最高位戦Classicは、最高位戦日本プロ麻雀協会(以下、最高位戦と表記)が主催するタイトル戦である。
ルールは第21期(1996年)まで採用されていた、旧最高位戦ルール(以下、Classicルールと表記)。
Classicルールの主な特徴は、「一発・裏ドラなし」「ノーテン罰符なし」「アガリ連荘」。
これらのルールの変化によって、どのようにゲーム性が変わるかについては、
第3期と第4期初日の決勝戦観戦記に詳しく触れられているので、そちらをご一読願いたい。
第3期最高位戦Classic決勝戦観戦記その1
第4期最高位戦Classic決勝1日目その1
さて、今回の決勝戦には、最高峰でもあるAリーグ所属の選手が不在である。
しかし、それだけで「地味」とか「レベルが低い」などと判断してはいけない。
今回の決勝戦の顔ぶれ、実はタダ者ではないのである。
それでは改めて、今回の決勝に進出した4人を紹介していこう(五十音順)。
宇野公介(最高位戦B2リーグ・20期入会)
かつては「最高位戦の若きプリンス」と呼ばれていた宇野。
最高位決定戦進出は実に4回。「オーラスでアガれば最高位」という経験もある。
同世代の選手と比べても、この実績は特筆ものだろう
(※参考…村上淳3回、佐藤崇2回、水巻渉1回)。
ちなみにタイトル戦決勝進出は8回目。今度こそ勝利の美酒を味わえるだろうか。
須藤泰久(最高位戦B2リーグ・20期入会)
前述の宇野と同期で、Aリーグ経験者である。最高位決定戦進出はない。
しかし、一発・裏ドラのないルールでは、更なる強さを発揮しており、王座戦決勝進出、
ミューM1カップ優勝2回などの実績がある。
ちなみに、最高位戦主催の決勝戦は初めて。
持ち前の打点力をこの決勝戦でも生かしたいところ。
三ヶ島幸助(最高位戦C1リーグ・32期前期入会)
最高位戦入会は4年前だが、競技選手としてのデビューは1993年。
以前は101競技連盟(以下、101と表記)に所属していた。
1996年には、第13期八翔位を獲得。
101のルールはClassicルールに近い。そのタイトル戦で優勝したのだから、
それだけでも実力がわかろうというもの。
それだけに私の周囲では、三ヶ島を本命と予想している者が少なくなかった。
その期待に応えられるか。
山田昌和(招待選手・元麻将連合所属)
現在は第一線を退いているが、以前は麻将連合のツアー選手として競技活動をしていた。
選手時代は、發王戦決勝進出、ミューカップ優勝1回などの実績を残した。
その後、全国チェーンの麻雀店「マーチャオ」の仕事が多忙になった為、
やむなく店舗運営に専念することとなった。
ちなみに今回のClassicには、招待選手として予選4組から参戦。
先日のビッグワンカップ決勝進出に引き続く、快進撃となった。
1回戦
起家から、須藤・三ヶ島・宇野・山田
東1局 ドラ
南家三ヶ島が第1ツモでドラがトイツになった。
ツモ
Classicルールは、裏ドラがなく、カンドラが増えない。
つまり、表ドラの比重が高くなるので、ドラ2枚持っていれば十分勝負手になるのである。
そして、真っ直ぐ攻めた三ヶ島、10巡目にピンフドラ2のテンパイ。
他の3人は対抗できず、そのまま流局。
Classicルールらしい、慎重な開局となった。
東3局2本場 ドラ
この局、初めて点棒の移動があった。
東家宇野。7巡目にドラを引いてこうなった。
ツモ
ここから打。
一部の若手選手から、
「Classicルールって、オリが重要だよね」
という声を耳にした。
もちろんそれも大事だが、それ以上に重要なものがある。
それは、「しっかり攻めること」。
Classicではゲームの性質上、アガリが少なくなる。
となると、1回のアガリで打点が稼げるチャンスがあれば、是非とも生かしたい。
相手の固い守りを突き破るには、しっかり攻めないといけないのである。
話は脱線した。
その後、宇野が11巡目に引いたのは。そして打。
このはどうか。
は2枚切れ。他家のメンツに組み込まれている可能性もありそう
(実際は三ヶ島がで持っているので、残り0枚)。
同じく2枚切れのはどうか。こちらは須藤がアタマにしていない限りは、山に生きていそう
(実際、残り2枚は生きている)。
私が宇野の立場ならば、胸が高鳴りが止まらないだろう。
しかし、宇野がツモの感触を味わう間もなく、西家須藤から「ツモ」の声がかかった。
400・700は600・900。これもClassicルールでよく見かける展開。須藤が見事に交わした。
ツモ
その後も交わし手の応酬で、南3局を迎えた。
南3局 ドラ
持ち点は以下の通り。
宇野29800 山田29700 須藤31400 三ヶ島29100
東家宇野が5巡目にテンパイ。
ツモ
切るのはもちろんなのだが、問題はリーチをするかどうか。
東1局、もしくはもう少し点差が広がっている状況であれば、リーチする一手だろう。
「巡目が早く、待ちも得点効率もよく、片方が役がない形」は、Classicルールにおいて
最もリーチしやすい形なのである。
しかし、もう一度全員の持ち点を確認してもらいたい。
リーチ棒を出した瞬間、宇野は2着目からラス目に落ちてしまうのである。
アガれればいいのだが、前述の通りClassicルールというのは著しくアガリ率が落ちる。
ということは、流局の可能性も高くなる。しかもノーテン罰符がないので、
アガれなかった時は「ラス転落」となってしまうのである。
順位点は、1着順につき8000点差(ちなみに現在の最高位戦ルールは1着順につき20000点差)。
つまり、今回のリーチ棒はただの1000点どころか、「1000点+16000点(2着順分)」のリスクが伴うのである。
もちろん、そのリスクを承知の上でリーチをする打ち手もいるだろうが。
宇野の選択はヤミテン。
その後、9巡目に南家山田からが出る。その同巡に北家三ヶ島が打。
宇野が待ち焦がれているが三ヶ島の好処理により、手が出せない。
しかし、まだまだチャンスは十分にある。
点差による山越しだと警戒される可能性もあるが、片アガリの山越しは意外と盲点になりやすいからである。これもまたClassicルールならでは、かもしれない。
14巡目、山田が。そして同巡に三ヶ島から打たれたのは、またもや。
三ヶ島の見事な処理を見て、宇野が「リーチだったか」と思ったかどうかは定かではないが、
内心は穏やかではないはず。
これが流局になったら辛いなぁ、と思っていたら、17巡目に山田がツモ切った牌は。
宇野の「ロン」の声に、山田が「なんでやねん」と言わんばかりに驚きの表情を見せる。
ロン
南4局2本場 ドラ
流局をはさんで、オーラスを迎えた。
山田25800 須藤31400 三ヶ島29100 宇野33700
テンパイ連荘ならば、「アガれなくとも、せめてテンパイで粘れれば」と望みを託すことができるが、Classicルールはその戦略が不可能である。
東家山田がやるべきことは、「とにかくアガる」、もしくは「一撃必殺」、最悪「小さいラスで終える」といったところだろう。
山田の4巡目。
ツモ
ここからの山田の一打は「セレブ打ち」の打。
「細かい連荘なんかいらんわ」という強い意志が感じられた。
その後、山田の意志に応えるがごとく、手牌がピンズにどんどん染まっていき、
9巡目には親マンテンパイになる。
次巡、ツモ打でに待ち変え。
しかし、山田よりも1巡早くテンパイしていたのが、トップ目の北家宇野。
そして、10巡目に引いてきたのが。
ちなみに、山田の捨て牌はこうなっている。(↓はツモ切り)
↓ ↓
手出しの後に、翻牌を連続で手出し。
それからピンズを2つ手出し。
よく読めば、ピンズは現物以外危ないことくらいは百も承知。
一色手と読んでいればテンパイ濃厚だろう。
しかし、アガればトップで自分はテンパイ。を通せば、くらいは拾えるかもしれない。
宇野の決断は、ツモ切り。
そして山田からの「ロン」の声。12000は12600で、トップとラスのどんでん返しとなった。
南4局3本場 ドラ
3巡目、3着目の西家三ヶ島がをポン。
三ヶ島は、300・500ツモ、須藤からの1000、他からの1600で2着。
がコーツになれば問題ないし、そうならずともツモアガリは無条件で2着浮上となる。
ラス目の北家宇野はどうか。ラスから抜けるには、1600・3200ツモ、三ヶ島からの3900、須藤からの5200、山田からの7700が必要。
そして、宇野が5巡目にテンパイを果たす。
ツモ
少考後、打でヤミテン。を引ければ、逆転のチャンスである。
しかし、その前にが出たらどうするのか。
小さいラスでもよしとしてアガるのか、それともあくまで着順アップを狙うのか。
宇野の回答は後者。
8巡目の南家須藤からの、10巡目の東家山田からのの見逃しも実らず、
10巡目に三ヶ島が宇野から1000は1900で終局。
ロン
ところで、三ヶ島のこのアガリ。
逆転2着の条件が結構あるにもかかわらず、3着のままで終局させた。
これは「相手の危険を察知してのもの」なのか。実際、須藤と宇野が5巡目にテンパイしている。
はたまた、「見逃して悪い結果になってしまった時に、流れが悪くなる事」を恐れたか。
後者の方が、「流れを意識する打ち手」三ヶ島らしいかもしれないが。
1回戦結果
山田20.4 須藤5.4 三ヶ島▲3.0 宇野▲22.8
2回戦
起家から、山田・三ヶ島・宇野・須藤
2回戦は全9局中、8局にアガリが出る、激しい戦いとなった。
とはいうものの、南3局までは大きな動きがなく、迎えたオーラス。
南4局 ドラ
持ち点は以下の通り。
須藤28600 山田30400 三ヶ島27200 宇野33800
東家須藤が好配牌。
そして、ツモも呼応して、10巡目にはこのイーシャンテン。
手牌もそうなのだが、何よりも捨て牌に偏りが少ない。(↓はツモ切り)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
13巡目、を引いて打。
同巡、山田も5200のテンパイを入れるも、
須藤がを引き当て、6000オール。
須藤は、手牌進行の速度を犠牲にする代わりに、とことん手役を追及する打ち筋である。
空振りも多いが、当たれば相手をKOさせる破壊力を持ち合わせている。
この局は運も味方したとはいえ、須藤らしい一撃が出たといえよう。
南4局1本場 ドラ
前局は須藤の強さについて述べたが、この局は逆に須藤の脆さが出た1局となった。
7巡目、3着目の南家山田がをポン。
ちなみに2着目の北家宇野との点差は3400。ラス目の西家三ヶ島とは3200差。
トップは遥か彼方となった状況でこのポン。
余程の事がない限り、山田の仕掛けは2着狙い、つまり「3900以上」と見るのが自然だろう。
8巡目、東家須藤がチーで応戦するのだが…。
確かに、須藤は山田に8000までは打ってもトップなので、一見リスクが少ないように見える。
しかし、Classicルールは、順位点が1着順につき8000点差。7700の1本場だと、
1着順分の順位点を損するのである。そう考えると、この形から山田に対抗するのはあまり見合っていないように思える。
結局、チーした次巡にスジのをツモ切って、7700は8000を献上することとなった。
まだ9巡目で、チーした以上は、スジくらいでオリていられないのは分かる。
しかし、須藤のスタイルを考えると、おそらくマンズとピンズの無スジだったとしても
1枚か2枚くらいは押していたのではなかろうか。
一方、山田が秀逸だったのは、ポンする前巡。
ツモ
ここからツモ切り。マンズのリャンカンを残したり、なんとなく内に寄せる打だと、
仕掛けた際の捨て牌の情報が少しわかりやすくなってしまう。
フリー麻雀店ならば、「読まれてもツモればいい」「相手もそこまで見てないだろう」ということで、
逆にやを選びそう。
しかしClassicルールでは、相手から点棒を引き出す工夫を時々やっておかないと、
どうしてもアガリ回数が少なくなってしまうのである。
この打が効いたかどうかは一概に言えないが、
少なくとも山田なりの工夫が見られた一局だった。
2半荘続けて、オーラストップ目から連対すら外した宇野。その心境やいかに。
精神的ダメージがなければいいのだが。
2回戦
須藤20.6 山田6.4 宇野▲6.2 三ヶ島▲20.8
2回戦までのトータル
山田26.8 須藤26.0 三ヶ島▲23.8 宇野▲29.0
3回戦
起家から、三ヶ島・須藤・宇野・山田
東3局1本場 ドラ
南家山田が2巡目にをポン。
そして6巡目のツモ切りに、「交わし手なんかにしてたまるか」
「ホンイツかトイトイにしてやる」という意志が伝わってきた。
7巡目、三ヶ島がをポン。三ヶ島が仕掛け返すのは珍しい。
三ヶ島を知っている者ならば、「好形テンパイ」もしくは「早くはないが高い」のどちらかだと思うはず。
ところで気になったのは、ポンした際の打牌選択である。
安全牌候補の2枚切れのを切って、東家宇野に対する無スジのが残っている。
を残して、手牌に役立つとは思えないのに、なぜか。理由は後ほど述べよう。
9巡目にを引いて、打。と待ちとなった。
ちなみに、三ヶ島の8巡目までの捨て牌はこう。(↓はツモ切り)
↓ ↓ ↓
ここからを手出し。
から待ち選択?がアンコになってトイトイ?
いずれにせよ、手出しがとても気になる。
そう、三ヶ島の残しの狙いは「誤情報作り」だったのである。
その後、須藤のアンカンで、三ヶ島の狙いは崩れてしまったが、
「点棒をもぎ取る工夫」が垣間見えた一打であった。
「これは誰かがをつかんで、3900かな」
と予想していたら、10巡目に宇野からリーチ。
しかし、宣言牌がドラの。
三ヶ島、望外の7700は8000の収入となった。
ちなみに宇野の手牌はこう。
あまり波風が立っていない状況であれば、「宇野らしい腹を括った攻め」で終わりなのだが、
今回は山田が先に仕掛けており、三ヶ島が仕掛け返している。
ここからのドラ切りは、「ポンで済め」と思った一打だろうか。
そうだとしても、リスクとリターンが見合っていない気がする。
2回戦までの展開の悪さが焦りを生んだのだろうか。
南2局1本場 ドラ
持ち点は以下の通り。
須藤31500 宇野22600 山田28600 三ヶ島37300
南家宇野が起死回生を狙って、11巡目にリーチ。
ソーズに寄せている山田、すでにオリに入っている三ヶ島からはどうせ出ない。
を引けば、トップに躍り出る。
リーチが少なくなるClassicルールにおいて、
「安目でも得点効率が悪くなく、高目ツモだとハネ満に跳ね上がるリーチ」は、
こういう場面では有効である。
そこに、東家須藤からもリーチが入る。
確かに、「ツモればハネ満になる」「どうせ最後まで押すなら、アガった時に1翻でも増やしたい」
というリターンの可能性はある。
しかし、筆者の場合は「待ちが良くない」「リーチしなくても十分な収入」
「残り1~2巡なら、場合によってはオリる」「流局や相手にアガられたら1000点損する」
ということを考えてしまい、とてもリーチできない。
結局、須藤がをつかみ、宇野に3900は4200+リーチ棒を献上し、
しかもリーチ棒を出した分だけラス目に落ちてしまった。
その後は、そのままオーラスまで流局。須藤、手痛いラスとなってしまった。
須藤の基本戦略は「ハイリスク・ハイリターン」である。この半荘に関しては、悪い結果となった。
しかし、これを実践できる打ち手に対しては、違う恐ろしさを感じてしまう。
もしも先にがいたら、須藤が独走する展開になっている可能性が高いのだから。
3回戦
三ヶ島19.3 山田2.6 宇野▲6.2 須藤▲15.7
3回戦までのトータル
山田29.4 須藤10.3 三ヶ島▲4.5 宇野▲35.2
4回戦
起家から、山田・宇野・須藤・三ヶ島
南1局 ドラ
持ち点は以下の通り。
山田28400 宇野31600 須藤30800 三ヶ島29200
東家山田が11巡目リーチ。
「役なし・ドラ2・好形」と三拍子揃った、Classicルールで一番かけやすいリーチである。
次巡、あっさりをツモって、3900オール。
この時点で山にはまだ5枚も生きていた。このまま山田が独走する展開となるのだろうか。
南3局1本場 ドラ
持ち点は以下の通り。
須藤28800 三ヶ島25300 山田38200 宇野27700
東家須藤がリーチ。
問題はそれが「17巡目」であること。残されたツモはわずか1回。
数々のリスクよりも、「リーチしないで2000オールだと2着のままだが、3900オールならトップ目に立てる」ことを優先させた決断である。確かにトップ目はトーナメントリーダーの山田なので、こういう決断はありなのだろう。
結果は、流局。須藤が出した1000点棒を残して、オーラスを迎えることなった。
南4局2本場 ドラ
西家宇野が、本日初連対となるアガリで締めくくった。
ツモ
4回戦
山田19.5 宇野5.3 須藤▲6.9 三ヶ島▲17.9
4回戦までのトータル
山田48.9 須藤3.4 三ヶ島▲22.4 宇野▲29.9
5回戦
起家から、三ヶ島・山田・宇野・須藤
東1局 ドラ
ここまで内容の割にはスコアに恵まれない三ヶ島。
一日中、流れが来ないまま終わってしまうのか。
東家三ヶ島の2巡目。
ツモ
自分の都合だけならば切りで問題ないのだが、西家宇野が第1打のツモ切りを見て、
手牌を少しスリムにしておきたい気持ちがあったのだろう。
だとすると、マンズを厚く持って、ソーズのリャンメン固定の打、
メンツを作るだけならばロスが少ない打もありそうだが、三ヶ島の選択は打。
下の三色とからのマンズの上でもう1メンツを作ることも想定しておく一打である。
4巡目、三ヶ島が少考。
ツモ
連続形を生かして、ソーズを整理しておくのも面白いかと思ったが、
ここはイーシャンテン維持の打とした。
5巡目も難しい。
ツモ
少考した後、打。345の三色に標準を合わせる。
そして10巡目にを引いて、打。タンヤオ・三色の7700テンパイ。
すぐに北家須藤からがこぼれてきた。
三ヶ島、見事にパズルを解いてみせた。本人も手応えを感じたはずであろう。
東3局1本場 ドラ
三ヶ島が4巡目にリーチ。
微差とはいえトップ目。しかし「得点効率が良い、巡目が早い、リャンメン待ち」という、
リーチに踏み切る材料が十分ある。
さらに付け加えれば、東1局の会心のアガリで、自分に追い風が来ていると感じているのであろう。
ちなみに、この時点では、山に6枚残っている。
しかし、もしも「流れ」というものがあるとするならば、一番流れがいいように見えるのは、
間違いなく北家山田であろう。それを証明するかのように、三ヶ島のリーチを蹴散らした。
ツモ
1000・2000は1100・2100に、三ヶ島からのリーチ棒の収入。このまま山田が突っ走るか。
しかし、南場に入ってすぐ、この日一日のハイライトとも言えるような「事件」が起こった。
南1局1本場供託1000点 ドラ
東家三ヶ島が配牌からドラがトイツ。
ここから打。2巡目のツモで打。
一気にマンズに寄せるが、7巡目まで1枚もマンズが来ない。
山田追撃のチャンスがつぶれてしまうのか。
8巡目に西家宇野が切ったをポンして、ようやくイーシャンテン。
三ヶ島が苦しむ一方、役なしとはいえ、4巡目にテンパイを入れていたのが、北家須藤。
早くと振り替えたいところだろう。そうなると、待ちは結構アガリが期待できそう。
しかし、振り替わる前にをツモってしまった。
300・500に1本場と供託1000点という収入は不満だろうが、
三ヶ島のマンズ一色手が成就するよりはマシである。
ところが須藤の様子がおかしい。
「ツモ」の発声をするどころか、10秒近くも固まっている。まさか?
その後、を手牌につけた。これは?
そして、意を決したようにを摘み、「リーチ」と宣言した。
そう、その「まさか」のアガラズフリテンリーチである。
リーチ宣言牌を下家の三ヶ島が喜んでチーして、打。
須藤が願うはいないものの、実はが3枚残っている。安目とはいえ、
三ヶ島に仕掛けられては、さすがの須藤でもアガる…、と思う。
三ヶ島は当然、一歩も引かない。リーチ宣言の気分だろう。
ハイテイ1つ前に須藤がをツモ切る。
切っていれば…、と思うまもなく、三ヶ島の手番。
そして、三ヶ島が大音量で「ツモ」の発声。
倒牌する手が、大きく震えていた。
6000は6100オールと供託2000点。
須藤に代わって、ようやく「打倒山田」に名乗りを挙げることができた。
さて、その場面を作った須藤なのであるが。
マンズ一色に寄せている親に対し、マンズ待ちで高めツモでやっと2000・4000のフリテンリーチ。
百歩譲ったとしても、せめて誰も寄せていない他の色の待ちでリーチをしたいところ。
須藤の「ハイリスク・ハイリターン」は終始一貫していたとはいえ、
この局に関してはやりすぎの感が否めない。
その後、須藤だけでなく、トータル4番手の宇野までもが、闇雲な攻めを何度も見せるものの、
上位2人の牙城を崩すに至らず。
5回戦、そして決勝戦初日を終えた。
5回戦
三ヶ島33.0 山田6.0 宇野▲14.4 須藤▲24.6
決勝戦初日終了時点
山田54.9 三ヶ島10.6 須藤▲21.2 宇野▲44.3
目を見張ったのは、山田と三ヶ島の抜群の安定感である。
山田は、麻将連合所属選手時代は、攻撃力がある反面、脆さも同居しているような印象があった。
しかし、選手活動を退いてから、心にゆとりができたのが、好影響を与えているようである。
なんとも皮肉ではあるが、2日目もこの戦いができれば、優勝は目の前であろう。
そして三ヶ島。戦前の予想では、「攻めがキツイ」印象があったが、自分が攻める展開が少なかったため、終始苦しい戦いを強いられていた。
しかし、決して多いとはいえないチャンスをしっかり生かした戦いぶりはさすがである。
一方、マイナスを背負って2日目を迎えることとなった、須藤と宇野。
須藤のハイリスク・ハイリターン作戦は、初日に限って言えば、マイナスに働くことが多かった。
しかし、戦う相手からしてみれば、一撃で展開を変える可能性がある打ち手というのは、何だかんだ言って怖い。
宇野も準決勝最終日に見せた、怒涛の追い上げがあれば、まだまだわからない。
ポイント的には山田有利ではあるが、生半可な相手ではないのは間違いない。
最終日も、最後まで目を離せない展開になるだろう。
文責 下出 和洋(麻将連合)