コラム・観戦記

第35期最高位決定戦・4日目観戦記

 3日目が終わって、首位は水巻で+38.5、2番手が3日目にすべて貯金を使い果たした佐藤+3.6、3番手が飯田で▲9.9、ラス目は3日目に猛爆した村上の▲35.2。
 2日目が終わって首位とラスの差が300Pもあったのに、たった一日で70Pあたりまでラインが下がっている。ということは、村上にも十分チャンスがある、いや勢いがついている分、村上のほうがチャンス十分ということになっているのかもしれない。

≪13回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら

親の水巻は前局村上に親満を放銃している。だからそれがどうした?と言われてしまえばそれまでだが、ストレートが通用する局になるのか、私は興味深く見ていた。
 3巡目、水巻の手牌はこうなった。

 ここからの1打になるのだが、場況からのヒントは何も無かった。
ストレートが通用する局であれば、切りの一手だろう。ワンズはドラ受けの手厚い形になっているし、のくっつき比較は、よりアガり易いテンパイが組めるを温存するのが基本である。
反対に、ストレートが通用しない局であれば、真っ先に温存したくなるドラ受け部分から見切っていく一手で、切りが基本となる。
ストレート一本槍で通用するレベルもあるが、<最高位決定戦>というハイレベルな舞台で、自ら失着し態勢を崩してしまったら、その立て直しには、ストレートではなく変化球をもってくるのが常道と考えるが、水巻はどんなふうな思考だったのだろうか。
そして次巡、ドラではなく安めのを引いてリーチをかける水巻。4巡目という速さなので、親の威光に身を任せてどこまでツモを楽しめるか?といったところか。唯一のアドバンテージは、ドラ表示牌を2枚も抱えているところで、子方が苦戦しやすい種があるので、有利なリーチであることは確かだった。
ただし、平時ではないと考えるならば、この待ちのテンパイには、違和感を感じずにはいられなかった。
案の定、リーチ一発ツモの牌はだった。変化球を投げていれば、ここでリーチが打てている。

すると8巡目にをツモり、裏ドラがなので望外の4000オールを手にすることが出来たのである。

結果は悲惨な17巡目の放銃。
アガりをモノにした佐藤は、8巡目に生牌の、10巡目に生牌のWをツラッと押している。こういう押しは、簡単そうに見えるがなかなか出来るものではない。
水巻は<チェンジ>できる局を失ってしまった。ストレートと変化球の繰り出しかたは、なかなか難しいものである。

 ≪13回戦 南1局≫ ←牌譜はこちら

 親の飯田2巡目の手格好

 この手にを引いての打。打ではなく打。そして次巡ツモ。打としていると、ここでメンツカブりとなる。簡単に見えて難しい選択をサラリとやってのける飯田。
 さすが永世最高位である。

 ≪13回戦 南3局4本場≫ ←牌譜はこちら

第1打がで4巡目リーチ。そしてロン牌が。更にはは高目の牌。
平成の打ち手たちから見れば、いかにも昭和っぽいアガり方に見えるだろうが、この早い仕上がりでこの高打点。大魔神健在なり。

13回戦は、大魔神飯田が大きなトップを取り、佐藤が2番手、水巻が辛うじて3番手、大魔神に捕まった村上がラスという結果に終わり、ついに三連覇を目指す飯田がトータルトップに踊り出た。そして勢いがついたかに見えた村上は、▲80近い世界へ沈んでいった。

 ≪14回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら

 前局カンのリーチのみをアガった飯田が4巡目という早さでまたリーチをかける。
 飯田は<流れ>や<アヤ>を大切に考える昭和の打ち手である。それだけにこの軽いリーチには?マークが付いた。
 ソーズの並びが345で三色になっているならわかるが、良いリャンメンで絵合わせしていく価値がこの局にあったのか?飯田ほどの打ち手であれば、に「ロン」の声をかけた瞬間、何かが崩れ落ちていく感覚に陥ったのではないだろうか。

 ≪14回戦 南1局≫ ←牌譜はこちら

 佐藤の素敵な配牌にうっとり見とれてしまう私。
 「ポン!」ずいぶん勇ましい声が会場内に鳴り響き、ハッと我に返る私。
 打。ちょっと物足りなく映るが(ホントは打として欲しかったけど)、ま、次の引きで同じ形に。
 6巡目、をカンでチーしてテンパイを入れる佐藤。配牌から入手した牌は1枚だったが、6巡での仕上りに文句はない。
 このテンパイに飯田があっさり飛び込む。見ての通りのリャンシャンテン形での放銃だが、飯田にしては珍しく警戒心が薄かった。
 というシュンツ手の要牌より、を温存して打っている手順と、チーで出てきた安全牌の。前巡1枚切れのを手出ししているだけに、99%テンパイと見ていいだろう。そして、要牌と字牌との後先。
 飯田の手には佐藤の高目になるも孤立したままになっているが、この手格好からではなく、と切って踏み留まる飯田を見てみたかった。
 結局この後も佐藤は加点し大きなトップを取り、飯田は更に2万点近く失点しラスを引く。そしてトータルは佐藤が70P弱のプラス、村上が90P余りのマイナスとなり、上下差が150P以上に開いてしまう。
 4日目開始時が70P強の差しか無かったわけだから、村上の奮起を期待するとともに、飯田の踏ん張りも注目したい。

 ≪15回戦 東2局1本場≫ ←牌譜はこちら

 劣勢に置かれているはずの村上の好プレーが光る1局となった。

 10巡目、村上はこの形にを引いた。がドラでは場に1枚出ている。
 ここまでの戦いぶりから、てっきりを切るのだろうと思っていたらノータイムでを切っていく

村上。イーシャンテンからリャンシャンテンに戻す一打を放ったわけだが、劣勢の時ほど急ぎたい気持ちが強くなり、こういう落ち着いたプレーが出来ないものなのだ。
 を切るとすぐに、そしてを引き入れてリーチ。イーシャンテンから1巡も置かずにテンパイになった手牌の和了率は異常に高い。最後のツモ番まで時間はかかったものの、水巻の追いかけリーチとの闘いに結着をつけた。

 ≪15回戦 東4局≫ ←牌譜はこちら

 素晴らしい1局になった。
 テンパイ一番乗りは水巻。9巡目に七対子を張る。か。西家・北家の序盤の捨て牌から、のほうが有利と踏んで、水巻はを切った。
 もし水巻が<トイツシステム>などという陳腐な考え方を信じていたら・・・佐藤の仕掛けがあろうと無かろうと、切りのリーチをかけ、をツモっていただろう。
 ま、それはともかく、水巻は水巻らしく、ドラ筋ので待った。もちろん、ドラを使っている打ち手から、ポロリとこぼれるを狙っている怖さもこの待ちにはあった。
 そして、佐藤がポン→チーと暴れた13巡目、彼はを切ってテンパイとなったのだが、そのときの村上はこんな手構えだった。

 は1枚切れで、佐藤のテンパイ打牌が。残り5巡、親の村上がポンテンをかけない動機がどこにも見当たらない局面で、村上は微動だにしなかった。
 するとそんな村上にツキの女神は前巡に引き続きをプレゼントする。「リーチ!」、例によって村上のカン高い声が会場内にこだまする。
 そして水巻はシステム通りを一発で引いてくる。「クッ」と呻いたかどうかはわからないが、水巻はツモ切りし一発放銃となる。
 現物のをトイツ落としして撤退する手も考えていたはずだが、村上の捨て牌にも並んでいたために、中スジのをソッと河に置いた水巻なのであった。
 あれほどまでの激情型の村上が、これほどまでに落ち着いたプレーが出来るとは、まさに「冷静と情熱のあいだ」を地でいく村上のファインプレーが光った1局だった。

 ≪15回戦 南1局≫ ←牌譜はこちら

何度見ても実に愉快な1局である。
今決定戦の<ベストファニー賞>となった作品をとくとご覧あれ。
 14巡目、物語は水巻のチーから始まった。

ここから水巻はでチーし、を切った。一応リャンシャンテンにはなったが、何としてでも親番を維持するにしては、途方もなく頼りないチーであった。
案の定、次巡村上からリーチがかかる。ドラが3枚のカン待ち。10巡目のが効いているとはいえ(しかもは3枚切れ)、リーチ表示牌がだけに、有り得ない待ちとまでは言い切れない。
一発ツモが。下家の水巻はまだ諦めてないのか、このをチーしてイーシャンテンに進む。目的が親の連荘ゆえ、役が無くたって待ちが無くたって、そんなことはどうでもいいのだが、自分の仕掛けでプレゼントしたリーチに対し、更に突っ込んでいくプレーは、突貫小僧を見ているようで楽しかったが、プロ的ではないような気もした。
ところが、このチーによって村上のツモ牌を喰い下げてしまう。フムフム、こういう効果も突貫小僧にはあるんだ。フシギだなマージャンというゲームは。
最終巡だったので、水巻はを切ってノーテン罰符を払う準備に入った。ところが・・・佐藤の最終打牌のに、飯田がチーの声をかけた。ご覧のように飯田はノーテンの身。
海底牌が村上になるからなのか、もしかすると水巻がテンパイしているかもしれないので、その海底牌を回し、テンパイ維持を難しくさせようと目論んだのか、その真意は藪の中だが、面白いチーをした。
すると海底牌は危険牌の
水巻は今決定戦一番の大長考に入った。
通ってないスジが、。残りはリーチ表示牌スジのと、リーチ後のスジ牌。いったん水巻は、のWワンチャンスを頼りに、を打ち出しそうなゼスチャーに入った。〔あっ振り込んじゃう〕と思ったら、寸前でその考えをやめ、再び仕切り直し、後スジのを切ったのだった。
 「ロン」、声の主は佐藤だった。意外な方向からのロンに、水巻は観念した顔つきで佐藤の開けられた手牌を見つめた。
 海底のみの1600点という安堵からか、顔面蒼白状態から血の気が戻り、みるみるうちにいつもの水巻らしい紅顔になった。

今回戦は、幾つものファインプレーを魅せてくれた村上が獲り、2番手はファニープレー賞の水巻が死守した。飯田はたった3200沈みでラスを引き受けるハメになり、トータルでも村上と肩を並べ合う位置に落ちた。
佐藤は3番手終了で首位を堅持するが、ヒタヒタと水巻が迫ってきており、安閑としていられない状況が続いている。

さて、4日目の最終戦はいったいどんな戦いになるのだろうか。

 ≪16回戦 東3局3本場≫ ←牌譜はこちら

 佐藤に勝ち急ぐ仕掛けが入った。
 5巡目の時点での手牌はこう。

 ここから親の村上が切った生牌のを叩いていくのだが、だったら前巡上家が切ったチーから入るほうが安定感がある。
 この形のまま、親の上家で動きを入れるのはあまりにも危険である。しかも、が南家や西家から出た牌であればまだしも、親のツモ切り牌をポンするのは、いかがなものか。
 今局まで佐藤の2000オールこそあったものの膠着した重い空気が場全体を支配しており、その空気を切り裂くような鋭い仕掛け以外、半端形では動かないほうがよい緊迫感あふれる局面ゆえ、勝ち急いだ感があった。
 この仕掛けの煽りを食ったのが水巻。
 をチーしてを勝負。ドラも無い手で親リーに向かっていくのは勇気のいることだが、このあたりの押し返しは水巻の真骨頂であり、今局は放銃の憂き目にあったが、高く評価できる攻め方だと思う。
 結局、村上の親満ツモを阻止する形の7700放銃で今局は終わったが、リーチの時点でが山に3枚残っていることからも、佐藤の仕掛け手順の一手違いが命とりになった1局であった。
 今局のように、積み場が増え、供託リーチ棒がある時ほど、半端な仕掛けはタブーであり、急ぎ過ぎも墓穴を掘る。
 こういう局に限って、仕掛けたくなる手がやってくるものだが、仕掛けるにしても、その初動には緻密な計算と4~5手先の読みが働いてなければならない。

 ≪16回戦 東4局5本場≫ ←牌譜はこちら

 村上10巡目の手牌

この手にを引いてきてを打っている。下家の親水巻が、6巡目にをポンしてを切ってから、河に1枚もワンズが並ばない場況だったので、素直に打としたのだろう。
すると次巡を引きイーシャンテンになってしまい、渋々を切る村上。

そのを水巻にチーされ、99%テンパイが入った局面でを引き、ちょっと止まる村上。まさかと落としてピンフを狙うつもりなのか?と見ていると、手の内にあるを切って空切りする村上。
なるほど!こういう時に空切りすると、敵はドラのが重なったように読んでくれるのか(4巡目にを切っているため)。私は空切りしないのでよくわからなかったが、効果的空切りの1例を見た気がした。
そして村上は次巡を引いてテンパイしてしまう。テンパイが入るのではなく、テンパイしてしまったのである。
恐らく村上のイメージとしては、ソーズが安いので、を引いてテンパイできる形を想定していたのではないだろうか。
テンパイを取っても苦しむだけだから、当初の目論見通り、を重ねる算段で、をツモ切りするのかなと見ていたら、少し考えたあと、意を決して「リーチ!」と宣言してしまう村上。
テンパイしてしまったから、リーチかけてしまったというマージャン教室ではよく見られる光景なのだが、村上のそれは違う。
水巻の仕掛けが、チーでを打ったため、喰いタン以外の手役が無くなり、その瞬間透け透けの手牌と化してしまったのである。
これでシャンポン待ちなら、水巻が水巻で無くなるため、水巻の待ちは、の2点に絞り込まれていた。
 がすでに3枚河に見えているし、自分の手牌にも1枚しかが無い状況から、村上の読みでは(私もそう読む)、水巻の手には組み込まれているはずで、待ちはの1点。しかも序盤の飯田・佐藤の切り出しから、は2.5枚くらい2人の手中にあると読み、勝負になるはずという結論に達してのリーチだったような気がする。
 仮に・・・水巻がを切っていなかったら、村上は間違いなくをツモ切りしていたはずだ。結果論からいけば、リーチ直後にを引いているので、のピンフになり、リーチ云々は別として、村上の和了局になっていた。でも私は今局のようなリーチが好きである。なぜならひとつの<勝負>を村上は挑んでいるからである。
 最終リーチ形だけを見れば、テンパイしたから仕方なしにかけている図に見えるかもしれないが、<最高位>を争うステージで、トリッキーに映るマージャンが打てる村上の底知れぬ強さを見たような気がした。

 ≪16回戦 オーラス1本場≫ ←牌譜はこちら

村上がハナ差でトップを奪取したオーラスの図である。
飯田は4巡目に村上の切ったをポンする。

飯田の持ち点からトップを逆転するにはハネツモ条件か佐藤からマンガン直撃条件。

でも飯田としては、2番手で終了しても、得意の最終日が控えているので、村上との3600差だけを意識した打だったように思う。
一方虎視眈々とトップ逆転を狙う村上は、5巡目に次のイーシャンテンになる。

 飯田の手をピンズ一色系の手と読んだのかは定かではないが、ではなくを打ち出す村上。マンガンツモ条件ゆえ、すでに場に2枚切れのカンターツと周りのリャンメンとを切り替えるつもり無しの勝負打牌。
 こういう切れの良さが村上にはある。
 『見切り千両』とは昭和の時代からもてはやされた勝負の世界に欠かせない格言であるが、この切りはまさにそれだった。
 打の次巡、村上はを引き入れ、例の会場中に響き渡る声で「リーチ!!」宣言する。
飯田と佐藤は、このリーチを受け早々に撤退する。トータル3番手の飯田としては、村上に逆転トップを取ってもらい、首位を快走する佐藤から順位点20Pを削ってもらえれば、自分が今回戦3番手から2番手に浮上するのと同じ意味合いとなる。
 唯一抵抗を試みたのは水巻だったが、その思いも空しく、村上にトップ逆転のをツモられてしまう。
 裏ドラ表示牌もだったから、ラストを村上はツモり上げたわけだ。これで村上は、トータル▲16.8となり、首位佐藤が+73.7なので、その差90P。堂々の射程圏突入である。
 

水巻は、トータル▲6.6Pで村上とほぼ並ぶ射程圏ではあるが、今シリーズを通しての初ラスを今回戦引いてしまった後遺症が少なからずあるはずで、どこまでその優れた<バランス感覚>を回復させられるかにかかっている。
 

飯田は、16回戦中8戦がラスという出入りの激しい内容となっているし、3日目最終戦東1局の第1打を見て予言した金子の眼も気になるところだ。恐らく本人的には何ら不安は抱いてないだろうが(体力面は別にして)、どうも飯田自身の射程と、チャレンジャー3人との射程が合ってないために、エネルギーを無駄に消費する空振りが気になる。
 

首位を走る佐藤も、4日目で再浮上を果したものの、16回戦オーラスの気持ち悪さがあるだろうし、初日のような溌剌さも影を潜めている。恐らく佐藤にとっての一番の山は、最終日の最終戦ではなく、最終日の初戦に待ち構えているはずだ。

泣いても笑っても残り半荘4回。
それぞれがそれぞれの能力をフルに発揮できるようなゲームになって欲しい。

コラム・観戦記 トップに戻る