コラム・観戦記

【第37期最高位決定戦第2節観戦記】新井啓文

定刻30分前、筆者が対局会場である「ばかんす」に到着すると暫定首位(+40.0)に立つ近藤誠一の姿があった。

 

   近藤 誠一 選手

 

49歳・入会16年目にして初の決定戦の舞台。
そこでの首位スタートとあればさほど大きいポイントでなくとも、気分のいい一週間であっただろう。

5分程遅れて入場は第31,32期最高位張敏賢と現發王佐藤聖誠。

 

     張 敏賢 選手

 

張は初日を終えて二位(+29.5)。
「初日は様子を見て場に慣れたかった」という張としては満足の滑り出しか。

 

   佐藤 聖誠 選手

 

対して佐藤は初日最下位(▲66.4)とやや出遅れた格好。
だが長打力には自信のある佐藤のこと、1半荘終了時にはプラスに転じていても全く不思議はない。

最後に登場は現最高位石橋伸洋。
初日▲4.1Pは数字こそ不満だが、一年間リーグ戦を戦えなかったブランクを考えれば上出来ともいえる。

 

    石橋 伸洋 選手

 

石橋・佐藤は昨年秋の最高位決定戦・今年春の發王位戦決勝に続き、この一年決勝で激突すること三回目。
最高位は石橋が奪い、發王は佐藤がもぎ取った。
三度竜虎相搏つこの舞台、次世代のエースを名乗るのはどちらか。

石橋・佐藤がギャラリーと談笑する中近藤の姿を探すと、卓の脇で一人瞑想していた。
「触るな危険」と貼り紙したくなるような雰囲気である。
四人の勝負師、集中力の高め方はそれぞれ違うようだ。

牌のチェックを済まし、四名が卓に着く。
対局者の気合いを削がぬためだろうか。
定刻より5分ほど早く、立会人の合図のもと37期最高位決定戦第二節が開始された。

五回戦
起家から佐藤・近藤・張・石橋の順

東一局、佐藤に5800を放銃した張が一本場で強烈なアガりを見せる。
全体牌譜はこちら 


ドラ

 

親・佐藤の9巡目リーチを受け、西家・張は11巡目に以下のテンパイ。



が親リーチの現物で3枚切れということもありヤミテン。
無筋のと連打して攻撃態勢。
ところが14巡目、をツモると1を切りテンパイを外すのである。
確かにが先に切られていてドラ跨ぎとかなり危険。
第一感、最も切りたくない牌である。
だが通っていない筋もまだまだあり、自分は高目マンガンテンパイ。
を切ってもしまってもおかしくないところ。
ところがところが。
次巡、を引くと間髪入れずにドラのが張の河で曲がる!
追いかけ・フリテンリーチ!

 


17巡目、張の手にが躍る。
3000/6000となったそうな。

私には来世になってもできないアガりである。

後に張に聞いたところ、
にアガリ目が薄く、ソウズにアガリがありそうと感じての手順とのこと。
善悪はとにかく自分の感覚にここまで殉じることができる張はやはり強い。

手応えあるリーチで早々に大爆発モード突入を予感していた佐藤としては、狐につままれた気分だったことだろう。

開始早々、筆者の興奮度も高まってまいりました。

さて現最高位石橋だが、いまいちエンジンのかかりが悪いようだ。
やはり1年間のブランクは大きいのか。
石橋が最も嫌うであろう一人ノーテンを喰らい、僅差のラス目に落ちる。
迎えた東三局一本場。

 

竜虎相搏つの図・その1
全体牌譜はこちら 2

 

ドラ

南家・石橋テンパイは11巡目


 

をヤミテン。
石橋曰く
「親の張からリーチがかかると読んでいたので、親の現物待ちにつきヤミテンにした。
佐藤のリーチを受けて張が引き、待ちがそこそこよく見えたので追いかけリーチに踏み切った」
とのこと。
なるほど。
実際張には8巡目にテンパイが入っており、佐藤のリーチにを掴んで回っている。
石橋もまた自分の読みと心中したのだ。
だがご覧のとおり、その結果は極めて残酷なもの。
はほぼ残っておらず、石橋のもとに訪れたのは死神・鳳凰だった。
張とは対照的な、強者が故のハネマン放銃である。
そしてこのハネマンで石橋が失ったのは、点棒だけではなかったのかもしれない。

続く東四局 
全体牌譜はこちら 

ドラ

親の石橋4巡目


 


が三枚切れている状況。
ここからなんと石橋はを切ってしまう。
これはとても石橋とは思えぬボーンヘッド。
当然純チャンへの渡りを見て打の一手である。
しかしまだ4巡目。
こんなミスが失点に繋がることなど5回に1回もあるかというくらいだろう。
そこへ張から「リーチ」の声がかかる。
次巡を引いた石橋。
読む材料などなく、親でイーシャンテン・現物は一枚だけ。
ノータイムでを切ると…
張「ロン・8000」


 ロン(一発)


ああ無情。
一つの切り順ミスがかくも悲惨な結果を生むとは。
だが石橋の最終形を落ち着いて見ると、イーシャンテンとはいえドラなし・役なし・リャンメンなし。
いつもの冷静な石橋ならば歯を食いしばってを抜いていたかもしれない。

神童・石橋もやはり人間。
前局の悲惨な結果が石橋から一瞬、集中力を奪ったのか。
真実はわからないが、ここは勝手にそう思わせていただこう。

東場を終えて点棒は
佐藤 42700
近藤 26400
張  46200
石橋 4700

南一局、絶不調の石橋を横目に佐藤の技が決まる。
全体牌譜はこちら 

 

ドラ
親の佐藤、配牌



 

から打
悪配牌なら親であっても手牌をスマートにしておく、
いかにも佐藤らしい一打。
この後ツモが効き、8巡目には



 

でリーチ。
ご丁寧に4巡目にがツモ切ってある。
3巡後に近藤から追い掛けリーチが入るも、近藤がを掴んで7700。
佐藤快心のアガリとなった。
そしてさらに驚いたのが、終了後に佐藤にこの局について尋ねると
「あの(近藤)誠一さんのリーチってドラ単騎の七対子でしょ?」
が第一声だったこと。
リーチの後ですら他者の手を考察しているのである。
素晴らしい集中力に恐れ入るばかり。
ちなみに第二声は
「脇から出ればもっと気持ちよかったんだけどね!」
はいはい。

南二局、石橋がようやく片目を開ける。



と苦しい配牌を丁寧に仕上げ、2000/4000


      ツモ

 

南3局には近藤とのリーチ合戦に勝ち、ラス抜けを果たす。

そして迎えたオーラス・点棒は
東家 石橋 16300
南家 佐藤 47800
西家 近藤 11700
北家 張  44200

全体牌譜はこちら


ドラ

上も下も接戦。
石橋としては張か佐藤に差してでも3着を死守したいところだろう。
佐藤はなんとしても待望の決定戦初トップを取りたい。
石橋からのアシストも期待でき、また近藤にもお手伝いできる有利な状況である。
そんな中近藤の手がとんでもない伸びを見せる。
5巡目には



と大三元イーシャンテン!
すぐにをポンしてドラを切りテンパイ。
白をツモれば大逆転トップである。次巡引いたはサラリとツモ切り、を待つ。
ところが張から出たのは
なんと近藤、これをあっさりとアガるのである。
さすが49歳、どこまでも冷静。
普通は見逃す形だが、このケースではアガるメリットが多い。
・ツモらなければトップにはならず、最悪石橋からロンなら3着まで。
・アガれば確実に3着。
・他家から見て、点棒状況・ドラの出方・近藤の捨て牌から、トイトイ絡みと読める。よっては出づらい。

なるほどなるほど、オカがなく順位点の大きい最高位戦ルールではアガっておく利は大きいようだ。
それでも私にはアガれないが…

嶺上牌を覗いてみたいという下衆な興味を抑え、卓を離れた。

五回戦
佐藤 +47.8
張  +16.2
近藤 ▲20.3
石橋 ▲43.7

トータル
張  +45.7
近藤 +19.7
佐藤 ▲18.6
石橋 ▲47.8

佐藤は今期決定戦初トップ。
このまま浮上できるのか。
対照的に南場持ち直したものの、結果ラスを押し付けられた石橋。
持ち前の引き出しの多さを駆使して立て直せるか。

六回戦
起家から張・近藤・石橋・佐藤の順

東一局は張が自然な手順で一発ツモ、4000オール。


  一発ツモ   ドラ

 

流局・流局・石橋の700/1300と細かい動きを経て迎えた東三局


全体牌譜はこちら

 

ドラ

配牌でダブが対子の親・石橋が南家・佐藤の第一打をポン。

 

   

 

形は苦しいが何とかアガり切りたいところ。
これにより字牌が打ち出しづらくなり、子方3人は窮屈な手組を強いられることになる。
ここで丁寧かつ大胆な対応を見せたのが佐藤。
石橋の仕掛け、捨て牌からピンズまたはマンズへの寄せを警戒、
字牌を絞り早々にピンズのカンチャンを払っていく。
9巡目には生牌のを切ってテンパイ。

 


 

ダマテンに構える。
しかし次巡、石橋が3枚切れのカンを嫌ってきたのを見るや、一転してツモ切りリーチ!
おそらく
「こんな苦しいカンチャンが残っていたくらいなら、手の内は大したことがなさそう。
も喰われなかったしここは被せる!」
といったところではないだろうか。(筆者の推測です。念のため)
目論見通りツモ!
…とまではいかなかったが、他家が止まり一人テンパイ。
こういった局で攻めるべき子方が攻めきらないと、
親の遠い仕掛けが成就したり連荘を許すことになる。
そうした緩みがもたらす親の大爆発を佐藤は許さない。
厄介な打ち手である。

続く東四局は張から佐藤へ4800。
流局を挟み迎えた東四局三本場


全体牌譜はこちら

 

ドラ

8巡目の北家・石橋
絶好のを引き入れ、



 

となって少考。
この時筆者は後ろで見ていたのだが、
「宣言牌をどちらにするか考えているのか?」
としか思えなかった。
しかしこれは最高位の思考を1ミリも捉えてはいなかったのだ。
石橋は無言のまま、河にを縦向きに置いたのである!
後で聞いたところ、
「南家・張の手が悪そう。
直前にを切っており、ダマなら掴めば出る。
を切ったのは後の受けやすさを考えて。」
とのこと。
「これなら!」
と形でリーチしてしまう筆者と一緒にしてはいけないのである。
本譜はすぐさま張からが出て8000となった。
最高位石橋、流石のアガリである。

東場を終えて点棒は
張  24000
近藤 21400
石橋 39500
佐藤 34100
南一局は石橋の形テンによるおいしい一人テンパイで、石橋の点棒は40000点を超える。
いつの間にか石橋が細かい得を丁寧に重ねる本来の姿を取り戻している。
このあたりの立て直しはやはり一流プロと言わざるを得ない。

そんな石橋に肉薄するのは本日絶好調、佐藤。
南二局一本場
全体牌譜はこちら 

ドラ

 

 リーチ・ツモ

 

なんの変哲もないアガリに見えるが、入り目に注目していただきたい。
親の3副露に危険なをぎりぎりまで絞り、重ねてのリーチ・ツモアガリ。
非常に感触の良いアガリで石橋まで1500点差に肉薄する。
ところでこの局、筆者が疑問なのが親・近藤の手順。
この配牌ならピンズのホンイツを念頭に進めるべき手であろう。
仕掛けも実に危うく、焦りを垣間見てしまうのは筆者だけだろうか。
五回戦オーラス、冷静なアガリをみせた近藤とは別人のようだ。

この半荘近藤は苦しいだろうな、などと思っていたがやはり決定戦メンバー。
私のような凡人の物差しでは測れなかった。

オーラスを迎えて点棒状況は
東家 佐藤 39600
南家 張  22900
西家 近藤 17700
北家 石橋 39800

全体牌譜はこちら 

ドラ


近藤のみアガリ点に条件が付いている状況。
(1300/2600、5200以上で3着)
しかし最初にテンパイにこぎ着けたのは近藤だった。
3巡目の選択



 

からメンツ手・七対子を天秤にかけるなら切りだが、
南家・北家の第一打が
ここで近藤は決断の打とする。
次巡単騎のリーチが打てるよう、七対子の最速を目指した一打である。
七対子の最速はメンツ手の天秤とは両立できない。
それを知っている近藤の決断。
これが実り、11巡目に


 

 

のテンパイを果たす。
ツモ裏で二着とはいえリーチの声にはやや驚いたが、これをツモり、大きなハネマン。
ラス抜けを果たした。

六回戦
石橋 +36.8
佐藤 +13.6
近藤 ▲10.3
張  ▲40.1

トータル
近藤 +9.4
張  +5.6
佐藤 ▲5.0
石橋 ▲11.0

六回戦を終わって上から下まで約20Pと横一線、「やり直し」の様相。
打ち手としては胃が痛いが、
観戦者としては面白い展開になってきた。

七回戦
起家から張・近藤・石橋・佐藤の順

東一局は張が仮テンのタンヤオをツモり500/1000
東二局は近藤が張から1300と、これまでとは打って変わって静かな展開。
迎えた東三局


全体牌譜はこちら 

ドラ


近藤が張からピンフドラ2・ヤミテン3900をアガった譜。


   ロン   ドラ

 

何気ない譜である。
が、残りツモ3回とはいえ近藤の手はリーチでもよさそうなもの。
ここで3900をアガっても大勢に影響はないと思えるからだ。
では近藤にリーチを打たせなかったのはのは誰か。
これは落ち着きを取り戻した最高位・石橋に他ならないと筆者は見る。
石橋の捨牌、ピンズのホンイツ模様からドラ表とはいえと切り、しっかりとを余らせている。
おおこわい。
はダマっていれば拾えそう、とあればダマテンにするのも妥当か。

しかしこの、この時点で何と山に5枚残り!
もし近藤がリーチといけば張は降り、石橋が親被りをしていた可能性がかなり高い。

親で強くプレッシャーを与える捨て牌を作ると、こんな恩恵もあるのである。
近藤のアガリを見た石橋は心でほくそ笑んだのではないだろうか。

続く東四局は親・佐藤の手順をご覧いただこう。
ドラ

配牌



ツモ     ↓  ↓  ↓ 
捨牌 
                  リーチ      ツモ


   ツモ  2600オール

悪形を払っていき厚いツモアガリが見込めるテンパイを目指す、いかにも佐藤らしい手順である。
ペンやカン残りのリーチのみテンパイなど受け付けない。
よしんば先に埋まってもタンヤオ消滅が確定し、打点低下するなら裏目を引いても後悔しない。
そんな信念を感じるのである。

ちなみに今節、四人合わせて四半荘で親の2000点以下のアガリは一回のみ。
偶然かもしれないが、
「親でこそ高打点でガンガン叩け!」
という意識が皆強いのだろう。

同一本場は石橋が張からタンピン三色の8000。

東場を終えて点棒は
近藤 31600
張  14900
石橋 36200
佐藤 33300

そして南一局、この日筆者が最もしびれた局が…これだっ!


全体牌譜はこちら
 

ドラ


南家・張4巡目



 

から三枚目のをチー。
すると次巡、石橋がいかにも「張さん、どうぞ」と打
張が喰えば上家の親・近藤の打牌が制限される。
また張がアガって近藤の親被りで局が進むのも石橋にとって悪くない。
昨年の観戦記にもあったが、石橋はつくづくいやらしく喰えない男である。
これを張がポン、テンパイ。


      

 

9巡目にをツモり、とのシャンポンに待ちかえ。
そこに親からリーチが掛かる。
一発目、張のツモは

 

         ツモ  

 

ここから張は、ごくごく自然なリズムでを抜いたのである。
まるで親リーチなど掛かっていないかのように。

これは並大抵のことではない。
確かに近藤がリーチとくる以上、勝算のあるリーチであろう。
だが有力な待ちはピンズの下、マンズの下と残っており、全く絞りきれない。
そして何より自分は14900のラス目である。
形は分が悪いとはいえ挽回のチャンス、一つくらい押しても悪くない。

それでも張は、ごくごく自然なリズムでを抜いたのである。
本当に鳥肌が立った。
観戦時のメモにも「マジすか?」と書いてある。

こうした局面でオリて字牌の対子を落とすとき、ノータイムかどうかで他家が読み取る情報は全く異なってくる。
決して安全ではないをノータイムで切られた以上、他家は張も警戒せざるを得ない。
そしてオリを悟らせないことは時として他家を苦しめることになるのだ。

数巡後、
近藤「ツモ」


  リーチ・ツモ 4000オール

 

なんとは一発で12000のロン牌!
この局についてはさすがに張に尋ねざるを得ない。
すると
「まだ親が残ってるし、これ以上失点をしないようにする事
は最初から決めていたので。確かにマンガンは上がりたい所だけど、上がれる気は全く無かったし。

となんとも抽象的な答えが返ってきた。
私の勝手な偏見で恐縮だが、張は自分の麻雀について理論的に説明するのをあまり好まないのだろうと思う。
経験・感覚重視なのだ。
そう、故飯田正人永世最高位がそうであったように。
もし張が勝てば通算三期目。
故飯田正人永世最高位を継ぐのはこの男なのか。

衝撃の一局が過ぎ、迎えた南二局
全体牌譜はこちら 

竜虎相搏つの図・その2


ドラ

先行リーチは南家・最高位石橋。

 

   ツモ   打

 

で「いただきました」リーチ

ちなみに2巡目にを切っていないのは次巡すぐにリーチとなったとき、少しでもが出やすくするためで、意図したものだそうだ。
はこの時点で山に4枚。
一人旅かと思われたがここに切り込んだのが西家・發王位佐藤。
12巡目に一盃口テンパイ、次巡リャンメンに変化するとリーチ!

 


 

この時点で山には1枚しかおらず、は3枚残り。
佐藤が圧倒的有利であるが、打点は低い。
そしてこの勝負は、またしても石橋に残酷過ぎる形で決着した。
石橋がハイテイで掴んで裏が乗り、あの勝利宣言リーチからまさかまさかの8000放銃。
一気にラス目、張の足音が聞こえるところまで落ちてしまう。
卓上の不幸を一手に引き受けた感のある石橋、踏みとどまれるか。

しかし次局、牙をむいたのはラス目・張。
佐藤のリーチの同巡、七対子ドラ2をツモアガり、ついに石橋はラス目へ。


   ツモ   ドラ

それでもオーラス、点棒状況は
東家 佐藤 38700
南家 近藤 40500
西家 張  22200
北家 石橋 18600
とかなりの僅差。
ラスを抜けるべく石橋、


   ドラ


のリーチをかけるものの、近藤の300/500で決着。
東場を終えて36200持ちだった石橋がなんとラスを引く結果となった。

七回戦
近藤 +42.6
佐藤 +18.2
張  ▲18.1
石橋 ▲42.7

トータル
近藤 +52.0
佐藤 +13.2
張  ▲12.5
石橋 ▲53.7

七回戦が終わると張は上機嫌に
「危ねー、12000だったよー!」と言って休憩所へ。
もちろん南一局のことだ。
対して石橋は筆者が近づくと
「あそこからラス引くかねー」
と浮かない表情。
佐藤はといえばいつも通りのリラックスムードである。
対照的なのはやはり近藤。
早くに卓へ着き、瞑想している。
近藤は一貫して、対局中は他者との会話は控えているようだ。
それぞれの思惑を胸に、本日最終となる八回戦が始まった。

八回戦
起家から石橋・近藤・佐藤・張の順

東一局、石橋の一人テンパイで迎えた同一本場。
石橋と佐藤がぶつかる。
全体牌譜はこちら 

ドラ

 

まずは西家・佐藤、7巡目に



からをポン。
いわゆる「遠くて高い、安全な仕掛け」である。
受けて親・石橋、10巡目


 
を引いて三色確定リーチを掛ける。
二枚切れはやや待ちに不満も打点は十分。
佐藤を止める意味合いも強そうだ。
そして注目していただきたいのは佐藤14巡目。


         ツモ

 

なんとツモ切り!?
正直わけがわからない。(失礼)
佐藤曰く、
が早く、宣言牌がだから待ちの可能性は低い。
宣言牌ならよりのほうが危険。
また、石橋のリーチは悪形だと思った。」
とのこと。
筆者にはこの親の捨て牌が悪形リーチだとは思えないのだが、
譜には表れない、対局者にしかわからない何かがあったのだろう。
それにしてもはまだ3枚見えていないのである。
アガリ損ねるのは怖くないのだろうか…
結果は流局。
善悪はとにかく、佐藤がブレない芯の強さを見せた局であった。
同二本場は石橋が得意の仕掛けで500オール。
リーチ棒の回収に成功する。


同三本場
全体牌譜はこちら 

竜虎相搏つの図・その3
ドラ

 

先行は親・石橋。
10巡目に



でリーチ。
この時点ではなんと山に6枚!
ついに、ついにBBT(バシバシタイム)発動か?
ところがそこに切り込んだのはまたしても佐藤。
リーチ一発目、



を引くと、あまり当たらなそうなをプッシュ。
そしてを引きリャンメンに変わると、は現物だが躊躇なくリーチ!



この時点で山には
が4枚、が3枚残り。
白熱の捲りあいはあっけなく決着。
石橋が一発でを掴み、5200の放銃となってしまう。

三度佐藤との捲りあいに敗れた石橋。
その内二回がハイテイ、一発のおマケ付きである。
悪い物でも食べてきたと思うしかないのか。

東二局はトップ目佐藤が



 

のリーチを掛け、ダントツを目指すものの他家三人が丁寧に対応し流局。
東三局一本場は佐藤の親リーチを張が400/700でかわす。


東四局、張が2000オールをアガって迎えた同一本場。
全体牌譜はこちら 

 

ドラ

16巡目、南家・石橋がリーチ。



はドラ表示牌で一枚切れとやや苦しい待ちである。
同巡西家・近藤が長考に沈む。



切るのはだが、リーチするか実に悩ましい。
は張がポンしており、期待が持てるのはのみ。
ツモはあと二回、喰いがなければ一発とハイテイ。
逆を言えばホウテイで振り込むリスクを負うことになる。
迷いに迷った近藤、ここは勝負とリーチに踏み切った。
すると一発目、力なくをツモ切る石橋
そこに被さる二つの「ロン」。
なんと北家・佐藤も



 

大物手のテンパイだったのだ。
近藤、ギリギリの踏み込みで佐藤のアガリを食い止める5200。
佐藤は悔しそうな表情。
それにしても石橋、まさにサンドバッグ状態である。
残すは南場のみ、勝機を捕えることができるか。

東場を終えて点棒は
石橋 19500
近藤 29800
佐藤 29900
張  35600

南一局は近藤が佐藤から5200。
続く南二局、石橋に配牌ドラ暗刻のチャンス手が入る。
全体牌譜はこちら 

ドラ

 

何が何でもものにしたい石橋、7巡目にカンをチーしてイーシャンテン。



 

他家から見ると親のないラス目の仕掛け。
ドラ二枚以上を警戒せざるを得ない。
そこに立ち向かったのが微差ながらトップ目に立つ張。
9巡目



 

のテンパイ。
は薄いものの仕掛けの現物。
ここに待ちを合わせる手もあるが張は切りのリーチ!
最強の対応である。
2巡後石橋がを掴み、止める術もなく5200。
本当にこの人は踏み込みどころと引き際を間違えない。
掴みどころのない強さとは張のような者のことを言うのだろう。

この後は張が難なく逃げ切り、トップ。石橋は痛恨の2連続ラスとなり、負債は三桁へ。

八回戦
張  +46.8
近藤 +13.0
佐藤 ▲11.1
石橋 ▲48.7

第二節(五回戦~八回戦)トータル

佐藤 +68.5
近藤 +25.0
張  +4.8
石橋 ▲98.3

トータル(八回戦まで)
近藤 +65.0
張  +34.3
佐藤 +2.1
石橋 ▲102.4

終わってみれば第二節は石橋最高位の一人沈みとなってしまった。
リーチ後に一発で二回、ホウテイで一回放銃とやや牌の並びに恵まれず、時折バランスを崩していた感は否めないが最高位のこと、実戦の中で修正してくるだろう。

逆に絶好調だったのは佐藤。
持ち前の押し返しの強さがが随所に見られ、快勝。借金完済に成功した。
次節以降も強気に攻め抜く麻雀をみせてくれるはず。

近藤はポイントこそ着実だが肝心な局面で腹を括っている印象が強い。
実は筆者は3年前、近藤とリーグ戦で対戦している。

そのときは安全確実な選択を繰り返している、いわゆる「堅い」イメージだったが、
本決定戦は遠い牽制気味の仕掛けを多用したり博打気味の勝負に踏み込んだりと、優勝するために様々な戦略を取り入れているように感じた。
進化する49歳に要注目。

そして張。
今節ではポイントこそトントンに近いが、
五回戦東一局でのハネマンと七回戦南一局のノータイム降り、
凄まじいインパクトを残す闘牌を二つ見せていただいた。
この四人の中で最も真似できないな、と思わせる麻雀だったと思う。
またオリジナルな麻雀を見せてもらえる期待大。

首位から四位まで170P差とやや縦長となったがまだ二節を終えたばかり。
残り12半荘、どんなドラマが生まれるのか。
私もこの時ばかりは一ファンとして名勝負を期待せずにはいられない。

拙文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

《文章中・敬称略》
文責・新井啓文

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