってのイーシャンテンを取っていただろうと思う。魔が差した、という表現しか出来ない放銃で一気に女流最高位の行方がわからなくなった。

南4局
石井 36900
花本 23300
茅森 56800
野添 3000

トータルラスの茅森がダントツトップ。しかしやはりこのままは終われないのが決勝であり今日の茅森の出来である。ここからラス親の石井が4度矢を放つ。
全て流局してしまうあたり、石井も苦しかったろう。


最後は花本が供託をさらう1000・2000で3着のまま素点を回復して終了した。

4回戦スコア
茅森 早香   +55.9
石井 あや   +20.0
花本 まな   -14.0
 野添 ゆかり  -61.9

1日目終了時トータル
石井 あや 21.8
野添 ゆかり 12.1
花本 まな 4.3
茅森 早香 -38.2

茅森の一人沈みというのは変わらないものの、差が一気にギュッと縮まり誰が獲ってもおかしくないポイント差。一番安定感のあった石井が暫定首位に踊り出た。
残すところはたった4回戦のみ。
石井がこのまま女流最高位返り咲きできるか?
最終戦悪夢を見た野添は立て直すことができるか?
初の決勝、ようやく慣れてきたように見える花本はどう戦うか?
そして、ようやく復活の兆しを見せた女王茅森は?

女神の祝福は、たった一人にしか贈られない。

文責:小山 直樹
(文中敬称略) 

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