コラム・観戦記

【第7期最高位戦Classic決勝二日目観戦記その1】村上淳

■6回戦

開局早々、南家須藤6巡目。

筆者にいきなりこんな手が入ったら鼻息が通常時の二倍は出てしまう。そしてバリバリデジタル派であるにもかかわらず毎巡ツモるたびに「になれ!」と念じるだろう。なんなら声が出てしまうまである。現状は出アガり3200であるが、さえ引き込めば10倍の32000点だ。実際は東家松ケ瀬、西家佐藤崇が1枚ずつ使っていて四暗刻タンキになることはないのだが、須藤もこの後毎巡を念じながらツモっていたに違いない。当然ツモからのツモり四暗刻への変化もある。むしろ「まだは出るな、ツモるな!」とさえ思っていたのでは?すぐにが出ても見逃すかもしれない。私が知っている須藤はそんな打ち手だ。

須藤泰久、1963年6月30日生まれ49歳、A型。最高位戦入会は第20期、数少ないリーグ戦ルール変更前(22期より1発裏ドラ、ノーテンバップあり)から在籍の選手である。
ここ数年最高位戦リーグ戦での成績は芳しくないが、ビックタイトルの決勝戦へはコンスタントに進んでいる。かつて王座戦では飯田、金子、浦田というビックネーム3人と決勝を戦っているし、麻将連合主催のビッグタイトル「M1カップ」では4回も決勝へ進出、そのうち2回(第7回、第8回)優勝している。昨年の最高位戦クラシックでも決勝へ進出しており…なんと決勝進出は全て「1発裏なし」ルールなのである。
そんな須藤はとにかくスピードよりも高打点の打ち手。後に出て来るのだが

     ドラ

親でこんな手からノータイム切り。

     ドラ

 

親でここから打
2600オールや4000オールを逃すことはあっても6000オールを逃すことは決してないのだ。

さてこの6巡目以降、気合いを入れてグリグリと盲牌しながらツモ切りを続ける南家須藤を横目に、東家の松ヶ瀬がよどみない手順で12巡目に追い付いた。

     ドラ

 

7700、ツモって3900オール。宇野第1打、佐藤3巡目。ペンとはいえ、景色は決して悪くない。

15巡目、松ヶ瀬がを掴む。須藤か宇野にロンと言われれば手役絡みの牌だが、まだ3回もツモがあってオリる手牌ではない。本人も納得の3200放銃スタートとなった。

一方アガった須藤、こちらも6巡目には32000や800016000を夢見ていただろうが、その後8巡手変わらずすでに15巡目。そろそろオリも考える巡目なだけにが出てホッとしたことだろう。

かつて土田先生がおっしゃっていた「タイトル戦最終日は初戦1局目の入り方が大事」というコトバを思い出す。この局、5巡目にイーシャンテンを迎えていた北家宇野も最後までオリずに戦っていた。テンパイを入れた南家須藤、東家松ヶ瀬も当然戦う。

そして西家、佐藤崇。6巡目以降ツモ切りを続ける南家須藤をしっかりとマーク。須藤の風の南をしぼったまま、中盤以降オリに回る。クラシックルールのお手本のような打ち回し。

この局はアガりを逃したわけでもなく、自身の失点はゼロ。トータルトップ目、最終日の立ち上がりとしては完璧なはず。

土田先生が言っていたのはきっと打ち方の話ではないのだ。「気持ち」の問題。開局でベタオリしたからと言ってその後手が悪くなるわけではない。開局の入り方で、その後の戦う姿勢に影響が出てはならない、そういうことだと思う。

「崇よ、ハートだけは強く保てよ…!」雀力はともかく、ハートの強さには自信がある筆者は、佐藤崇の立ち上がりを見てそう思ったのであった。

東2局。6巡目に南家佐藤崇が切った生牌の白を北家松ヶ瀬がポン。

          ドラ

 

ドラドラのイーシャンテン。河を見るとマンズのホンイツか、ホンイツでないなら早いかである。

ここに親の須藤が生牌の!これを見た佐藤、宇野は即撤退。当然の着手だと思われる。

須藤は

    ドラ

こんなリャンシャンテンであったが、7巡目にしてこの局はもう終盤に突入しているのである。

10巡目須藤がを引き入れて234のイーシャンテンとなったが、先にテンパイしたのは松ヶ瀬。

 

11巡目。もう少し早くテンパイしたならマンガン、ハネマンを目指してピンズのペンターを払う手もあるが、親の須藤が明らかに押していてピンズは危険牌。ペンがそんなに悪い待ちでもないので、素直に3900のテンパイをとった。実際にはこの巡目にして山に3枚、かなりアガれそうだったが…

この後の松ヶ瀬のツモははなんと王牌に3枚、流局となった。

松ヶ瀬隆弥、1980年4月11日生まれ32歳B型。RMUR1リーグ所属、今年でプロ3年目。

本人いわく「1年前くらいから本格的に麻雀の勉強を始めた」そうだ。

筆者が心から強いと思うプロの一人、RMU代表多井さんも戦前に「松ヶ瀬はかなり強いよ」と言っていた。多井さんは本人がいない所では本当のことしか言わないので、間違いなく強いのだろう。実は筆者は本戦で松ヶ瀬と対戦してやられているのだが、その時はまさかそんなに年下だとは思わなかった。顔だけではなく、麻雀に円熟味を感じたからだ。決勝でも開局の2局を見ただけで、前評判通りの強さを感じた。とにかく、落ち着いている印象である。

■7回戦(残り4回)

松ヶ瀬 +28.1
佐藤崇 +20.0
宇野  -16.4
須藤  -31.7

東1局、この日初めてマンガン以上の大物手が炸裂。
北家松ヶ瀬9巡目

     ドラ

放銃は東家須藤。11巡目


トータル最下位で親番、2手で6000オールの可能性があるこの手牌ではいた仕方なしか。松ヶ瀬はトータルトップ目からの大きな先制点。この半荘トップで終わることができれば、残り3戦かなり有利に戦える。

須藤が1000/2000、松ヶ瀬が400/700と進んだ東4局、ようやく佐藤崇が来た。

 

 

この局、先制リーチは西家宇野。9巡目

     ドラ

南家須藤の河、7巡目にがあるだけにヤミテンの選択もあるが、ツモ5001000を良しとしないのであろう。ノータイムでリーチ宣言。

同巡、北家佐藤崇。

 

現物の五を切ると、2巡後のツモがドラの。危険牌のをサラっと河に置く。

宇野はリーチの瞬間二枚、三枚山に生きていたにもかかわらず、佐藤のテンパイと同時に山に二枚のを掴んでしまい、8000放銃。麻雀の残酷さを感じさせる一局である。

とはいえ佐藤からしてみれば会心の一局。配牌から孤立していたドラを重ねた瞬間に8000のアガり。ここまでチャンスらしいチャンスがなかった佐藤、ホッと一息といったところか。


佐藤崇、1978年8月6日生まれ34歳、AB型。最高位決定戦2回、發王戦決勝2回、そして最高位戦クラシック2度目の決勝戦。タイトルは優駿位の1回。
最高位戦への入会は24期、筆者より2年後輩だ。歳は3つ下、しかし態度は完全に筆者よりでかい。
筆者は今回の4人の中で、間違いなく佐藤崇と一番麻雀論議をしている。そして筆者と佐藤崇はとにかく話が合わないのだ。まさに水と油。

かつてはリャンシャンテンからの何切るで、居酒屋で3時間も4時間も話し合った仲である。周りから見たらかなりのマジ喧嘩に見えたことだろう。話の内容はともかく、それだけ麻雀に対して熱いことは間違いない。筆者は「後輩で年下のくせに、なんて生意気なやつだ!!」としょっちゅう思っていたのだが、なんせ麻雀が強いのだから仕方がない。そして性格も良いので憎めない。「そんなウンコリーチすんなや、ボケがー」と言われても納得してしまう仲なのだ。

それだけ麻雀に対して真剣に取り組んで来て、間違いなく雀力はある(本人は筆者より強いと思っているに違いない)佐藤崇。今回久々のビッグタイトルチャンス、気合いはじゅうぶんに伝わって来た。

このアガりで「やはり佐藤崇と松ヶ瀬の一騎打ちか…」と思った筆者の心を読んでムッとしたのか、現クラシックがこの日一番の咆哮をあげる。

流局を挟んだ南1局1本場、親番の現クラシック宇野12巡目、ツモって来たを静かに、本当に静かに手元にそっと置き、普段より少し小さい声で「ツモ」の発声。

   ツモ    ドラ

 

心の中では「やったー!!決勝戦のこのラス目の大事な親番でメンチンサンアンコーとか俺すげー!!やっぱ持ってるなー俺!!これでまた優勝争いに加わってやったぜ。さっき崇にマンガン打った時宇野は終わったなとか思った奴いますぐ土下座しろ!!!」くらいのお祭り騒ぎだったはず。(実際には宇野さんはこんなお下品な喋り方はしません、念のため)

「8000は8100オール」現王者の凛とした点数申告を聞きながら、筆者は心の中で床に頭をこすりつけるほど土下座していたのであった。

それにしても他家3人、突然開かれたラス目の8000オールを見ても、顔色一つ変えずに「ハイ」と返事をして点棒を払っていた。その光景は実に清々しく、大袈裟に言うと神々しくもあった。今回の決勝戦、4人とも競技者として素晴らしい資質を持っていることを改めて感じた。そして誰が優勝しても第7期クラシックにふさわしい人間であると。

これでこの半荘も宇野が制し、松ヶ瀬、佐藤崇と三つ巴の大混戦へ…となりそうなもんなのだが、この半荘にはもう一波乱待っていた。

流局を挟んで南3局3本場、17500持ちラス目の西家須藤、3巡目リーチ。

    ドラ

この時東家佐藤崇29200、南家松ヶ瀬30400。ツモれば3着に浮上する上に、松ヶ瀬まで2000点差でオーラスとなる。

この時筆者は須藤と宇野の間で観戦していたのだが、待ちに不満のないこの3巡目ドラドラリャンメンリーチを見て、「この大事な親番でこれか…崇はとことんツイてないな」と思った。ところが次巡、東家佐藤崇が先ほどの宇野とは違って少し興奮気味に「ツモ!」を手元へ。

河にはと三枚並んでいるだけ。「崇もテンパイか!この大事な3着目で追いかけないとなると、愚形のツモのみくらいか。2着になるし、このアガりはでかいな」

だが佐藤崇の申告は、4000は4300オール。

    ツモ

ドラなしだが綺麗なタンピン三色!まだ4巡目の出来事である。

須藤、松ヶ瀬もショックだったと思うが、一番ショックだったのは宇野だろう。トップがとれそうだと思って迎えたラス前、須藤からリーチが来た瞬間は「須藤がアガればさらにいい並びになるかも」と思ったはずだ。それがその1巡後にはトップの座まで奪われてしまったのだ。またまた麻雀は残酷なゲームだと感じさせられた。

この半荘さすがにこれ以上の波乱はなく、佐藤崇、宇野、松が瀬、須藤の並びで終了した。トータルポイントは

佐藤崇 +45.1

松ヶ瀬 +20.2

宇野   -3.8

須藤  -61.5
残り半荘3回、佐藤崇がかなり有利であるが松ヶ瀬、宇野にはまだチャンスがある。「須藤はさすがに終わったかな…」先ほどからこの筆者の声は必ずハズレているのだが、果たして…

 

 

(文中敬称略)

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