コラム・観戦記

【第7期最高位戦Classic決勝二日目観戦記その2】村上淳

■8回戦(残り半荘3回)

佐藤  45.1

松ヶ瀬 20.2

宇野 ―3.8

須藤 ―61.5


東1局親須藤。

須藤はトータルトップの佐藤と100以上離れてしまった。トップラスで24ポイント差しか縮まらないこのルールでは相当な差である。トップを目指すだけではなく、素点もかなり稼ぐ必要がある。必然的に安い手を目指さず、最低でも2000/3900くらいの手作りを目指すこととなる。

自分も16年競技麻雀をやっていてこんなシチュエーションになったことは何度もあるが、ほとんどの場合トップも難しい。なぜなら本来ヤミテンの手をリーチしたり、ポンテン2000点でアガるべき手をメンゼンにしたりして他家のアガりを許すことになりがちで、ますます傷口が広がることが多いからである。

東1局11巡目、須藤先制リーチ。

    ドラ

 

ツモれば6000オールの手であるが、本人もあまりツモれるとは思っていなかったのではないか。ツモる指にいつもの気合いが感じられない。いわゆる「形づくり」をしただけのように見えた。流局。

東2局1本場、トータルトップの佐藤がピンフのみで須藤のリーチ棒をさらって行く。打ったのは須藤。鳴いて1000点のイーシャンテンからだ。ますます須藤は終わったと思った。ギャラリーも同卓者3人もそう思ったのではないだろうか。これから須藤の放銃が増え、リーチは空振り。ダンラス者のそんな姿は腐るほど見て来た。

しかし、須藤泰久というプロ雀士は我々の想像を超える。次局、今度はドラのを重ねてチートイツをテンパイ、生牌の待ちで13巡目リーチ!今回も流局かと思ったが、15巡目にラス牌のをツモ。3000/6000。

クラシックルールで高い手を狙う場合、ドラが二枚以上ないと苦しい。ない場合はサンショクやイッツーなどのリャンハン役を目指すか、このチートイツを目指すことになる。

チートイツならば途中でドラを持って来ても必ず使えるし、リーチツモで最低1600/3200、ドラがあれば3000/6000になるからだ。打点では他の手役よりも優遇されている。

そのぶん当然ツモアガりが困難なわけだ。待ちの自由度は高いが、最大で3枚。リーチツモでと簡単に言うが、どんなにいい待ちでもそこまでツモ率は高くならない。

ノーミスでテンパイにこぎつけ、しっかりリーチしてしっかりツモ。ここまでトータル最下位に甘んじてはいるが、須藤の雀力の高さはしっかりと見せてもらった。

東4局佐藤から宇野に2600、南1局須藤から佐藤に2000。このルールだともう少し流局が多くなりそうなものだが、後がない須藤とトータル3番手の宇野がかなり無理して前に出るのでこのような展開になるのだろう。

そんな中、東1局からほぼオリ続けている松ヶ瀬。ハネマンを引かれて3着目だが、慌てる様子は微塵もない。競技歴3年…相当な器である。

南2局、その松ヶ瀬が親番でこの半荘初めてテンパイを入れ、10巡目に南家宇野からロン。ピンフのみの1500ではあるが、佐藤まで200差に迫るアガり。

そんな松ヶ瀬を嘲笑うかのように、次局須藤が11巡目リーチ、またも15巡目ツモ。須藤のリーチ、全体を通して成功率はかなり高い。松ヶ瀬は2000/4000の親っかぶり。キツいがいた仕方なし。

そして次局南3局。この局は全体牌譜を見ていただきたい。もちろん牌譜を見てもよくわからないという方は、本文を読むだけでもじゅうぶんだ。

松ヶ瀬にとってはいわゆる「超デバサイ」の3900を佐藤崇からアガったわけだが、この局の牌譜がすごい。


 

北家の松ヶ瀬、1巡目から14巡目まで全て手出し。しかも7巡目には親の宇野からリーチがかかっていて、自由な選択ができなくなっているにもかかわらず、である。

松ヶ瀬は親リーチが入った時点で

    ドラ

形の上ではイーシャンテンであるが、が3枚見えなので実質リャンシャンテン。を引けば一気にチャンス手になるだけに、少し粘ってみたい牌姿だ。

しかし松ヶ瀬の一発目のツモは、モロ裏筋の。二枚目のが手出しでチートイツが否定されている=メンツ手だけに、押す価値はない。あっさり現物のを抜く。そして次巡二枚切れのを持って来ると、須藤が押し返して来る可能性も考慮して、を中抜き。

この瞬間松ヶ瀬にアガる気は全く見られない。一方宇野の親リーチは

    ドラ

苦しいドラ表示牌待ちとはいえ、この時点でなんと山に三枚。南家佐藤、西家須藤ともにアガれそうもないので、あとは宇野がツモるかどうか見守るだけ…のはずだったのだが。

松ヶ瀬、ツモでノーチャンスの打。次巡宇野のアガり牌であるをツモり、いま通ったを見て打。次巡ツモ、同じく

佐藤、須藤から見ても、松ヶ瀬はベタオリにしか見えない。というか事実この時はまだ松ヶ瀬もベタオリだったのだ。ところが、次巡ツモ

 

 

。周りから見ても「現物がなくなったから中筋か」くらいに見える。からのほうが良かったと思うが、二枚目のをツモ切りだと思っていたのかもしれない。次巡ツモで打。そしてツモで、無筋の

このように7巡目から13巡目まで、現物かほぼ通りそうな牌しか切っていない。14巡目のは強いが、手の内が危険牌だらけで仕方なくソーズに活路を求めたようにも見える。実際に南家の佐藤崇も安全牌に困っていて、次に安全牌に窮したらあたりに手をかけそうな牌姿となっているのだ。

松ヶ瀬のを見つつも、佐藤崇はツモってきたをノータイムでツモ切った。他に親の現物はなし。親リーチにカンやペンも否定できないとあっては仕方のない放銃にも見えるが、できれば松ヶ瀬のを見て少し時間を使って欲しかった。いま4枚目のを持って来たということは松ヶ瀬は前巡でロンと言われる覚悟でを押しているのだ。そして佐藤崇は現在トータルトップ、松ヶ瀬はトータル二番手。対局会場ではあまりのノータイムさに「他に打つ牌あったんじゃないのか!?」と疑ってしまったほどだ。

ところが筆者が牌譜を見る限り、考えた末にやはりを切ると思う。そう考えると「雀力が高いゆえに一瞬で正しい結論を出していた」とも考えられる。だとしたら崇は本当に凄いやつだ。こうして、トータルトップ目からトータル2番手へのデバサイという崇にとっては悪夢のような譜が出来上がってしまった。検証してみても必然の放銃であるし、アガった松ヶ瀬を讃えるしかないのだろう。

オーラス、親の崇に6巡目ピンフイーペーコー待ちのテンパイ、7巡目にトップ目須藤にピンフのみ待ちのテンパイ。ともに山に二枚だが、須藤はなんとしても崇をラスにしたい。他の2人からのは見逃す可能性もあり、崇のほうが有利に見えた。しかしラス目の宇野が8巡目に追いついた。
    ツモ

できればをくっつけて2着狙いのリーチを打ちたいところだったが、まずはトータルトップの崇をラスにすることが優先だ。静かにを河に置いた。

この時点でが松ヶ瀬に吸収されており、崇の待ちはあと1枚。一方は残り3枚。崇は6巡目から表情を変えずに淡々とツモ切りを続けている。しかし筆者はずっとドキドキしっぱなしだ。実際に戦っている4人より、筆者の方が緊張しているように思えた。

10巡目、11巡目…松ヶ瀬以外の3人がツモ山に手を伸ばす度、目を反らしたくなる。別に優勝が決まるわけでもないのに。こんなメンタルで、筆者はよくタイトルホルダーになれたもんだと思う。

13巡目、またも静かにが宇野の手元に置かれた。最後の2局は、まるで神様が崇に試練を与えているように見えた…この半荘は須藤、松ヶ瀬、宇野、佐藤崇の並びで終了。次の半荘次第では、まだ全員に優勝のチャンスはある。さて、どうなることやら…

■9回戦(残り2回)


佐藤崇  24.5

松ヶ瀬  22.8

宇野  ―13.1

須藤  ―34.2

東1局食いチンイツテンパイの佐藤崇が須藤のリーチに3900放銃、東2局は須藤がらしい手順でサンショクドラ1の7700カンをテンパイ(前編の須藤選手の紹介文を参照)するも、先に仕掛けていた佐藤崇に2000放銃。手がぶつかり合う激しい展開。

そして東3局、現クラシックがやってきた。

 

 

親番、4巡目にこの形。

    ドラ
イーシャンテンではあるが、気分はチンイツリャンシャンテンか。イッツーイーペーコーになるツモはテンパイにとりそうだが、それ以外のソーズはテンパイとらずの打としそうだ。あたりはしかけるだろう。

3巡後、ツモが一枚切れで3枚見え。予想通り切りヤミテンに構えた。
途中「ソーズの一色手ではありませんよ」とをカラ切りすると、下家の佐藤崇も「それならば」とをチーして抑えていたソーズを切り出しホンイツイーシャンテン。このへんの駆け引きは実に面白い。少しでも出アガり率を高めるために空切りするのがマジョリティか。

このチーで3枚目のが佐藤崇に流れるのだが、宇野の最終ツモには4枚目のが!!実に大きな3900オール。

東3局一本場は佐藤が宇野から1300は1600。ここまで4局、1局たりとも流局しない。そしてそんな打撃戦の中、じっと頭を下げ続ける松ヶ瀬。アガッても仕掛けてもいないのにこの風格、やはりこの男はかなりの猛者なのだろうと感じた。

次局も須藤が11巡目リーチ、15巡目に高めのドラをツモって1300/2600。須藤のリーチ成功率は本当に高い。

東場が終わって、宇野38800、須藤33200、松が瀬24800、佐藤崇23200。宇野にとっては最高の並びとなった。しかし須藤はこのまま終わっては最終戦が厳しい。この半荘もとにかく大きなトップを目指すしかない。

そんな須藤、第1ツモでドラを重ね、ダブもトイツ。

 



そこへ北家佐藤崇、第一打牌が。須藤すかさずポン。

         ドラ

 

テンパイまでは時間がかかりそうだが、ダブポンだけに周りが回ったりオリたりしてくれたら終盤ツモ上がるかもしれないな、という印象の仕掛けだ。

しかしダブから切り出したのはあの佐藤崇である。毎回ファン牌から切り出すどっかの誰かさん(私です、念のため)とは違って、の後の手出しを見て「八割方崇がアガるな」と思った。ツモ切り、手出しを見ればなおさらである。

予想に違わず、北家佐藤崇は6巡目に

     ドラ

 

こんな素晴らしいテンパイが入る。テンパイ打牌のはそっと縦に置かれた。

崇は明らかにバランス派である。常に相手3人の手牌を読み、なるべく対応しようとする。しかもその読みが正確だから、他の人間よりも強い。そう、崇は読みにかなりの自信がある。

リーチをしてしまった後は、相手3人に何も対応できない。その読みの鋭さも生かせない。崇がリーチをあまり好まない理由はこのへんだと思う。麻将連合のGMであられる井出氏も同じ考えなのだろう。

それでも…ここはリーチをかけて欲しかった。実際はテンパイ時点で山にはが二枚が二枚で4枚、たいした枚数ではない。宇野が5巡目にを切っていて、ヤミテンにする理由もよくわかる。それでも…

タイトル奪取への道は、「無難な選択」「大事をとる」これらを切り捨てた所にあると思うのだ。崇スタイルは相当完成されており、「負けない」ことに関しては最高位戦でも1、2を争うレベルだと思う。しかしタイトルは最後の最後4人に1人しかなれない。他3人も最後までてっぺんを狙ってくるのだ。どこかで勝負をかけて、対戦相手3人の心を折る。少し精神論っぽくなるが、「勝つためのギリギリの選択」をどこかでとってほしいと願っていた。ツモの1300/2600を見た時、かたくなに自分の麻雀を打ち続ける佐藤崇を誇らしく思うと同時に、「このままではタイトルは難しいかもしれないな…」と不安に思った。もっとも筆者の予想など朝からずっと外れっぱなしなのだが。

一方、宇野公介はアグレッシブに攻め続ける。37500点のトップ目から4巡目ダブポン、6巡目ポン、7巡目チーで電光石火のテンパイ。

 



           ドラ

 

この時点では山に四枚。すでに南2局なので、ここで1300/2600をツモればトップはかなり固い。トップをとらないと優勝の可能性がほぼなくなる親の須藤が

    ドラ

こんなリャンシャンテンなので、さすがに宇野のアガりだと思った。須藤がを掴んでも終わりだからだ。
ところがここから須藤がまたもや恐ろしい生命力を見せつける。と引いてドラアンコのリャンメンリーチ!

 

は河に三枚だが、はまだ山に3枚。一方、宇野のカンはまだ山に四枚!
ようやく崇が一枚を持ってくるが、まだ三枚対三枚。終盤でこんなにアガり牌が山に残っているのも珍しい。15巡目、宇野がを掴む。

実は前巡、宇野が雀頭で持っているをリーチ者の須藤が切っている。自分はカン(実際はまだ山に三枚もあるいい待ちなのだが)だし、を切って流局を考える手もある。なんせトップ目なのだ。

しかし宇野はノータイムでをツモ切る。須藤が少し興奮気味に「ロン!」の声。12000の申告に、宇野は堂々と「ハイ」と答えた。トッププロは自分の選択が裏目に出たとしても少しの後悔もないのだろう。とにかく、見ていて清々しい。

南2局一本場、親の須藤が5巡目にドラ切りリーチ!


    ドラ

 

なんとで18000!ツモの4000オールでも一気に優勝争いに加われる。会心のリーチだ。

同巡宇野

安全牌など一枚もない。ノータイムでをツモ切る。筆者の鼓動も早くなる。を持って来た瞬間、宇野の第7期クラシックは終わるだろう。ここまで素晴らしい戦いを見せてもらって来た。できれば最後まで脱落者は出て欲しくない。

次巡、宇野ツモ。嬉しくはない入り目だが、リーチ棒付き2000点で二着目の佐藤崇をかわせる。意を決してリーチ宣言。

この時点では山に4枚、は山に2枚。
枚数上も須藤が有利である上に、ギャラリーの多くは須藤の勝ちを確信していたようだ。確かに前局3フーロから親リーチに12000を打ち上げてトップから3着目にころげ落ちていて宇野、今局は高め18000リーチにピンフのみの追っかけ。流れ論者であればこのリーチ合戦、宇野が勝つ道理はどこにもない。

5巡後、須藤の河にが置かれる。この現象ひとつ取り上げて「ほら流れなんてないでしょ?」と言う気はさらさらない。ただこの局はよりもがたまたま先に須藤のツモ山に置かれていた、ただそれだけのことだ。須藤が悪いわけでもなく、宇野が良かったわけでもない。このたまたまの結果の積み重ねを「流れ」と呼ぶのなら勝手にすればいいと思うが、これをもって次の局以降の牌の置かれている順番までわかってしまうというのは強引すぎるだろう。牌が置かれる順番はいつまでたっても「たまたま」なのだ。

南3局、この半荘初めて松ヶ瀬が発声する。11巡目、西家松ヶ瀬のリーチ。

 



    ドラ

高めツモ2000/4000、22200持ちラス目としては当然のリーチに映る。いままで足をためていたおかげであっさりと高めをツモ!…とはならず流局となった。高めのは二枚とも王牌に埋もれていたようだ。それも別に松ヶ瀬が悪いわけではない。たまたまだ。

ところで実はこのリーチ、はからずも佐藤崇の大物手を阻止していたかもしれないのだ。松ヶ瀬リーチの2巡後、佐藤崇の手牌。

   ツモ    ドラ

ドラドラのイーシャンテンであったが、はすでに佐藤が2枚切っていて4枚目。ピンズ待ちが濃厚な松ヶ瀬のリーチには超危険牌。かといってが通っているわけでもなく、すでに13巡目。トータルポイントが最も近い松ヶ瀬のリーチ。やむなしと言った感じで現物のを抜いてオリた。

しかし15巡目の佐藤のツモは、サンショクになるほうの。そして16巡目、ツモ!!このを持って来た時、この日初めて佐藤崇が悔しそうなしぐさを見せた。

松ヶ瀬がヤミテンにしていた場合、宇野が14巡目にを打っていたかもしれないが、そのが止まった場合は佐藤崇が3000/6000を炸裂させてトップまで突き抜けていたかもしれないのだ。松ヶ瀬がリーチをためらっていたら、佐藤の完全優勝もあり得た。麻雀は本当に紙一重だ。

オーラス、親の佐藤崇が4巡目リーチ。

    ドラ

リーチの瞬間、は山に5枚。仮に3人がオリて残り14回ツモれるとしたら、適当に計算しても70%くらいはツモれる計算だ。しかし他の3人は一枚ずつを持って来たが、崇のツモ山にははいなかった。あとは王牌に二枚。これも崇のいままでが悪かったわけでもなく、3人の念が通じたわけでもない。たまたまだ。とにもかくにもこうして第7期最高位戦クラシック決勝戦は、1人の脱落者も出さないまま最終戦へと縺れこむこととなった。

■10回戦 (最終戦)

 

佐藤崇   17.9

松ヶ瀬    2.0

宇野   ―10.3

須藤   ―11.6

とうとうここまで来てしまった。トータルトップは依然として佐藤崇であるが、半荘2回前には4位須藤との差は106.6もあった。それが現在トータル4位の須藤と佐藤崇の差は29.5。須藤がトップをとれば、佐藤が13600差の3着以下なら優勝である。例えば須藤40000点トップ、佐藤26400点3着。かなり現実的な数字だ。

宇野もほぼ同じで、佐藤との差は28.2。トップ3着で、12300差。

松ヶ瀬は15.9差なので、トップをとって佐藤3着以下なら無条件。佐藤崇2着の場合に8000点差が必要だ。

須藤と宇野はトップ縛り、松ヶ瀬も超接戦でない限りトップが必要なのに対し、有利なのはやはり佐藤崇。点棒を持っている二着ならば須藤と宇野にまくられる可能性は低いし、松が瀬トップの場合でも2着で7900差以内に食い込めば優勝。とにかく点棒を持ったまま局を消化すれば優勝へ近づいていくのだ。

ところが東1局、現王者が親番でいきなりの一撃。

    ツモ    ドラ

ツモイッツーイーぺーコー、3900オール。なんだか先ほども同じ呪文を聞いた気がするが、気のせいか…それにしてもこの日の宇野、親番になるとヤミテンで強烈な手を引きアガる。全てツモアガる宇野も凄いが、ヤミテンでも決してロン牌を出さない3人の雀力も凄い。中盤までは偶然に拠るところもあるが、終盤は3人とも安定感抜群なのだ。

これで宇野41700、佐藤26100。いきなりほぼ条件をクリアーしてしまった。とはいえ佐藤崇はまったく焦る必要はない。まだ東1局、二着になれば良いわけだし、三着でも少し点差を縮めれば優勝なのだ。

次局、西家須藤が2つ仕掛けて400/700。これで佐藤は三着だが、このまま終わるわけはない。

東2局、松ヶ瀬の親。

 

 

西家佐藤崇が4巡目にを切ると、松ヶ瀬がポンしてイーシャンテン。

         ドラ

西家佐藤崇、またも「誰がダブ切り飛ばしたと思っとんねん」とばかりに2巡後この形。

    ドラ

佐藤はさして悩むふうでもなく、を河に縦に置く。ピンフドラ1をヤミテン、クラシックルールでは特に不自然ではないのだが…

ヤミテンにするなら勝負してみるのが良いと思った。瞬間の点数は一緒だが、引きでタンピンイーぺーコー、引きで


高めツモ3000/6000、優勝を決める決定打となりうる。

もちろん佐藤崇もそんなことは100も承知だ。ダブをポンした松が瀬がをポンするかもしれないし、タンキでロンの可能性もゼロではない。とことんリスクを避けるのが崇流。

それでもここはさすがに腹を括って欲しかった。トータルポイントが一番近い松ヶ瀬がダブポン、ここは勝負所だ。切ってリーチでもいい。1300/2600を引けばかなり優勝へ近づく。

を切ってテンパイをとった次巡、虚しくをツモ切る佐藤崇。もしかしたらこのあたりで少しハートが弱ってしまっていたのかもしれない。7巡の間は出ない、ツモれない。松ヶ瀬に一回手出しが入ると、2巡後佐藤は無筋のを手の中へしまいこみテンパイを崩した。

すでに14巡目、テンパイを崩すのも普通だ。残りあとわずか、流局の可能性は高い。

しかし佐藤の願い虚しく、安全牌がなくなった宇野が松ヶ瀬にをチーさせてテンパイ、さらにノーチャンス一枚切れので放銃。点数は2900と大きくはないが松ヶ瀬が2着に浮上した。

1本場はわずか6巡で松ヶ瀬が1300は1400オール。持ち点は32700に。宇野との点数が4300を切ったので、現状のままなら松ヶ瀬が優勝。もちろん、このまま決まるはずもない。暫定優勝者が目まぐるしく変わる、手に汗握る展開だ。

東2局2本場、南家須藤が12巡目リーチ!リーチタンヤオドラ1、待ち。

 

    ドラ

この日、このくらいの巡目の須藤リーチを何度となく見て来た。そして、ほぼツモアガり。ここで2000/3900を引けばトップの宇野とほぼ並び、佐藤崇がラス目のまま。大チャンスである。

しかし山に3枚残っていた二五は最後まで須藤の指先に触れることはなかった。ここまで驚異的なツモアガり率を見せて来た須藤であったが、最終戦だけはその強さを見せられなかった。ほぼ絶望的な点差から連続トップで奇跡的に優勝争いに加わった須藤、この決勝戦を面白くしたのは間違いなく彼だった。
東3局3本場、ようやく、佐藤崇のヤミテンが炸裂。


9巡目に宇野が放ったは場に3枚目。も山には残っていない。それがテンパイ即でトップ目からの直撃、これはもう優勝を決めるアガりではないのか!?

宇野の最終形を見てもらえばわかる通り、宇野は全くアガりに行っていない。親の須藤とホンイツ気配の佐藤に対して危険な牌を先に処理していた最中なのだ。
しかしこれは宇野のボーンヘッドではない。須藤がツモ切りを続ける中、松ヶ瀬が切ったに合わせてを処理するのはごく自然だ。佐藤が最後に切ったのは1枚切れの、テンパイの可能性は低い。仮に佐藤が1枚でもソーズを余らせていたら、宇野はもうソーズに手をかけなかっただろう。
とはいえ大きな大きな5200は6100の直撃。供託のリーチ棒も入れて、佐藤は2着に浮上した。これで暫定優勝者は、もちろん佐藤崇。

東4局、またも暫定優勝者が入れ替わる。


テンパイ一番乗りは親の佐藤崇、6巡目。

    ドラ

さすがに筆者でもヤミテンだ。引きでイーぺーコーだし、何より3巡目にをポンしている松ヶ瀬がソーズのホンイツ模様。2着でも優勝の可能性があり、わざわざ3着に落ちるリーチ棒を出す必要はない。

松ヶ瀬はこの時点で

    

かなり苦しい。一方前局3着目に転落した宇野は

    ドラ

このチャンス手。2000/4000で再び佐藤に並べる。

しかし佐藤はが北家須藤と持ち持ちでアガれず、宇野もリャンメンリャンメンが引けない。その間に松ヶ瀬がと引いて

    

ここまで追い付いていた。
対して宇野は

ソーズがこの形に変化。

12巡目、宇野が生牌のをツモ切る。当然松ヶ瀬のポン。

次巡、宇野がを引き待ちリーチ!をツモれば3000/6000、優勝を決定させるアガりとなり得るが…

同巡、松ヶ瀬がをツモ!


         ツモ    ドラ

実はこの時、松が瀬の手がかなり震えていた。ここまでベテランプロのような落ち着きを見せていた松ヶ瀬が、マンガンのツモアガりでびっくりするくらい震えていたのである。

筆者はそれを見て、心の底から嬉しくなった。歌舞伎町ですれ違ったなら絶対に目を合わせたくないような風貌の松が瀬であるが、筆者と同じように麻雀を愛する人間だと再確認できたからである。麻雀が好きで、競技の世界でも勝ちたくて仕方がない。そんな人間でなければ、ここで手が震えるようなことはない。松ヶ瀬がプロ3年目でこんなにも麻雀が強い理由が、少しわかった気がした。

松ヶ瀬がかなり有利となった南1局、諦めない須藤が2巡目リーチ。5巡目、イーシャンテンとなった佐藤がを切って3900放銃、佐藤がラス目に。ますます松ヶ瀬が有利となる。

南2局、松ヶ瀬の親。北家の宇野はハネマンを引けば松ヶ瀬にほぼ並ぶ。14巡目、高めハネマンツモのリーチ。

    ドラ

次巡南家須藤、ツモ切りリーチ。こちらも高めツモハネマン。

そして同巡、宇野の安めを引き入れた西家佐藤もリーチ。

中をツモれば2着に浮上、トータルで松ヶ瀬をまくる。まさに優勝者を決めるリーチ合戦。そもそも、このクラシックルールで3人リーチになること自体かなりレアなことだ。

3人リーチから3巡、松ヶ瀬は生きた心地がしなかったことだろう。松ヶ瀬の念が通じたか、須藤、佐藤の高めは王牌に。宇野はリーチの瞬間から高めはなかった。

南3局、宇野が優勝するためには、トップになるだけではなく2着松ヶ瀬と3700差つけなくてはならない。

現在トップは松ヶ瀬、41700。宇野は26500。15200差。3700差をつけることを考えると、18900差。

宇野は西家で残り2局。ハネツモだと供託3本と一本場で500差、オーラスあがれば優勝となる。

とはいえ、このルールでハネマンを作るのは至難の業だ。前にも述べた通り無理矢理サンショクやイッツーにするか、チートイツにするか。先ほど二人が高めハネマンツモのリーチだったが、相当奇跡的な牌譜なのである。

ところが、宇野無理矢理どころか自然と5巡目リーチ。

    ドラ


まごうことなきハネツモリーチ。

前局も高めツモハネマン、今局は単騎だがハネマン。なんというか、後ろで見ていて本当に胸が高鳴った。ゾクゾクっとした。引く確率はかなり低いが、他人の麻雀を見ていてこんなにも「ツモれ!!」と思ったのは久しぶりだった。

 

「ハネツモ必要なところで2局連続ハネツモリーチがかかるなんて、宇野は本当に凄い」と言いたいわけではない。実力があっても手材料が来なければどうしようもないし、配牌でドラドラあったのはやはりたまたまだ。

ただ今日1日ずっと宇野の麻雀を見ていて、ものすごくいい麻雀を見せてもらって、「神様、このリーチなんとかツモらせてあげてください!!」と自然に思えたのだ。

 

後ろで見ていて応援したくなるような麻雀。宇野の麻雀を見ていて、筆者も見習わなくてはと思うところがたくさんあった。「自然と応援したくなる」麻雀プロにとって、ものすごく大事なことではなかろうか。もちろん、まずは実力ありきであることは言うまでもない。

間髪入れず、親の須藤が追いかけリーチ。須藤もまだまだ諦めるはずがない。

「どちらかアガったほうが松ヶ瀬への挑戦権を得るな。流局すればほぼ松ヶ瀬の優勝か」なんて筆者の考えは、またも浅はかだった。

同巡、北家の松ヶ瀬が2人に危険牌の
筆者は佐藤と宇野の間で観戦していたため松ヶ瀬、須藤の手牌は見えてはいない。しかしこのがわりとあっさり切られたのを見てまたもゾクゾクっとしたのを覚えている。決着は近い。
松ヶ瀬にツモ番が回る前に、宇野の切ったに松ヶ瀬がロン。

    ドラ


河を見ると、が2人の現物、もほぼ通る。も危険牌。

点棒状況を加味しても、オリる選択はじゅうぶんある。あるいは優勝を決めに行くなら切りリーチもある。

松ヶ瀬はオリも視野に入れつつ、が山に浅いことにかけた。佐藤以外がを掴めば優勝、数巡出ないうちに危険牌を持って来ればさすがにオリるつもりだっただろう。が打たれてからオリたとしても、そこで優勝を逃すわけではないのだ。
もちろんオリたとしても優勝だったかもしれないし、リーチでも優勝だったかもしれない。ただ新王者は切りダマテンを選択し、その選択が正しかったと言わんばかりにすぐ結果を出した。事実上、この瞬間に松ヶ瀬の優勝が決まった。

オーラス、佐藤崇の親。松ヶ瀬との差は25900。18000差をつめれば優勝だが…

 

 

このオーラスは宇野、須藤にとって「優勝を諦めずに親に差し込むべきか、それとも潔く負けを認めるべきか」という優勝以外同価値の決勝戦オーラスに常に議論される非常に興味深い譜となっている。ちなみに宇野は前者、須藤は後者を選んでいる。

 

筆者は「競技者として最後まで諦めてはいけない」と考えてはいるが、結果その差し込みによって親が優勝してしまうとなると、誰もがあまりいい気分ではないだろう。となると、現行のタイトル戦決勝のルール、システムに不備があるように思えてしまうのだ。

タイトル戦決勝がネットなどで生放送されるようになった今、業界全体で考えるべき命題であるだろう。

こうして第7期最高位戦クラシック決勝は幕を閉じた。優勝は、RMU松ヶ瀬隆弥。プロ入り3年目でのビッグタイトル獲得は、初タイトルまで14年かかった筆者から見ても羨ましい限りだ。

麻雀というゲームは、どんなにベストを尽くしても必ず勝てるゲームではない。きっと、決勝の4人は全員わかっている。

打ち上げの席で、宇野と須藤は割とサバサバしていたのに対し、佐藤は終始暗い表情だった。もしかしたらベストを尽くせず、内容に後悔していたのかもしれない。7年間最高位戦クラシックを担当して来て、人一倍思い入れがあったことも原因だろう。

後日、筆者が帰った後に佐藤が会場から離れて1人で泣いていたと聞いた。崇とは14年の付き合いだが、そんなことは初めてだ。

それを聞いた筆者は胸が熱くなるとともに、なぜか少し安心した。佐藤崇は、きっとすぐに一回り成長して戻って来る。悔しくて泣けるくらいの情熱があれば、間違いない。

優勝した松ヶ瀬。打ち上げの席で、たくさんのRMUの仲間に囲まれていた。RMUの選手はみな、松ヶ瀬の優勝を信じて疑わなかったようだ。

良き仲間に恵まれ、実力も十分な新王者。

RMUのニュースターとして、これからさらなる活躍が期待される。真価が問われるのは、まさにこれからだ。

松ヶ瀬選手、おめでとうございます!!

 

最後に…決勝の4人の皆様、素敵な麻雀をありがとうございました。4人とも、麻雀が大好きだということがじゅうぶん伝わって来ました。半荘5回、とりあげたい牌譜や細かいファインプレーは他にもたくさんありましたが、今回は「誰にでもわかりやすい観戦記」を意識したため、あまりマニアックな(特に守備に関する)記述は避けさせていただきました。ご了承くださいませm(__)m

とはいえ麻雀始めたばかりの方にはやっぱり難しいですよね…久々の観戦記、とても難しかったですが楽しかったです。最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました!!

次は書いてもらえるように頑張ります(;^_^A

第5期最高位戦クラシック覇者、村上淳

おしまい

 

(文中敬称略)

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