コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.25】米澤真ノ介 ~「やるからには勝率100%を目指したい」自己主張控えめな若武者B1リーガーの主張~

(取材・執筆 成田 裕和)

 

米澤 真ノ介(よねざわ しんのすけ)

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アサヒスーパードライのビール箱を持ちながら微笑むこの男が、今回の取材対象である。

お酒を飲むのと食べることがむちゃくちゃ好きだね。ゆでたまごだけは嫌いだけど。

食べることが好きなのに、ゆでたまごだけ嫌いという点がまた愛おしい。

昔働いていた麻雀店の同じビルに中華料理屋さんがあって、勤務後その出前をみんなで食べて帰って寝る、っていうことを繰り返してたから、そりゃ太るよね。

麻雀店で働くようになってから10キロ増えたという米澤。彼をよく知る木村明佳吏に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

よく食べるし、お酒はザルなの?ってくらい飲める。コロナ禍の前とかは、FACESの編集長を務めている鈴木聡一郎さんと16時間、6次会くらいまで飲んでたこともあるらしい。次の日普通に朝から仕事に行ってたの見て、身体どうなってるのかしら…って心配になったね(笑)。

お酒好きに加え、このがっしりとした体つきで不敵に笑みを浮かべているこの写真を見ると、第一印象はいかにも社交的に見えるが、実はこの男、大の人見知りである。木村は彼の性格についてこう語る。

普段からとってもおとなしい。自己主張が控えめなので、たまにどうしたいのかな、とか今の気分はどう?とかマメに聞いてあげたくなる、なんだか世話を焼きたくなる後輩だね。

私も同じ大会のゲストで会った際には確かにおとなしい印象だった。控えめな姿勢で麻雀中も黙々と打つタイプである。

でも、麻雀はオーソドックスにめちゃくちゃ強いタイプだと思う。実際に入会して3~4年でB1リーガーだしね。東海支部から今までの付き合いだけど、向こうにいたときから麻雀のポテンシャルは発揮していたと思う。

昨年地元の東海地方から上京し、最高位戦リーグではB1リーガー、オンライン麻雀『天鳳』においては八段として最上位卓の鳳凰卓で戦う米澤。東海支部に所属していた当時は、2017年最高位戦Classicプロアマグランドチャンピオンに輝くなど、27歳にして確かな実績を残し続けている。前回のFACESで紹介した岩澤に続く、若手プロのこれまでとこれからに迫った。そこには、控えめに思われていた米澤の意外にも麻雀への熱い主張を聞くことができた。

 

サンマ(三人麻雀)で培った手牌読みとアガリへの嗅覚

現在米澤は、大手麻雀店『マーチャオ池袋θ(シータ)店』の副主任として勤務している。取材中も目線をあまり合わせることはなく、口数も決して多くはなかった米澤だったが、麻雀の話になると口を滑らかに動かし始めた。

普段働いているお店はルールがサンマ(三人麻雀)なんだよね。最初は全然勝てなかったんだけど、今は自分の中で競技とサンマの押し引き基準が確立された気がする。サンマは牌の種類が少ない分、押し引きと相手の手牌読みが重要になるよね。2色しかない分、相手が持っている色に寄せちゃうと不利になっちゃうから、相手が持っていなさそうな色に寄せるとか、こういった手牌読みは間違いなく普段のヨンマ(四人麻雀)にも活きていると思う。

自分の手牌の組み合わせと捨て牌等を照らし合わせながら、「相手の手牌構成はどうなっているだろう」と考えるのは、確かに上達への近道かもしれない。普段の勤務中に培った手牌読みは、米澤の大きな財産となっているようだ。

あと、アガリにストイックになったね。高打点が連発する分、守ってばかりじゃ勝てないから必然的に「どうやったらアガれるか」を考えながら打つようになって、以前よりもアガリのパターンも増えた気がする。数をこなすと複合系や純粋な牌理にも強くなると思うから、サンマをやったことない方はやっておいて損はないと思うね。

麻雀で勝つにはアガらなければ勝てない。麻雀で一番大事な部分を普段の仕事中に訓練しながら、日々アガリへの嗅覚を研ぎ澄ましている。

最近はサンマルールのリーグ戦、『三麻―スタリーグ』に出場させていただいたりして、配信対局とかも慣れてきた感じはするね。こないだは小林剛さん(麻将連合)に解説していただいたり、いい経験を重ねられていると思う。

三麻ースタリーグ第5節でトップを収めた米澤(左から2人目)。【画像引用:スリーアローズコミュニケーションズ】)

自身の仕事をさらに別の仕事に活かすなど、徐々に活動の幅を広げている。

 

麻雀で大事にしているのは「バランス」

このようにサンマ店を中心に働く米澤だが、全く毛色の違う最高位戦ルールを打つうえで気を付けていることはあるのだろうか。

最高位戦ルールを勉強するにあたっては、現在私設リーグの『エボリューションリーグ』で実践練習を重ねている。主催している坂本さん(坂本大志)に直接誘われて二つ返事で入ったんだけど、坂本さんや元太さん(竹内元太)の麻雀を参考にして仕掛けのパターンや形テンをとるタイミングの精度が磨かれた気がする。こないだ記事に挙がった岩澤さん(岩澤圭祐)や、今年BIG1カップのタイトルを獲った山崎さん(山崎淑弥)みたいに若手で活躍しているプロがいるのも刺激になってるね。

尊敬する先輩や同世代の強者と研鑽を続けながら、牧野伸彦主宰の天鳳を使った私設リーグや、東海支部の選手を募って行われた『TKGリーグ』など、これまで様々な勉強会や私設リーグに参加してきた米澤。そのなかで磨かれたものはあるのだろうか。

対局で負けているときって、大体バランスが崩れている時なんだよね。ケイテンの仕掛けが微妙に早かったりとか、手組でブクブクに持ちすぎたりとか。そうした部分を少しでも減らせるように、普段の練習は「バランスの良い麻雀」を心掛けてる。入会当初に比べると、そうした部分は以前より磨かれたと感じるね。

 

いつも心の中にいる2人のA1リーガー

バランスを重んじる打ち手として、目標にしている先輩は先述した坂本・竹内というA1リーガーだ。

二人とも勉強会等でとてもお世話になっているんだけど、おもしろいし面倒見がよくてついていきたくなる先輩だよね。

このFACESで何度も取り上げられる坂本・竹内。後輩への影響力の大きさは計り知れない。

大志さんも元太さんも本当にオールラウンダーだよね。サボらない麻雀というか。そうした部分は自分の麻雀観を大きく変えてくれたね。

あと、リーグ戦を含めた対局の時って、大志さんなら門前の手組で打点見てこうするだろう、元太さんならこの状況と手牌なら仕掛けるだろう、というように、心の中に二人がいるんだよね。その二人から学んだことが自分のバランスを形成していると思う。

米澤の麻雀を動画でいくつか見たが、打点を意識した手組が多く、価値のある手の時には押せる理由を探してしっかり押していたり、最後まで得な選択を積み重ねようとする丁寧な麻雀という印象だ。これも、坂本・竹内の二人の実力者から吸ったエキスを活かしているのだろう。

 

根は飽き性だが、麻雀だけは続いている

こうして麻雀熱の高い米澤だが、実際に麻雀を覚えたのは中学生の頃だった。

中学の時、友達が家で麻雀しているのを見て、これは楽しそう、覚えたいなって思って、当時流行っていたネット麻雀で覚えた。中学校まで野球をやっていたんだけど、結局飽きてやめちゃったんだよね。他の習い事も続かなかったし、たぶん相当な飽き性なんだけど、麻雀だけはずっと続いている。

根が飽き性だと語る米澤だが、麻雀のどういった部分にハマったのだろうか。

麻雀の面白いところって、自分で戦略を立てて、自分で選択できる部分だと思う。うまくいかないことが多いけど、選択がズバッとハマったりうまくいったときに喜びを感じるよね。だから飽きずにやれているのかなと思う。

こうして麻雀の魅力に憑りつかれた米澤は独学で麻雀を覚え、やがて『天鳳』と出会う。

高校になったタイミングで『天鳳』を始めて、当時は五段だったかな。高校卒業時の2011年に行われた『RIVAL場外戦IN天鳳』という大会に参加してなんと優勝しちゃったんだよね。その時に近くの雀荘のフリーチケットが優勝賞品として渡されて、「これはいかなきゃいかんな」と思って、卒業後は入り浸るようになった。友達とは全然麻雀してないね。天鳳もフリー麻雀もすべて、一人で麻雀してきた感じだった。天鳳もプロ入り前には鳳凰卓に到達して、もっとうまくなりたいって思うようになった。どんどん麻雀にのめりこんでいったね。

人に教わることを覚えて麻雀がさらに進化した

23歳でプロ入りを決めたのも、若くして実績を残してきたからこその自信ゆえだった。

やるからにはてっぺんを獲りたいと思ったのがきっかけ。それと、大会でも優勝して天鳳でも高段者になって、当時は調子に乗ってたね。「プロの世界でも通用するだろう」って。

入会当初は東海支部に所属していた米澤だが、意外にも最初はあまり勝てなかったという。そこで尊敬する坂本大志や鈴木優などを含めた研究会に参加し、競技麻雀についての理解を深めていった。

今まで一人でフリーでしか打ってこなかったから、プロになるまで誰かに教わるってことが全くなかったんだよね。プロになって最初のうちに負けていろんな方に教わったおかげで強くなれたと思う。

これについて、米澤が尊敬する坂本はこう語る。

自分より重たい麻雀を打つイメージ。打点意識が強くて、なおかつ打牌の信頼度が高い。「ここでこれを切ってくるということは、最低でもこれくらいにはなってるよね?」っていう時には大体そうなっている。東海支部に所属していた頃から評価は高かったね。だからこそ研究会にも誘ったし、今も同じ私設リーグで戦ってる。

東海支部時代の研究会では坂本に加え鈴木優・現B2リーガーの山口幸紀を含めた実力者とともに、対局してからすぐに紙の牌譜を見て検証、といった形式でみっちり1年間鍛錬を積んだ。こうして麻雀を人に教わることの大切さを知った米澤は元からの麻雀センスの良さを発揮し、やがて東海支部のリーグ戦を勝ち上がり、関西本部のリーグ戦に合流。降級することなく順調にB1リーグまで勝ち上がっている。

最高位戦に入ってやっぱり良かったなと思うのは、先輩方含めフレンドリーなところだね。内気な僕にも気さくに話しかけてくれたり、勉強会に誘ってくれたり。上京したのは仕事上の転勤だったけど、上京してからかなり上位リーグの人や同世代の強者と打つ機会が増えたから、本当にタイミングよく上京したなって思ってる。

 

母親の突然の死

これまで一通りの麻雀に関する話を終えた後、米澤は少しうつむきながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

母子家庭で育ったんだけど、実は今、僕には家族が一人もいないんだよね。

2021年8月14日。つい1か月半ほど前の出来事だ。仕事中の米澤の携帯に1本の電話が入った。仕事が一段落し着信履歴を確認すると、見覚えのない電話番号だった。

その着信元がなんと警察からだったんだよね。嫌な予感がして、すぐさま折り返して電話をかけたら、「あなたの母親が病院に運ばれています」という連絡だった。急いで地元の愛知に帰ったけど、翌日深夜3時4分、母は息を引き取った。警察から聞いた話によると自殺だったらしくて、さすがに落ち込んだ。ずっと一人で自分を育てて、好きな麻雀の道で生きていくと決めた時も、プロになった時も、寛容に好きなことをやらせてくれた優しい母親だったから。

米澤のおとなしさは幼少期一人でいる時間が多かったからなのだろう。女手一つで我が子を育てるため、母親は身を粉にして働いていた。しかし、その母ももういない。

実家が消滅して帰る家が無くなった。親戚も関わりないし、正真正銘一人になっちゃったね。

取材時は明るく振舞っていたが、27歳にして想像を絶する辛さであるに違いない。家族を亡くした今、麻雀が手につかなくなってもおかしくないはずだ。

しかし今、米澤には信頼できる仲間がいる。特に仲が良いのは、東海時代から付き合いのある木村明佳吏だ。

きむねぇと出会ったのはプロになる前、当時働いていた麻雀店できむねぇがゲストで来店した時だった。今は一緒に大会やったり、遊んだりするほど仲良くなって。行動力もすごくて面倒見も良くて、きむねぇを中心に様々な人と関われた気がします。本当に感謝しかないです。

特に以前所属していた東海支部は選手同士の仲がとても良く、リーグ戦終わりにはほぼ毎回飲みに行ってたね。飲んだ記憶しかない。チーム戦の大会の大将を務めたり、いろんなイベントに参加させてもらったりと、今の自分があるのは東海支部の方々のおかげです。

内気ながらもどこかほんわかした雰囲気を持つ米澤は、たくさんの人に愛されてきたようだ。

(『新春名古屋麻雀大会2020』のチーム戦で大将を務める米澤)

(同大会終了後の東海支部選手集合写真。前から2列目、黄色のハチマキをしているのが米澤)

まわりには信頼できる仲間と先輩方がいる。そして目標の最高位を獲って、天国の母にいい報告ができるように頑張りたいです。

家族がいなくなっても、今やたくさんの最高位戦ファミリーが、米澤の心の支えとなっているようだ。

 

おわりに~やるからには勝率100%を目指したい~

最後に今後の意気込みを聞いてみると、取材中おとなしかった米澤から一転、強気な言葉が放たれた。

やるからには勝率100%を目指したい。なんでもできるプレイヤーになりたいよね。

運要素が絡む麻雀において、勝率100%を目指すのが不可能なことは米澤も理解している。それでもこの言葉を選んだのには、米澤の麻雀へのこだわりと強い熱意を感じた。麻雀に関しては一番でありたい。思い切った自己主張に驚かざるを得なかった。

全部うまくいくようになったら、飽き性なのもあって飽きちゃうかもしれないんだけど、麻雀だけは飽きないし、本当に負けるのが嫌なんだよね。対局中は感情を出しすぎないように淡々と打つことを心掛けているけど、無意識に負けず嫌いが出る一面もあるかもしれない。

時には熱くなって押しすぎたり、少しでも情報を拾おうとして考えすぎてしまうこともあるという。内に秘めた闘争本能が垣間見える。米澤はあまり表だって主張しないだけで、麻雀に対しての自己主張はだれにも譲れないものがあるようだ。米澤自身の麻雀プロとしてのモットーなのだろう。

そのうえで目指すものは、入会当時から憧れていた最高位。控えめな性格ながらも真っすぐに麻雀と向き合う若武者の目は、1%でも勝率を上げようという、闘志に満ちあふれていた。

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