コラム・観戦記

【第35期最高位決定戦・最終日観戦記】

いよいよ最終日の闘いが始まった

佐藤  +73.7
水巻  ▲6.6
村上  ▲16.8
飯田  ▲53.3

 泣いても笑っても残り半荘4回
 <最高位>の頂きが決まるまでの激闘をお届けしよう

 ≪譜 17回戦 東1局≫ ←牌譜はこちら

 

 11巡目、ゲーム開始後初めての発声をした「リーチ!!」。開局直後の親リーは効果絶大であり、しかも最終日ゆえ、よほどの手組みになってないと前に出ていけない。そう読んでのリーチなのか、テンパイが入ったから素直に従ったのかはわからないが、村上の麻雀観からは当然のリーチ策に思えた。
 そして同巡の佐藤の手牌

 生牌のをツモってこの形になる。は村上が切っていて、ドラのは生牌。
 ここから佐藤は安全牌のを打っていき、次巡を引いてイーシャンテンになる。

 更にと引き、15巡目にを引き入れテンパイを果たす

 ところが同巡、タイミングよくリーチの村上がを河に並べてくれたおかげで、佐藤はリーチに通っていないを切らず、イーシャンテン戻しの切りとしている
 の裏筋にかかっていることも自重させた要因のひとつだろうが、何より最終日初戦の開局から親リーに飛び込む愚挙は犯したくない、その気持ちがテンパイをとらなかった最大の理由だったのではないだろうか。
 私にもたくさんの失敗がある。大きな舞台になればなるほど犯しやすい失敗例が、この佐藤と同じリスク回避打法で、ほとんどの場合、最終日の初戦に起こってしまう。
 何度苦い思いをしたかわからない。
 押していればアガっていて失敗したわけじゃない。押してもアガれないような形の時に起きるからタチが悪いし、踏み込み切れないのである。なぜなら、ハイリスクに思えてしまうからである。
 だから佐藤がいま通ったばかりのを合わせて打ち、再ローリングした心の内がよくわかる。そして次巡再び一度抑えたが通り、運良くテンパイが復活したにもかかわらず、最終ツモでを引くとを中抜きしてしまうが、その気持ちも痛いほどわかる。
 何度も何度もこういう舞台で失敗しているからわかるのだが、15巡目にを切る強さが無いと頂きには辿り着けないものなのである。ましてや最終巡にをツモ切りできないようでは、大勝負に勝ち切れる腹構えになっていないのである。
 この観戦記を目にしている多くのプロたちが疑問を呈することは百も承知で書いている。何切るの話であれば、賛否両論、喧々囂々、口角泡吹き飛ばす激論があってもいいが、勝負の話はまた別物である。
 佐藤にも異論や反論があろうかと思うが、金子が3日目12回戦東1局の飯田の第1打牌を見て、「三連覇は無い」と看破したように、佐藤が最高位になれなかった大きな要因は、この開局の腹構えにあったと思う。

 〔東1局1本場〕  親・村上
 流局。飯田1人テンパイ

 〔東2局2本場〕  親・水巻
 流局。水巻・村上テンパイ

 〔東2局3本場〕  親・水巻
 流局。水巻・飯田テンパイ。飯田8巡目にリーチのみ(待ち)不発。

 〔東2局4本場〕  親・水巻
 村上、リーチ・一発ツモ・裏1の効率極まりないマンガンツモ。2000・4000

 ≪譜 17回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら


 前局の余勢と言うべきか、佐藤の守勢と言うべきか、この結果は偶然ではない。心の構えの差が出た1局なのである。
 親になるとサイコロを振る。つまらない話かもしれないが、勝負の場においてそこで振られる<目>は重要な意味を持つ。大勝負であれば尚更だ。
 どんな勝負事でもそうであるが、心が弱まったり守勢に回ると、比例して弱い<目>が出る。これは鉄則と言ってもいい。
 大事に打とうとすればするほど、弱い<目>が出て、一見すると不運な出来事が起きて悲劇の主人公になっていくのである。
 今局佐藤が振った<目>は8。べつに私は8が良くない<目>と言っているのではなく、悪い<目>を振ってしまった佐藤の心の在りようを問うているだけのこと。
 この放銃を見たとき、開局時の佐藤に抱いた危惧が的中し、「南無阿弥陀仏・・・」と心の中で拝んでしまったのだった。

 ≪譜 17回戦 東4局≫ ←牌譜はこちら


 前局のWリーハネ満和了に相当気を良くした村上がカブセリーチをかける。
 イーペーコー出来合いのタンヤオ・ドラ雀頭リーチ。こうなると待ちの良し悪しではないらしいが・・・村上8巡目の一打が問題。をツモって手牌はこうなる

 ここから村上は生牌のを切っているが、1枚切れのでも良かったような気がする。なぜかと言うと、親飯田の変則捨て牌から、字牌が手の内にありそうであることと、自分の手牌にイーペーコーが完成していたからである。
 イーペーコーが完成したり、もうひとつ埋まれば完成するような手牌を抱えている時、ひとつのシステムとして覚えておけば得する話をひとつしておく。
 テンパイがリャンメンになったら極力ヤミテンが良く、タンキやシャンポンはノータイムでリーチしたほうがアガり易い。カンチャンとペンチャンに関しては、ややペンチャンのほうが分がある。
 またいい加減な話をして・・・とシャットアウトされるのは自由だが、イーペーコー役が手牌に現れたら、<場>はトイツやコーツに偏りやすい形になる。だから、カンチャンにとるくらいならシャンポンにしたほうがいいし、極端な話、リャンメンにとらずにタンキやシャンポンにしたほうがアガり易くなるのである。
 以上の理由で、8巡目には1枚切れのを切って、重ねることを目的にしてを残す打ち方を見せて欲しかったのである。
 そう打っていると、場に合わせながらトイツ系の手筋で打つはずなので、11巡目にはこの形でリーチをかけられる

 そうなると、親の飯田の待ちがの2枚、村上の待ちが4枚オール生きという、双方<場>の偏りに見合った対決となり、勢いと枚数の差で村上に軍配が挙がったのである。(飯田痛恨の倍満放銃となっていた)
 この最終日は、別フロアが観戦フロアになっていて、モニターで同時に全選手の手牌が眺められる画期的な趣向が取り入れられていていた。そしてゲスト解説に『天牌』でお馴染みの原作者来賀友志さんを招いて、より一層楽しめる仕掛けが施されていた。
 この飯田のツモり四暗刻テンパイが入ったとき、村上の空テンがわかっていた観戦フロアは、メモリが弾けるくらいヒートアップしていたのではないだろうか。
 私は対局室内、それも飯田の真後ろでこのテンパイを見ていたのだが、いかにもツモりそうなオーラが飯田から出ていたので、思わず丸まっていた背筋がピーンと伸びてしまい、対局者に悟られなかったか心配になった。
 この親満直撃で飯田は好調村上と一気に並んだのだが、飯田の心中は観戦フロアと一緒で、「ツモりたかったな」という思いで溢れていたことだろう。

 〔東4局1本場〕  親・飯田
 飯田の先制リーチに佐藤が渾身の追いかけリーチをし、一発でツモる。
 1300・2600

〔南1局〕  親・村上
流局。村上1人テンパイ

〔南1局1本場〕  親・村上
 流局。村上1人テンパイ。9巡目にカン4mドラ1リーチを村上がかけ不発に終わる

〔南1局2本場〕  親・村上
 リーチ・白を飯田から召し捕る村上。3900

〔南1局3本場〕  親・村上
 東ポンのみを佐藤から召し捕る村上。1500

〔南1局4本場〕  親・村上
 飯田リーチ・ツモ。500・1000でようやく流す

〔南2局〕  親・水巻
 流局。飯田1人テンパイ。9巡目にカンのドラ待ちカンチャンリーチ
を打つも不発

≪譜 17回戦 南3局1本場≫ ←牌譜はこちら


村上、飯田のリーチを受けて動く

全攻態勢で動いたのかなと思いきや、10巡目のテンパイ牌はチーしない村上。チーしてしまうと手牌はのシャンポンになり、押し切れる形でないと踏んで、待ちが残るテンパイ以外は、二の脚を効かせる仕掛けは入れるつもりはなかったのか。
リーチがかかっている最中の仕掛けはとても難しいものがあるが、をチーして再度を喰い下げて凌ぎを打っていく村上の妙技を見てみたかった。
この倍満ツモで大魔神が闊歩し出すのか、ワクワク感いっぱいの和了劇であったし、<南無阿弥陀仏>状態の佐藤にとっては、息の根が止まりそうなだったに違いない。

〔オーラス〕  親・飯田
イーペーコー・ドラ1を水巻からアガる。3900

 ≪17回戦 オーラス≫ ←牌譜はこちら

 親リーを受けた10巡目。村上の手牌はこうなっていた

 前巡、を中抜きしてやめていたので、飯田が河に並べたに声をかけることは出来なかった。ところがスルーした直後にカンが埋まり、同巡佐藤から出ると今度はポンと出かけている

  ポン

 がフリテンでこの手組み。しかも1枚切れのが打てずにを中抜きしている身。誰がどう見ても半端な仕掛けに映るが、ま、このあたりがB型らしい瞬間芸なのだろう。
 村上には「違う違う」とオーバーアクションされそうだが(これも共通の特徴か)、私もこういう半端な仕掛けで墓穴を掘ることが多いのでよくわかる。
 この村上の動きにより、飯田は裏ドラを2つ乗せた4000オールをモノにする。これはいよいよ大魔神見参の舞台が整ったようだ。

 〔オーラス2本場〕  親・飯田
 流局。村上1人テンパイ。14巡目に村上が<リーチ・ピンフ・チャンタ・三色・ドラ1>という祝文の長い待ち(高目1s)でリーチをかけるが、そのは配牌時に飯田と佐藤にトイツで組み込まれており、<絵に描いた餅>リーチであった。

 17回戦が終わって

飯田  +16.8
佐藤  +11.3
村上  +7.3
水巻  ▲39.4

 となり、いよいよもって大混戦。18回戦で水巻が奮起すれば、最高位のゆくえは全くわからなくなる。そして大魔神は本当に動き出すのか。ワクワク感いっぱいの18回戦の幕が開こうとしている。

 ≪譜 18回戦 東1局≫ ←牌譜はこちら

 懸命に各選手とも打っている。結果として村上がマンガンをモノにするのだが、開局早々の激しいバトルに、横一線に並んだ背景がものの見事に現われている。
 さて、飯田はこの放銃牌にどんな想いを抱いたのだろうか

 〔東2局〕  親・佐藤
 流局。水巻1人ノーテン。13巡目飯田リーチ(リーチ・ドラ1)

 〔東2局1本場〕  親・佐藤
 佐藤が飯田から、ピンフをアガる。1500

 〔東2局2本場〕  親・佐藤
 佐藤が水巻から、ポンのみをアガる。2000

 ≪譜 18回戦 東2局3本場≫ ←牌譜はこちら

 村上が見事なハネ満をツモっている。
 生牌のを勝負して地獄ので待つ村上の判断も素晴らしいが、佐藤の字牌処理手順も見事である。
 自身のワンズ一色模様の仕掛けに対し、一歩も引かない構えを見せる村上と飯田。この両者の捨て牌に字牌の匂いを感じ、より先にを打ち出し、間一髪ハネ満放銃を避けた鼻の良さが佐藤の優れているところである。
 受けている時は鼻が効かなかったらただのボンクラであるが、攻めている時にも受けの鼻を効かせられるのは才能のひとつである。
 努力しようと思ってもなかなか身につくものではなく、そういう意味においても佐藤は、一流の打ち手ということになる。

 〔東3局〕  親・水巻
 ピンフを飯田から水巻がアガる。1500

 ≪譜 18回戦 東3局1本場≫ ←牌譜はこちら

 いったいどうしたと言うのだろう。
 9巡目までにドラを3枚河に並べてしまった飯田が、まるで放心状態になってるかのように、親リーに一発で飛び込んでいる。
 仕方ないで済む話であればいいのだが、今決定戦の飯田は淡泊な放銃が多い。とくに、前回戦で大量点を叩き出したケースが多い。
 <えっ?!>と<またもや>が交錯するような放銃劇で、飯田の三連覇に黄信号が灯った1局であった。

 〔東3局2本場〕  親・水巻
 南のみを村上が水巻からアガる。1000

 〔東4局〕  親・村上
 8巡目に村上が待ちピンフでリーチをかけツモアガる。
 1300オール

 〔東4局1本場〕  親・村上
 6巡目に村上がピンフ・ドラ1、待ちでリーチをかけツモアガる。
 2600オール

 〔東4局2本場〕  親・村上
 9巡目に村上がリーチのみカン待ちをかけ、飯田からアガる。2000

 〔東4局3本場〕  親・村上
 流局。水巻1人テンパイ

 〔南1局4本場〕  親・飯田
 流局。飯田1人テンパイ。12巡目にリーチのみを飯田がかけている。

 〔南1局5本場〕  親・飯田
 15巡目、飯田タンヤオでリーチをかけ、一発でツモアガる。
 4000オール

 〔南1局6本場〕  親・飯田
 流局。佐藤1人ノーテン。

 〔南1局7本場〕  親・飯田
 水巻9巡目にタンヤオ・ピンフ待ちでリーチをかけてツモる。
 裏がひとつ乗って、2000・4000

 〔南2局〕  親・佐藤
 西のみを佐藤からアガる村上。1000

 〔南3局〕  親・水巻
 流局。飯田1人テンパイ。7巡目にピンフドラ1リーチを飯田がかけている。

 ≪譜 18回戦 オーラス1本場≫ ←牌譜はこちら

 ダントツの村上から、ラス争いしている佐藤が一矢報いた譜。
 それにしても村上の放銃シーンは心地よいものがある。彼の人間力なのだろうが、和了した側にも、傍観者たちにも心地よい空気を吹き込む力がある。プロ界には珍しい男である。選手たちの目標になる打ち手として、本当に良い宝を最高位戦は持っているように思う。

 最終日の2戦を終えて、並びはガラリと一変した。

村上  +60.7
佐藤  ▲9.3
水巻  ▲22.5
飯田  ▲32.9

 なんと村上の1人浮きという図式になった。2日目が終わって、首位を走る佐藤と300P余り離されていて、4日目の2戦終了時でさえ、首位の佐藤と160P近く離されていた男が、残り2戦で佐藤に70P近く差をつけて首位に立っているのである。
 そして・・・三冠の足音が近づいてきた。

 ≪譜 19回戦 東1局≫ ←牌譜はこちら

 ≪譜 19回戦 東1局1本場≫ ←牌譜はこちら

 飯田と村上の物凄いぶつかり合いで回戦の幕は開いた。
 開局のこの村上のリーチ。親が飯田ということを考えれば、反撃されるのは目に見えている10巡目。並の打ち手なら慎重にヤミに構えるところだが、村上は喧嘩を売った。
 そして当然のことながら、その喧嘩を買って追いかけリーチし、一発でツモって村上に息を飲ませる大魔神。こういう殴り合いになると、ボクサー出身の飯田はとことん強い。また、そういう闘いを望みながらこの決定戦を打ってきたフシがある。
 「オマエらのパンチはどんなものよ!」と。
 そして、村上が再度飯田に殴りかかる。
 「オマエ、ホントにいいパンチ持ってるよな!」と思わせてしまうような1sツモ。
 村上も喧嘩が強いんだ。私は嬉しくなった。

 ≪譜 19回戦 東2局≫ ←牌譜はこちら

 村上5巡目の手牌をご覧いただきたい

 ここから村上は珍しくを切らずにを切っていくのだが、これが大変なエラーになる。
 次巡を引いてくるが、を打っていれば切りで何も問題ない。そして次巡がアンコになり、ツモり四暗刻のイーシャンテンとなる。

 そして慎重にドラを温存しを切っておけば、9巡目にが入りテンパイになっている。もちろん村上は「リーチ!」と声高らかに宣言するだろう。
 その時の下家飯田の手牌はこう。

 売られた喧嘩は買う飯田が、このドラをチーする確率は高いが、もし我慢してしまうようだと、村上は14巡目にをツモって四暗刻を成就させている。
 タラレバの話は無意味なのはわかっているが、村上のと發の後先に一抹の不安を感じたのは事実である。

 ≪譜 19回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら

 ≪譜 19回戦 東4局≫ ←牌譜はこちら

 ≪譜 19回戦 東4局1本場≫ ←牌譜はこちら

 一抹の不安?そんなものこの三連発和了で吹き飛んでしまっただろ、と村上に見下されてしまいそうな和了譜をとくとご覧あれ。
 一緒に卓を囲んでいたら、一発目のドラ表示牌ペンツモでクラッとくる。そして二発目の、3メン待ちだろうがリャンメンだろうが、どちらの選択でもアガっている形を見てクラックラッときてしまう。そして三発目。恐らく佐藤も私と同じ精神状態だったのだろう。クラックラッときているところに望外のドラカンチャンが埋まり、エイヤッとをポンさせ、ツモってきた牌がアンコ筋の。いつもの鋭い嗅覚が壊されていた佐藤は、手出しの意味を深く考えず、ドラの早切りを頼りに放銃してしまったのだろう。
 こうなるともうパンチドランカー状態に陥るのは当然で、水巻と共に奈落の底に沈んでいくのであった。

 〔東4局2本場〕  親・村上
 流局。村上・飯田2人テンパイ。
 10巡目村上がカンタンヤオリーチ、12巡目に飯田がドラドラカン追いかけリーチと壮絶な火花が散るが痛み分けとなる。

 〔東4局3本場〕  親・村上
 流局。飯田・佐藤の2人テンパイ。
 12巡目佐藤がカンドラ1リーチを打ち、14巡目に飯田が高目で三色のピンフ待ちリーチを打つが、親村上の位置エネルギーが高く、両者ツモれずの巻。

 〔南1局4本場〕  親・飯田
 飯田東をポンして700オールの連荘

 〔南1局5本場〕  親・飯田
 飯田發ポンの1500を佐藤から召し捕る

 〔南1局6本場〕  親・飯田
 16巡目に七対子待ちをテンパイした飯田が次巡即をツモって1600オール

 〔南1局7本場〕  親・飯田
 佐藤、粉骨砕身の喰いタンをツモり300・500

 〔南2局〕  親・佐藤
 發ポンのみの700オール

 〔南2局1本場〕  親・佐藤
 流局。飯田・水巻の2人テンパイ。9巡目にドラ1リーチを水巻がかけるも(待ち)不発

〔南3局2本場〕  親・水巻
 村上が佐藤からピンフをアガる。1000

 〔オーラス〕  親・村上
 飯田57000、村上48600というマッチレースで迎えたオーラス。さて村上が捲るのか?と見ていたら、4巡目に村上の切ったを飯田がポン。そして待ちでテンパイしている。7巡目にあっさりをツモり、チャンタ・發の500・1000で締めくくる大魔神の矛先には、しっかりと村上の姿が映し出されでいた。

 いよいよ残るは半荘1回。
 運命の並びは次のようになった。

村上  +88.3
飯田  +26.1
佐藤  ▲39.1
水巻  ▲79.3

 村上を捲る飯田の優勝条件は

飯田トップ→村上2着  42200点差をつける
飯田2着 →村上3着      〃
飯田3着 →村上ラス      〃
飯田トップ→村上3着  22200点差をつける
飯田2着 →村上ラス      〃
飯田トップ→村上ラス  2200点差をつける

 トップ→ラス条件はかなり期待薄なので、現実的には2万点以上の差をつけることがテーマになり、並びはその差がついてから考えればいい。
 飯田が起家を引き、村上が北家となった。この時点で村上はずいぶん気が楽になったことだろう。反対に北家を飯田に持っていかれたら、最終戦に臨むプレッシャーは倍化していたように思う。

 ≪譜 20回戦 東1局≫ ←牌譜はこちら

 村上が9巡目にリーチを打った。
 そのときの飯田の手牌がこれ

 七対子のイーシャンテンである。
 もし・・・はタブーではあるが、飯田が配牌時に字牌の並びを見て何かを感じソーズに寄せていたらこうなっていた。

 飯田にとっては辛すぎる流局となった。

 ≪譜 20回戦 東2局1本場≫ ←牌譜はこちら

 圧巻の4巡目リーチ。
 ヤミテンでマンガンある手を躊躇なくリーチに踏み切った村上に乾杯したい気持ちになった。素晴らしい決断である。
 勝負を決めにいくリーチは不発に終わるケースが少なくない。そして不発に終わった後は待ち受ける難行苦行の道を村上は知らないはずがない。にもかかわらず、腹を括って「リーチ!」と言える村上は凄い打ち手である。
 摸打・発声・点棒授受に潔さが溢れ出ている。
 このハネ満ツモで<第35期最高位>が決まり、日本オープン・最高位戦クラシックに続く≪三冠王≫が誕生したのである。
 飯田がチーテンを入れて勝負に出たためにツモられた形になっているが、『逆もまた真なり』であって、勝負の在りかたとしては、何百回同じ場面を迎えても、飯田はチーテンにとるだろう。
 この表裏一体のチーによってもたらされる結果を受けとめていく勝負師飯田の表情に、ある種の感銘を受けたのは私だけではなかったと思う。

 ≪譜 20回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら

 飯田にとっては虚しいアガりだったろう。このマンガン和了で村上との差は詰まったが、たとえ村上を交わしたとしても、村上の2着は安泰であり、更に4万点差以上の差をつけるという途方もない作業が待っているからである。
 まだ親番がひとつ残っているから・・・と考えるほど飯田は傲った打ち手ではない。
 東2局の村上がツモり上げたを見た瞬間、勝負の趨勢に結着がついたことを悟っていたわけで、幾多の逆転劇を積み重ねてきた男だからこそ、その見立てに狂いがないのである。

 〔東4局〕  親・村上
 流局。飯田・佐藤の2人テンパイ。
 8巡目に佐藤がドラのシャンポンタンヤオリーチを打ち、15巡目に七対子ドラ2の飯田が佐藤のアンコ牌タンキで追いかけるも、当然の流局。

 〔南1局1本場〕  親・飯田
 6巡目という速さで、村上が佐藤からタンヤオのみを召し捕り(1300)、飯田の親が落ち事実上の幕切れとなる。

 〔南2局〕  親・水巻
 8巡目に南アンコの村上が飯田からアガる(仕掛けをふとつ入れていたので1000)

〔南3局〕  親・佐藤
 發をポンしていた佐藤が、ドラ1の手を水巻からアガる。2900

〔南3局1本場〕  親・佐藤
 流局。水巻の1人テンパイ。

 ≪第35期最高位決定戦 最終局≫ ←牌譜はこちら

 飯田が役満をツモると、持ち点が65000になり、村上の持ち点は31200になるが、4万点差以上つかないため、飯田の優勝条件は、この局村上から役満を直撃するのみ。
 万にひとつもない出来事が起きるはずもなく、水巻の哀しげなリーチ棒が卓上に置かれたまま終幕した。

 序盤から中盤にかけて、華麗な逃げを打った佐藤。敗因は距離が長かったからではない。
 最高位の頂きに就くにはまだ早かっただけのこと。器量は抜群なのだから、正論を考えるのではなく、表裏一体の構造をもっともっと考えて欲しい。そして、血の気の逸りをコントロールできるよう、読書量を増やしてみてはどうだろうか。

 麻雀センス抜群の水巻については、初戦から最終戦まで、その一貫性のある打ち筋には目を見張るものがあった。そして随所々でしっかりしたゲームプランを垣間見ることも出来た。
 ただ、あまりにも優等生すぎて、打ち筋に怖さが無かったのも事実である。速い球と重い球の配分を変えたほうがいいように思う。
 水巻の描くゲームプランの中で、アガれなくてもいいから、もう少し重い球が繰り出されるようになれば、相当な確率で<最高位>の座に就けるのではないだろうか。

 飯田永世最高位にはかける言葉が無い。
 決定戦に出られないのではないか、そんな情報が駆け巡った秋口あたりから、よくぞこの長丁場を戦い抜く体に戻したものだと敬服している。
 しかも、半荘4回に7~8時間要する大勝負の舞台で、チャレンジしてきた最高位戦屈指のイキのいい若手3人相手に、1ミリも下がることなく最終戦までファイトし続けられた精神の強靭さに平伏する思いである。
 ありとあらゆる褒め言葉を並べても足りないのだが、「よいものを見せていただきました。心から感謝申しあげます。ありがとう、飯田さん」と記すのが精一杯である。
 どうかゆっくり御静養されて、また決定戦の舞台で大魔神と化して下さい。

 悲願の優勝を果たし、と同時にプロなら誰しもが夢描く三冠の偉業を成し遂げ、<村上淳ここにあり>を世に知らしめた快挙、心より祝福申し上げたい。
 私は3日目を見終えたあたりから、自分が開いている教室で、牌と向き合う姿勢について、村上プロを引き合いに出しながら、その優秀さを話す機会が増えていった。
 勉強不足で誠に申し訳ない話だが、実は村上三冠王の長所を私は知らないまま、この決定戦に臨んでいた。
 そして初日・2日目と見て、ただ元気のいいお坊ちゃまプロにしか見えなかった。水巻や佐藤とは決定的な差があるとさえ思っていた。
 ところが、3日目、4日目と内容が良くなってくるにつれ、その要因はどこにあるのか?私なりに掘り下げてみた。その結果、ひとつの結論として、牌との向き合い方、更には対局者との向き合い方が、素直で謙虚で清貧さで埋め尽くされていることに気づいた。
 技術云々はもちろん高いレベルを保っての話であることは論を待たない。
 ある人に言わせれば、<人間力>が成し得た三冠だそうで、これほどまでに牌からも対局者からもギャラリーからも愛されたプロがかつていただろうか。
 これぞ<村上時代>の幕開けとなったわけだが、村上自身もわかっているように、これからが大変だと思う。
 マージャンゆえ、体調面や精神面に左右され、自分らしい打ち方が出来ない日もあるはず。そしてそんな例を挙げつらって、鬼の首でもとったかのように揶揄されたり誹謗されたりすることも多くなるだろう。
 そんなことをいちいち気にするB型では無いだろうが、迷いが生じたり悩んだりしたら、<最高位>の姿を思い浮かべることだ。
 最高位に就いているのに<最高位>の姿を思い浮かべるとは奇妙な話に聞こえるだろうが、永世最高位の飯田を筆頭として築き上げてきた<最高位>と呼ぶに値する姿がそこにはあるはずなのだ。
 そしてそれは、その座に就いた者にしか描くことの出来ない<最高位>の姿なのであり、いままさにその資格を得たのだから、その絵解きに邁進して欲しいなと思う。
 第36期で防衛を果たすことも大事だが、<最高位>という称号にふさわしいマージャンを追い求めていって欲しいと願っている。

 速報版とは違い、観戦記では私の独断と偏見に満ちた辛口の論調になってしまった。
 御批判は甘受する覚悟でいるし、何より選手たちからの異論・反論もあろうかと思う。
 ただひとつだけ弁解させてもらえれば、観戦記を引き受けた動機もそうなのだが、最高位という歴史あるタイトルが一段と高座に位置することを願って書かせてもらったのである。
 またいつの日か、機会に恵まれて書かせていただくことが出来たら幸せである。

 最後に、この第35期最高位決定戦の観戦記並びに速報版作成をサポートしていただいた方々に感謝の意をこめて、その名を記しておきたい。

 RMU会員             平山友厚 氏
 101競技連盟          村田光陽 プロ
 日本プロ麻雀協会      吉田光太 プロ


 最高位戦日本プロ麻雀協会  金子正輝 プロ
                    張 敏賢 プロ
                    桐生美也子 プロ

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