コラム・観戦記

【36期B1リーグ最終節自戦記】武中 真

3月11日に発生した大震災により例年より2週間遅れての開幕となった今期B1リーグも、10月12日で無事最終節を迎えた。
 


毎年の事だが参加選手16名の中でAリーグへの来期挑戦権を手にすることができる昇級者は2名。
ちなみに近3年のB1リーグ優勝者を書き連ねてみると以下の様になる。
 
33期 村上 淳
34期 近藤 誠一
35期 曽木 達志
 
最高位戦に博識な方はすぐに気付くかもしれないが、この3名とも実はAリーグ経験者であり、陥落してからの返り咲き昇級を果てした形となる。
しかも村上と近藤はAリーグ陥落から僅か1年での圧勝劇。
 
周知の通り麻雀というゲームは実力と結果の隔たりが大きくなりやすい。
48半荘というリーグ戦の回数も実力通りに結果を収束させるための回数としては決して多いものではない。

 

それでも最高峰リーグで鎬を削ってきた経験を持つ選手が好成績を出しやすいのは、やはり単なる偶然だけではないのだろう。
 
さて、上述の様にここ数年先駆者達の貫録勝ちといった様相を呈していたB1リーグ戦線だが、今期は久々に2名の新規Aリーガーが誕生した。
 

 

まず2位昇級を決めたのは、山口まや

 山口 まや

 
来年で37期目を迎える最高位戦リーグ、その歴史の中で女流選手初となるAリーグへの権利を見事手中に収めた。
 
思えば10年前に女流最高位が発足して以降、山口まやの戦績は最高位戦の女流選手にとって、常に無人の野を行くものである様に思える。
 
女流最高位3連覇
女流モンド杯優勝との2冠
女流選手として初のB1リーグ昇級。
 
そして今期のAリーグ昇級。
特に今回の戦果は山口個人にとってだけではなく、最高位戦リーグで奮闘する後輩の女流選手にとっても大きな励みになるだろう。
 
いや、もはやその戦果は女流という枠内だけで表現されるべきものではないし、本人にとっても良しとするものではないのかもしれない。
 
最高峰リーグへ初挑戦となる来年。
持前の攻撃力をAリーグでも発揮し更なるステージへの進出を果たすのか、一選手として注目したい。
 
 
 
そして第36期B1リーグ、見事首位昇級を決めたのは坂本大志
最後の2節でポイントを約230伸ばす怒涛の追い上げ、最終戦オーラスで同卓の中嶋龍太を捲る条件を満たし見事逆転優勝を勝ち取った。
坂本 大志

 

 
最終結果が立会人によって発表され、坂本は涙をこらえきれず下を向いていた。

「またかよ、麻雀でよく泣く奴だなぁ。」
 
そう言ってからかう中でも、その胸に去来する様々な感情は計り難いものではない。
 
6年間続けてきた麻雀プロとしての努力の日々。
憧れ続けてきた最高峰のリーグでようやく打てるという感動。

そして追いかけ続けたライバルと同じリーグに辿り着いた達成感…。

坂本は31期前期入会、リーグ戦参加は今年で6年目。
周囲の選手と相対的に比べてリーグ戦の出世は早い方なのは違いないが、同期では既に今年Aリーグに籍を置く佐藤聖誠がいる。

入会当時から有望株と目されてきた二人は麻雀の勉強会を共に催し、同じ雀荘でも数年働き、切磋琢磨してきた。
自他共に認める良きライバルと言って良い。
 
タイトル戦では坂本は同期の中で最も結果を出してきた一方、リーグ戦では常に聖誠の背中を追い続ける日々が続いていた。
坂本は麻雀の勉強の為に数年前から神楽坂に引っ越し、Aリーグへ足繁く観戦に通っているのだが、今年その卓内で活躍する聖誠の姿を意識していなかったわけがないだろう。

名手に好敵手あり。

この2人がこれからAリーグでどんな戦いを見せてくるのか、期待せずにはいられない。

―36期B1リーグ最終結果
1 坂本 大志 296.2
2 山口 まや 281.6
(以上、2名がAリーグ昇級)
3 中嶋 龍太 266.9
4 清原 大 187.9
5 浅野 剛 146.0
6 新井 啓文 75.7
7 山内 雄史 16.9
8 冨澤 直貴 -41.0
9 谷口 竜 -66.8
10 嶋村 俊幸 -86.8
11 齋藤 敬輔 -129.4
12 武中 真 -137.8
(以下、4名がB2リーグ降級)
13 浅埜 一朗 -144.2
14 中村 英樹 -148.0
15 いわま すみえ -264.1
16 篠原 健治 -318.2

ちなみに私自身の成績について触れれば、この1年大きな見せ場も無く、常に降級ボーダー付近を迷走する苦戦が続いていた。

昇級争いと同様に降級争いも最終節の最終局までもつれ、結果は見ての通り紙一重の差で残留。
11位~14位までが1着順差という通期リーグでは稀にみる接戦であり、その中で最後に訪れた僅かな幸運により来年もこのB1リーグで闘える権利を手に残すことができた。

本当はこの1年間の苦しさや、最後残留を決めた闘牌くらいはこの自戦記に書き残しておこうとも思ったのだが…

打ち上げの席で自身の残留に安堵しながら酒を飲む中、隣で昇級へのお祝いの電話やメールの応対に明け暮れる坂本の姿があまりに羨ましく、正直その気が失せてしまった。

できれば来年は負け惜しみではなく…ここに勝ち自慢を記せる様な立場になりたいと願う。

たった一つ上なだけで別世界の様にさえ感じるAリーグだが、願わくばもう一度だけ同期の坂本や聖誠と戦えるステージへ自分の身を送りたい。

次なる戦いへ闘志の種火を静かに宿し、今年最後のリーグ戦会場を後にした。

文責:武中 真(文中敬称略)
 

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