コラム・観戦記

【36期最高位決定戦3日目観戦記】鈴木聡一郎

36期最高位決定戦3日目観戦記

さて、どうすれば最高位となるのか。
思うに、各局を「点」とすると、それをつなげた各半荘が「線」、その線をつなげて最高位への「道」を作るのではないだろうか。

ここで、1日目、2日目の牌譜を見た。

佐藤は「点」に集中することが上手な選手だ。
この1巡、この1牌、それを捉える目と心を持っている。
しかし、それを「線」や「道」にすることが他の3人に比べて苦手なように映る。
勉強熱心な若手に多い傾向だと思うのだが、いわゆる木を見て森を見ず。
多くの技術はあるものの、それにとらわれすぎて、「局面」というものを見ることができていない。
例えば、「この牌はまだヤマにいるんじゃないか?だからリーチ」、「リーチならみんなオリるだろう。だからリーチ」。
「点」としてはもちろん正しいのかもしれない。
しかし、それは「線」の中で「点」を捉えての判断だろうか?
もっと言えば、その「点」を活かして作られた「線」は、どのように最高位への「道」となっていくのか。
そのリーチがアガれてその先にあるものは?
他家の手を崩させてその先にあるものは?
象徴的な局が2日目にあった。
大トップ目で迎えた南1局、佐藤は下図のテンパイから2枚切れのペン待ちリーチをかける。

ヤマにいそうだ思ったペンなのかもしれない。
リーチをかければ、僅差の2着目であるオヤが前に出にくいと思ったのかもしれない。
しかし、ここでリーチをするのは、バランスが「点」に偏りすぎているのではないだろうか。
結局、うまくテンパイの入ったオヤの村上にホウテイで12000を放銃し、トップを逃す。
ただ、逆に、こういうプレイヤーははまったときに大トップとなりやすいので、素点では大きく叩ける可能性がある点で強い。
素点が叩けるという特長は、競技麻雀では大きなプラス要素だ。

佐藤と対照的なのは石橋。
石橋は局面を捉えるのが非常にうまい。
すなわち、「線」をつなげるために「点」を使い、全てを最高位への「道」の中でしっかりとプランニングできている。
石橋は着取りに長けており、順位点を積み重ねるのが非常にうまい。
戦略家とは正に彼のことだ。
だたし、その分素点を大きく叩けることは多くないので、順位点を取りこぼすことが致命傷になる。

本日の主役、曽木については後述することとする。

また、本来は石橋と同様、戦略に長けている村上だが、今回の決定戦では良いところなし。
自分が打たなければならない麻雀を石橋に打たれている。
筆者が村上に対して一言添えるとすれば、「こんな村上なら見たくなかった」である。
それが、村上ファンの大多数の感想であろう。
むろん、筆者もその1人だ。
みな、村上を尊敬し、村上に期待しているからこそ、村上に失望する。
村上本来の麻雀からすれば、ここまでの戦いぶりは「論外」という出来であったと思う。
ポイントもそうだが、内容についても、折り返しの3日目ぐらいでそろそろ盛り返してほしいものである。

1、2日目は、総じて3人が勝手にやりあっている横を石橋がするりと抜け、石橋1人だけが悠々と最高位への道を歩んでいるように見えた。
3人が「点」だけに集中してしまっており、しっかりと最高位への「道」を見据えている石橋だけが当然のように抜けているのだ。
子供のケンカを横目に見ながら、「あっ、そう」と進む大人。
そんな印象だ。
そろそろ他の3人も最高位を見据えて打ち始めなければ、この3日目で早くも決まってしまうだろう。
「道」を見据えて石橋を止めろ。
それがこの3日目のテーマだ。

3日目開始時のポイント
石橋+148.9
佐藤▲3.1
曽木▲32.0
村上▲113.8

9回戦
起家から石橋、曽木、佐藤、村上。

東1局ドラ

南家の曽木が8巡目に村上が切ったをポンして切り。
その直後、曽木がをツモ切りした場面。
村上は1枚切れのをツモって何を切ろうか。

 ツモ

 

曽木の手をどう読むか。
捨て牌としては、タンヤオになっていることも稀にあるかもしれないが、ほぼトイトイといったところではなかろうか。
もちろんホンイツもあり得るが、ポンでピンズが分断されてしまったため、ピンズでいくつも順子を作るのは難しくなっており、それよりはトイトイをケアすべきであろう。
特に、曽木の東1局の仕掛けなら、タンヤオのみということはほぼなく、トイトイかホンイツが入っていることは明白である。
とすれば、ドラが枯れたこの状況では、字牌が絡んでいる可能性が高いのではなかろうか。
そのような視点で見ると、生きている字牌はの3種。
普段の村上ならば、「生きている字牌3種のうち2種を握りつぶすことができた。ツイてるなあ。ポンの直前に打たれているはオタ風だから、2枚持っていて鳴かなかった可能性すらある。こうなったらおれのところにも来い!おれが全部抑えてやるから」という思考になり、丁寧にオリ始めるのではないだろうか。
村上の手牌は安くて遅いのだから。
しかし、もうこのときには村上の精神状態が崩壊していると思われる。
そうでなければ、こんなをツモ切りするはずがない。

  ロン ドラ
なんとトイトイにホンイツもついて8000。
ああ、今日も村上はダメか。
少し残念に思う。

東2局ドラ

オヤの曽木は佐藤の7巡目リーチに対して、9巡目にこの手牌。

 ツモ
安全牌としては1枚があったが、ここからを押して佐藤に5200を献上。

 ロン ドラ ウラ
そこそこの打点が見込める形になれば相手がリーチだろうと押す。
そんな曽木の斬り込みを佐藤が阻止。

東3局1本場供託1000点 ドラ

東家佐藤37200
南家村上21000
西家石橋29000
北家佐藤31800

供託があるが、西家石橋は、早アガリには目もくれず、ゆったりと打点を作りにいく。
まずは、2巡目。


ここからオヤ佐藤の切ったをポンせず。
これは2巡目に早くも役牌を切ってきた佐藤の手がそこそこ早いかもしれないということを想定して安全牌を作りにいったのと同時に、そこにぶつける手になったら勝負しようという思考であろう。
また、それ以上に、得点差を考えて、ここではまだ打点を作っておくのが有利と判断してのものであることは言うまでもない。

4巡目にもかドラのを切ればを活かしたイーシャンテンとなる以下の手牌に。

 ツモ
ここから石橋はなんと打
これはすごい。
リャンシャンテン戻しでこの牌姿。


本格的に打点を作りにきている。
そして、すぐにツモ、ツモときて9巡目に思惑通りのこのリーチ。


2発目に高目をツモって2000・4000は2100・4100。

 ツモ ドラ ウラ
これでラス目から一躍トップ目になってしまった。

南1局ドラ

石橋がトップ目のまま東場を終え、南入。
東家石橋38300
南家曽木29700
西家佐藤36100
北家村上15900

このまま今日も石橋のトップスタートかと思いきや、ここから乱打戦となる。
西家佐藤の先制リーチに以下の手牌となって追いついたオヤ石橋が切りリーチ。

 ツモ

しかし、これが佐藤に放銃となり、8000。

 ロン ドラ ウラ

南2局ドラ

オヤの曽木が先制リーチ。


すぐに西家村上が追いかけ、曽木からで出アガリして8000。

 ロン ドラ ウラ

南3局ドラ

これで以下の点数状況となった。
東家佐藤44100
南家村上24900
西家石橋30300
北家曽木20700

ここで、オヤがなくなり後がない北家曽木が、仕掛けてから曽木らしい高打点の手順を見せる。


まずはここから6巡目に南家村上が切ったを一鳴きして打

 
直後、ここにを引く。

  ツモ
1枚切れのを切ればテンパイだが、曽木は何事もなかったかのように打でテンパイ取らず。
ホンイツへ向かう。
すると次巡にはを引き、なんとあっという間にマンガンのテンパイへと変貌を遂げた。

 
ここで、トイツ手の重なり期待でを残していた村上が、スーアンコのリャンシャンテンとなったところでを打ってしまう。

 ツモ 打

普通はオヤの安全牌を残してを打つ場面なのであるが、先にを打っている曽木がと落としてきたため、ホンイツを警戒して曽木の役牌であるを先打ちしたのである。
5巡目のを鳴かずにを一鳴きしているため、このが当たるのは、この2巡の間にが重なり、かつホンイツテンパイが入って、さらにが待ちになっているという狭き門を突破した場合のレアケースである。
しかし、そのような狭き門を突破して、目の前で手牌を開けているヒゲの男は確かに存在する。
これは、曽木の意志がこじ開けた8000といえよう。

  ロン ドラ

南4局ドラ

東家村上16900
南家石橋30300
西家曽木28700
北家佐藤44100
ここでも、曽木の感覚と意志が炸裂する。
曽木は着順を上げるために、まず2000点出アガリを目指すこととなる。
役牌2組で2000点が見える手牌。

ここから7巡目にをチーして打
佐藤の手牌進行は変則的な切り出しであまり早いようには見えないが、村上と石橋が早そうであることに対応してのチーである。
また、村上はラス目のオヤであり、石橋は曽木と競っているため、リーチ棒をそれなりに期待できる。
リーチ棒が出れば片方の役牌だけ活かすことができればいいので、ここは仕掛けておこうというのであろう。
また、流局した場合にテンパイしていることが重要となるが、この手は仕掛けないとテンパイできそうにないため、それならもうここから仕掛けようというのである。

曽木は、基本的には佐藤と同様に「点」を得意とする打ち手だ。
しかし、佐藤が「アガリやすさ」に比重を置くのに対し、どちらかといえば曽木は「打点」に比重を置く。
また、佐藤が点数状況に逆らってでも「点」でのアガリやすさを重視することがあるのに対し、曽木は基本的に点数状況に素直に従って「線」をきれいにつなげにいくという違いがある。
この2つのバランスを取るのがうまいことこそ、曽木の強さであると思う。

この局もそうだ。
点数状況に忠実に従い、その上でその局の状況を考慮し、「遠いが、もうここから仕掛ける」という思考に至っている。
実に普通だ。
この4人の中で唯一、いやらしいことを考えずに素直な麻雀をしている。
素直なアガリ、素直な放銃。
その中で高打点を目指す手順を見せる。
そりゃー、観戦者は曽木を応援したくなるだろう。
曽木の麻雀は日本人の心を打つ魅力を秘めている。

そんな曽木が珍しく遠い仕掛けを始めた。
もうギャラリーは釘づけである。
9巡目には以下の手牌からもポンしてドラ切り。

 
そして、13巡目にをポンして待望の高目2000点、安目ツモでも400・700で2着になれるテンパイに辿り着く。

   
ここで、トップ目の佐藤が曽木になら打ってもいいと打

アガって3着でもいいと思う。
をツモ切りしてきた村上はもうテンパイかもしれないし、そうではないにしてもすぐにリーチが飛んでくる可能性が高い。
しかし、そのリスクを負ってでも、曽木は当面のライバルである石橋との着順勝負1本に集中した。
曽木、最高位を獲るために渾身の見逃しという道を選択。
この仕掛けをした以上、2着になるアガリ以外は拾う気なし。

この見逃しによって一気に場が動く。
まず、曽木がを引いて加カン。
すると、が新ドラになる。
さらに、曽木がリンシャン牌のをそのままツモ切りする。

これをオヤの村上がポンして切り。
がトイツだった村上は、このカンで打点とテンパイ両方を得る。

 

そして、すぐに石橋にも役ナシながらテンパイが入る。

3人テンパイで流局。
誰もがそう思ったハイテイ。
曽木の強固な意志が、「点」を制し、「線」をつなげ、最高位への「道」を手繰り寄せる。

  加カン  ツモ(ハイテイ)
曽木は、この1600・3200で石橋をまくって、この半荘2着。
こんな麻雀を見せられたら、なおさら曽木に釘付けになってしまうではないか。

9回戦終了時トータル(カッコ内は9回戦)
石橋+137.6(▲11.3)
佐藤+39.4(+42.5)
曽木▲16.9(+15.1)
村上▲160.1(▲46.3)

10回戦
起家から佐藤、村上、曽木、石橋。

南1局ドラ

東場は他家のやり取りを見ているだけだった曽木。
南入して以下の点数。
東家佐藤23300
南家村上40400
西家曽木30500
北家石橋25800

まず、村上がダブ南を仕掛けてイーシャンテン。

この瞬間、誰もが村上のアガリを想像したであろうが、これが長引き、一向にテンパイが入らず、12巡目にを引いてようやくテンパイ。

 

これに的確な対応を見せたのが曽木。

 ツモ
ここまで自由に押していた曽木は、このテンパイを敏感に察知し、村上のテンパイ直後に入り目のツモで、あっさり現物のを抜いて守備に回る。
すると、ここから予想外の伸びを見せ、安全牌を切っているうちにツモで望外のテンパイに辿り着く。

 ツモ

ここで、「この形になったら」と、生牌のを勝負してリーチ。
その一発目、自身でドラを引き当て、2000・4000。

 ツモ(一発) ドラ ウラ
ただ真っすぐ攻めるだけではない。
相手に対応していったん引き下がるが、必ず一歩で相手の懐に飛び込める位置に留まっておき、反撃のチャンスと見れば一瞬で斬り込む。
後手を引いたときにこのような斬り込みができる打ち手は、どの団体のAリーグを見渡してもあまりいないタイプであろう。

南2局ドラ

 

ここでも曽木が先手を取って12巡目リーチ。

このリーチで困ったのが北家の佐藤。
曽木からリーチが入り、一発目こそ安全牌のでしのいだものの、二発目にはワンチャンスの、そして三発目、ツモで何切る?

曽木の捨て牌を見ると、を切った後に切りリーチとなっている。
も3枚見えており、も直前に4枚見えたため、これでが当たりになっているケースは・・・
1.が頭になっての、または
2.のテンパイにを引いて両面になっての、

3.を先に切っているから少し出現頻度が落ちてからの
ぐらいだろうか。
いずれにしても、ノーマルなではなく、出現頻度は低そうだ。
しかも、これでが通ると、少なくとも3巡しのげる。
ノーチャンスで生牌のもあるのだが、佐藤はを選択。

 ロン ドラ ウラ
すると、これがなんと普通のに捕まり、8000。
宣言牌のは、下記のように曽木らしく貪欲に三色を追って引っ張っていたものだった。


この放銃は佐藤の失着のように映るが、筆者の見解は違う。
「曽木が力で打たせた」と見る。
曽木はこれまで、打点を追って様々な手役を絡めてアガっている。
それを目の前で見せられては、曽木のリーチを恐れ、「どんな形になっているかわからない」という心理状態になるのではないか。
曽木の打点を追い求める姿勢や、これまで字牌シャンポンを何度もアガっているイメージが、佐藤にノーチャンスの切りを躊躇させ、1枚通れば3巡しのげるワンチャンスのに手をかけさせたのである。
すなわち、打点を追い続け、様々な手役や形でアガってきた曽木のイメージが佐藤の中で増幅され、最後にはヤマに存在しないはずだったが引きずり出されたのだ。
剛直に一撃を狙い続けた弁慶が、ついに力で「道」をこじ開け始めた。

この半荘については、この後、南3局で北家村上に下記の2000・4000でまくられトップをさらわれる。

 ツモ(一発) ドラ ウラ
しかし、トータルトップの石橋が3着に沈んでくれるなら、曽木としてはそれなりにうれしい2着であろう。
トータルでも、これで2着に返り咲いた。
逆に佐藤はマイナスに転落。

10回戦終了時トータル(カッコ内は10回戦)
石橋+122.6(▲15.0)
曽木+3.2(+20.1)
佐藤▲11.7(▲51.1)
村上▲114.1(+46.0)

11回戦
起家から佐藤、曽木、石橋、村上。

東2局ドラ

東1局に3200横移動で迎えた東2局。
オヤの曽木は以下の手牌から切りで15巡目リーチ。

 ツモ
が3枚切れで、アガリを取るならダマテンだろう。
しかし、曽木は残り3巡だろうとかまわずリーチを選択。
これにより、このリーチがなければおそらく役アリテンパイを取っていたであろう村上、佐藤が1牌を押せずに手を崩す。
その結果、曽木の1人テンパイ。

単なる1人テンパイだが、実は1人テンパイが多くなるのが曽木の勝ちパターンなのではないかと思う。
やはり、打点のある曽木のリーチや仕掛けに対しては斬り込みにくいものだ。
ここまでの戦いぶりから曽木の冴えを感じ取れば、その斬り込みにくさはなおさらだ。
これに対し、他家にリーチや仕掛けで先行されても、曽木は斬り込む。
そして、この斬り込みが成功し始めると、ずっと曽木のターンとなっていくのだ。
実際にこの半荘も曽木を中心に回っていく。

東3局1本場ドラ

東家石橋34700
南家村上29500
西家佐藤29500
北家曽木26300

9巡目にオヤの石橋が曽木のから仕掛け始め、下記手牌。

 

これに対し、下記のドラ単騎テンパイとなった曽木は、生牌の、無筋のをダマテンで押す。

リーチをかけないのは、引きの三色を狙ったことと、オリ時を探っているのであろう。
しかし、「この牌はもうダメだ」という牌(例えば)が来るまではしっかり押す。
すると、最終手番直前にヌルリとした牌の感触。

 ツモ ドラ
このダマテンでの1000・2000は、実に曽木らしい。
ラス目という点数状況なら、リーチという選択をする者が多いのだろう。
確かにそれは楽だし、アガれたときのリターンは大きい。
しかし、曽木は、それよりも他家の動向を見て対応できる権利を選んだ。
豪快な一撃の陰に、実に繊細な洞察あり。

状況に背中を押されようと、このように待ちに自信がなければリーチしない。

ラス目でも安易にドラ単騎リーチをしないアガリを見せられると、ますます曽木がリーチときたときの恐怖心が増すのではないだろうか。

東4局ドラ

東家村上28400
南家佐藤28400
西家曽木30600
北家石橋32600

今度は西家曽木がピンズのホンイツ仕掛け。

 
これに対応して北家石橋は早々に字牌を抱えて手じまい。

さらに曽木が2フーロ目をしてこう。

  
この数巡後に曽木がここからをツモ切る。
ここでを掴んだ佐藤があっさりテンパイを崩してオリ。

唯一残ったオヤの村上は、曽木のツモ切り直後に下記手牌。

 ツモ
ここから打で戦う姿勢を見せる。

その後12巡目に曽木にテンパイが入る。

  
このテンパイと同時にを掴んだ村上が回る。

それを見て、終盤、何事もなかったかのようにをツモ切る曽木。
曽木はこれでまた1人テンパイを作り上げた。
テンパイ料でトップ目に立つ。

南1局1本場ドラ

東家佐藤27400
南家曽木33600
西家石橋31600
北家村上27400

オヤ佐藤のポンに呼応して、南家曽木も8巡目に2枚目のをポンして応戦。

 
次巡にを引いて下記のイーシャンテンに。

 

ここに西家石橋のリーチが襲いかかる。

すぐに曽木も追いつく。

 
待ちは1枚切れのダブ南と1枚切れの

オヤの佐藤がオリて、曽木と石橋の一騎打ち。
さすがに今回は曽木が不利かと思われたが、石橋が先にを掴み、曽木が3900は4200のアガリをものにする。

  ロン ドラ
この斬り込みが決まると、もう完全に曽木のペース。
こうなると、例えば誰でもアガれる早くて高い手が入らない限り、割って入ることがなかなか難しくなる。

南2局ドラ

東家曽木38800
南家石橋26400
西家村上27400
北家佐藤27400
しかし、そんな手なりの早くて高い手が出てしまうのが、今日の曽木がいま一つ乗り切れないところ。
西家村上がこの一発ツモで僥倖の3000・6000。

 ツモ(一発) ドラ ウラ

これでまた村上にトップをさらわれてしまった。
オーラスには石橋がラス抜けし、石橋は本日ここまでオール3着で粘る。

11回戦終了時トータル(カッコ内は11回戦)
石橋+110.2(▲12.4)
曽木+14.2(+11.0)
佐藤▲49.1(▲37.4)
村上▲75.3(+38.8)

12回戦
起家から曽木、石橋、村上、佐藤。

自分のペースになりつつも、なかなかトップが取れない曽木。
オール2着でポイントを積み重ねてはいるものの、本人は満足していないだろう。
そんな中、本日最終戦でついに曽木の半荘が訪れる。

東1局1本場ドラ

石橋と2人テンパイの流局で迎えた1本場。
石橋が以下の6巡目リーチを一発でツモり、2000・4000は2100・4100。

 ツモ(一発) ドラ ウラ
曽木はこれでいきなりのオヤかぶりとなった。
しかし、ここから、曽木の剛直な太刀が相手を斬りまくる。

東2局ドラ

まずは、前局にやられた相手にお返し。

オヤ石橋が場に安いピンズで下記の11巡目リーチを放つ。

これを受けて、北家曽木が同巡にツモで無筋のを切って追いかけリーチ。


すぐに石橋がを掴んで、曽木が5200を取り返す。

 ロン ドラ ウラ

東3局ドラ

西家曽木が8巡目に先制リーチ。

この後チートイツドラドラのテンパイになった南家佐藤。

 ツモ

場に安いマンズのでアガリを取りにいった佐藤のリーチ宣言牌をとらえて1300。

 ロン ドラ ウラ
このアガリで曽木があっさりとトップ目に立つ。

東4局ドラ

曽木はトップ目に立っても手を緩めない。
8巡目リーチをすぐにツモって1300・2600。

 ツモ ドラ ウラ

南1局ドラ

そして、トップ目で南場のオヤ番を持ってきた曽木。
東家曽木40100
南家石橋32300
西家村上25100
北家佐藤22500
曽木は8巡目にチートイツを1枚切れの単騎で即リーチ。


佐藤が先に仕掛けており、このタイミングでリーチをかけておかなければならないという間合いを感じ取って、曽木らしく攻撃に出たリーチだ。
また、リーチ直前に打っているはあえて手出しにしたもので、チートイツを疑うのは難しい捨て牌になっている。そのため、でも引こうものなら、かなりのアガリ率になりそうだ。

このリーチを受けて、先に仕掛けていた北家佐藤。
10巡目に以下の牌姿となった。一発で掴んだが浮いており、そこにツモでどうするか。

  ツモ

この手牌は自由に打ってもおそらくアガれないことの方が多いのではないだろうか。
では、オリを選択するのがよさそうで、とりあえず現物のを打ち、次巡に安全牌に窮したら辺りだろうか。

そんな予想に反し、佐藤はここから打といく。
この手を押しか。
自分でを切っていない以下の形なら、まだ押す手もあると思うのだが。

  ツモ

これは明らかに無理押しではないだろうか。
2連続ラスで、今回もラス目。
曽木に緊張の糸まで斬られてしまったか。

 ロン ドラ ウラ
この4800で曽木が後続を引き離す。

南1局1本場ドラ

東家曽木44900
南家石橋32300
西家村上25100
北家佐藤17700

結果からいうと、この局はなんていうことのない曽木の1人テンパイで終わる。
しかし、この局こそ、曽木の良さが隠された1局なのではないだろうか。

まず、曽木はイーシャンテンの配牌をもらうと、2巡目にはツモでこう。

 ツモ
色々な選択肢があると思う。
曽木はここでは打点の確定を重視してを打つ。

次巡、ツモ

 ツモ

これはツモ切り。
ピンズは上への伸びだけを残し、テンパイ速度を落とさずイーシャンテンをキープ。

さらに次巡にはツモ

 ツモ
直前にが1枚切れたところ。
オヤであるし、をツモ切る一手もあると思う。
マンズの伸びだけを残し、ひとまずイーシャンテンをキープする打ち方だ。
しかし、曽木はを残し、ここでを払っていく。
456の三色を見つつ、1枚切れてスピードが落ちたペンを払ったのだ。
曽木の手順の基本に「即リーチできるように打つ」というのがあると思う。
曽木からすると、自分の河にの順に落ちているこのペンが残ったとしても、1枚切れてしまっていたら即リーチに値しないという判断なのだろう。

この決断が全てだった。
次に引いたのは
仮にを打って下記の形になっていると、ツモ切ることになる牌であろう。

 ツモ

対する曽木は、を手中に留めてこう。


ここからすぐにと引いて即リーチといった。

この局、他に動きがなければこのテンパイ以外テンパイ形が存在していない。
これが流局して1人テンパイとなり、曽木は加点しつつオヤをつなぐ。
曽木は本当に打点とスピードのバランスが良い。
スピードを殺さず、目いっぱいに広げて打点も追う。
先制リーチがよく入り、そこに打点も伴っているから他家は押しにくい。
正に曽木の良さが出たオヤ権のつなぎであろう。

南1局3本場供託3000点ドラ

東家曽木47400
南家石橋31800
西家村上22600
北家佐藤15200

2本場も石橋の先制リーチに対し、粘って2人テンパイに持ち込んで迎えた3本場。
供託もあるため、ここはアガっておきたい。
大事な場面で曽木は4巡目テンパイを果たす。

 ツモ
ここから曽木はを外してイーシャンテン戻し。
すると、すぐに裏目のを引く。

 ツモ

ソウズが安く、血気盛んな若手なら、フリテンリーチにいく者もいるだろう。
大トップ目のこの状況は、冒頭に紹介した2日目の佐藤に訪れた状況と似ている。
佐藤はリーチをかけて失敗したが、曽木はどうするか。
あくまで切りか。
切りリーチか。
曽木が選択したのは切りのダマテン。


オヤにつき、リーチで牽制してもいいと思う。
しかし、曽木にしてみれば、1度ペンを即リーチに値しないと判断している以上、同じ意味合いのフリテンについてもやはりリーチには値しないのだ。
ここには当然、を掴んだときに回れるようにという思考もある。
ただし、曽木達志はに対する視点が少し違う。
おそらく、こんなところまで想像しているはずなのだ。

 ツモ
を「掴んだ」と消極的に捉えるか、「もう1枚引け」と積極的に捉えるか、そこに曽木と我々の違いがあるのではなかろうか。

そして、この局、すぐにツモで700は1000オールとし、供託をさらってトップを盤石のものとする。

 ツモ ドラ
このアガリで、対局者の心が折れる音が聞こえた。

12回戦終了時トータル(カッコ内は12回戦)
石橋+93.5(▲16.7)
曽木+67.8(+53.6)
村上▲71.5(+3.8)
佐藤▲89.8(▲40.7)

最後の半荘、この後も曽木は押すときにはきっちり押し、半荘全15局中10局で加点した。
親落ちのために必ず2局は加点できない局があるから、それを除いた13分の10(77%)の局で加点したことになる。
正に曽木のための半荘。
そして、これで本日プラス100近くを叩き、決定戦3日目を曽木のための1日とした。
つまりはこれなのだ。
全身全霊を1局、1牌にそそぎこみ、自分のための半荘を作り上げる。
その半荘を積み上げることで、自分のための1日を構築する。
そして、それを丁寧に組み合わせ、最高位への道を整備する。
曽木にはこのとき最高位への道が見えているのだろうか。
少なくとも筆者には見えた。
今、確実に最高位への道を、ヒゲの痩身が歩んでいる。
本日の戦いを終えると、曽木達志は刀をおさめ、再び歩を進める。
その道は真っ直ぐで、剛直な曽木にはぴったりの道だ。

また、常に曽木や他の2人にマークされる苦しい展開ながらも、ラスなしのオール3着で

切り抜けた石橋。
自分の持ち味を活かし、しっかりと着順を取り切った。
次節以降、曽木の少し前を行く石橋の逆襲が見られることだろう。

佐藤はトップスタートの後、3連続ラスで本日マイナス100近く沈む結果となったが、それぐらいはすぐに返済できる瞬発力と素点力を持った打ち手である。
次節に期待だ。

そして、村上。
本日は40ほどプラスしたが、1日目、2日目と同様に、見合わない手からの手詰まりや安易な放銃が多かったように見える。
おそらく、この4人の中で、「観戦者をがっかりさせることができる」のは、村上ただ1人である。
それだけ、筆者を含めた観戦者の大いなる期待を背負っているということだ。
昨年歩んだ道を、再び歩むことができるだろうか。
おそらく、最も多くの人間が、村上淳を応援している。

最高位決定戦も残すところあと2日。
今のところ、最高位街道上には、石橋と曽木の姿を確認することができる。

文:鈴木聡一郎
(文中敬称略)

 

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