コラム・観戦記

【第36期最高位決定戦第4節観戦記】坂本 大志

第36期最高位決定戦第4節の模様を、私坂本大志がお送りします。

第3節12回戦目終了時までのスコア

石橋伸洋 +93.5
曽木達志 +67.8
村上淳 △71.5
佐藤聖誠 △89.8

最終節を少しでも有利なポジションで向かえたい上位2名と、

今節のマイナスは実質的な負けを意味するであろう下位2名。

大混戦となるのか?
誰かが抜け出すのか?
脱落者が出てしまうのか?
見所満載になるのは間違いない第4節がついに始まった。

13回戦(起家から曽木・石橋・佐藤・村上)

東1局

起家曽木の第1打は
何でもない1打だが、勝ちたいという気迫が伝わってくる様な、

それくらい慎重に丁寧に時間をかけて切ったように思えた。

特にまとまった配牌をもらった者はいない中、

ツモの効いた佐藤が1フーロのホンイツをツモアガリ、先制した。

東2局 ドラ

うって変わって全員にまとまった配牌が入る。

曽木は1巡目に七対子のイーシャンテン。
2巡目にして難しい選択を迫られる。

 

 ツモ


七対子の目を残すならソウズ、面子手に決めるなら
か?
からなら一応七対子の可能性も残せるが…

曽木の決断は一刀両断の打
断固七対子は拒否!!
確かにこう打てば後は一本道って感じに思える。

4巡目には急所のが埋まり、

あっさりとタンピン三色イーペーコウのイーシャンテン。
そして9巡目にようやく
を引き入れ力強くリーチを宣言。

この宣言牌のを親の石橋がチーして一発を消す。
もちろん自身の手も進むので、それだけではないだろうが、

トータルトップの石橋にとっては番手のリーチの一発は消しておきたいのだろう。

石橋は戦略家である。
引き出しの多さに関しては最高位戦で叶うものはいない。
一発消しやハイテイずらし
差し込みを誘発させる仕掛け
他家にテンパイ入れさせて、親をおろさせる
こういった類いの物を的確に使う事ができる。

先行させると一番やっかいなタイプが石橋である。

話を元に戻そう。

この局は、石橋の仕掛けによって、

イーシャンテンの村上にテンパイが入り追っかけるも、

すぐに曽木がツモあがりとなった。

次局も曽木の手牌が良い。

5巡目には以下の形
ドラ


ドラ9にも関わらずこの巡目に打
は悪手に見えるかもしれないが、

これは親の佐藤の速度を気にしての事だろう。

その佐藤の河が

 

字牌からの切り出しで、は共に手出し。
既にイーシャンテンか、それなりの形になってると読むのが普通で、

次の手出しでリーチとくるケースも結構ある。
その時に少ないリスクで押し返す為に、多少の裏目には

目を瞑っての安全牌残しである。

曽木に関しては長所の攻撃力ばかりに目が行ってしまうが、

実はこんな繊細な部分も持ち合わせている。

結局、親の佐藤から2600を直撃し、早くも1人浮きの40000点オーバーとなる。

東4局は親の村上と石橋の2軒リーチとなるが流局。
佐藤も最終手番でテンパイを入れ、曽木の1人ノーテン。

その後大きく局面が動いたのは南1局一本場。


7巡目に南家石橋にテンパイ。

ドラ

とりあえず1単騎の仮テンとする。
ドラドラで1が見えてないのでリーチの決断もあると思うが、

下家の佐藤がはっきりソウズのホンイツな上に、全体的にソウズが高すぎる。

そのホンイツの佐藤、下の牌姿で石橋から切られるをスルー。

 

 ポン


5200の両面テンパイをとらず。
何かしら意図はあるのだろうが、私からは緩手に思えてならない。

そして石橋のツモは1枚切れの
単騎としては絶好の牌だろう。
ホンイツの佐藤が対子で持ってるかもしれないが、

をポンした後のを鳴いて無いため、

その間に重なったケース以外は1枚だけか、持ってないと考えるのが自然である。

当然ながら、単騎でリーチを選択した。

このリーチに佐藤が一発で掴んで飛び込み、手痛い満貫放銃。

石橋はこれで微差ながらトップ目に浮上した。

そして、
曽木→佐藤5200
石橋1人ノーテン

となって南3局一本場を迎える。

ラス目の佐藤としては、この親番は何としても死守したいところだったが、

曽木の執念の前に一度も連荘を許されずに親被り。

曽木は下家の石橋に切りづらいドラ表示牌を重ねて、

会心のタンヤオ七対子を引き上がる。

 

 ツモ

 
これで曽木が再度トップ目にたつ。

オーラスを向かえ
曽木 41800
石橋 35200
佐藤 19700
村上 23300

まずは村上が2000オールをツモって連荘。
さらに加点して一気に捲りたいとこだが、一本場は石橋が制した。

正確な手順にツモが噛み合い、一発と裏ドラのおまけ付き。

ドラ

 ツモ

 

石橋が最高位に向けてまた一歩前進した。

13回戦終了時

石橋 +139.0 (+45.5)
曽木 +84.5 (+16.7)
村上 △88.3 (△16.8)
佐藤 △135.2 (△45.4)

14回戦(村上・佐藤・石橋・曽木)

いきなり好配牌の村上だが…

ドラ

 

3巡目にテンパイするも、イーペーコウ崩れの引き。
さらに
が一枚打たれた後で闇テンを選択し、すぐに出るで1500のアガリ。

自然ではあるが、あの配牌が1500で終わるのは本人も不満だったのではないだろうか?

大きく動いたのは東3局


ドラ


配牌は恵まれない曽木だったが、

ツモが素晴らしく12巡目ながら先手をとれる。
待ちとなる
だが、石橋の手出しとのスライドに

見えなくもないのと、村上の河のソウズの情報がほとんどノーヒントな為、

が山に残ってるようには思えない。
さらに佐藤の河は七対子が本線に見え、既にテンパイでもおかしくない。
弱気な私は闇テンにしてしまいそうだが、

曽木は勝負手はしっかりリーチする自身のスタイルを貫いた。

実際はこそ無いものの、ドラのは2枚生きていた。
そして最後の
をツモアガリ、追いかける石橋に親被りをさせる大きな跳満となった。

次局はここまで大人しかった佐藤が、

終盤に七対子の地獄単騎で曽木から直撃することに成功し、2番手に浮上。

その後しばらく均衡した状況が続いてる中、

溜まった供託と積み場をさらったのはトータルトップの石橋だった。

南2局2本場 供託2
ドラ


与えられた好配牌をお手本のような丁寧な手順でまとめ、6巡目リーチ。
そしてツモ

 

 ツモ


このアガリで、ラス目から一気にトップ目まで浮上する。

まだ14回戦とはいえ、これ以上石橋に離されると、今日で勝負が決まりかねない。

他3者としては、石橋トップだけはなんとしても阻止しなければならない…

この半荘、その石橋を捲ったのはここまで存在感の薄い佐藤。

南3局1本場


ドラ
14巡目

 

 ツモ


テンパイする有効牌の中では、最悪の部類に入るが、

巡目的にも手変わりを待つ余裕もなく、リーチを宣言する。

10回に1回もツモれる事は無さそうな待ちだが、

佐藤の意地と執念が最終手番でを引き寄せた!!

オーラスを向かえ
村上 23300
佐藤 34300
石橋 31900
曽木 30500

このままトップで終わりたい佐藤。
最低でも曽木より上の着順のまま終えたい石橋。
連荘して一気に石橋との差を詰めたい曽木。
満貫ツモって上位2人を沈めたい村上。

それぞれの思惑を胸に、配牌をとる。

ドラ
曽木 

村上 


佐藤 


石橋 


全員それなりにまとまってるが、村上と仕掛けの効く佐藤あたりが一番早そうか?
その村上がツモにも恵まれ、5巡目リーチと先制。

ドラ

 


このリーチがなかなかツモれず、終盤にテンパイを入れた曽木からの出アガリとなった。

裏ドラを捲るまでもなく、現状の3900で曽木のラスは確定。
裏ドラが一枚でも乗れば石橋を三着に沈められる為、

村上、佐藤はもちろんの事、放銃した曽木でさえ願っただろう。
「裏が乗れ!!」と。

注目の表示牌は
3者の願い虚しく、石橋の2着で14回戦が終了した。

14回戦終了時
石橋 +150.9(+11.9)
曽木 +51.1(△33.4)
佐藤 △100.9(+34.3)
村上 △101.1(△12.8)

15回戦(石橋・曽木・村上・佐藤)
まずは2連勝を目指す佐藤が、1300・2600をツモアガリの好スタート。
そろそろ自慢の爆発力が見られるか?と思いきや、

爆発したのは親番を向かえた曽木であった。
満貫以上は無いものの、着実にアガリを積み重ね、流局無しの5本場に。
築いた持ち点は58900点で、早くもこの半荘の勝負を決める。
5本場では、「もう勘弁してくれ」とでも言いたげな石橋が

1000点でかわすが、さらに3900を加点し、ついに60000点オーバー。

東4局 ドラ

この局も先手をとったのは曽木。
とことん畳み掛けにいく10巡目リーチ!!

 

このリーチに対し、ドラ暗刻の石橋がを叩いて真っ向勝負を挑む!!

 

 ポン


ここでの石橋の選択は是非若手選手には見習ってもらいたい。
現物の
切りは形を犠牲にしすぎるし、ソウズはかなり危険な牌に思える。
まずは比較的押しやすい
を選ぶ手もあるのだが、石橋の選択は打
この牌姿、アガリに賭けるなら打
しかないと言えるだろう。
理由はいくつかある。

・若干の方が押しやすいとはいえ、どちらも無筋である。
なら、単純に端に寄ってる方が優秀。
・リーチ者の河に
があるのに、誰も切っていない。これは山に残っている可能性が高い。

つまり待ちにするのが一番アガリやすい。
良い部分の形を決め、他のターツを厚く持ち最終形を
待ちになりやすくする。
石橋はすぐに
もポンも出来、目論み通りの待ちのテンパイ。
程なくして
ツモで2000・4000となる。
切りでもあがっている可能性はあったが、

強気な姿勢が実を結んだ1局と言えるだろう。

東場を終えて
石橋 34900
曽木 60800
村上 1000
佐藤 23300

南1局、親の石橋がわずか2巡目でイーシャンテン。
ドラ

 


村上からすぐに出る
をスルー。
ポンすれば連荘は約束されたようなものだが、

点棒状況的に1500を拾いに行くよりも、リーチやチャンタの可能性からの

打点アップを優先させた。
曽木を捲る気、満々である。
しかしツモってくる牌は不要な中張牌ばかりで、自身の河だけが派手になる。
しまいには村上に先手を取られると撤退を余儀なくされ、親を落とす。
結局この後は大きな動きもなく、細かい点棒の移動で終了。
曽木は石橋との差を50P以上詰め、本日の最終戦を迎える。

15回戦終了時
石橋 +164.3(+13.4)
曽木 +115.3(+64.2)
佐藤 △116.4(△15.5)
村上 △163.2(△62.1)

16回戦(佐藤・石橋・曽木・村上)
いよいよ本日の最終戦。
佐藤が石橋から1500という静かなスタートとなった。
最終日が残っているとはいえ、もう後が無いとも言える佐藤。
静かな立ち上がりとは対照的に彼の中の蒼い炎はメラメラと燃えているだろう。
彼の熱い思いに配牌も味方してくれたのか、次局は誰もが羨む好配牌。

ドラ


きっちりと4000オールに仕上げ、抜け出す。
出来るだけ大きなトップで上位を追走したい佐藤だが、

東2局に落とし穴が待っていた。

東2局 ドラ


佐藤、曽木のチンイツに飛び込むの図。
この曽木の仕掛けはちょっと恐そうではあるが、まだテンパイには見えない。
流石に仕方ない放銃だろう。
心が折れてもおかしくない佐藤だったが、

これ以降も加点して南2局を迎えた時点で50000点オーバー。
トータルトップでこの半荘ラス目の石橋が親番なので、

連荘を阻止してトップラスを決めておきたい。

南2局 ドラ


親の石橋のリーチは、状況的にもやむを得ない。
本人もアガリへの感触は薄いだろうし、押さえつけて親権維持できればOKだったはずである。
しかし目論みが外れる。
この親リーチに真っ向勝負を挑んだのはトップ目の佐藤だ。
宣言牌の中をポンして、ど無筋の六。

 

 ポン

ドラ暗刻の両面テンパイ。
これが石橋からのデバサイで、トップラスを決定付ける。

オーラスを迎え
村上 17400
佐藤 62400
石橋  4400
曽木 35800

ここまで沈黙を守っていた、現最高位の村上が粘りを見せる。
テンパイで連荘した1本場。
まずは曽木から2900は3200
ドラ八 裏ドラ

 

 ロン


2本場では、チーテンで曽木の待ち牌を喰い取り1000は1200オール。
ドラ
裏ドラ

 

  ツモ

そして3本場で2000は2300オールをツモと

20000点近い差があった曽木を逆転して、ついに2着に浮上

 

ドラ 裏ドラ

 

 ツモ


村上淳は熱い男だ。
最高位という立場に全く驕る事無く、

一番牌譜を見て研究していて、非常に真摯に麻雀に取り組む。
正に若手の手本となるべき存在と言って良い。
この粘りも、終始劣勢ながらも

最後まで決して諦めてはいけないという事を改めて教わった気がした。
結局村上の熱い思いが実り、2着で終了。
トータルプラスの2人を沈めて16回戦が終了した。

第4節16回戦終了時スコア
石橋 +108.4(△55.9)
曽木 +104.4(△10.9)
佐藤 △62.7(+53.7)
村上 △150.1(+13.1)

最終日は石橋、曽木の一騎討ちになりそうだが、

佐藤も直対で170P差なら可能性はある。
村上に関しては逆転が絶望的に近い差だが、

最後まで諦めない素晴らしい勝負を見せてくれるだろう。

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